30話 エピローグ
その日は雲一つしかない抜けるような晴天であった。
ここ最近剣士の治める街では、どれだけ天気が良くても一つだけ雲が残っているという不可思議な日々が続いていた。
意地でもここから離れないぞと言っているかのようなその雲が、今日限りをもってこの街を離れることを、領民達は誰一人知らなかった。
雲が街を離れる理由は、雲の友達が街を離れるからだ。
彼女は偶然街を訪れた、古巣の旅芸人の一座と再会したのである。
そして旧交を温めていた時に王国からの依頼を無事に終えたことを告げると、復帰しないかと誘われたので彼らに付いて行くことにしたのである。
「あれ? 槍王子の奴は道化師って言っていなかったっけ?」
「あの方は道化師と旅芸人の区別が付いていなかったのですよ。城でもようされる大掛かりな舞台芸術以外は一切芸術と認めていませんでしたからね」
「そういえばそうだったわね。あいつ、旅の間に見かけた芸人や吟遊詩人を絶対に認めようとしなかったものね」
「幼い頃から培われてきた価値観が骨の髄まで染み込んでいたのでしょう。今思えば旅の間に彼を矯正することも出来たのかもしれません」
「いや、無理でしょ。最初から不意を打って奴隷にしてくるような屑だったのよ。出会った時にはもう、矯正不可能な程に歪んでいたわ」
「そうでしたね。思えば残念な方でありました」
王国は今、苦境の時を迎えている。
城が崩壊し、王子を処刑し、王族をはじめとした国の重鎮達がまともな政治を始めたおかげで、これまで行ってきた不正の数々が一気に明るみに出てしまったためだ。
不正を行っていた者達は次々に処罰され、ごまかしごまかしでなんとか体裁を整えてきた国の財政は、破綻寸前であることが広く国民に知られてしまった。
王国のこの突然の混乱を好機ととらえ、西の帝国、東の共和国が王国に兵を差し向けてきたので、国の東西で争いが勃発している。
しかしそれでもこの国は、元々豊かな土壌と勤勉な国民を持っていたのでどうにか再建の目途は立っているのである。
魔族の国への侵略戦争は終わり、現在は人同士の戦いへと状況は移行していた。
その状況下に勇者の活躍を望む声は大きかったのだが、勇者一行は剣士の家族を救出してすぐに解散を宣言したので、王国の要請は全て断っていた。
剣士は領地の経営に専念し、勇者と姫さんはペケペケに付いて行くことにしたのである。
勇者は新しい恋を探すため、姫さんは国に帰還可能になる十年後まで出来るだけ見聞を広めるために、これから他国へ向かおうとする旅芸人の一座に同行することとなったのだ。
「お姉ちゃんまたね! 旦那さんと息子さんを大切にしてね!」
「ええ、ありがとうございます、ペケペケ。勇者と姫殿を頼みましたよ」
「ちょっと! どうして私までペケペケに頼まれるのよ!」
「あなたはまだ自暴自棄なままではないですか。人の世に慣れていない姫殿と共に、ペケペケに見てもらってもらわなければとても安心などできませんよ」
そう言って剣士は笑い、顔を上げて俺に向かって話しかけた。
「雲殿もよろしくお願いしますね。どうか私の仲間達をお守りください」
〇
「ありがとうございます。雲殿が一緒でしたら皆の心配はいらないでしょう」
「くもさんは凄いねぇ。剣士のお姉ちゃんにとても信頼されているんだね」
◎
「あら、二重丸なんて初めて見たわ。照れているのかしら。雲のくせして」
「僕、一度見たことがありますよ!」
「そう。あなた良かったわね。……ご両親を大切にしなさい。理不尽ってのは突然襲い掛かって来るものなの。どんなことがあっても負けちゃ駄目よ」
「うん! 姫様もありがとう! あの! また、会いに来てくれますか?」
「ふふふ、どうしようかしら。まっ、気が向いたらね」
そう言うと姫さんは旅芸人一座の馬車の中に入ってしまった。
どうも剣士の息子は姫さんに気があるような素振りを見せている。
救出した後で「お話の中の勇者様に憧れていたんですけどね……」とか言って、変わり果てた勇者の事を切ない目で見つめていたので、勇者の熱烈なファンだったのかもしれない。
噂の勇者と同じ、綺麗な金髪を持つ姫さんに惹かれたのはそんな理由もあったのだろう。
そんなこんなで勇者と姫さんとペケペケは、剣士の街から旅立っていった。
俺はそんなペケペケ達の旅に同行していく。
俺を認識できる唯一の友達と共に、俺の旅路もまだ続くのだ。
おしまい
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ハローエブリワン! どうだい? お楽しみいただけたかな?
こんなものは自分達の知るペケペケの大冒険ではないだって?
原作を自由に改ざんするにも程があるだろうって?
HAHAHA!
だから最初に言ったじゃないか!
この話は僕のイマジネーションが生んだ産物なんだって。
そもそもどうして勇者と剣士が女性化しているのか?
どうして他の四人が揃いも揃って悪役になっているのか?
ペケペケと魔族の女王が友人だったなんて話は聞いたことがない?
そもそもどうしてペケペケと雷雨以外の登場人物には名前がないのか?
HAHAHA!
それはね、その方が面白いと僕が判断したからさ!
真実は常に闇の中にある。
時の権力者達は都合の良いように事実を歪めて脚色してしまうからね。
後世に伝わっている話というのは誤解と曲解の果てに生まれた都合の良い幻想だと僕は考えているんだ。
だから大幅に原作を改変した方が真実に近づけると思ったんだよね。
この考え、君はどう思う?
そもそもペケペケの旅路と仲間達の死については不可解な点が多すぎる。
彼らの死については未だそこかしこで議論の種になっているほどだからね。
一つの解としてまぁこういった解釈も有りだと思ったんだよね、僕は。
でもまぁ安心したまえよ。
新訳ペケペケの大冒険は、とりあえず今回をもって終了だ。
一体どうして終わるのかって?
だってこの企画が続くか続かないかは、ひとえに君達の興味を引けるかどうかにかかっていたからさ!
世の中というのは世知辛いんだ。
人気がなければ即座に打ち切り。手早く畳んで次の企画に打って出る!
これは今の世の風潮であり、世界の真実の一つだと僕は思うんだよ。
だからまぁ君達がこのお話の続きを知りたいと思うのなら、是非とも応援してくれたまえ!
そうしたら喜んで続きを考えるさ。
HAHAHA!
そう! 実を言うとね、この続きはまだ何も考えていないんだよ。
行き当たりばったりが僕の人生だからね。
え? 締めるのならちゃんと締めろって?
仕方ないねぇ。こういう堅苦しいのって僕は本来苦手なんだけどなぁ。
え~それでは皆様、長らくご愛顧いただき誠にありがとうございました。
新訳ペケペケの大冒険。これをもって終了とさせていただきます。
願わくば彼女の優しさが皆様のお心に少しでも残ることをお祈りし筆を置くことといたします。……なんてね!
大陸歴5874年、雨の月。
いつでもあなたの側にいる男、クラウド。より愛をこめて。
あとがき
読者の皆様、ここまでお付き合い下さいまして誠にありがとうございます。
これをもちまして、なろうにおける4作目の長編作品、
『ファインディング・クラウド~新訳ペケペケの大冒険~』
は終了となります。
異世界転生をして雲になってしまった男の物語を書いてみましたが、皆様お楽しみいただけましたでしょうか?
実はこの作品は前作『三択ロース!』のあとがきにも書いていた、『勇者の隣の一般人』打ち切り後に初めて書いた作品だったりします。
『一般人』終了後、一気に魔族の国の話まで書いたのですが、「これは何か違うな」と考えてお蔵入りにした作品でした。
それを今回完成させたのは、コロナ騒動が始まってしばらく経った頃、改めて読み返してみたら意外と面白いと思ったからです。
自分で書いた作品にもかかわらず、すっかり内容を忘れていたので、一読者として素直に楽しむことが出来ました。
『一般人』終了後すぐに書いた作品なので、相変わらず主人公が空気、というか活躍していないのが玉に瑕ですが。(笑)
今作はあらかじめ書いてあった23話までを基に、とにかく毎日投稿して完結まで持って行くことだけを目標とした作品です。
そのため、色々なところが杜撰だったとは思いますが、どうかご容赦頂きたいと思います。
実は、一度『なろうの運営』から警告を受けたりもしました。
〈R15〉の指定をしていなかったのが原因です。
その節は大変ご迷惑をおかけしました。
丁寧な連絡、誠にありがとうございました。
短い作品にもかかわらず応援していただき、誠にありがとうございました。
次回作もまた皆様に楽しんでいただけたらと思います。
それではまた、『小説家になろう!』でお会いしましょう!
2020年05月15日 髭付きだるま




