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26話 髭盗賊の伝説

「何ですって? 神国にいる?」

「ああ、おめぇのガキは神国に買われたのさ。調べてみて驚いたぜ。あの国は何を考えてんのか、おめぇのガキのみならず、世界各地からガキを集めていやがったんだ。しかも大量にな」


 髭盗賊の砦で剣士の夫及び剣士の領地で働いていた部下達を見つけ出した一月後、領地を訪れた髭盗賊が語った剣士の子供の行方は、この領地のすぐ近くで王国と国境を接している神国にいるというものであった。


 髭盗賊が率いていた盗賊団は、あの後全員知らせを受けて駆けつけてきた近くの騎士団に引き渡された。

 しかし髭盗賊だけは剣士の手引きで逃げていたのである。

 そして彼はこの一月の間、たった一人で剣士の息子の行方を捜しまわっていたのだ。


「しかもだ、しかも! 驚くなよ? おめぇのガキが神国に買われたのは、奴隷にされてから二月後のことだったのさ!」

「それが一体どうしたというのです? 奴隷商人に売られてすぐ帝国の地方領主に買われ、それから神国に転売されたのだとしたら大体その位の日数になるではないですか」


 この街で暮らしていた剣士の家族とその仲間達は、一年ほど前に全員まとめて奴隷商人に引き渡されて、帝国へと送られた。

 そしてしばらく帝国辺境にある地方領主の下で暮らした後、子供達だけが別の場所に転売されたのである。


 残された大人達はその後、暴れまわっていた盗賊団の下へ取引材料として引き渡されることとなった。

 だから大人達が子供達と過ごしていた時間は二月足らずだったらしい。


 つまり子供達は奴隷になってから二ヶ月後に神国に買われたことになるのである。

 時系列を考えれば、何もおかしくはないと思うのだが。


「馬鹿、そうじゃねぇよ! 大神官の奴だよ、大神官! あの太った役立たずのろくでなしのうすら馬鹿の事をもう忘れたのか? あいつは神国から来たじゃねぇか」

「もちろん覚えていますよ。というか、忘れられるわけがありません。魔族の国の奥深くまで進攻し、さぁこれからようやく隠された魔族の国の首都を探しましょうかという段になって、突然パーティーに強制参加してきましたからね。あの役立たずは」

「政治だか何だか知らねぇが、マジで最悪だったからな、あいつ。仮にも大神官を名乗っておきながら、お付きの見習い方が優秀ってどういうことだよ」

「全くですね。初心者用の治癒魔法すら碌に扱えず、そのくせ威張り散らすし、うるさいし、わがままだしで本当に最悪でした。まぁお付きの者達が優秀でしたので随分と助けられはしましたが」

「そうだな。ってかあいつの評価なんかどうでも良いんだよ。おめぇこれだけ言ってもまだ気付かねぇのか? あいつは一体どのタイミングで俺達と合流したか忘れたのか?」

「それは先程言ったばかりではないですか。魔族の国の首都を探そうという段になって……待ってください。どういうことです?」

「気付いたか。そう、あいつはおめぇのガキを奴隷にした後でおめぇの側に姿を現したんだよ」


 髭盗賊の話を理解した剣士が、思わずといった感じで椅子から立ち上がった。

 その目は怒りに燃えている。

 報告をしている髭盗賊は、とばっちりを恐れたのかいつの間にか距離をとって話の続きを口にした。


「神国に売られたガキ共は、全員もれなく大神官の奴隷になったって話だ。そして神国にいる大神官は、現状あいつしかいねぇ。つまりおめぇは奴隷になったガキのご主人様と共に旅をしていたのさ」

「……大神官はこのことを?」

「知ってるんじゃねぇか? 知っていなきゃおかしいだろう。でもな、俺は肝心な部分は知らねぇと思うんだよ。だってあいつの性格を考えれば、絶対におめぇのガキを奴隷にしていると自慢していたはずだからな」

「知っていなくてはおかしいのに、肝心な部分を知らない? 一体何を言っているのですか、あなたは」

「だからあいつは、ガキ共を奴隷にしたことは分かっていたけれども、そこにおめぇのガキが混ざっていた事には気付いていなかったんじゃねぇかってことさ」

「そんなことがあり得るのでしょうか?」

「あり得るだろう。だってあいつ、馬鹿だったじゃねぇか」

「そうでしたね。あれは本当に愚かな馬鹿者でした」

「つまり俺の結論はこうだ。あいつはおめぇのガキを奴隷にしていた。しかし奴隷にしたガキの母親がおめぇだとは気付かなかった。だからあいつは特にそのことには触れず、魔王退治に参加した後は大人しく神国に帰ったんだよ」

「何と言う事でしょう。信じられません。倒すべき敵は全て仲間内に居たのですね」

「そういうこったな。今思えば奇跡のように最悪なパーティーだったよなぁ、俺達は」

〈本当だよな。よくこんなパーティーで空中分解せずに済んだもんだ〉


 俺は剣士と髭盗賊の話を、室内に忍び込ませた薄めの雲を通して盗み聞きしていた。


 現在時刻は深夜である。

 剣士は人目を忍んで屋敷を訪れた髭盗賊のために部屋を用意した。

 そこで剣士はたった一人で、子供の行方に関する報告を髭盗賊から聞いていたのである。


 ちなみに勇者とペケペケと姫さんは別室で眠ったままだ。

 剣士は子供の探索は自分の問題と考えていたので、他の者達は起こさなかったのである。


 ちなみに剣士の夫は怪我の治療があるからと、ここには呼んでいない。

 本当はもうとっくに完治しているのだが、傷だらけの夫の姿を見た剣士が過剰に動揺したため、大事をとって長期休暇を取っているのである。


「ちなみにおめぇのガキは、奴の親衛隊の候補生になっているぜ」

「親衛隊の候補生? なんですかそれは?」

「親衛隊ってのは、神聖なる大神官様をお守りするための名誉ある仕事なんだそうだ。候補生ってのはそれのお子様番だな。成長し、強くなったら優先的に親衛隊になれるんだそうだぜ? ま、一種のエリートって奴だと考えておけば間違いねぇよ」

「ほぅエリートですか。さすがは私の息子だけはありますね」

「ちなみに親衛隊の役割は大神官の護衛以外にも色々あってな。神国の神官ってのは表向き女人禁制を表明しているからか同性愛に走る奴が多いんだそうだ。んで、親衛隊は全員見目麗しい美男子だけで構成されていると……後は分かるな?」

「ええ、どうやら大神官も斬ることになりそうですね」

「勝手にしろよ。おめぇらは魔族の国も王国も潰したんだ。神国を潰したって不思議とは思わねぇよ」

「そうですか。ところであなたはこれからどうするつもりなのですか?」

「俺か? とりあえずこの国からは消えるつもりだ。おめぇや勇者と再会したら今度こそ殺されちまうだろうからな」

「盗賊働きを辞めるつもりはないと?」

「他に生き方を知らねぇんだよ」

「……旅の間は随分とあなたに助けられました。口も見た目も性格も悪かったですが、助かった事もまた事実だったのです」

「褒めんのか貶すのかどっちかにしてくれよ」

「……共和国に冒険者ギルドという組織があることは知っていますか? まともな仕事に就けない者達が、一獲千金の夢を見て魔物と戦ったり迷宮に潜ったりしているのだそうです」

「ほぉ? それで?」

「あなたの罠を見抜く眼力と、敵を罠にかける力量は大したものです。共和国で冒険者としてやり直す気はありませんか?」

「この俺に根無し草共の面倒を見ろって?」

「盗賊団もある意味、根無し草達の面倒を見るようなものではないですか。人を襲って恨みを買うよりも、人を助けて感謝をされなさい」

「性に合うとは思えないがねぇ。まっ、他にやりたいこともないし、候補の一つとして考えてみるわ」


 そう言うと髭盗賊は、剣士の屋敷から一人出て行った。

 そのまま夜の街を走り抜け、ひらりと外壁を飛び越えると、あっという間に夜の草原へと消えてしまう。

 結局彼はその後、王国を飛び出して二度とこの地には戻らなかった。

 それからしばらくして、共和国に凄腕の盗賊技能を持つ片腕の男がいるという噂が流れてきたが、さてそれが髭盗賊なのかどうか俺には判断が付かない。



 その夜、剣士は寝ずにこれからの事を考えようと思っていた。

 しかし結論はすぐに出てしまったので、前言を撤回して速やかに就寝。

 朝、寝ぼけまなこの勇者とペケペケと姫さんを前にして、剣士は頭を下げて三人に懇願したのだった。


「息子がいる場所が分かりました。しかし私一人の力では息子を取り戻すことは出来ません。皆さん、力を貸してくれますか?」


 その場にいた全員は揃って頷いた。

 こうして一行は一路神国に向かって出発したのである。

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