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9話 VS魔法使いその2

「いくら凄腕の精霊使いとはいえ、この人数相手に何ができる! くらえ! ゴ

ールデン・ワンダフル・シャイニング・ブラスター!」

〈何だって?〉


 聞き間違いではないのかと思わず耳を疑ってしまった。

 その魔法にはそれほどまでに無意味で長たらしく装飾過剰な名が付けられていたのである。


 結局のところそれはただの光魔法であった。

 魔法使いの前方数メートル程の場所から、四方八方にレーザー光線のような真っすぐな光がばら撒かれたのだ。

 闇夜を切り裂くいくつもの光が、縦横無尽に周囲の空間に解き放たれた。


 だがしかし、魔法使いが敵対しているのはペケペケただ一人だけなのである。

 勇者と剣士は倒れたままだし、おまけに彼の仲間は彼を守るために彼の前に立ちはだかっていたのだ。


 そんな彼らを巻き込んで、魔法使いは強大な魔法をぶっ放した。


 それはごく一部がペケペケに向かったものの精霊に阻まれ、

 ごく僅かが女剣士へと向かったが、同じく精霊にガードされ、

 女勇者にはかすりすらせずに、代わりにというわけではないのだろうが、彼を守っていた彼の取り巻きのうち3人の身体を貫く結果となったのだった。


「「「ぎゃあああぁぁぁ! あっ主様! 何をぉ!」」」

「間抜けが! 我が家に仕える兵士たるもの、この程度の魔法に耐えきれなくてどうする!」

「「「そんな!」」」

「酷いよ!」

〈本当に酷いな〉


 これがかの悪名高きミスター・フレンドリーファイアというわけか。

 味方を巻き込んでおいて反省の一つもしないとか、最悪を通り越してもはや害悪じゃないか、この男。


 何でこんな奴が勇者一行の旅に加わっていたのかまるで理解できない。

 百害あって一利なしだろこんな奴。

 まともな判断力を持っているのならそもそも仲間に加えるなんて……ああ、そうか。そもそも最初の仲間集めの時点からまともじゃなかったんだったな。


「魔法使いはいつもいつもそうやって自分勝手に魔法を使って! 痛いのは苦しいんだよ! 後ろを気にして戦える人なんて少ないんだよ! どうしてそれが分からないの?」

「黙れ、下民が! やかましいわ! 俺様が魔法を使っているのだから、貴様ら下民は地に頭を擦り付けて跪いておれば良いのだ! 運が良ければ助かることもあるだろう!」

「最低!」

〈本当に最低だな、こいつ〉


 特権階級思考ここに極まれりといったところだろうか。

 身分が高ければ何をしても許されると、平民の命などなんとも思っちゃいないのだと、ここまであからさまに宣言している奴も珍しい。


 ペケペケは偉いな。こんな奴と一緒に3年も旅をしていたというのに毒されていないのだから。

 ……いや、奴はペケペケを下民と呼んでいたな。

 もしも旅の間中ずっと馬鹿にされていたのであれば、毒される以前に距離を置いていたとしても不思議ではあるまい。


「我が覇道を邪魔するというのであれば、誰であろうと死あるのみ! シルバー・グレイトフル・ビューティー・ブリザード!」

「「主様!?」」

「わっ、わっ! 精霊さん! お姉ちゃん達を守って!」


 魔法使いを中心にして氷の嵐が吹き荒れた。

 ペケペケは魔法使いが使った魔法に心当たりがあったようである。

 彼女は急いで倒れている二人の下に駆け寄り、二人を守るために立ちはだかったのだ。


 それは上空から見下ろせば、確かに美しい魔法であった。

 魔法使いを中心として綺麗な銀色の世界が広がっている。


 だがしかし、これはいわゆる範囲攻撃と呼ばれるものではないのか?

 こういった攻撃を使う際には、何を差し置いてもまずは味方に害が及ばないように配慮するのが普通である。

 しかし魔法使いは当然のように味方も攻撃範囲に巻き込んでいた。


 氷の嵐が収まると、彼の前方には氷漬けにされた取り巻き達の哀れな死骸が立ち並んでいた。

 一方ペケペケ達三人は無傷である。

 立ちはだかるペケペケと倒れた二人を守るように、何体もの精霊達が光り輝いているのが見て取れた。


 それにしても凄いな魔法使い。

 たった二発の魔法だけで味方を全滅させてしまったぞ。


 奴の悪名は轟いていたはずなのに、どうして彼らは奴に同行していたのだろう?

 これが宮仕えの悲哀というものなのか?

 あたら命を散らすこともなかっただろうに。


「見ろ、ペケペケ! 貴様が余計なことをしたばっかりに、我が家に仕える優秀な兵士達が全滅してしまったではないか!」

「何言ってるの、アホ魔法使い! みんなを巻き込んだのは自分のくせして!」

「貴様が我が覇道を阻止しようとしたせいだろう! これは必要な犠牲だ!」

「お姉ちゃん達に酷いことをしないのなら喧嘩なんかしないよ! どうして魔法使いはこんなことをするの?」


 ペケペケは怒ってはいるものの、魔法使いの行動理由が分からずに素直に質問をぶつけていた。

 美女と美少女を男が狙う理由なんて一つしかないと思うのだが。


 いや、でも、そうか。

 ペケペケはまだ幼いから知らないのかもしれないな。


「これだから貴様は駄目だというのだ! どうしてだと? 決まっているではないか! そいつらが俺様との婚姻を拒否したから無理やりものにしようとしたのだよ!」

「婚姻? ……って、結婚!? 駄目だよ、駄目駄目! 駄目に決まっているじゃない! 勇者のお姉ちゃんには好きな人がいるし、剣士のお姉ちゃんには旦那さんと息子さんがいるんだよ?」

「それがどうしたというのだ!」

「ええっ!?」

〈えええ……〉


 とんでもないなこの男。

 恋人がいる女と旦那と息子がいる女性を寝取ろうとしていたっていうのか。

 最悪だと思っていた評価を更に下方修正しなきゃいけないってどういうことなのだ。


 つーか駄目って、普通の感覚を持っていればそんなこと考えもしないだろうに。

 ましてやペケペケは十歳なんだぞ? 子供の作り方だってまだ知らないんじゃないのか?


「我が公爵家がさらなる発展を遂げるためには、優秀な母体が生んだ優秀な跡継ぎが必要なのだ! そのために! 我が家にふさわしい母体を手に入れるというただそれだけのために、俺様は魔王退治などという下々の者が行う苦役に3年間も付き合ったのだぞ!」

「良く分かんないけど、なんとなくは分かるんだからね! お姉ちゃん達を馬鹿にしているでしょう!」

「馬鹿になどしていない! 正当に評価しているからこそ、私の子供を産むという栄誉に預からせようとしているのだ! そもそもそいつらの想い人も家族もとっくの昔に王子が処理をしているはずだ! 今更俺様の誘いを蹴る理由がどこにある!」

「ほえ?」

〈何だって? こいつ今何と言ったんだ?〉


 聞き捨てならないことを口走っていたように聞こえたのだが、聞き間違いだろうか?

 勇者の想い人と剣士の家族をあの槍王子が処理しただって?

 ちょっと待てよ『処理』ってなんだ。

 王族が平民を処理しただなんて、嫌な予感が止まらないのだが。


「なのにこいつらは俺様の誘いを断って、一目散に街を出て故郷に向かうとか言い出しやがった! 仕方がないからこんな闇夜に馬車を走らせ、乗せてやるからと声を掛けたらコロッと騙されて、毒を飲ませて動きを封じたのだ! おかげで俺様の重要な初体験をこんな野外で散らしそうになったのだぞ! この責任、どうしてくれる!」

「知らないよ、バカァ!」


 なるほど、魔王を倒すほどの使い手である二人がどうして仲良く倒れていたのかこれで合点がいった。

 二人はこのアホ魔法使いに結婚を迫られ、断ったら想い人や家族を処理したと聞かされて、一目散に街を飛び出したのだ。


 そこに魔法使いが馬車で追いかけてきた。

 恐らくは、「反省した、謝罪代わり送って行ってやる」とでも言ったのだろう。

 焦っていた二人は無防備に馬車に乗り込み、そこで毒を飲まされて身動きが取れなくなったというわけか。


 ペケペケが到着してから結構な時間が経っているのに、二人に動きがないからおかしいと思っていたんだよな。

 というか、何なのこいつら。仲間を一体何だと思っているのだろう。

 槍王子は奴隷扱いで、魔法使いは母体扱いとか、英雄に対する接し方ではない。


 勇者と剣士がペケペケを庇っていた理由が分かるような気がするな。

 二人にとってこいつらとの旅は相当なストレスの連続だったのだろう。

 そんな二人にとって、無条件に信頼を寄せてくれて悪意の欠片もないペケペケの存在がどれだけ救いになっていたことか。


 幼い子供だってことを差し引いても、そりゃあ守るだろう。全力で守る。

 信頼できない仲間の存在は敵よりも厄介というからなぁ。


「とにかく今すぐそこをどけ、ペケペケ! 俺様は薬が切れる前に二人の体に我が偉大なる公爵家の種を仕込まねばならんのだ!」

「それってお姉ちゃん達に酷いことをするってことでしょう! 絶対にダメ! 反対! 反対!」

「貴様のような平民に貴族の何が分かるというのか!」

「知らないもん、知らないもん! そんな訳の分からないことよりも、お姉ちゃん達の方が大事だもん!」

「数年後には貴様も使ってやろうかと思っていたのに裏切ったな、ペケペケ! 邪魔をするというのであれば、いくら子供といえど容赦などせんぞ!」

〈いや、あんた。これまで一度たりとも手加減なんてしていなかっただろうが〉


 本当に凄いな。一体どういう教育を受ければ、こんな自己中心的でわがままを通り越した独善的な性格に育ってしまうのだろう。

 数年後には使ってやるとか、裏切ったなとか、絶対にペケペケにとって身に覚えのない話だぞ。


「我が心の痛みをその身で思い知るが良い! プラチナ・アルティメット・ダイナマイト・カノン!」

「このアホバカ魔法使い! 精霊さん! お願い!」



 ペケペケを『ギリギリ』射程範囲に巻き込みながら、魔法使いが強力な爆発魔法をぶっ放した。

 あっという間に草原は荒野と化し、辺り一面が濃い煙に覆われてしまう。

 それをガードする精霊さんを凄いと褒めるべきか、目の前にいるのに思いきり的を外してギリギリ射程範囲に収めるだけに留まった魔法使いに呆れるべきか判断がつかない。


 しかしともかくペケペケは耐えきった。

 上から見ていると良く分かるのだが、ペケペケはもちろんのこと、ペケペケの回りに集まっている精霊達には余裕が感じられる。

 だから俺も安心して見ていられるのだ。


 そして魔法使いの攻撃が終われば、今度はペケペケからの反撃が始まる。

 精霊達から炎や氷、雷や光の矢といった様々な攻撃が放たれるが、どれもこれも魔法使いが使う謎バリアーに阻まれて攻撃が通らない。


 お互いに最強の矛と盾を持ち、どちらの攻撃も決定打となりえないという現状を見るに、戦況は五分と五分といったところだろうか。


 しかしそれならば時間が経てば勇者と剣士が復活するペケペケが有利だ。

 だから黙って見守っていようと考えていたのだが、それは相手も考慮の上だった。


「あううっ!?」

〈ペケペケ!?〉


 何度目かの交戦の後、ペケペケが突然膝を着いてしまったのだ。

 それと同時にペケペケの周囲を漂っていた精霊達が急激に姿を消していくではないか。

 ……おいちょっと待て。まさかペケペケが持つ精霊使いの力というのは有限だったのか?


「ふふふ、わはは、はーっはっはっは! 残念だったなぁ、ペケペケ! 貴様は所詮まだ子供なのだよ! 精霊の力を十全に扱うには未だ力不足ということだ!」

「ううう、まだまだ。お姉ちゃん達には指一本触れさせないよ……」

「残念ながらそれは既に失敗しているぞ? 貴様が到着する直前まで、俺様は奴らの身体を触りまくっていたからなぁ!」

「最低! ホント最低! この大アホ魔法使い!」

「何とでも言うがいい。とにかく、これが最後の忠告だ。俺様の邪魔をせず、恭順の意思を示せば、これまでの無礼を許してやらん事もないが?」

「そんなこと絶対にしないもん! い~だ! ばーか、ばーか!」


 ペケペケは口に手を突っ込んであっかんべ~を決め込んでいる。

 しかしその足は小刻みに震えていた。

 ペケペケだって怖いのだ。それでも彼女は大切なものを守るために最後まで戦うことのできる優しい子なのである。


「残念だ。ならば死ぬがよい。さらばだペケペケ。共に旅をしたよしみだ、遺体はアンデットにならぬようにきちんと焼いて、骨はバラバラに砕いてくれよう」

「それは人が死んだ時にする当たり前の対応なんだよ?」

「下賤な平民である貴様を人として葬ってやろうというのだ! ありがたく思いながら死ぬが良い! では覚悟……なぁ!?」

〈おっと、悪いがここまでだ〉


 俺は魔法使いが攻撃動作に入る前に二人の戦いに介入し、魔法使いを遥上空へと吹き飛ばした。

 雲は風を呼び、風は竜巻となり、竜巻の直撃を受ければ人は空を飛ぶのである。

 俺は半年に及ぶ雲としての生活の間に、自由自在に風を生み出せるようになっており、それを応用すれば局所的に竜巻を作り上げることも可能となっていたのだ。


 魔法使いはあっという間に数百メートルの高さまで到達し、そしてそこからは自由落下を始めていた。

 迫りくる地面に向かって奴は必死に魔法を唱えている。

 その内容はいつの間にやら簡略化されていた。

 やはりあの装飾過剰な魔法の名前は彼の趣味だったようである。


 彼は何とか落下の威力を抑えて、無事に地面へ降り立っていた。

 そこですかさず第二撃。さらなる高さへと打ち上げられた魔法使いは、降りてくる頃には息も絶え絶えであった。


 恐らく次は耐えきれまい。

 俺は攻撃する前にペケペケの様子をうかがった。


 こいつは屑だが、それでもつい先日までペケペケの仲間だった男なのだ。

 それに俺としても、雲となってからこれまで、意識的に人を殺したことはなかったので些か躊躇してしまう。


 雨を降らしたり、風を起こしたり、雷を落としたりした時に、間接的に誰かに被害が及んでいる可能性は否定できないが、直接殺意を持って誰かを殺そうとしたことはまだないのである。


 ペケペケは悲哀に満ちた表情をして、息も絶え絶えな魔法使いと俺を交互に見比べていた。

 ペケペケは当然、俺の介入に気付いているだろう。

 俺はまだ子供であるペケペケにこんな表情を作らせた魔法使いが許せない。

 だが、目の前でこいつを殺すことが果たしてペケペケのためになるのかどうか分からなかったのだ。


「何だ、これは? ペケペケ……貴様! いつの間にこんな……強力な精霊を、配下にしたのだ!?」

「くもさんも精霊さんも配下じゃないよ。みんなペケペケの友達なんだもん!」

「貴様の……そういうところが……嫌いだぁ!」


 そう言って魔法使いはペケペケではなく、『地面に向けて』小規模な魔法を放った。

 これまで大規模魔法ばかりを使っていた魔法使いにしては珍しい行動だ。

 なぜそんな事をしたのかと言えば、奴は地面を吹き飛ばして煙幕を張り、逃亡を試みようとしたらしい。


〈逃亡を阻止してトドメを差すのはたやすいけれど、ペケペケの心情を考慮すれば、このまま逃がすのも有りと言えば有りか?〉


 俺は魔法使いに対する追撃を躊躇してしまった。

 ペケペケは煙が邪魔をして状況が把握できていない。

 そして魔法使いは、意外にも高い身体能力を発揮して、あっという間に距離を開けてしまっている。


 このまま決着つかずで次回持越しか? と思ったのだが、残念ながらこの場には他にも戦える者がいたのである。

 突如として地表が爆発し煙が吹き飛ばされたかと思ったら、いつの間にか起き上がっていた勇者が手の平から熱光線を魔法使いに向けて放っていた。


 狙い違わず直撃した勇者の熱光線は、魔法使いをバリアーごと貫通して奴の身体に風穴を開けた。

 そして地面に倒れた魔法使いは、顔をあげる前に、その首をこれまた復活していた剣士に断たれて殺されてしまったのである。


 本性を現して味方に牙をむいた悪しき魔法使いは、復活した勇者と剣士の手によって殺されてしまった。

 ペケペケは魔法使いが死んだことを理解すると、ゆっくりと息を吸い込んで、首を振り、そして次の瞬間には覚悟を完了したという風な顔をして、状況を飲み込んだのである。


〈くそったれが……こんな小さな子にこんな顔をさせやがって〉


 原因に手を貸した俺が思うことではないのかもしれないが、そう思わずにはいられなかった。

 共に旅をした仲間の死を前にして、この年頃の子がこんな表情を作れるだなんて、この世界はどれだけ過酷だというのだろうか。


 ペケペケはゆっくりと3年もの間共に旅をした仲間の死体へと近づき、地面に膝をついて精霊さんにお願いをした。

 精霊さんは死体を火葬し、骨も粉々に砕いてくれたのだった。

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