07_プレイヤー
「ごめんなさい、私の手が滑ってしまったわ」
私は場を濁すように笑って謝った。
左右からステレオにロベリア様!と呼ぶ声がしたけれど今回はまず自己保身。
このアリアが何をしてくるかわからない以上、ロベリアのなけなしの信用を削るよりもまずオルフェウスにロベリアを信頼させなくっちゃ話が先に進まない。
「……すまないな、ロベリアにも悪意はないはずだ」
ほら。 オルフェウスは最初からロベリアを信じてない。
それはオルフェウスの中に積み重なっている今までのロベリアの行動への不満だ。
本来のルートならロベリアの悪事にいままでの行動を多めに見てきたオルフェウスも婚約破棄を叩きつけるのだけれど、そうはさせるものか。
逆ハーエンドにはオルフェウスも必要不可欠なんだから。
アリアの方は少し戸惑ったような顔をしながらもオルフェウスに対して笑顔を向けた。
「お気になさらないで、ココアもかかりませんでしたから」
そういって彼女は私など視界にもいれず、ただオルフェウスへと潤んだ眼差しを向けていた。
あれ? アリアってこんなキャラだっけ。
私は自分の中の違和感を最初、プレイヤーじゃないことが原因かと思った。
けれど、どう考えたっておかしい。
アリアはまるで私や他の女子生徒なんて視界に入れていない。
オルフェウスと二人きりであるかのように馴れ馴れしい距離で話をしていた。
私は一度咳払いをしてからオルフェウスに視線を向けた。
「それで、オルフェ? 貴方、いつまで女子談話室にいるの。 いくら男子の級長でもこんなに長時間女子生徒のところにいたら指導対象になるわよ」
「っ……こほん、すまない。 それではまた授業の時に」
オルフェウスはまだなにか言いたそうにしていたアリアの言葉を遮って扉に近寄ると、ふと私に視線を向けて微笑んだ。
「安心したよ」
優しい口調で言われた言葉に私は思わずどきりと胸が高鳴った。
今のはアリアに対してじゃない、ロベリアに対しての言葉だ。
ロベリアはきっとアリアを拒絶すると予測していたオルフェウスがロベリアが思っていたよりも大人の対応をしたことに安堵したのだ。
私はなんだかそれだけで自分が折れてよかった、と思えてふう、と息をついた。
立ち去るオルフェウスの背中を名残惜しそうに見送っていたかと思うと突然振り返ったアリアは敵意を込めて私を睨みつけてきた。
アリアはこんな顔を立ち絵でもアニメでもしたことが一度としてなかった。
私はその表情に驚いていたが、左右にいた双子は真っ向から怒鳴りつけた。
「なによ、その顔は! ロベリア様に謝りなさいよ!」
「そうよ、あんたみたいな平民が金組に入るなんて本当なら有り得ないのよ!」
まるでゲームの中のセリフそのものなんだけど、今の私には頼もしく思えてしまう。
けれど、アリアはハンと鼻で笑うように唇を釣り上げた。
「謝るのはアンタでしょ、どこの誰かしらないけど、ヒロインはあたしなの、あ、た、し。
ちゃんと悪役やってくんないとオルフェ様の好感度あがんないでしょ?」
その言葉に私は崩れ落ちそうになる膝に力を込めた。
こいつ、アリアじゃない。
別の、私と同じように、元の世界からきてこの世界のガワを被った誰かだ。