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ピカレスク・ロマンス  作者: 行雲流水
7/28

06_ヒロイン登場

女子談話室の中は賑やかな話し声で満ちていた。

誰もが貴族の娘同士、なんら気兼ねなくおしゃべりをしながら温かいココアで体を温め、ビスケットやマシュマロをつまむ。

そうそう、学生のころってこんなお茶会よくやったのよね、なんて考えながら私もイライザとスザンナを左右におしゃべりをしていた。

話の内容は概ねどうだっていいことだ。

誰がかっこよかったとか、どの教科が心配だとか、入学試験の結果発表が不安だとか、そんな学生らしいこと。

不意に、ドアが四回叩かれて私はどきりとした。

ああ、この時が来たのだ。

はやる心臓に息を吐き出す。 周囲の生徒たちは扉ではなく一様に私を見つめている。

ロベリアがこの場の女王様。 ロベリアの声を誰もが待っている。

私はなるべく平静を装って声をだした。


「どなたかしら、入って」


扉を開けたのはオルフェウスで、私はもう次の展開を理解していた。

何度も、何度も何度も何度も見てきた物語の冒頭だ!


「彼女が迷っていたようで案内してきたんだ、今年の金組に入る女子は彼女で最後だそうだよ」


オルフェウスにエスコートされるようにして入ってきたのは、栗色の髪をセミロングにまとめて、桃色のリボンが揺れる少女だ。

人目をひく華やかさはないけれど明るいオレンジの瞳は大きく、少しはにかむような笑顔を浮かべて白い制服の裾をなびかせながら彼女は入ってきた。


「はじめまして、皆さん。 私、アリア・アンジェス・ルミナといいます」

「ルミナ? 聞いたことのない家だわ。 爵位は?」

「あ、わ、私、平民で」

「平民ですって!」


イライザとスザンナが交互に声を上げて、周囲の生徒たちも一斉に顔を見合わせた。

大貴族の血縁だけが入れる金組に史上初の平民の入学生が来たのだから戸惑いも当然だ。


「今年は男女ともに平民の生徒が試験的に入学したんだ」


女子生徒の騒ぎをなだめようとオルフェウスは声をあげ、アリアは戸惑うように視線を彷徨わせた。

物語冒頭、その再現に私は一瞬言葉を失っていた。

ゲーム内ではロベリアはどうしたっけ。 ああ、そうだアリアにココアをかけて追い出そうとしてオルフェウに叱られるんだった。

私はテーブルの上の未使用のマグカップにココアをついでアリアへと近寄った。


「どうぞ、アリア。 私はロベリアよ、金組の女子の級長をすることになったの」


私がマグカップを差し出すとオルフェウスとアリアは驚いたように目を丸くした。

そうだろう。 少なくともロベリアは本来ならこんな優しい対応をしてくれるようなキャラではない。

けれど、私はロベリアと同じ過ちを犯すつもりは微塵もなかった。

オルフェウスは息をつくと他の生徒へと視線を巡らせた。 級長の私が平民の生徒を受け入れた以上は不承不承でも他の貴族の娘たちも受け入れるしかない。

本当なら6月まで女子たちからつまはじきにされるアリアにとってはこの上ない追い風なのだから感謝しなさいよ、とそんな気持ちでアリアの顔を見つめて私は唇を半開きにした。


「え?」


アリアは、困ったような顔でマグカップを受け取った手をそっと離した。


「きゃあ!」


床に落ちて砕けるマグカップと飛び散るココアの飛沫に私は目を丸くしていた。

今、私はマグカップを彼女に手渡したはずなのに、アリアは……わざとマグカップを落とした。


「どうした?」


アリアのあげた悲鳴に慌てて振り返ったオルフェウスの方へ歩み寄り、アリアは口元に手をやり首を左右に振った。


「……ロベリアさんが」

「ロベリアが、まさか、カップを?」


なんだそれ。

私は手渡したのに、驚き硬直する私の左右からイライザとスザンナが急いで声をあげた。


「その子がわざと落としたんです!」

「ロベリア様はちゃんとその子に手渡しましたわ!」


ああ、なんだろう。 かばってくれているのに、この言葉をオルフェウスが信じてくれる気がしない。

だって私は――ロベリアなんだ。

幼馴染で、オルフェウスにも性格の悪いことを知られたロベリアを彼女の友人が庇ったとしてもオルフェウスが信じてくれるものか。

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