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ピカレスク・ロマンス  作者: 行雲流水
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02_ロベリア

朝食が終わればわざわざ着たドレスを学校への制服に着替えるため脱がされ、王立学園の紋章が入った真っ白なワンピースを着ていった。

ワンピースはシンプルだけど紺色のラインが入っていて、柔らかなシルエットのリボンが胸元につき全体的に可愛らしい出来栄えになっていて私はなんだか照れくさいような気分で姿見の中のロベリアを見つめた。

スカート丈はふくらはぎまで、黒の靴下を履いて足首まで覆う白い革靴のボタンをはめてもらうと懐かしいロベリアの立ち絵が鏡の中にはあった。

もっとも、ゲームの中のロベリアは終始冷たい笑顔を浮かべていたり、嫉妬で怒っていたりしたからこんなに穏やかな表情は初めてみた。


「……やっぱり綺麗ね」

「ええ、お嬢様は見目麗しくございます。 けれど、お嬢様。 どうかそうしたお心はあまり口に出さぬように、美徳は秘めやかにするものですよ」


私はロベリアにいった感想を自賛と受け取ったお目付け役の女性に苦笑してしまいながらも、これから本当にロベリアとして振舞わねばならないのか、と少し息を飲み込んだ。

結局最後の見送りに屋敷のエントランスを出たときには屋敷の使用人全員がロベリアの出立を見送るために立っていた。

これはロベリアも自分が世界の中心であるかのように誤解するわけだ、なんて考えながら馬車に乗り込むと四頭の白馬に引っ張られて馬車は走り出し、私は静かに『太陽の詩』を思い出していた。



『太陽の詩』――発売は12年前。

私が高校にあがる直前に販売された家庭用の乙女ゲームで、私はこのゲームのジャケットに描かれたメイン攻略対象のオルフェウスに一目惚れして発売日に購入した。

あの頃はテレビは実家のリビングに一台しかなかったから、シューティングゲームにはまっていた姉と『太陽の詩』をやりたい私とでほとんど毎日口喧嘩をしていた。

そのテレビ戦争は姉が音声入力ソフトにはまったことで集結したのだけれど、私はとにかく『太陽の詩』に入れ込んでいた。

未だにオープニングだって歌えるし、すべてのルートも網羅しているし、なんならシナリオも全部ノートに書きおこして、それでも物足りなくって図書室で本を借りては『太陽の詩』の世界をさんざん考察した。

ファンディスク、テレビアニメ版、劇場版、ブラウザゲーム、ドラマCD、OVA、そして2年前に断末魔のように発売されたリメイクフルセットは限定版を店舗購入特典目当てに6個同じのを買った……そのくらい入れ込んでいた乙女ゲームの世界に来れたのはいいけれど、まさかよりによってロベリアのポジションになるとは思っていなかったのだ。


ロベリア・ローベ・パトリスク

『太陽の詩』の一番の悪役でほぼ全ルートで邪魔をしてくるオルフェウスの婚約者だ。

攻略対象のオルフェウスとクローヴィスの幼馴染で侯爵家令嬢とかなり有利なポジションにいるのだけれど、性格が悪く平民の生徒への嫌がらせ、特にヒロインへの犯罪に近い悪事の数々が暴露されて破滅する。

まあ、その嫌がらせというのが落とし穴だの物を隠すだの燃やすだのはまだ可愛いレベルで、オルフェウスルート終盤にいたってはヒロインをナイフで刺して殺人未遂。

性格が悪いというか人間性がねじれすぎていて、リビングでのプレイ中に私だけでなく母まで悲鳴をあげていた。


「けど、これはチャンスだわ」


本来ならロベリアルートのシナリオは存在しない。

当然だ。 ゲーム内でロベリアの行った数々の悪行は最初からプレイヤーに憎まれる立場になることを前提に作られたシナリオなのだから、感情移入できるはずがない。

けれど、ロベリアがプレイヤーならば……?


「新規シナリオ! 新規ルート! 新規グラフィックに新規ボイス!」


これはもはや新作といって差し支えないのでは?

私は馬車の中でガッツポーズを決めていた。

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