澄みきった空色の下で
新しく友達が出来た。そうは言っても、あの人はそう思っていないかもしれない。出会いはどこだったのだろう。あぁ、思い出した。わたしの友達のピアニスト、杏さんの音色を聴きに来ていた時だ。
私は偶然にも杏さんとコラボを頼まれ、その日に競演を果たした。彼はわたしの友達でもある杏さんの友達。友達繋がりで、友達になれた。彼はサラリーマンではなさそうだけど、話しづらそうにそしてどこか恥ずかしそうにして、創作的なコトをしていると教えてくれた。
「同じじゃないですか」
「いやぁ、俺とは畑が違うじゃないですか? 俺は浮かんだモノを書き出すだけですよ。でも、藤埜さんは踊りを踊る方ですよね。同じだなんてそんな……」
「いやいや、一緒。わたしもリズムであれ何であれ、作られたものをベースにしつつ、毎回考えてますよ」
彼に言うわたしの踊りとは、アイリッシュのことだ。見た感じはタップダンスのようなもの。海外を多く見て回って、出会えたのがアイルランドの踊り。シャン・ノースダンス。ステップとシューズ……これに尽きる。
「そうなんですね。なんか、見惚れてしまいましたよ。杏さんのピアノの旋律に逆らうことなく、流れるようなステップを繰り出している姿。アレは見たことが無かったというか、ハマりそうですね」
「あ、じゃあじゃあ、チラシ渡すので見に来てくれますか?」
「でも俺みたいに知識の無い奴がアイリッシュ? を眺めてていいんですかね?」
「全然! 大衆向けですもん。それにそこだって舞台になれるんで、それこそ船の上とか、神社の境内とか、もちろん許可は取りますよ」
「なるほど。じゃあ、藤埜さん。それください。俺、そろそろ帰るんで、杏さんにも一声かけてからですけど」
誰かが見てくれる。見てもらうために踊る。いなくても踊れるけれど、やっぱり分からなくても、見て欲しい。そんな感じ。彼は宣伝チラシを受け取ってくれた。
そして約束通りに来てくれた。
「どう、言えばいいのか分からないですけど、あ、もちろん、ヒラヒラの衣装も素敵なんですけど、虜になりそうな予感って言うか、まぁそんな感じなんですよね。藤埜さん、また来ていいですか?」
「じゃあ、友達……ですね! お客さんだけど、その辺のお客さんじゃなくて、お友達ですよ」
「あっ、はい。よろしくです? いや、おかしいかな」
「それで合ってますよ」
そして今日もわたしは澄み切った空の下で、わたしの踊りを披露する。誰かが、友達が見てくれるから。