63、『依存関係』エルフの恋
「ミストには悪いが、魔道具を使わせてもらった。今俺がミストに伝えた情報は誰にも話せないようになる。だから教えたんだ」
エイトが手の平サイズの長方形の箱を操作すると箱から光が伸び、俺の首に光るリングが巻きついた。
どうやら後ろからバッサリってのは大丈夫なようだ。一安心した俺はため息をついた。
しかし、エイトは少し怒ったような顔をして言葉を続けた。
「ただ、こんなのは稀だ。俺たちに面識があり、お前が正式な依頼書を提示したから俺はお前を信用したが、情報を知ったお前を殺す奴だっているんだぞ」
その言葉を恐ろしく思う。彼は俺に無闇に首を突っ込ませないように今回は助けてくれたようだ。しかし、逆に言えば今の俺は拷問されても情報を吐けない訳で……仕方ない、これは戒めと受け取っておくか。
「エイトも、本当はこんな事したくないのよ? でもあなたは……察しが良さそうだから。忠告の意味を込めて今回はこうしたわ」
「ミストも、この魔道具の危険なところに気づいただろ。今回はあの時のアドバイスの恩と、お前を信用してこの魔道具を解除するけど、次は無いからな。本当に気をつけろよ」
エイトが魔道具を操作すると俺の首から光が伸び箱へとしまわれていった。そのままエイトは箱ポーチへとしまった。
エイトもカーラも優しすぎる気がする。今のは見せかけだけで俺には今も魔道具の効果が残っているのかもしれない。むしろ国に使える人間としては解除する方が怪しい。それでも俺は、彼らを信じたい。
その後俺たちは互いに仕事とは関係ない談笑をして別れた。
内容はエイトがカーラに告白したシチュエーションについてだ。エイトもカーラも赤くなって話していたが、口付けについて説明を始めた瞬間エイトがカーラに殴られた。
結構痛そうだった。実は、彼女は魔法使いではないのかもしれない……
彼らには彼らなりのやり方がある。俺が邪魔をしてはいけない。目的は近いようで違う。俺が止めたいのは『シフォンが嫁ぐ』という契約。また、ツバキを奴隷から解放するという事。この二つが成せて始めてあの二人は幸せになれる。どっちか一つじゃダメだ。どっちも取る。強欲に進んでやる!
俺は今一度決意し、裏の町へと繰り出した。
◇レフィーヤside◇
私達は、ミストがスキルで麻痺させたキーツをロープで縛って近くを歩いていた傭兵に突き出した。ステータスの犯罪履歴を見せたし、シフォンの身分もあるのでしっかり受け取ってくれた。あの刺客がファイルが送り込んできた者ならおそらく意味がないと思う。でも、紹介が送り込んで来たとしたら意味はあると思う。少なくともあいつがミストに復讐をする機会は減るだろう。
そして私たちは再び壁の上へと向かった。今の時間帯なら丁度夕焼けに染まった町を観れるとツバキが言っていた。
出来れば、ミストと見たかったんだけどなぁ。ミストが気にしている事はわかる。確かに私達は少し歪かもしれない。互いに始めての恋人で、付き合ったその日のうちに行為をした。一般的に見て私たちは関係を深めるのが早いと思う。
でもそれは、私達が一度死別しているからだ。ミストは、私を庇って死ぬ際に告白した。あの時の、ミストの体が冷たくなっていく感覚ははっきり覚えている。偶に夢に見て恐ろしくなり、ミストのベットに入って眠る事もあるくらい。だから余計に私はミストを愛しく感じてしまう。文字通り私の為に命を投げ打ってくれたミストに私はこの上ないくらいに恋い焦がれている。
……シチュエーション以外にも、私の種族も関係しているんだけどね。
「ミスト……」
どうしてもミストのことが心配であんまり集中出来ない。
護衛としてみても、ミストの気配察知能力は優れているからそばに居てくれるだけで心強い。ただ、私が一番きになるのはミストが女の子を引っ掛けてこないかという事だ。
ミストはモテないと言っているが、ツバキの事があるから少し不安に思う。彼実は女たらしかもしれないなぁ。
私はエルフだから。私を大切にしてくれるなら、ミストがハーレムを作っても良いと思ってる。でも、浮気されるのは嫌だなぁ。するならちゃんと私に紹介してほしい。
思考がぐるぐる回る。うう……坩堝にはまりそう……
「……レフィーヤ? 大丈夫ですか? 」
私がうんうん唸っていたからツバキが心配して声をかけてきた。まずい、しっかり護衛に集中しないとっ
「うん、大丈夫……ねえシフォン、ツバキ。私ってやっぱりミストに依存してるかな?」
心配かけてくれたついでに、ツバキとシフォンに相談してみる。私達は現在3列に並んでいる。ツバキ、シフォン、私の順だ。
「ミストと同じ事を言っていますね。ミストも悩んでいましたよ。『俺はレフィーヤに依存しすぎている気がする』って」
ツバキはミストの口調を真似しているみたいだけど、微妙に似ていなくて微笑ましい。せっかく相談に乗ってもらっているのだから、真面目に聞こう。
「依存しているとまでは思いませんが、確かにお二人はまるで長年長年連れ添った恋人のように互いを信頼してますよね。ただ、レフィーヤさんに、ミストさんと付き合ってまだ2ヶ月経っていないと聞いた時は少し驚きましたね。
私は、男性の方お付き合いした事が無いので経験則は無いですが、あそこまで互いを思うのは長い時間が必要ではないかと思いました」
やっぱり、私とミストの関係の進展は普通の感覚より早いようだ。シフォンには、悪い事を聞いちゃったな。今ミストとツバキがシフォンが嫁がなくて良いように色々と頑張っている。私も手伝いたいと言ったけど、『レフィーヤは今回依頼に昇格がかかってるからそっちに集中して。それに、レフィーヤがシフォンを守ってくれれば俺は何も心配しないで事を勧められるから』といって断られた。
悔しいとは思っていない……といえば少し嘘になる。私だって、ミストと一緒に行動したい。ミストに守ってもらったツバキが少し羨ましい。でも、ミストは私を第一に考えてくれるし、信頼してくれる。
エルフは嘘を看破しやすい種族と看破しにくい種族がいる。 前者のエルフは一般に人々が想像する冷たい対応のエルフだ。後者は騙されやすく、奴隷になってしまうエルフの多くは嘘や悪意に弱いエルフだ。
私は前者なので嘘をある程度見極める事ができる。
ミストは、心から私を好いてくれる。それが真実だという事を私は種族として理解できる。
でも、羨ましいと思うくらい、良いよね。
「それに、レフィーヤさんは……その……エルフ、ですからね。依存しすぎという事はないと思いますよ」
シフォンが言いにくそうに発言した。エルフと人間の恋愛の物語は悲哀で終わることが多い。人とエルフでは歳の取り方に差が大きいから、寿命が来るまで愛し合うなら、多くの場合エルフは夫を亡くしたまま長い時を過ごさないといけなくなる。
おそらくミストは知らないと思うけど、エルフは他種族、それも人間と恋愛をする時に特定の恋愛をする。
『エルフの恋愛は、熱しやすく冷めやすい』全種族共通の格言。私の心にある暖かい気持ちも、いつかは消えてしまうのだろう。
エルフは依存しやすく、離れやすい。出来れば、ミストにはこの事を知らないでほしい。
私のこの想いが、種族の特徴で一時的に湧き上がったモノだなんて思われたくない……
◇ミストside◇
エイトとの邂逅から数時間が立ち、夕焼けが町を包んでいた頃、俺は一人寂しく道を歩いていた。
決意とは裏腹に、なんの成果も得られなかった俺はトボトボと冒険者ギルドを訪れた。キーツの対処を忘れてていた事に今更ながらに気づいたのだ。
恐らくレフィーヤ達が衛兵あたりに突き出していると思う。
ダスクーー血濡れの暗殺者は冒険者ギルドで指名手配を掛けられていた。あの後、ツバキが冒険者ギルドの職員を呼び、色々と手続きを行ったという。奴は顔がバレていなかったから手続きは面倒だっただろうに、本当にありがたい。
仮にキーツも指名手配されているならば何かしらの情報が手に入るはずだ。
エイトとの事はレフィーヤや、ツバキには言えない。彼女たちが誰かに話すとは思えないが、あの事を誰かに話すのは俺を信じてくれた二人を裏切る事になる。
そうなるとなんの成果もない俺は、ただ戻るのも恥ずかしく冒険者ギルドによる事にした。
結果的に言えば情報は簡単に手に入った。どうも兵士が体がガチガチに固まった男を運んでいたという情報を何人かが語っていたからだ。おそらく俺の『霜柱』で固まったキーツだろう。
他にも、現在この町には冒険者ギルドのマスターがいないと言った情報や、『豪撃』という二つ名を持ったパーティーと面識を持つことができた。彼らはどうもダンジョンメイキングの場にいたらしく、俺の顔を覚えていた。
新しい繋がりに満足した俺は冒険者ギルドをでて、レフィーヤの元へ向かう事にした。
だが、その時、俺に背を向けて座っていた二人組みの冒険者が、不穏な事を言った。
「くそー羨ましいな、あいつ。美人のエルフを連れやがって」
「ああ、お前の借りてる宿に泊まってるっていう若い奴か。でも、そんなに羨む事も無いだろ。なんたってエルフの恋はーー
「「熱しやすく冷めやすいからな」」
二人は示し合わせたかのように同じ言葉を言った。
「あの男がこの町にいる間に捨てられればお前にもチャンスあるんじゃねぇの?」
「ははったしかにな」
男達は笑いあっている
「……は?」
読んでいただき本当にありがとうございました。
誤字脱字、矛盾点等ございましたらご指摘していただけると幸いです。
よろしければ次回もご覧ください。




