60、『武器破壊』 霜柱
申し訳ないですが、前回の投稿から長期間空いてしまい、忘れてしまった方もいるかもしれないので、以前書いたものを修正し、最新話として投稿させていただきます。
諸事情により美咲の名前を美奈に変更しました。重ね重ね、申し訳ありません。
俺の失言で気まずくなってから一、二分。俺とシフォンの目の前にあったのは行き止まりだった。
目測数十メートル以上ある壁が視界を埋め尽くしている。そう、これはーー
ーー城壁だ。
俺たちの後ろにいたはずのツバキとレフィーヤの気配もない。
「行き止まり? ーーはめられた!?」
クソッ気づけなかった!
俺とシフォンは自分たちの位置を把握できなくなっていた。ツバキたちの姿も見えないし、自分たちが今どこを歩いているのかもわからない。
「シフォン、俺の背中に隠れて」
「は、はい!」
前方から隠す気の無い、強い殺気を感じる。
最悪だ……連日戦闘だし左腕も動かない。何より元々ランクB冒険者の昇格依頼だぞ。達成難易度だって高いに決まっている。俺なんかの手におえるものじゃないし敵も一番襲撃しやすいタイミングを狙って襲って来ているな。
クソッ!
背後から歩いて来たのは背の低い茶髪の男だった。手には鎖を持っている。
「どんな奴が護衛についてると思えば『固有スキル』を一つしか持っていない雑魚じゃん。
楽勝依頼ラッキーだぜ」
「……なぜ俺の固有能力が一つだとわかった?」
「ん〜俺の固有能力さ。すごいだろ? 俺の『能力鑑定』。俺はお前みたいな底辺と違って固有能力が四つあるんだよ。神に愛されてんの!
えーと、お前のスキルは……『自己進化』ーー能力は……望む道を作り出す力?
わかりにくい上に使えなさそうな能力だなぁ。ま、底辺レベルなんてこんなもんか」
能力鑑定? 俺の詳細鑑定でも同じことがわかれば事前に対策できるな。それにしてもなんでこいつは殺気を出していたくせに攻撃を仕掛けてこないんだ? 強者のおごりみたいなもんか?。
物は試しだ……使って見るか。
詳細鑑定!
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名前 キーツ 職業 捕獲者
固有能力
『能力鑑定』
『力自慢』
『大食らい』
『麻痺属性付与パラライズ』
経験スキル
【スラッシュ】
【パラライズキャプチャー】
【ストライク】
【ビッグマウス(挑発)】
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す、すごい。本当に見えた。ただ「スキル」だけは確認できないみたいだな。
「まぁいい。ちゃっちゃと終わらせるか」
気の抜けたセリフとともに鎖が放たれる。
後ろにはシフォンがいる……打ち返せ!
「らあ!」
ーーギンッ
ダガーを引き抜き鎖を上に打ち上げる。
「これはどうかなぁ!」
打ち上げられた鎖がピンと張り、静止する。
なんで空中で静止してんだよ! 鉄だろ!? ふざけんな!
アサシンセンスが脅威を感じ取り反射的に脳へ伝える。
後ろにいるシフォンを抱き上げ、全速力で横に飛ぶ。
「スラァーシュ!!【スラッシュ】!!」
一直線に伸びた鎖がまるで刀身のように振り下ろされた。
鎖が触れた地面は表面は粉々に砕けれ、深部は深く切り裂かれている。
「打撃プラス斬撃とか……」
奴の攻撃は打撃と斬撃のハイブリット。取り敢えず斬打撃(仮)と名付けておこう。
正式名所があっても俺は知らないしな。
俺は後方に飛びながら『氷柱龍剣』の能力【水晶の弾丸】を五本錬成、射出するが、鎖の横薙ぎで全て砕かれてしまう。
「ぐっ」
今のうちにシフォンを下ろす。アイスクリスタルを打ち続けているが効果はなさそうだ。
あいつ、鎖を鞭のように扱っている。とんでもない筋力だ。見た目は筋肉なんて全然ないひょろっとしたチャラ男なのに。
『力自慢』の効果か? クッソ、異世界ファンタジーが!
「ほらほらほらっ」
鎖が迫って来る。弾いても回避してもキーツの手元に戻り、次弾が打ち出される。
「がぁっ」
そしてこの動かない左腕が俺へのダメージに拍車をかける。
右に回避するさい、重心がずれて左腕に一撃食らう、痛みはないが衝撃でよろけたところに腹部への一撃。
「がはっぐふっ……はぁ……はぁ……」
「ボロボロだねぇ。『固有能力』は使わないのかなぁ? ああ、そっかぁ。使えないんだっけ?
経験スキルも大したのないし。
まぁ、相手が俺じゃあ仕方ないか!」
クッソ、ビックマウスが……
「うっせぇ」
俺は水晶の吹雪ダイヤモンドダストを使用する。
俺を中心に細かい氷の吹雪が舞う。
「可能性の水晶!」
可能性の水晶は水晶で出来た粘土細工みたいなものだ。他の技に比べて強度は落ちるが形を自由に変えられる。
無限の可能性を持つ技だ。
俺は可能性の水晶で盾を作り、水晶の吹雪を結晶化させ、左腕に盾を装備する。
「今更左腕を補強したところで、意味なんてないよ!」
あいつはもう、俺の弱点に気づいたようだ。的確に左腕を狙って来ている。
「【ストライク】!」
鎖が水晶の盾にぶつかり、盾を砕いた瞬間ーー
ここだ!
「水晶龍の加護!」
ーー砕かれた盾が修復し盾の表面には龍が描かれる。
鎖の先は縦にめり込んでいて、全く動かない。
「ああっなんで動かない!」
俺は結晶化した吹雪で自分の足を地面に貼り付け、どうにか止まっていた。
アイシクルダガーを鞘にしまい、アサシンベルグを取り出して地面に突き刺す。
「敗者の剣!」
キーツの足元にゲートを作り攻撃するも寸前で避けられ右足を少し切り裂いただけだった。
「めんどくさ。【パラライズキャプチャー】」
ッッ!
全身に電気が流れたみたいだ。全く動かない。
「俺の技、すごいだろ? えーと、商人のおっさんに頼まれたのはそっちのお嬢ちゃんだけか」
商人? アイツか?
これが【麻痺】か……まるで金縛りだな。
あいつが近ずいて来る。何か言ってるが聞き取れないな……これは、思考も麻痺し始めてるのか……
「俺のーールはーーなぁ」
「ミーーんーーてーーい」
シフォン。なんて言ってるかわかんないよ。
ごめん。レフィーヤ……なんだか……すごく……眠いんだ……
◇◇◇
んん……眩しい。
目を開けた俺が見たのは雪と水晶でできた世界だった。
トンネルを抜けたら一面が眩しいくらいの銀世界でした。
って意味わかんないな。俺は死んだのか?
(いや、ソナタは死んでいない。まぁ、数分後にはそうなるだろうがな)
あなたは?
(この空間そのものだが。そうだな。これならわかるか?)
結構先が急に光り、目を瞑る。目を開けるとそこには白く、美しい龍が存在していた。
あなたは、アイシクルダガーの素の……
(そうだ。我を素材にし、アイシクルダガーは作られた)
それで、俺をここに読んだのはなぜですか?
(あまりにソナタが腑抜けだったのでな。喝を入れるために呼んだ)
腑抜け……そうかもしれませんね。いえ、そうです。
(ソナタはすぐに勇者や英雄を引き合いに出すが、そもそもソナタは輝いているものになる努力や覚悟をして来たのか)
そんな努力していないです。でも! 仕方がないじゃないですか! 俺は必死にやっています、やって来ました!
誤作動なんて理由で現実と切り離されて、『固有能力』は一つしかなくて、その状況を変えるには女・神・の決めた道しか通れない。
それなら自分の力でって、全力でやってきました。
レフィーヤを助けるために文字通り命張ったし、ツバキを助ける時も仮死状態になりました。
やりたくもない人殺しもしたし、魔物とはいえ生き物を殺す不快感を必死に騙してここまで来ました。
その上まだ俺にやれと。
無理です! ここで終わるならそれでいい!
そうさ……レフィーヤだって時間はかかるが立ち直ってくれるはずだ。
(やはりソナタは腑抜けておる。逃げているだけだ。現実から、未来から)
現実から逃げて何が悪い。未来が怖くて何が悪い。
俺は現実を照らし未来を切り開く勇者にはなれない。
誰かの英雄になる事だってできない。
俺は……この程度だ!
(だれもソナタにそんな事は課していない。なによりも勇者や英雄を望んでいるのはソナタではないか)
人に助けを求めてなにが悪いって言うんですか!
(そうではない。『勇者や英雄でありたい』そう願っているのはソナタ自身だ。
『自己進化』とはすなわち自分で進化する『固有能力』。その力は我の武器としてのあり方を変えるほど強力だ。
ソナタはすでに可能性を掴んでいる。自分の望む道へ進む。それはとても難しい。
それでも、とそれを知った上でソナタはまだ自分の道を進めるか!)
思考がクリアになる。
くはっ なんだよ。自分の決めた道を進むって……中二病にも限度があるだろ。
……俺はどうしたいんだろ? 自分の道は自分で決めるって言ってもな……
答えは出ない。
(答えは?)
俺はーー
◆◆◆
戻ってきたぁ!
状況は変わっていない。本当に一秒にも満たない時間だったようだ。
「なぜ俺の【麻痺】から抜け出せる!」
「進化したんだよ。【麻痺】がきかない体にな」
言いながらアイシクルダガーを手に取り、驚き顔で止まっているキーツへと駆ける!
「くっ!」
「遅ぇ!」
鎖を弾きあげ技名を叫ぶ!
「【武器破壊】!」
鎖が砕け、鉄が舞う。
「まっまってくれ!」
キーツは手を前に出して悲願してくる。
「……」
俺はアイシクルダガーをキーツの首の皮一枚のところで止めた。
血が一滴流れ落ち、凍る。
「馬鹿め! 」
キーツが左手に持った短刀を俺に振りかぶる。
「【霜柱】」
「あが……」
キーツは俺に短刀を振りかぶった状態で固まっていた。
まるで麻・痺・したかのように。
「俺はもう見習いじゃない。まぁ、暗殺者でも無くなったが。
安心して良い。手足が凍傷にはなるかもしれないが死にはしないから」
さて、怪しいもんはっと……
俺は固まった……いや、凍った男の懐から正方形の板を見つけた。
『詳細鑑定』
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【微睡みの札】
ーー
ーー
ーー
ーー
なお、札を破壊することにより効力は無くなる。
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成る程。
ーーパキン
これで効力は無くなったのか。
シフォン、ツバキをどうにか呼べないか?
「え。 うん」
さて、俺の成長を彼女と師匠にどう報告しようかな?
◇◆◇◆◇
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ミスト
経験スキルnew!
【霜柱】
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氷柱龍剣アイシクルダガー グレードⅨナイン
勇者の実力を図っていた。神の使いの龍のツノ、牙、爪を『神の武器作成』で混ぜ合わせて完成した武器。
勇者の能力や心意気を試験していたという個性が色濃く出ており、使用者の心の強さ、成長に応じて力を貸す。
♢
分岐ーー氷系統
Level Ⅴ 【霜柱】
分岐ーー龍系統
Level Ⅴ 【ーー】
分岐ーー水晶系統
Level Ⅴ 【ーー】
♢
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読んでいただき本当にありがとうございました。
誤字脱字、矛盾点等ございましたらご指摘していただけると幸いです。
よろしければ次回もご覧ください。




