59、『金剛破壊』 G(ゴーレム)ダイヤモンドは傷ついた
気づけば最終投稿は二ヶ月前。エタらないを目標にしていたのにエタりかけてる!? と焦り、書き上げました。
俺達がここに落ちてからまだ数十分しか経っていないはずだ。でも、体感では一時間以上戦って居るようだ。
俺はこの数十分で何度も死にかけた。
あの時、必殺のつもりで放った一撃がゴーレムに対して全く歯が立たなかった事は俺の精神に大きなダメージを与えた。
本気の攻撃をして、数センチしか刃が通らない。
たったそれだけの事が、俺の実力を、俺の限界を、俺の現状を明確にした。
呆然としていた俺が今生きているのは一重にツバキの助けによってのものだ。
敵の眼前で動けなかった俺の精神を戻してくれたのはツバキの声だった。
「ミスト! 今すぐそこから離れて!!ーー早く!」
俺は考えるよりも早く体が動いていたことに驚いていた。たぶん、条件反射とか、生存本能が働いたとかそんな感じだろう。
俺がその場を離れてから……いや、離れた瞬間そこを見えない何かが撃ち砕いた。
一拍おいて、それが不自然なほど透明なダイヤモンドで出来た腕だと気づくことができた。
普通の岩よりも硬いはずの迷宮の床がえぐれている。
あのままあそこにいたらミンチより酷いことになっていただろう。
「悪い、ツバキ! 助かった!」
「本当に気をつけてください。あなたに死なれたら、レフィーヤさんに顔向けできません」
「そうさ! 俺は、絶対に死ねないないんだよ!」
俺は己を奮い立たせる為に声を上げ、ゴーレムへと駆ける。
殺気を感じ右からの見えない大振りを察知する。体を地面スレスレまで低くし、濠腕をかいくぐる。
こいつ、技自体は単調だ。技術などないただのパンチ。テレフォンパンチでもアッパーでも、当たれば一撃必殺。技術などいらない。
避けられても最硬の鎧が敵の攻撃など無とする。
技術は無いといっても、その一撃一撃は常人の出せる速度を超え、不可視である。
「全く、女神様が俺の運命を司っているなら、俺は随分と嫌われたもんだ」
そんな事を呟きながら俺はさっきの位置に寸分狂わずさした氷柱龍剣が少しだけ刃を進めたのがわかった。
俺はダガーを引き抜き、ゴーレムの股下を前方回転で通り抜け、背中に袈裟斬り。
しかし手応えはなし。傷すらつかない。
ゴーレムが振り向く前に離脱する。
決定打を見つけないと勝てないぞ……
◆◆◆
あれから少し経った……と思う。
なんせ常に命を削っているようなものだ。一瞬が何秒にも感じられる。
だが、俺たちは未だにゴーレムに致命傷を負わせられていなかった。
細かい切り傷すらない。あるのはゴーレムの核、その外側にある俺のつけた刺し傷だけだ。
血肉のないゴーレムには致命傷以外は意味がない。一瞬で決める何かがなければやつは倒せないということなのだろう。
逆に、ゴーレムの拳は掠っただけでも俺たちの体を抉り取る。
このままじゃ……俺たちは死ぬ。
だが、一つ気づいたことがある。このゴーレム。まるで自分はこの場所唯一の出口の守護者とでもいうようにあの道を守って動かないのだ。
だから一定以上距離を取ればゴーレムは攻撃してこない。その為今は俺たちには考えるだけの余裕が出てきた。
まぁ、それでもゴーレムが攻撃してこないというのは仮説だから急に動き出すことも考えなければいけないがな。
正直、一人だけなら逃げ出せると思う。だが、その案は早々にツバキに却下された。
残すなら身内の居ない私にしてくださいといわれてしまった。貴方にはレフィーヤさんがいるのだからと。
当然そんなこと出来ない。
当然、この案は消え去った。
「このままじゃ、ジリ貧だ。何か、突破口が……」
「すみません。私は宝石に興味がないので詳しい知識を持っていません。なので対抗策が何も……」
「何か、知識を……」
考えろ! 考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ。
ダイヤモンド。最も硬い物質。摩擦や引っかき傷では傷がつかない。
反面、ハンマーで叩けば砕ける……ん? おかしい。ダイヤモンドってのは確かハンマーで砕ける。
衝撃には弱かったはずだ。だが、ゴーレムはダイヤモンドの腕で地面を殴った。だが、ゴーレムの腕に傷は見当たらない。
つまり、奴は普通のダイヤモンドじゃないって事か?
くそっ余計にわかんなくなった。
「ツバキ、一つ疑問なんだが、あのゴーレム。なんで核の付近は攻撃が通るんだ?」
「確かに、不自然ですね。体や腕、足をいくら攻撃しても傷はつかない……しかし、核付近は少し攻撃が通る……」
「偽りの勝利はあの攻撃じゃあ使えそうにない。瀕死なんて生易しいもんじゃないだろうし」
「やはり、あの核を狙うしかないのでしょうか」
「……ダイヤモンドには、そこを傷つけるだけで全体に亀裂が入る場所があるらしい。うろ覚えだから確かな情報とは言えないけど……」
「ゴーレムの核ではなく、ダイヤモンドとしての核ですか……試してみる価値はあると思います」
「それなら、俺にやってみたいことがある」
◆◆◆
俺はゴーレムと一対一で正面から対峙していた。ツバキは俺よりも後ろで静かに見守っている。
ゴーレムの交戦範囲内に入った俺に対しゴーレムは床を砕き、投石してくる。どの岩もサイズが大きく、致命傷になりかねない。
俺は飛んでくる岩を最小限の動作で躱し、動作が大きくなる位置に関しては岩石を打ち払う。
「シッ! はぁ! らぁ!」
岩石のスコールを抜け、眼前に迫り来るゴーレムの拳に対し、こちらも防御の構えを取る。
「可能性の水晶! そして、水晶龍の加護!!」
可能性の水晶で創造した無地の盾に、水晶龍の加護によって龍が刻まれる。
創造した場所は両手。イメージはカイトシールド両手持ち。
「うらぁぁぁぁぁ!」
左手は動かない。だが、感覚がなけれな無理矢理でも使い潰せる!
「ああああああああああ!!!!」
ゴリゴリゴリ
と地面を削りながら盾は減速しーー
ーーと、止まった。
「水晶の吹雪! 俺の氷は少しかてぇぞ!」
水晶の吹雪を結晶化させゴーレムの腕、カイトシールド、地面を接着する。
反対の腕はいつのまにかツバキが鎖で固定していたので心配はない。
俺は適当な空間からブレイカーを取り出し、核めがけて全力で投擲した。
ブレイカーは両手の使えないゴーレムの胸元ーー核に向けて寸分狂わず刺さった。
ーー瞬間、ゴーレムの胴体に無数の亀裂が入る。しかしーー
ーーまだ足りない。
だが、それでいい。
「頼む、ツバキ」
後は彼女がやってくれるのだから
「はい! 秘剣ーー『燕返し』」
放たれる神速の剣技。二度の斬撃は決して大きくない槍を押し出し、ゴーレムの全身に亀裂が深く刻まれーー
ーー崩れ落ちる。粉々になったダイヤモンドが周囲に漂い、薄暗い迷宮に広がる。
まるで、満点の星空の中にいるみたいだ。
不意に、ツバキに手を握られた。俺もツバキの手を握り返す。
レフィーヤ、今だけは、許してほしい。
「レフィーヤに浮気者って罵られて、愛想つかされちゃうかもな」
苦笑い気味にそういうと。ツバキはーー
「もし、そうなったら」
ーー私に貰われてください
「さぁ、行きますか。いつまでもここにいてまた何あったら大変です」
「ツバキ、今ーー
「これ、ドロップアイテムが見たいです。ぜひ、レフィーヤさんに渡してあげてください」
そう言ってツバキは大きなダイヤモンドのついた指輪を渡して来た。
「ツバキはいいのか? 別にこれを売ってお金で半分にも出来るのに」
「いいんです。何故ならーー」
私はミストと見たこの星空をもう貰いましたから。
そう言って笑う彼女の顔は、下手な表現だが、この満開の星空よりも美しかった。
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ミストがレフィーヤに指輪を渡してイチャイチャするのはまた、別のお話。
読んでいただき本当にありがとうございました。
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