55、『自分勝手』 血濡れの暗殺者
遅れて申し訳ございません!
「ツバキ、あいつの暗殺術知ってる?」
横を向かず、臨戦状態で敵を見据える。
「彼の標的の死因は出血死。武器は見たところ針だけどわからない。彼の本名を知っている人はほぼいないの。誰も名前を知らない事と、血濡れの遺体から、血濡れの暗殺者……そう呼ばれているわ」
出血死か……針での刺突が考えられるな。
蛭は確か血の凝固作用を妨げるらしい。毒の可能性も考慮しなければ……ともかく、あの針はなるべく避けたほうがいい。
あいつの右腰に装着されている太く、大きい鉢。色は黒で、黒曜石のようだ。
「敵を前に作戦会議か……あまちゃんだなぁ!」
ブルートキラーは苛立ちを隠さずに声を上げ、針を突き刺して来る。
形状が変わった!?
ブルートキラーが針を持つと太かった針は細長い針に形状変化する。
レイピアの刃より太く、槍よりは細い。見た目はただの細長い針だ。
姿を変え、こちらに迫り来る針先を氷柱龍剣で下から打ち上げ、パリィする。
ガインッ!
「っくぅ……」
針が細く振動していて、こっちの手に大きな被害を及ぼす。
何となく予想がついた、奴の固有能力は『形状変化』と『高周波』的なものだろう。
「ぐぁっ!」
腹部に激痛が走る! さっき食べた物がこみ上げ、溢れ出る。
くそ! よろけた隙に腹を蹴りやがった。こいつ……やってくれる!
「ミスト!」
ツバキが何かをしたようで俺の頭上にいた奴は俺から距離をとった。
「この程度か。んじゃお仕事、終わらせっかな。音なき空間」
魔法か? 音なき空間って事は音を遮断する系の……
「じゃぁ、いつも通り名乗りから始めさせてもらうぜ。俺の名はダスク。人生の黄昏を齎す者」
いつも通り? っそういう事か。毎回名乗りをしているのにこいつの名前を知っている奴はいない。
つまり、絶対殺すって事かよ! くそったれ。
さっきの魔法はツバキには声を届かなくする感じのやつか。それなら俺にだけ名乗れるし俺とツバキの会話を遮断する事もできる。
くっ、わかっちゃいたけど。踏んでる場数が違う!
「ーーーーーーー」
ツバキが何かを言っている。しかし、俺には聞こえない。ツバキも同じ状況なんだろう。
ダスクが腰につけたポーチから丸い紅色の金属を取り出し、針で突き刺した。
紅色の金属が流動化し、紫色の針と混ざり合う。
数秒後ダスクの針はエストックとなった。
「エストックか……使い捨て武器もお前にかかれば直し放題ってことね……」
「ご名答」
「ーー幻影。やっと、戻ってこれました。時間稼ぎありがとございます」
ツバキの声が聞こえる。なんらかの能力で戻って来たのか。
「世界から外れた忌々しき力か。やっぱり穢れた白鬼族だな」
世界から外れた?
「うるさい!」
ツバキがダスクへ駆ける。一瞬で近づきククリナイフを振りかぶるがーー
「どうして!」
ーーククリを振りかぶった状態で動かなくなった。
「そんなに俺に近づいてきて、キスでもしてほしいのか」
ダスクは動けないツバキに顔を近づける。キスをしようとしているようだ。
馳ける。ナイフは、だめだ。ツバキに当たる可能性がある。なら!
「させっかよ!」
ダストの顔面を横から蹴り飛ばす。
「ぐっ」
「ツバキ、大丈夫?」
「大丈夫。でも、ごめん。あいつ多分私の主人権の一部を持っている。だから奴隷の私はあいつを攻撃できない。本当にごめんなさい……」
「謝らないで、ツバキ。逃げるのは、無理か……下がってて」
右手にアイシクルダガーを逆手に持ち、膝をついたダストへ走る。
前傾姿勢を意識しろ! 常に体勢を低く、正面を見続けろ!
早く! 速く! 疾く!
常に最悪を想像しろ! 常に勝つ術を創造しろ!
正面からの突き! 右跳びで回避、斜めに切り上げ!
「っちぃ!」
キンッ
楔帷子か? 攻撃が通らないな。
全身を捻り迫り来る剣先を回避する。
動き続けろ、思考を巡らせろ、気配を感じろ、全身を研ぎ澄ませろ、勝利に、執着しろ!
「くらえ!」
強い殺気を感じ大きく飛び抜く。
回避した刃が生きているかのように曲がり、俺の命を狙う。
まるで蛇だな。
迫り来る刃を切り上げる! でも、刃は変幻自在に動き四方八方から俺の命を狙って来る。
右、打ち返し!
がキン!
右から迫る刃を打ち返す。しかし、刃は勢いそのままに上に直角に曲がりもう一度迫って来る。
次、上! 横跳びで回避!
上からの攻撃を横に飛び込んで回避する。
刃は上から地面を貫き跳弾。止まらずに俺を襲い続ける。
左、フェイント! 後ろか!
「ユニコーーーーーン!!」
レベル4の能力を使い、盾を形成し、攻撃を止める、が……
「アイスピックかよ!」
剣先はその速度のまま水晶の盾を打ち砕き攻撃を続ける。
これじゃあダスト本体を狙おうにも動けない。
切り上げ、切り返し、回避し、斬りはらう。打ち合い、受け流し、盾を形成し、動きを読む。
路地裏に響くのは水晶の砕ける音と金属の擦れ合う音のみ。
打ち払い、叩き落とす。
右! 上! 下! 右上! 左下! 正面!いや、後ろ!
駆け抜け、回り込み、飛び込み、後退する。
「ちょこまかと!」
太かった剣先が三つに裂ける。
単純に対処する数が3倍か。いや、連携も入れればそれ以上。
だが!
前進し、前転し、掻い潜り、踏み止まり、滑り込む。
振り下ろし、流し斬り、薙ぎ払い、突き進む、打ち込み、払い落とし、打ち砕く!
「はぁ……はぁ……はぁ……」
当然、限界なんてすぐに来る。持久走で全力疾走を続けているようなものだ。
「そろそろ限界だろ? もう楽になれ。そいつを守りながら戦うのも大変だろ」
「ミスト……」
俺たちは壁際に追い詰められていた。ツバキももう下がれない。
ツバキへの攻撃の対処に大きく動きすぎた。
「じゃあな。あまちゃん」
迫り来る剣先が五つに裂かれ迫る。
今の俺に、対処はできない。水晶は全て出し切った。
ーーカラン
ダガーを、落とした……
体力ももうない。正直立ってるのも辛い。
「らあ゛あああああああ!」
最後の力を振り絞ってアサシンベルクを横に薙ぎ払う。
左腕は、使い物にならない。麻痺毒でも塗ってあるのか感覚がなくなった。血も流れ続けている。
でも、ツバキは、守りきった。
「そろそろ逝けよ!」
「うるせぇ! 全員死亡のバッドエンドも、俺だけ死亡のトゥルーエンドもいらねぇ! ああ、そうさ!
俺は神が認めた強欲野郎だぜ? どこまでも強欲に、自分勝手に行こうじゃねぇか!
何の犠牲もなしに覚醒するご都合展開なんてあり得ないし、秘策も何もない! 勇者や英雄とは程遠い、雑魚野郎さ!
だから俺は、泥臭く、命以外の全てを投げ打ってでも、ここで変わらなきゃ誰一人救えねぇんだよ! 」
自分でも何を言っているのかわからない。思考がまとまらない。
アドレナリン出まくってて可笑しくなってるのかもしれない。
それでも、助けたいんだ! 世界から追害される彼女を! 家にいることすら許されない彼女を!
そして、こんな俺を好きになってくれたレフィーヤを!
その為には全然足りない。
何が『自己進化』だ! 何が『自分の道は自分で決める』だ! 結局はスキルが提示した選択肢から一つを選んでいただけじゃないか!
俺は進化する。スキルが提示する選択肢なんか全部ぶっ壊して、俺が! 望みたい道へ!
「自己進化!」
最後のクリエイトは誤字じゃないのであしからず。
読んでいただき本当にありがとうございました。
誤字脱字、矛盾点、質問等ございましたらご指摘していただけると幸いです。
よろしければ次回もご覧ください。




