54、『氷柱龍剣』 背負う者
前投稿から二週間も空いてしまい申し訳ございません。
眼前に迫るククリナイフの刃。
数日前の俺なら恐怖と防衛本能で目を閉じていただろう。でも、ここで視界を捨てれば全てが終わると言うのはもう知っている!
「可能性の水晶」
水晶龍の短剣の4つ目の能力を発動し、額の前に濃縮された水晶の板を作り出し刃を受け止める。
甲高い音を立て、水晶は砕け散り、破片が煌めく。
「……らぁぁぁあ!」
右手に握ったアサシンベルクを横に薙ぎ払い、接近してきたツバキを追い払う。
飛び退いたツバキが足をついた場所、そこは俺のテリトリーだ!
地面を食い破り、地中から現れた透明のとらばさみがツバキの足を捉える。
ツバキを捉えた瞬間、アサシンベルクを地面に突き刺し、あの技を発動する。
「敗者の刃」
地面に突き刺したアサシンベルクの刃が空間を超え、地面から飛び出し、ツバキの右腕を切りつける。
連日同じじゃ流石に読まれるか……なら!
剣を地面から引き抜き、俺のとっておきを使う。
『偽りの勝利』
俺の体を眩い輝きが包みーー
◇◇◇
目を開けると恐ろしい程に整った顔が少し見える。
彼女の普通より遥かに巨大なそれが顔の半分近くを覆っているから鼻から下は見えないが、美人だと確信を持って言える程整っている。
「目が覚めましたか?」
「ああ。ありがとう」
「今日の反省点ですが、柔軟性が足りないです。教科書通りの動きというか、もっとこうーー」
俺がパラレルトリップを終えた日から2日経った。
ツバキは努力の天才タイプのようで、教え方はわかりやすく、訓練内容も理にかなった物だった。
前に一度レフィーヤに剣の振り方を聞いたがほとんどが擬音で全くわからなかった。あれが天才肌というやつなんだろう。
この2日で変わった事は特にない。昨日襲ってきた二人組は素手だったので殺す事もなく無力化できた。正直言って助かった。
この二日間、夜になると全身が震えてどうも寝付けなかった。未だに人殺しの業は重く俺にのしかかって来る。
俺はこの重みを背負って生きていかなければない。ただ、その覚悟がどうしてもつかない。
あと一歩という所までは来ているんだが……
「じゃあ、そこの足運びを直しますね」
「ミストは戦闘時にあまり声を出しませんね。前にも言いましたが、戦闘時に声……気迫というのは重要です。暗殺者としてなら静かに戦うのが一番ですが、冒険者としてならもう少し声や気迫を『必殺』に込めてください。
ああ、一つ変わった事があった。ツバキが俺の名前を呼び捨てで呼ぶようになった。
これは俺が弟子という事を認めてくれたのか、はたまた別の思惑があるのか
閑話休題
「この護衛も後数日だと思います。憶測ですが、長くても7日くらいです」
「そうか……そろそろ到着するのか。案外早いな」
この護衛依頼はシフォンが商会のトップの妾になるまでの護衛だ。
予定では確か3週間後って言ってたけど……
「はい。お嬢様が王都にいる時に契約が行われたので、もう二週間ほど経っています。それに商会のトップは高齢だと聞くのでお嬢様の力が目当てなら多少早く来てもおかしくはありません」
「なるほど」
「何回も聞くけど本当にお嬢様を救ってくれるの?」
ツバキはこの話をするときだけ使用人の仮面を外す。この計画はお嬢様には関係ないという事だろう。
「必ず救えるとは言えない。でも、できる限りのことはやるさ」
「そう。わかったわ。私も出来る限り協力するから」
「頼む」
俺たちの間に微妙な空気が流れる。まぁ、救うだの何だの言っているがやっている事は犯罪の計画を立てているだけだからな。
「にしても、思ったより護衛依頼ぽかったな。正直言って街中で襲って来るやつなんていないと思った」
この空気を変えるためにちょっとした話題を振る。
「それだけお嬢様の血が魅力的という事ですよ。ただ、あの程度のチンピラにまで情報が渡っているのはおかしいですね。何か裏がありそうですが……」
個人的には例の商会のトップが怪しいな金はまだ払ってないようだし、今シフォンを攫ったらただで先祖返りが手に入るわけだし。
次点で領主かファイルの妻だがそれならそもそも冒険者の護衛雇わないだろ。
「ただ、俺のためにシフォンを危険な目に合わしているのは心苦しいな」
「……? なんで貴方がお嬢様を危険な目に合わしているのですか?」
「だって俺が訓練したいなんて言わなければシフォンはずっと家にいるだろ? あの家の中は一応安全じゃん」
「ああ、お嬢様はアレハによって毎日家から追い出されているんですよ。現在あの二人の夫婦仲は最悪です。
ファイルは裏で入手した性奴隷とよろしくやっていて、アレハも連日顔のいい男を部屋に連れ込んでいます。
行為自体を見たわけではないので憶測ですが多分どちらもヤっているでしょう」
成る程、貴族も大変なんだな。しかも、なんかやばい事聞いてしまった。奴隷売ってるのかよ……しかも性奴隷……やばいな。
非合法臭がプンプンするぜ。
「そっか。あの家も先は短いのかね。あの豚も大変だなぁ」
「全くです。私の始めてもいつ奪われるか……いえ、忘れてください」
ツバキは愚痴りながらつい言ってしまったという感じで口を滑らした。
どうも今日のツバキは様子がおかしい。忘れてくれと言っていたし忘れておこうか……
その後、昼食を取りに行こうかという事になったのだが、俺はシフォンに二人で話しがしたいといわれ二人には先に個室を出てもらい、部屋の中には俺たち二人だけになった。
「話っていうのは?」
「2日くらい前からツバキの様子が少しおかしいんです。どこか思い詰めたような表情をしていて……ミストさんからそれとなく聞けませんか? 私が何度聞いてもはぐらかされて、全然教えてくれないんです」
付き合いの長いシフォンから見てもツバキの様子は変なのか。それに、2日前? 俺が倒れた事と関係があるのか? 思い詰めた表情って事は何か悩みがあるって事だし……
「わかった。あとでそれとなく聞いてみる。俺も心配だし。でも、なんで俺なんだ?」
「ミストさんが一番ツバキと対等に話せるからです。私に対してはどうしても主従の関係を優先しているようだから……師匠と弟子の関係であるミストさんが一番ツバキが心を開ける相手だと思うの」
「まぁ、買い被りだけどわかった」
「ありがとう」
◇◇◇
食事を終え、やる事もなくなり屋敷へ帰ることになった。
その帰り道、俺はゲームでいうスキルツリーの様なもの眺めながらツバキの事を考える。
因みにこのスキルツリーは水晶龍の短剣の物だ。
レベル1〜4までが一本線で繋がれ、レベル4の『可能性の水晶』から枝分かれしている。
俺の憶測だが、この武器はこれが本当の姿んじゃないかと思う。
レベル1は誰でも使える能力。レベル2は氷柱の扱いに慣れて来れば使える能力。レベル3は武器に認められ、精密な操作によって獲得できる能力。
そして、レベル4が試練を達成したら使える能力。
レベル5からさっきは使用者に合わせて変わるんじゃないかと考えている。
実際水晶龍の短剣は名前が変わり『氷柱龍剣』となっている。
どこなく『自己進化』を感じさせる名前。レベル5以降は使用者の固有スキルに関連するという推測はあながち間違えじゃないと思う。
しかし、レベル5はまだ解放されていない。レベル4からの分岐先が三つあるのだが、どれも黒くなっていて、推しても反応がない。解放条件でも書いてあると楽なんだけどなぁ。
◇◇◇
屋敷の近くーー比較的安全な場所でツバキと二人っきりで会話する。
「ツバキ、最近少し変だぞ? 何かあったのか?」
「いえ、何もありません」
「シフォンも心配してたし。2日前からって事は俺にも関係があるのか?」
「いえ、お手を煩わせるほどの事じゃないだけです」
嘘だな。俺に関係なかったら普通に関係ないって言えば良いだけだ。濁すって事はなんかあるって事だ。
でも、どうするか……ここまで知られたく無いようだしやめておくか?
「わかった。じゃあ何も聞かない。悪かった……戻ろう」
ツバキに背を向け、歩き出す。
ーーッ殺気!?
反射的に後ろを振り向くとツバキが脇差を俺に向けて突き刺している。
避けきれないと身構えるがーー
ーー刃は俺の横、空を切りツバキはその勢いのまま俺に飛び込んで来る。
「ぉっと」
一瞬よろけるが、たたらを踏む事なく抱きとめる。これでもこっちに来てからは鍛えてる。これくらいどうって事ない。
「ツバキ?」
「出来ない! 私には貴方を殺す事なんて出来ない……」
は? 俺を殺す? 何を言って……
「ツバキ? 俺を殺す? ごめん、なんか癪に触る事言っちゃたか? ああ! 今俺と密着してるからか。すぐ離れるな」
ツバキから離れようとしてもツバキが強く出し決めて来るから解けない。
「私に依頼が来たのよミストを始末しろって。でも、私には出来なかった」
ん? ツバキの首元にある痣が薄く光っている。まさかこれ奴隷の命令違反の罰則か!?
「なんでだ? 俺を殺すくらい簡単だろ? こんな……罰則違反の痛みまで受けて……」
「お嬢様と両親を除いて初めてだした。私をちゃんと人として見てくれるのは」
おい! どんな環境で育ったらそんな差別が生まれるんだよ!
いや、あの家ならありえるかもしれない。実際私兵達も敬うべき対象のシフォンをどこか見下していた。まるで劣等種とでも言いたげに。
ツバキが俺から少し離る。
「ミスト……これを見てください」
ツバキの額から艶のある黒髪を分け、純白のツノが一本生えて来る。
「私は白鬼族。鬼人族、全種族の中で最も畏怖され、追害される種族」
「白鬼族? そう、昔は魔物と同種として扱われた事もあったそうです。今でも、地域や国によってはそう言われています。それを知っても私の手を握れますか? 抱きしめられますか? 安心してください。ここで逃げても殺しまーー
「そんなの余裕だよ、ほら」
俺はツバキを右手で抱きしめ、左手でツバキの手を握る。
「世界中で畏怖されていようと関係ない。俺は俺、世界は世界。他なんて知らないさ、それに……こんな美人を抱きしめられる事の方が役得でしょ」
「……」
「何より……師匠が怖くて手も握れない弟子なんて有り得ないでしょ?」
「ミスト……」
「ああ、本当にツマンネェ女になっちまったな、ツバキ」
暗闇から姿を現したのは真っ黒いコートを着た、くすんだ金髪の男だった。
腰に太い針を装備している。
「血濡れの暗殺者!」
「まぁいい。そこのあまちゃんぶっ殺して、そいつの彼女とお前、二人で楽しむかな」
彼女? レフィーヤを襲う? こいつが誰だろうが関係ない、殺ーー倒す!
「お前も名実ともに暗殺者失格。まぁ、精々性奴隷として頑張りな」
この野郎……ツバキまで。
この際いいさ、俺が全てを背負えば良いんだ! ツバキも、レフィーヤも、誰にも被害なんか出させねぇよ!
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『守る力』→『背負う者』
【対象者】
・レフィーヤ
・ツバキ
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ご指摘を描いていただきありがとうございます!
お陰で自分で気づけない間違えを書き直すことが出来ます。
読んでいただき本当にありがとうございました。
誤字脱字、矛盾点、質問等ございましたらご指摘していただけると幸いです。
よろしければ次回もご覧ください。




