47、『英雄対立』 譲れないもの
因みに、エクスの初登場回は16話です。
エクスは個室ではなく団体戦の訓練などに使われる大部屋にいた。
この大部屋は体育館程度の大きさで、主に個室を借りるほど懐に余裕がないか、パーティーとしての戦闘訓練やパーティー内の立ち回りを練習する人たちが借りる。
ただ、この部屋でもそれなりに高いので新人と称される者たちは基本的に郊外にある結界の保護装置がかかっていないとても広い場所で鍛錬するらしい。
エクスはパーティーメンバーのエイラと新しい仲間と思われる槍術士と共に陣形の練習をしていたようだ。
「お! 久々だな! レフィーヤ! と……ミスト?」
エクス達はこちらに気づき声をかけてきた。俺の名前を呼ぶときに疑問があるような言い方をしたのは俺の名前が思い出せなかったからなのか? はたまたなぜお前がレフィーヤと一緒にいるんだという事だろうか?
まぁ、後者だと思うがな。
「えっと、久しぶり」
やっぱりエクスは少し苦手だ。どうすればそんなに自分に自信を持つことが出来るのだろうか? 俺とは正反対で、彼を光と表現するなら俺は影と表現するほかないだろう。
だからこそ、俺は彼とはあまり関わりたくない。正直言って対立とかしたら最悪だしさっさと行きたいんだけどな……無理そうだけど。
「久しぶり」
レフィーヤは他人行儀の塩対応だ。
「はじめまして。シフォンと言います。」
シフォンたちもエクスと挨拶を交える。
「はじめまして、ミストさんの師匠のツバキです」
ツバキが俺の師匠を肩書きとして名乗った事に驚いた。一応教えがいがある弟子と認めてくれたのだろうか? それとも、ダメダメなボンクラだけど頼まれたからの仕方なく師匠やっていますという嫌味だろうか?
多分前者だと思う。いや、前者だ。出なければ俺はレフィーヤ以外を信じられずに人間不信に陥ってしまうかもしれない。
「俺はエクス。でこっちが」
「エイラよ。よろしく」
「あのっイレイっていいます。えっと、よろしくです」
このイレイって人は少しオドオドしていてどこか腰が低い。俺と近い人種のようだ。
イレイの外見は一言で表すなら素朴な美しさというのが最も当てはまるだろう。紺色の髪と瞳をしていて、顔のパーツは整っているが、どこか垢抜けていない感じで田舎の美少女と言った感じだ。
地球でならクラスで1、2番目に可愛いレベルの容姿だが、比較的美男美女が多いこの世界では平均より美しい程度の美しさだ。
というよりレフィーヤやシフォン、ツバキが美女、美少女すぎるのだ。このメンツに限ってはエクスとエイラもずば抜けて美形なのでこの中で一番カッコ悪いのはおr……やめておこう。こんな誰も得しないカースト制度なんて。
「それで、なんでレフィーヤはミストと一緒にいるんだ?」
意図的なのか無意識なのかはわからないが、エクスは少し俺を見下しているらしい。細かいかもしれないが、普通ならここはレフィーヤとミストは一緒にいるんだと問うはずだ。
レフィーヤはミストとと聞くということはつまり、『なぜレフィーヤはミストなんかと一緒にいるんだ』という事だろう。
いや、自分でも細かい男だってことはわかっているが、劣等感からか昔からちょっとした嘲笑みたいなものは無自覚に見つけてしまうんだよね。
俗にいう悪い癖ってやつだな。
「冒険者のランクアップ依頼の付き添い。パーティーメンバーだからね」
なんとなしにレフィーヤは答える。
「なんでそいつは良くて俺はダメなんだよ」
そいつは良いってエクスが迷宮の街を旅立つ前にレフィーヤを誘ったてやつか? そいつは良いも何もただの時期の違いだろ!?
駄々をこねる子供かよ!?
「いや、あの時私はあの街にいなきゃいけない理由があったし、それに……「じゃあさ、今は別にあの街にいる必要も無いんだろ? じゃあさ、俺とこないか?」
おい!知らないだろうが俺とレフィーヤは恋人同士なんだよ!人の彼女を誘うな。
文句を言ってやろうと一歩踏み出そうとするとレフィーヤに腕を軽く掴まれた。俺はレフィーヤとアイコンタクトをとる。少し待っててと伝わって来たが読み間違えてないよな? 取り敢えず頷いておく。
「確かに今の私にあの街にいる必要はない。でも、貴方と行くつもりは微塵もない」
「何故? そうまでしてこいつと一緒にいたいんだよ!」
「今ミストは私の恋人だから別に一緒にいてもおかしくはないと思うけど」
レフィーヤは俺の手を引き自分の腕と絡ませた。俺のピットリと体をくっつけ、心なしか胸も押し当ててきてるような気がする。
てか、エクス。お前そんな殺気のこもった目で俺を睨むなよ。お前だって恋人いるだろ? どうせイレイだってお前の恋人の一人なんだろ? だったら何俺の女を奪われたみたいな顔してるんだよ。
こっちだって少しイラッと来てるんだぞ? 確かに俺はレフィーヤとは釣り合わないさ。月とスッポン、王族が貧民街の孤児と結婚するのと同じくらいだってのも。
だからこっちはその奇跡を失いたくないんだよ。
「なんで、お前が!」
例えお前が誰であろうとここだけは『引けない!』
譲れないんだ!
「俺が、レフィーヤと釣り合っていないなんて事、俺が一番、よくわかっているさ! でも、自分では釣り合わないからって理由で諦めきれないんだ」
紛れも無い俺の本心。俺が釣り合ってないなんてわかっている。空を流れる星たちはほぼ絶対に俺たちの手のひらで捕まえる事が出来ない。
俺はレフィーヤの手をギュッと握る。
でも、それでも、いつか、必ず、とただ上を見上げ、手を伸ばし続けたからこそ掴めたこの奇跡。絶対に放しはしない。
「お前じゃレフィーヤを守りきれないだろ。俺はパーティーメンバーを必ず守る。絶対に危険にはさらさないぜ」
「確かに俺は力不足だろう。俺は彼女を救う為なら命も厭わない。いや、厭わなかった」
今は私より先に死なないでと釘を刺されてしまったからな。
「そうかよ。じゃあ、今すぐに命をかけてもらおうか」
何?
「……?」
「レフィーヤをかけて俺と勝負しろ! ミストッ!」
よくある展開だな。彼女をかけて勝負する奴ら。俺はそんなクソみたいな賭け事をやってる奴に一言聞きたい事がある。お前らの恋人とやらは物なのかと。なぜ人を、自分の最も大切な人を賭け事の、自分の力の証明に使えるのか。
俺はそんな提案をして来るエクスに心底ムカついた。
「勝負は受けよう。だが、レフィーヤは物なんかじゃない! お互いにただ相手が気に入らないから戦う。それでいいだろエクスッ!」
むき出しの感情をぶつける。レフィーヤは『物』ではなく『者』なのだ。欲しい者は力づくなんて考えが俺に通ると思うなよ。この英雄が!
「賭けはなしでいい。ただテメェをーー」
「お前をーー」
「「ーーぶっ潰す!」」
偶然言葉とタイミングがかぶってしまった。まぁ、いい。相手は高ランクの冒険者にも認められたこの世界の主人公と思わしき人物。
創作物でいうなら主人公はゴロツキを撃退し、囚われていた美しい女性を彼女としてパーティーに向かい入れました。
俺たちの旅はここからだ!
みたいな感じになるのだろうう。むしろシフォンとツバキもヒロインなのかもしれない。
彼女は言っていた。俺は運命を変えてしまった。もう傍観者ではいられないと。
つまりはこういうことか。
◇◇◇
エクスは二本の剣を抜き俺から約20メートル程離れたところでいつでも走り出せる体制を取っている。
審判は公平にという事でシフォンとエイラだ。
ツバキとイレイは不測の事態の時の為に気を張っている。
「辞めるなら今だぜ! このままだと彼女にかっこ悪いところ見せることになるんじゃないのか?」
挑発をしてくる。でもーー
「ここから逃げ出して、無様で綺麗な姿を晒すなら、泥だらけでも、ボロボロでもカッコ悪いままのほうがいい」
たとえエクスに勝てる確率が夢のまた夢遥か空の彼方だったとしても俺は勝つ! 勝ちたい! 勝つんだ!
「では、五分後に試合を開始します!」
五分後……武器に『詳細鑑定』をかけておくか。
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