46、『華麗剣戟』 足りない
近日中とは一体いつなのか。本当に申し訳ないです。
さて、どう攻めるかな……
「次の攻撃、行きますよ。死なないでくださいね」
この空間では特殊な結界みたいなものが貼ってあり、ステータスの体力が無くなると気絶するらしい。だからツバキも遠慮なく攻撃してくるはずだ。
「『分身の術』」
ツバキの姿がぶれ、増えていく。
一人、二人、三人……合計で四人になった。
考えろ…… 考えろ、考えろ!
俺がツバキならどこを攻撃する。
右手、右足、左手、左足、頭……接近戦、遠距離戦、投擲武器、範囲攻撃、スキル、魔法、煙玉……全てを想定しろ!
これは戦闘ではなく訓練。俺に暗殺者としての戦闘を教えるはずだ。
なら! 俺が攻撃を受けてダメージの残っている左手を狙うーー
ーーと油断させてくるはずだ。
正面に分身を四人作り出し、一番注意が薄れる後ろからくる!
俺は即座に後ろに振り返り、右手にアサシンベルクを、左手に水晶龍の短剣を逆手に持ち。
右手は切り上げの構えを取り、左手は胸の前で構えておく。
後ろから迫ってくる4人のツバキは無視して正面だけに集中する。
「ふっ!」
キィィン!
「くぅ!」
やはりツバキは後ろに回り込んでいたようだ。ツバキの右袈裟斬りをアサシンベルクを切り上げてぶつけて勢いを相殺し、打ち合う。
2本目のククリナイフはダガーを使って抑えるーー
ーーも、腕の痛みで抑えきれず、相手の刃が俺の肩に触れそうだ。
互いの武器と武器がぶつかり合い鍔迫り合いが発生する。
ここで引くと隙ができるので、どちらも引けない状況。俺はこの状況を待っていた!
ここだ!
「水晶の吹雪」
ダガーから氷の塊が発生し爆発する。瞬時に俺たちの周囲を水晶のような氷の粉が覆い尽くした。
ダガーからも霜が進んでいき、ククリをつたってツバキの左手を霜が覆い始める。
「くっ動けっ」
霜が覆った瞬間に水晶化する事によって既にツバキの両足と左手は完全に動きを封じている。
「ふっ」
ツバキは右手に持つククリでで俺の剣をはじき返し斬撃を放ってくる。
俺はそれをどうにかいなしていく。殺気の様なものがツバキから一定距離に満ちており、攻めきれない。
ーー足りない。
「幻影」
またあれだ。彼女がそのスキル? を唱えた瞬間彼女を侵食していた水晶が砕け散り、霜は拡散してしまった。
ダイヤモンドダストは拘束が解けると溶けてしまうからつまりそういう事だろう。
身軽になったツバキが神速の剣戟を放ってくる。
その斬撃は一振り一振りが達人とよべるようなもので、あくまで『基本斬撃』しか、スキルに頼った技術しか持っていない俺が到底いなしきれるようなものではなく。それにツバキの特殊な足運びが組み合わされることによって必然的に俺の傷は増えていく。
当然だ。彼女はこのレベルになるまでに相当の努力をしてきた事は俺のような素人でもわかる。
俺と彼女では今までに積んできたものが違うのだ。いや、正確には俺は今までに積んできたものがないのだ。だからこそ負けている。
ツバキはまるで華麗にダンスでも踊るように攻撃を繰り出してくる。側から見ればどこぞの令嬢が優雅に舞っているように見えるだろう。
受けている当事者からしたらたまったものではないが。
「シッ!」
「ぐあぁっ!」
肉を切る音がする。左手の二の腕を3割ほどザクッとやられた。骨までは届いていないと思うが、左腕を灼熱が包む。
熱い。痛みよりも熱さが来る。スキルの効果だろうか?
ある程度思案出来るってことはまだ余裕はありそうだな。
俺はダガーから霜を出し患部を冷やし止血する。
ただ、今回の戦闘で左腕はもう使い物にならない。せいぜいダガーを持って発動条件を満たしておくのが限界だ。構えることすらできない。
俺は既に何回死んでいるのだろう。今もツバキは待ってくれている。彼女なら俺が止血してる間でも痛みで攻撃がやんだ瞬間でも、今でも、いつでもヤれるはずだ。
ーー足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。
もっと、強く!
もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと!
まだまだ全然足りない!
技術も、剣も、魔法も、何かも足りないなら今、ここで、少しでも、一矢でも報いるために、進化するしかないだろう!
行くぞ! 気ぃ張れよ!
「はぁぁぁぁぁぁ!」
俺は周囲に氷柱を作成する。その氷柱の形を板状に変形させる。氷の盾を剣戟の間に差し込み攻撃を防ぐ。
そして! 密かに地面に撒いておいた氷の粉を水晶化する。一瞬にして滑る床の完成だ。
ツバキが一瞬の変化に戸惑い滑った。
この隙を逃すな! 俺はアサシンベルクを斜めに切り上げる。紙一重で避けられ、脇腹を少し切りつける程度しか攻撃は当たらなかったが十分だ。
フランベルジュの特性で血が流れ続ける。
氷の板や滑る床を操りツバキとの差を埋めていく。
まだ、足りない。もっと……もっと!
バックステップで大きく飛びツバキから距離を取る。
「いけぇ!」
氷柱を三本一列にして飛ばす。
ツバキは危なげなく一本目を破壊して、続けて二本目も破壊する。だが、本命は三本目だ。
三本目はツバキに近ずくとひとりでに砕けた。
イメージしたのは散弾銃だ。
無数の弾丸がツバキに迫る。
「火遁の術」
ツバキから火が溢れ、一瞬にしてツバキはその火に紛れてしまった。
数発は当たったようだが所詮数発だ。雀の涙くらいのダメージしか期待できないだろう。
そして俺は気づいた。負けたと。死んだと。
「一体いつ分身と入れ替わったんだ?」
「ふふ、いつでしょうね」
俺は首を後ろから切り裂かれ気を失った。
◇◇◇
目がさめると俺はツバキに膝枕されていた……なんでツバキ?
「ああ、レフィーヤさんの許可は取っていますよ。レフィーヤさんが膝枕してしまったらすぐに動けませんしね。とても残念がっていましたよ」
そういうことか。それにしても俺はツバキとそれほどの信頼関係を持っていないはずだけどな……
「弟子を介抱するのは師匠の役目ですからね」
もう、なんでも良いや。
俺は不覚にもそう思ってしまった。ただ、恋人の手間堂々と浮気するわけにもいかないしすぐに起き上がる。
いや、レフィーヤの目が無けれれば浮気するとかないけどさ!
個室を出ると。
訓練場にひときわ目立った赤髪がいた。そう、エクスだ。
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