44、『自己満足』 やらない善よりやる偽善
遅刻、遅刻ぅ!
「本当に良いんですか? ミスト様は私達にまだ出会って間もないです。そこまでする理由が見つかりません」
ツバキは半信半疑と言った顔で俺に聞いてくる。
ツバキの疑問はごもっともだ。まだ出会って数日の俺がそこまでする義理がわからないんだろう。
正直、俺自身もよくわかっていない。ただ人助けがしたいのか、ハーレムを作りたいのか、俺が偽善者だからなのか、純粋な下心からなのか、この中のどれかかもしれないし、あるいは全てかもしれない。
たが、俺はこの世界特有の都合のいい言葉を知っている。
「それは、俺の固有スキルに関係してて……」
嘘は言ってない。御都合主義が発動しやすくなるスキルもあれば、主人公もどきになるスキルだってある。嘘はいってない。
「全然わかりません。ちゃんと説明してほしいです」
嘘だろ!? この技が通じないなんて!
「まぁ……正直言えば下心の塊ですよ。ただ、可哀想で自分と似ている……でも、自分よりもずっと “強い” 人がいたから助けたいと思った。それに、俺は偽善者なんですよ」
そう、『商会にシフォンが行かなくても良いようにする』なんていうのは、何も知らない馬鹿なガキが、片方を一方的に悪だと決めつけ、正式にそこに入る女性を『囚われのお姫様』と自己解釈をして、『正義』という使い勝手の良い言葉を掲げ、『助ける』とは名ばかりの我儘を通そうとする。
まさに、上部だけをあたかも善行を行う者……善人のように見せかけ、考えている事は偽物の善行……偽善。
俺がやろうとしているのは唯の自己満足、俺のエゴだ。
俺はただ依頼を受けただけの冒険者なんだから、依頼主の望み通り対象を護衛し続けるのが正しいのだろう。
ただ何も考えず依頼をこなし、恋人のランクを上げるのが世間一般から見る『善行』なんだろう。
彼女を商会に行くのを止めるのは偽善だ。他の方法で彼女が幸せに商会に行ける方法を考えよう。そうすればどこにも波風立たない。まさに善行だ。
でも、『やらない善よりやる偽善』って言葉がある。
方法を考えようだの何だの言って結局何もしないよりは偽善でもなんでも取り敢えず行動に移すべきだと思うんだ。
「でも、俺の好きな言葉にやらない善よりやる偽善って言う言葉があるんです。もしシフォンを商会に行かないようにする事が世間一般で間違っていると評価されたとしてもつべこべ言って後で後悔するのは嫌なんだよ」
正直、レフィーヤに片思いしていた時ほど強く思っているわけでもない。まだ好き未満。『好きか嫌いかで言えば好き』くらいだろう。
それにレフィーヤに相談なく決めてしまって良いのかと思いもあるのだが、レフィーヤなら許してくれるって思ってる自分に嫌気がさす。
俺は一方的に寄りかかるのではなく、共に支え合いたいのだ。
「わかりました。取り敢えずは納得します」
「実のところもう一人口説きたい奴隷身分のくノ一がいるんだけど……」
「本気で言っていますか?」
「本気だ。それに、毎朝俺に味噌汁作ってくれるんだろ?」
「ふふったしかにそう言ったわね」
ツバキは数秒考えた後。
「じゃあお願いしようかな。依頼料は取らないみたいだし。あの商会に行ったら清い体ではいられなそうだしね。
ところで、良いの? 私を口説こうとした事、レフィーヤさんに言っちゃうよ?」
ツバキは素の口調で少し意地悪な笑顔を見せながらそう伝える。
「ははっそれは勘弁……ちゃんと、自分から言わないと」
「そう……本当にお嬢様の事守ってくれるのよね」
「俺ができる限界を超えてでもな」
ただ、俺はレフィーヤを最優先……いや、これ以上は辞めておくか。護衛対象より恋人を優先するのは人命救助系の仕事をしている人間からしたら信じられないだろう。
「そろそろレフィーヤさんを呼びましょうか」
「そうだな」
シフォンも母親と二人っきりで話したい事もあるだろう。護衛に関しては警戒するしか手が無いけどな。
◇◇◇
「それで、シフォンとツバキを救う、と」
「勝手に決めて本当にごめん」
「あの、迷惑でしたら」
「いや、私もミストに救われたからね。それに……さっき光が無いって表現をしていたけど、私も同じだったからよくわかるんだよその気持ち。だから私は良いよ」
「救うか。俺もレフィーヤの助けになれたのは本当に嬉しいよ」
◇◇◇
「「「「お邪魔しました」」」
「皆さんまたどこかで」
「じゃあね。お母さん」
「うん」
二人の間には悲しげな雰囲気が漂っており、悲壮感が出ている。
もう、会えないかもしれないんだから当然だ。
全員でゆっくりと訓練場に向かって歩き出す。女性に囲まれて歩いているとハーレム物の主人公ぽいなって思う。正直言って少し居心地が悪い。いや、正確には囲まれてるって訳じゃないけど。こう、何処と無く締め付けられる感じがするんだ。
だからか知らないがいつもより勘が鋭い気がする。ほらあそこから殺気がって
「あの四人組危険だ! うおっ! レフィーヤ、壁作って」
殺気だってる集団に視界を移した瞬間一人が矢を放ってきた。即座にシフォンを押し倒し壁になる。少し時間が出来ればレフィーヤが精霊術で壁を作るだろう。
二本目、三本目の矢は風の膜によってそれていく。
3メートル程距離をとっている中、先陣をきったのはくすんだ金髪のゴロツキだった。
四人いるので、ショートソード持ちを敵A、弓持ちを敵B、ナイフ持ちを敵C、二人目のショートソード持ちを敵Dと呼ぶ事にする。
ショートソードを持った敵Aがツバキに斬りかかる。彼女は抵抗するそぶりを見せず、刃は彼女の右肩をーー
シュッ
ーー斬り裂いたが、肉や骨を断ち切った音はせず、空を切った音がなる。
ザシュッっと肉を切る音と共にツバキが敵Aの横に現れる。敵Aは首……脊椎を斬り裂かれ事切れている。
「うおぉぉぉ!!」
「クソあまぁぁぁ!!!」
「ぶっ殺してやる!」
乱暴な言葉遣いと共に敵BCDが走ってくる。弓使いはナイフを持っている。
俺もシフォンはしゃがませたままで立ち上がり背中から水晶龍の短剣を引き抜き、交戦の構えを取る。
「レフィーヤ、シフォンを頼んだ」
「了解!」
「シッ」
敵Dが振り下ろしてくるショートソードを短剣で受け、パリィする。
「ぐおっ」
右手で短剣を握り、左手を添え、足首に力を込める。全身をバネにして回転を交えながら飛び上がる。
短剣の剣先が肉を突き破り骨に届き、断ち切る。前の世界では……いや、こっちでも本当は知ってはいけない感触が手に残り、心を蝕む。
クソッ後悔するなら後にしろ! 今後悔したら死ぬ。早く、立ち直るんだ。
どうにか気持ちを切り替える。いや、正直言って全然切り替えられていないがそれでもやるしかない。
敵Bがナイフを突き刺そうと走ってくるので自分に覆い被さっている死体を落として横に飛び、避ける。
地面に着とした瞬間前方に飛び、短剣を心臓に突き刺す。
「うっ」
せめて、一瞬で……
だんだん熱を失っていく死体から短検を引き抜き振り返る。
よかった。既に決着はついていたようだ。
安心と共に罪悪感や殺害への忌避感、嫌悪感が混み上がり、最悪に気持ちが悪い。
しかも、嘔吐感がない、気持ち悪い上に怖いのだ。自分がとてつもない犯罪を犯したということが。
両手が震える。いや、両手だけじゃない。全身が震えている。
俺も、死んだほうがいいのか?
仕方なかったんだ! もし見逃していればいつか自分が復讐されるかもしれない。だって俺は弱いんだから。いつか、あの時こうしておけばよかったなんて思わなくて良いように殺すしかないんだ。
それに、相手だって殺そうとしてきた。やらなきゃ、遣られてたんだ。
どうにか理性を働かせ殺しを正当化しようとするが出来ない。
それどころか、むしろ自分の本心が出てくる。
だって仕方なかった? こうするしかなかった? やらなきゃやられていた? そんな事は知っていた筈だ。なんでもかんでも自分は弱いと、自分の無力さに逃げ、現実を、本質を見ない。
俺がやった事は間違っていない。やらなきゃ死んでた。
でも、殺しは犯罪だ。大犯罪だ。
絶対にやっちゃいけない……でも、俺はそれを知った上で殺し合いをしている。
地面に倒れている死体を見る。二人とも、俺が殺した死体だ。一歩間違っていれば俺がこうなっていたかもしれない。
だが、そんなのはいつだってそうだった。
オークが大量に発生し、シャン達が死んだときも、キングゴブリンと戦ったときも、むしろ、ロードに関しては俺は死んでいる。
そう、俺は殺し合いをしてきたんだ。だったら、それを背負っていかなければいけない。
それが、俺の選ぶ道だ。
しかし、まだ体は震えている。すぐには治らないか。
ふと、後ろから抱きしめられる。この匂いは、レフィーヤか。
「ミスト、大丈夫だよ。辛かったら私も背負うから、だから安心して」
震えが収まる。本当にカッコ悪いな、俺。
だから、今更カッコつけなくても良い、泥臭くても、地味でも、守りたいと思った。
心の中から暖かい気持ちが溢れてくる。
そして、そのエネルギーが右手、水晶龍の短剣、紡がれる思いに流れ込むのがわかる。
何かが変わったのが実感できる。
でも、確認は後だ。今はこの死体をこの町の騎士に伝え、その後特訓をするべきだ。
詳しい事は後でゆっくり確認しよう。
読んでいただきありがとうございました。
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あと、活動報告もちょこちょこ書いているので、そちらもよろしければご覧ください。




