35、『相思相愛』 〜幸せな二人〜
ストーリーは2章ラストです。
俺に課せられた運命? そんなものがあるのか? てかマジで気分が悪い。
「ああ……また剥がれかかってる。君と真剣に会話できるように一旦君の感情は抑えさせて貰ってるわ。だから普段どうり深く考えることは出来ないわ。あと、あまりその事を考えないようにしなさい。気分が悪くなってくるわよ。
それで、君に課せられた運命……というかまぁ、君にわかりやすく説明するとシステムのバグなのよね。それで無理やり生きづらい運命にされたって感じ」
バグで俺は死んだのか? でも、文句はいえない。人間なんて神にとってはバグで人生狂わせたけどそこまで問題ない程度の認識だから文句言ったら殺されるかもしれない……死んでるけど。
「この召喚魔法が地球で死んだ人間を召喚するって言うのは知ってると思うんだけど、システムを説明すると……まず危機が訪れる数年前にこの世界を救える主人公が選ばれるの、主人公は当然地球で死んでしまった人ね。そして主人公と一緒に死んでしまった人がいたら仲間として一緒に召喚するの。
近くに人が居なかったら一人で転移させたり、その脅威に対する専門の人を呼んだりするのが理想なんだけど……いくら地球上で一日に沢山の人が死んでるからってピンポイントで都合のいい主人公なんていないのよ。
だから正義感とある程度の力を持った高校生や、大人数を召喚できるように、ガス爆発とかに巻き込まれたクラスを丸々連れて来たりして数打ちゃ当たる戦法でどうにかしてるのよ。
死んだ瞬間から若返りなんかはできないから、長く生きられるけど中学生程甘い考えは持って居ない高校生、もしくは20〜28くらいの人を呼ぶしかないのよね。人格も重要だし。
こっちの理想の例をあげるなら。
異世界の脅威が病気だとして、不慮の事故にあった天才医師にチートを持たせてを転移させたりとかかな
まぁ、そんな事今までで一回も無いんだけどね。
因みに異世界の脅威に立ち向かう報酬は二度目の人生」
そんなシステムで召喚されたのか……都合のいい主人公がタイミングよく居ないから社会人の経験が無い、大人から見ればまだまだ世間に夢を見ている高校生を呼ぶのか、中学生よりは知識も持ってるし。
「それはわかりました。でも、俺に何の関係が?」
「まぁ、言いたい事は、ラノベとかでよく巻き込まれ主人公っているじゃない?」
確かに存在する。普段冴えない高校生やらなんやらが巻き込まれて成り上がる。俺のよく読んでいたラノベもそんなストーリーだった。
「はい」
「うーん。どうも感情の抑制が上手くかからないけどまあいっか。
話を戻すね。それで、一定数巻き込まれ主人公も召喚されるんだけど、やっぱりそのタイプってチートが捻ったような物なの。農業チートとか財政チートとか目に見えて強いものは無いの強奪チートなんかも勇者が持つからね」
ああ、確かに巻き込まれて転移する人達って捻ったチート持ちが多いな。
「それで俺もチートを貰えたという訳ですか?」
「そう。取り敢えずスキルの説明をするわ。一つ目の固有スキル『自己進化』は自分のステータスを進化させていくチートスキルよ。ただ、このスキルは使えば使うほど使用が難しくなるの」
『自己進化』のデメリット。考えて居なかったわけじゃない。いつかは条件が消えるのだろう。でも発現した固有スキルは残るから問題ないんじゃ……
「この『運命変換』を見ればわかるように、発現したい強力な固有スキルには代償が伴うの。その上、どんなスキルが発現するかわからないのよ。一回しか使えないスキルは勿論、呪われるスキルや、人格を変えていくスキルだってあるかもしれない。
それに、実績が難しくなるにつれて取れるスキルは強力になっていくわ」
確かにレベルが10になっただけで運命を変えるスキルが手に入ったんだ、レベルが20になったら一体どんなスキルが手に入るんだ?
「でも、俺みたいな一般人がレベル20なんていけるんですか? 多分、もう『自己進化』を使う機会は減っていくと思うんですけど?」
「確かにそうなるだろうね、君が本当に一般人なら。君を一般人から変えるのは別の固有スキルだ。
二つ目の固有スキル『光の道しるべ』は特定の条件下で君の気概に反応して、それを成し遂げる為の手助けをしてくれるスキルだ。例えば今回のロードとの戦いのように普段以上の力を出せ、大切な人限定の光になれる」
成る程、これがあれば俺はレフィーヤの光になれるのか。でもこれも俺が一般人ならあまり意味はないスキルだ。
「今言った二つのスキルはあまり関係ない。普通にチートとして見てほしい。
問題は三つ目の固有スキル『卑屈の混乱』と4つ目の『主人公もどき』よ。
『卑屈の混乱』は自分をどこまでも卑屈にする。だから気概が生まれず、『光の道しるべ』は発動しない。
その上、自分を常に下に見る為、今の境遇に満足して成長しようとしなくなる。
本当に化学調味料を使ってない異世界の料理が初日から美味しいなんてあると思うかい? もともと、味覚なんかはだんだんと移り変わって行くようになっているんだ。
勇者たちは、まだ城で出される食事を美味しいとは思ってないよ。
君は卑屈すぎるが故に混乱しているんだ。普通に考えればスキルが一つだからって城を出たりしない。普通ならね。
君は自分なんかがこんな所に居てはいけないと混乱したんだ」
確かに、考えてみると誰よりも自分を下に見ていたように感じる。さっきだってバグに関することをすぐに諦めて納得したし、よくよく考えれば文句の一つだって出ても良いはずだ。俺の性分って事もありそうだけど。
「じゃあ何で『光の道しるべ』は発動したんですか?やっぱり『主人公もどき』ってやつですか?」
「『主人公もどき』の効果は名前の通りテンプレがたまに発動するのよ。あのエルフの少女に助けられた事や、君が今使ってる武器を受け取った事、迷宮遊戯に巻き込まれた事、都合よくロードに会ったこと。この固有スキルは全力で君を主人公に仕立て上げようとしてくる。
君に勇気を作り出す。
どこまでも君を落とすスキルと君を上げようとするスキル。君の中でスキル同士が対立しているんだ。
それで君はおかしくなった。本当はもっとレベルは簡単に上がる。でも、一回のレベルアップであそこまで能力値は上がらない。
君は自分で思っているほど顔は悪くない。でも、卑屈ゆえにヒロインに出会っても攻められない。
しかも君は運命を変えてしまった。
災厄が詰まっていると言われているパンドラの箱それを君は開けてしまった。君はもう戻れないよ。
どちらかのスキルを消すしかない『卑屈の混乱』か『主人公もどき』
そうそう、スキル全取っ替えも出来るよ。ただ、【運命神の加護】がかかってるから全取っ替えしないと『自己進化』しかステータスには表示されないわ。
オススメは全取っ替えね」
唐突に現れる選択肢、異世界に来てから選択してばっかりだ。消すスキルか。『自己進化』はデメリットはでかい。でも、レフィーヤを守れる可能性が少しでもあるなら俺は消さない。
俺は彼女の光のなると決めた。不甲斐なくても、何も出来なくても、もう二度と彼女を悲しませない。守り抜く。その為には『卑屈の混乱』は要らない。消すのは……
ステータスを開き操作する。
「やっぱり君は私の思い通りにならないわね。なんでガチャを引かないのかしら?」
「1番は勘ですね。俺運悪いですし、『自己進化』にも愛着がありますからね」
俺たちの間に静寂が訪れる。もう帰れるんだろうか?
「ねぇ」
女神様が上目遣いで聞いてくる。
「はい?」
「もう少し話していかない?」
これは……本音はレフィーヤの所に戻りたい。でも、俺が復活出来るかどうかはこの女神様のさじ加減だ。
仕方ないが、話していこう。
「わかりました。良いですよ」
「よかった」
女神様は微笑む。レフィーヤが好きとはいえ、目を奪われてしまう。俺は浮気性なのかもしれない。
「この世界の人間はステータスに縛られているの」
女神様は前会った時のような明るく、緩い声色で話し始めた。さっきより硬くなくて俺はこっちの方が好きだ。
「どういう事ですか?」
「君は今ステータスに一般人と書き込まれているでしょ? これが奴隷と書き込まれれば君は今すぐ奴隷として扱われるの。
君はどうやって奴隷ができるかわかる? 魔道具みたいな物じゃなく、方法があるの。
説明するとお互いがステータスを接触した状態で「契約」と唱える。
その契約の代償が払えなければ奴隷に落ちる。契約はお互いが同意しないと絶対に成功しない。
そして、契約の中に解放条件を組み込む。条件を満たせば解放される。
奴隷の主人になった者は奴隷に命令できるわけではない。もし奴隷が死ねばステータスにペナルティを受けるし、奴隷が犯罪を犯せば主人にもペナルティがいく。だから王や貴族は奴隷を持たない。
だから奴隷を持つのは村人か冒険者が多いの。解放条件が軽い者なら町が雇ったりするわね。
あと、戦争に借り出せることもあるわ。
冒険者が奴隷を持つのはこの世界は互いの意思によって戦闘を行う時は殺しをしてもペナルティは受けないの。
だから戦争で戦う兵士は、戦場に立った時点で戦闘の意思があるとみなされるし、冒険者だって魔物の命を奪う……命のやり取りをすると決めた時点で、仲間の魔法や矢が誤射したとしてもペナルティは受けないし奴隷が死んでもペナルティは無い。
明確な悪意をステータスが読み取りそれを犯罪歴に反映する。結果ペナルティが生まれる。
暗殺者は人を殺す時悪意を持たなければペナルティは受けない。
君はなぜ街中で犯罪が起きると思う?」
よく考えれば確かにそうだ。犯罪を犯した事がある奴は街には入れない。でも、街中で事件は起きる。殺人事件だって日本にいた時よりも多い。
まてよ……明確な悪意? じゃあ、無感情で人を殺す快楽殺人鬼なんかは……
「悪意を持って人を殺さない者にペナルティはかけられない」
「そう。歪んだ正義を振りかざすものや、罪の重さを知らないバカ貴族なんかは犯罪を犯してもペナルティが無い。一番不味いのは酒かな。泥酔状態になり、善悪がつかない状態で人を殺したとしても傷害事件くらいのペナルティしか付かないからね」
成る程、そうやって奴隷が生まれるのか……
「それと、君は人で旅に出るようだったから補正を強く設定したんだ。例えばこの世界の倫理観。
他の勇者はいきなり人の死を見たら戦えなくなってしまうかもしれない。でも、君は違う。
人型の魔物を殺す事も仲間が近くで死んでも心に大きなダメージを受けていない。他にもこの国の法律やほかの国の事も無意識のうちに頭に入っていると思うわ」
ありがたい。法律なんかを覚えずに出てきたことは自分でもヤバイと感じていたからな。シャン達が死んだ時も心に大きなダメージを追わなかったのはこういう事だったのか。
「もう少し話して居たいけど……こっちも暇じゃないし戻すわね」
おお! やっとレフィーヤの所へ戻れる。
「じゃあ、ありがとうございました」
「じゃあもど……ごめん、少し前に戻すの無理そう。ダンジョンの中に戻すから気をつけて」
まぁ、女神様からしたら俺なんてそんなもんだよね。
「いいっすよ」
「じゃあね〜」
女神様が微笑みながら手を振ってくる。俺も笑顔を作り手を振る。
目がさめるとダンジョン内に居た。装備は死んだ時と同じで、目の前には壊れたはずのロードが使っていた槍と手紙が残って居た。
ーーーーーーーーーーーーーー
君が壊した槍を報酬とする。
それと裏ボス撃破のおまけ報酬も置いておく。
転移と唱えれば町の大通りに転移できるよ。
迷宮の創造主。
ーーーーーーーーーーーーーー
俺の右手の薬指には黄色の水晶で作られた指輪がつけられて居た。
『詳細鑑定』を発動するとこの指輪は人物を登録でき、登録した人物の居場所がわかるようだった。
なぜか指輪にはレフィーヤが登録されていた。
俺はレフィーヤに会うために走り出していた。
「転移!」
◇◇◇
レフィーヤside
◆◆◆◆◆◆◆
ミストが死んでしまった。何故かわからないが、ミストの体は光に包まれて消えてしまった。
「う……うう……」
私は裏通りにある酒場で呑んだくれて居た。大通りでは、誰もかれもが喜んで居て気分が悪かった。
ミスト以外にも死んでしまった人がいたらしく、数人泣いている人とすれ違った。
「エルフのねーちゃん俺たちと遊ばね?」
「楽しませてやるよ」
チャラい感じの二人組が話しかけてくる。背が高いやつと太ったやつだ。
太った方が私の肩を掴もうとする。
「わらひに……さわるな……」
視界がクラクラする。ろれつが回らず、手を躱すのもギリギリだ。
私は泥酔して居た。
「行こうぜ、な!」
「いゃ!」
背の高い方が無理やり私の手をひき店の外。それも暗がりに出す。店主は何も言わなかった。グルかもしれない。
「ゲハハハハ!!」
クズ共は汚い声で下品に笑っている。
ここは魔法で……何故か魔法も精霊術も使えない。
「ねぇちゃんこの辺は初めてか? クハハ、この店は客に薬を持っても金さえ払えば見逃してくれんのよ!」
薬? 完全に油断して居た。夜風も剣を抜こうにも手を壁に押さえつけられて動けない。
体も痺れている。それに体が疼く。
「魔封じ薬にしびれ薬、様々な薬を持ったぜ! ヒャハ! その顔が見たかったんだよ!」
「ミスト……ごめんなさ」
私の声を遮ったのは汚い声ではなく、私が最も聴きたい、私の光の声だった。
「こんな奴らのために謝る事ないよ。レフィーヤ、泣かないで。もう二度と君の側を離れないから。嫌って言ってももう遅いよ?」
彼は不敵に笑って私を押さえつけて居た男を蹴り飛ばす。
太った方がナイフを抜きミストに迫る。ミストは水晶のダガーを抜いてナイフを受け流し、すれ違いざまに足の筋を切り裂いた。
「生き返って強くなるなんて事は無いし、それにどうやら俺は浮気性らしい。相手はいないけど……そんな俺でも、いっしょにいてくれる?」
少し不安そうにしながらミストは聞いてくる。
「こっちこそ……もうミストから離れない。こんなめんどくさい私でもいいか?」
ミストは赤黒く輝く槍を取り出し、投擲の構えに入る。
背の高い方は逃げ出している。
「とう、ぜん! むしろ喜んで!」
クズの右腕が消し飛ぶ。
私はミストに駆け寄り抱きつく。
私は今、幸せだ!
◇◇◇
ミストside
◆◆◆◆◆
襲われてるヒロインを救うって王道だな……こんな王道いらないけど。
まぁ、守れてよかった。薬を入れられてるようだし。
俺は抱きついてくるレフィーヤの背中に手を回し抱きしめ、ポニテになっていない髪に顔を埋める。
良い匂いがする。柔らかい。腕の中にいる子がとても愛おしく思える。
俺は進んでいく。『主人公もどき』によってめんどくさい事に巻き込まれるだろう。でも、俺は絶対にレフィーヤを助ける。レフィーヤの光になる。
ただ、今はレフィーヤを感じていたい。俺はレフィーヤを抱きしめる手に力を込める。
俺は今、幸せだ!
次回は『登場人物』です。
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