33、『前途洋々』エルフの光
流石に次の日は僕には無理でした……
前途洋々(ぜんとようよう)の意味は将来が希望に満ち溢れているという意味です。
あとがきに次回予告(次回のタイトル)、乗ってるので、よかったらそちらもみてください。
俺たちの目の前にいる隻眼の赤オークは寝ていた。
あいつは真紅の鎧と紫に怪しく光る槍を持っていた。
転移した先は小学校の体育館くらいのそんなに広くない部屋だった。部屋の中には大きな岩や小さな岩が多く点在しており、壁は多そうだが、足場はとても悪かった。
よかった、『いしのなかにいる』なんて事はなかった。
どうするかとレフィーヤを見ると……
「あいつが……家族を!」
彼女はキレていた。
レフィーヤがキレている。あいつに家族を殺されたのか? エルフ……オーク……まさか陵辱!? ゲスな勘ぐりはやめろ! こんな事を考えるのは彼女に失礼だ!
「レフィーヤ、行くか?」
「うん、行く。ただ、少し私の自分語りを聞いてほしい」
そう言ってレフィーヤは数分で簡潔に過去を話してくれた。
そうか……あいつに故郷や家族、親友を……陵辱をされてないが目の前で母を殺されたんだよな。しかも自分を庇って。
レフィーヤはあいつを殺さないと未来へ進めない……暗闇から抜け出せないと言っていた。
レフィーヤの父親があいつの片目を奪ったらしい。レフィーヤの父親が残したダメージはしっかり我が子の助けになっている。
俺はそんなレフィーヤの父を尊敬する。『父親なら死なずに家族を守れ』や、『激情してミスるな』、『油断で妻を死なせた男』なんていう意見もあるだろう。
でも、俺はそうは思わない。たとえ死んでしまったとしても、自分達の希望の未来を作り、復讐するなら少しでもその手助けをする。
凄いことだと思う。まぁ、俺の希望的観測で本当はそんなこと考えてないかもだけどさ、そっちのが夢があるじゃん。
「そろそろ、会話は終わったかぁ?」
まるでずっと起きていたかのように赤オークが話しかけてくる。
「お前ら恋人か? クククこいつは楽しめそうだ……彼氏の前で彼女を犯すのはなぁ!」
こいつはオークという名を体現したかのようなクズだった。こいつの言葉を訂正する必要はないだろう。こんな奴とこれ以降話すことはないからなぁ!
くそっこいつと口調が似ているのにムカつくぜ!
「ミスト……やるぞ!」
「おう!」
「俺ぁロードってんだ。エルフの方は覚えておきな、お前のご主人様の名前だからなぁ!」
俺は紡がれる思いを、レフィーヤは夜風の剣を抜く。
ロードは暗い紫色の槍を構える。
さぁ、戦闘開始だ!
◇◇◇
俺たちはほぼ同時に駆け出す。
「せぇやぁッ!」
「フンッ」
俺はアサシンベルクを振り下ろすも、槍で防がれてしまう。相手の隙になっている右側から魔法? で加速力を上げ、首めがけて突っ込む!
「フッ!」
ガンッ っという音が洞窟内に響く。
鎧が青い炎につつまれ、レフィーヤの攻撃を防いだ。
「クッ、ハッ」
槍の猛攻を必死で耐える。
クッソ、余裕そうな顔しやがって……事実だけどっと!
迫り来る先端を剣をかち上げいなす。
懐に入り込み鎧の関節部に剣をーー「グッ!」
ーー膝蹴りを腹にくらい吹き飛ぶ。
「エアクッション」
レフィーヤの魔法により、着地時の衝撃を消す。
職業が剣士じゃなくなったことによって力に補正がかからない。
ロードが突っ込んでくる。レフィーヤは火の上位魔法で攻撃をされている為、どうやらロードを狙えないらしい。
槍、突き……くる!
全身を右に動かし回避、連続で三つの火球が飛んでくる。左手で水晶龍の短剣を抜き、氷柱を作り出し、応戦する。
水蒸気が俺とロード、どちらの視界も遮る。体勢を低く落とし、忍び足を発動する。
同時に『迷宮突破』も発動する。
三秒後、範囲魔法がくる。1、2、3!
火の柱がオークの周りを囲む。一緒に水蒸気も消えるが、既に俺は近くにあった岩の後ろに隠れている。
『迷宮突破』はとんでもないスキルだった。魔法の発動までの時間や、効果持続時間、範囲、属性がわかる。
これはとんでもないチートスキルが発言したな……これで俺もどうにか手助けできる!
岩の間をぬって移動する。ロードは色々な方向に火の矢を乱射しているが、岩を盾にして防ぐ。
ここだ! 投げナイフを投げる。ナイフが当たる。当然鎧によって防がれ、ロードはすぐにそっちの方向に火の槍を放つ。魔法が中心に当たった岩が砕けるが、すでに俺は反対側にいる。
レフィーヤは火魔法を躱しながら魔法を放っているので、今ロードは魔法を防ぎ、レフィーヤの行動を阻害(中位、上位魔法を放つ)し、初級魔法を乱射し、俺の索敵を行なっている。
これだけの事をこなしていれば綻びが出来る。
レフィーヤへの攻撃に穴が空き、レフィーヤが加速しロードの背中に一閃!
横一文字の傷が刻まれる。
ロードはすぐに魔法を辞め、レフィーヤと激しく交戦する。
再生能力が高いのかさっきの傷は回復し始めている。
こんなチャンスをふいにしたら俺はレフィーヤに顔向けできない。
俺は無言で近づき、背中の傷を上書きするかのように、横一文字に剣を振る。
その流れで左袈裟斬り、鎧を一部砕きーー
ーー鎧から火が吹き出すのを予測し、すぐに近場の岩の後ろへ転がり込む。
隠れた瞬間ジェット噴射のように蒼い炎が吹き出す。その勢いはとても強く、壁まで到達している。
フランベルジェは武器の特性上止血しづらく、傷も治りにくくなる。見習い暗殺者や、『暗殺技能』によってダメージも増加している。
熱い……肌がチリチリと熱されるが、そんな事は気にしていられない。
左側には行けないので右側に回り、氷柱を放ち続ける。ヘルムを被っていない頭を狙って撃ち続けるも、ほとんど防がれてしまう。
だが、片目がないのはやはりどうしても死角が出来るようで、二発額に擦りダメージを与える。
ロードが仰け反った隙をレフィーヤは見逃さず、右脇腹を突くーー
ーーが、すんででかわされ、こちらもかすり傷になってしまう。しかし、ロード鎧は砕かれ浅いが肌に傷を負った。
俺は駆け出し、そこに刃を入れ傷を広げる。ロードが火の槍を二本放ってくるので、氷柱を二本ずつ使い相殺する。
水蒸気で視界が遮られた瞬間魔法を探知。
「レフィーヤ、すぐに範囲魔法が来る!」
叫ぶと同時に俺は飛び抜く!
レフィーヤも俺に続き、同じ岩に隠れる。
大量の火の矢が全方位に高速で連射され、岩を砕いていく。ここは岩が密集しているので安全そうだ。
「この魔法は10秒くらい続く、今のうちに水を飲んだ方がいい」
「はぁ……はぁ……わかった」
魔法効果が、残り約4秒となった刹那、俺の体に衝撃が走った! 槍が岩を砕き俺の左手の二の腕に突き刺さった様だ。
防具のお陰で幸い、背中の傷は貫通してないようだ。
「あがっ!」
「ミスト!」
「レフィーヤ、走って!」
魔法の効果はまだ続いている。すぐに岩の後ろに隠れなければいけない。
くっそ、背中と足に二発食らっちまった。激痛耐性ー大のお陰で正気を保てているが、とてつもなく痛い。
ロードが投げた槍は自動で奴の手の中に戻っていった。
「チッ外しちまったか……まあ良い。鬼ごっこもそこまでだ」
俺はバックから試験管に入った緑色のポーションを取り出し、飲み込む。
微かな苦味とともに、傷が足と背中の癒えていく。
しかし、左腕の傷が治らない。血が流れ続けて入る。
「俺にここまで傷をつけた褒美だ。良いことを教えてやろう。この槍……『屠る者』でついた傷は自然治癒で無ければ絶対に治らない。お前の左腕は血を流し続ける」
凶悪なもん持ちやがって……俺の剣も特性は似たようなもんか。仕方ないので適当な布を切り、腕に巻きつける。
「っく! よくもミストを!」
レフィーヤが激昂して切り掛かっていく。
「その怒り方、俺の右目を奪ったあいつの娘か? 神薬でも回復できない傷をつけやがって……仕方ねぇ、娘で一生楽しんでやるぜ!」
火の矢を放ちながらロードはレフィーヤと交戦するがレフィーヤは風を身に纏い、火魔法を弾いている。
炎が意思を持つように自分から避けていくその様子はその姿は迷宮内だと言うのに、とても美しく見えた。
自分の中でこの人の為なら、この人にカッコつけるなら死んでも良いという感情が広がっていく。
左手は痛みで使い物にならないので、ダガーは納刀し剣だけで戦う事にする。
そしてレフィーヤが正面から打ち合い、俺がチマチマと首回りの鎧を剥いでいく。
俺達の攻撃は着々とロードにダメージを与えていった。
前へステップ、剣を2回振りしゃがむ。瞬間、俺の頭上を俊速のなぎ払いが走る。 槍が頭上を通りきった瞬間立ち上がり、3回剣を振る。
後ろへステップ、後転、立ち上がり岩の裏へ。
10ダメージでも、1ダメージでも、俺は少しずつでも攻撃を当てていけば良い。
これはレフィーヤの復讐なんだ……俺は全力でそれを手助けするだけだ。
ロードは血だらけになっていた。しかし、俺たちの体力もそこを尽きかけていた。
「レフィーヤ、離れて!」
俺の声に反応してレフィーヤが跳びのき岩に隠れる。俺は剣を置きダガーに触り、火の槍と相殺させ、水蒸気を生み出し、追加で煙玉を投げて煙を増やす。
これで、氷柱も撃ち尽くしたな。
俺はレフィーヤの隠れた場所に隠れる。
「レフィーヤ、体力と魔力はどんな感じ? ごめん……俺はもう限界」
「私もだ。術ももうあまり使えない。」
レフィーヤは汗を大量に流していた。水分も減っているだろう。
「この後俺が “必勝” のチャンスを絶対に作る。俺は頼りないかもしれないけど、どうか信じて、全力の一撃を放てるように準備していてほしい」
「頼りなくなんかないよ。私はミストを信じる」
俺は岩から飛び出して加速、剣を左下に落とし振り上げる準備をする。ロードは槍を突き出してくる。
剣vs槍 圧倒的に槍が有利だ。俺が使ってるのがフランベルジェじゃなければ。
フランベルジェは槍に強い。 狙ってる場所さえわかれば俺だって! 俺の頭を狙って打ち出された槍を前進を右側に捻って回避! 勢いを剣に乗せ攻撃後の無防備な槍に振り下ろした!
結果、俺は『屠る者』の先端をぶった切った。
「なっ!?」
そして驚愕しているロードの左目を狙って『必勝一手』を放つ! 下から振り上がる剣に金色の粒子が纏わり、ロードの左目を切り裂く。 金色の粒子はロードに移動し、ロードの足が固定された様だ。
「グウゥ!!」「がはっ!」
俺は棒で頭を叩かれ、倒れる。
かつてレフィーヤの父が右目を潰し、現在俺が左目を潰した。レフィーヤが暗闇から抜け出せないなら、俺が道を示す希望になれば良い。柄じゃないとかどうだって良い!
完全なる隙、レフィーヤが全力で蒼く燃える鎧の首を切る。 振り抜いた剣からは銀色の軌跡が走っている。
ギャギャギャギャっと金属のぶつかり会う音が聞こえ、既にボロボロになった首回りの鎧ごとレフィーヤはロードの首を切りつけた。
刃はロードの首半ばで止まったが、ロードの体がぐったりとなる。両手はダランとし、既に棒となった槍も落とした。金色の粒子がロードの体を離れ幻想的な空間になる。
レフィーヤは俺の方に駆け寄ってきた。その顔は俺を心配している様だった。両手を広げているから抱きついてくるのだろう。
「ミストっ!」
心配そうに駆け寄ってくるレフィーヤを俺は両手でーー
ーー突き飛ばした。
目に映るのは驚愕と残念が混ざったような表情をしているレフィーヤだけだった。
「きゃっ」
レフィーヤは尻餅をつき、可愛い悲鳴がこぼれた。 俺に、もう思い残すことはない……
「ッッッ!!」
ロードは残った微かな力で俺が切り落としたブレイカーの槍先を蹴飛ばしたのだ。
レフィーヤを狙って。
なぜ体がそんなに早く動いたのかはわからない。レフィーヤの足かせになってしまう事や、言葉をかけると言った考えは浮かばず、俺の頭の中にあったのは『彼女を守れ!』という意志だけだった。
レフィーヤの攻撃を庇い、槍先は俺の腹を貫通する。
「死に損ない」があるから後数分では生きられるが、ポーションは意味ないし、ただ痛みが長続きするんだとしたら本当に死にぞこなったな……
もう痛みを通り越してむしろ熱い。声すら出ない。だが、槍が俺に当たった瞬間、ロードに向かってアイシクルダガーを眉間に投げた。幸い、ヘッドショットが決まった。完全に死んだだろう。
レフィーヤの復讐はこれにて幕を閉じる。これで暗闇から抜け出せるだろう。『迷宮遊戯』も終了ハッピーエンドだ。
俺の人生も終了のようだけどな……
読んでいただき、ありがとうございます。
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本当にありがとうございました。
次回予告 『人生終了』 パンドラボックス




