29、『失恋発覚』 実力不足
すいません!
少し、遅れました。
ん? なんか頭が気持ちいい……まるで、撫でられてるような……
「ん……んん……え?」
目を開けるとレフィーヤが俺の頭を撫でながら微笑んでいた。
「ああ、起きたか」
「えーと……これは?」
俺は言いながら周りを見渡す。
どうやら俺が寝ていたのは昨日もお世話になった医務室らしい。昨日の水色髪の医者? が手を振ってくる。
あれ? 迷宮内で一日経ってるのか? 今何時だろう?
「いや、気絶しているミストを眺めていたら。なんだか弟を見ているような気分になってね。まぁ、私に弟はいないんだけど、こんな感じなのかなってね」
俺の顔なんか見てもつまらないだろうにな。それにしても……弟、ね。
恋愛対象にはならないって事かな?
「そうか……ところで、今って何時?」
「今は夕方かな」
迷宮に入ったのは朝だから、12時間だけってことはあり得ない。少なくとも2人で合計四時間半は寝ているからな。
とすると、迷宮内に一日いたってことか。
それにしても結構寝ていたなぁ。流石にずっとレフィーヤはずっと見ていてくれたわけじゃ無いだろうし、俺が起きた時間は良かったのかな? いや、もっと早く起きるべきだったかな。
「ありがとう」
「いや、それくらい礼を言うほどでも無い……迷宮内では迷惑をかけた。精神毒にかかったり、キングゴブリンを君に任せてしまったり、罠の発見まで頼ってしまった私からパーティーを組んでくれなんて言っておいて……本当にごめんなさい」
なんでレフィーヤが頭を下げてくるんだ? 毒にかかったのは気づけなかった俺が悪いわけだし他の事も俺にも悪かったところがあるっていうか俺の方が何倍も迷惑かけた……これをわかりやすく伝えるには……
「レフィーヤ、そんなに気に病まないでほしい。俺も毒には気づけなかったし、罠の発見は最初はレフィーヤがしてくれていたじゃ無いか。それに、キングゴブリンだってレフィーヤが気を引いていてくれたから俺でも倒せたんだ」
「でも、ミストにかかる負担が大きいじゃ無いか」
レフィーヤは多分本質的に他人に優しすぎるんだ。ただ依頼を一回受けただけの俺のことをオークの群れから助けてくれたり、色々と気配ってくれたりしている。
ただ、俺の事を幼く見過ぎだと思う。俺の事をまるで、本当の弟のように接している。
男女間での常識が所々無かったり、口調が硬かったり、見ず知らずの俺を弟のように気にかけたり……やはり、レフィーヤは過去に何かあったようだ。
でもーー
「何より、俺はレフィーヤに命を救われている。レフィーヤは俺の命の恩人なんだ。ダンジョンに入ったのだって俺が言い出した事だし、まだほんの数日しか過ごしてないから警戒するし、頼りないと思うのもわかるけど……もう少し、頼って欲しかったな」
「そうか、わかった……ただ、私はミストを頼りないなんて思った事……無いよ?」
ぐふッ!
最後に口調崩しながら首かしげるのは反則ですよ……レフィーヤさん。
数回深呼吸して心を落ち着かせる。
さてと。俺は布団から出てレフィーヤと向き合う。
「ただ、謝罪は素直に受け取るよ。そして、俺からも……レフィーヤこちらこそ、ごめんなさい」
俺はレフィーヤに頭を下げる。
俺の謝罪に対してレフィーヤはーー
「そんな、ミストは謝らなくても……いや、私も謝罪を受け取るよ。これでお互い様だな」
ーー綺麗な笑顔を見せてくれた。
「逢引の次は痴話喧嘩? ここは宿じゃ無いんだよ?いつ次の人が来るかわかんないから帰った帰った」
「すいません。ミスト、行こうか」
「ああ」
「……もちろん料金は払ってもらうよ?」
わかっていたので装備のまま寝ていた俺は、既にバックから皮袋を取り出して準備しているが真顔で言われると少し怖い。
「わかってます。レフィーヤは先に行ってくれていいよ……それと残念ながら、彼女とは何にも無いですからね」
俺は苦笑いしながら答える。ただ、いつか本当に恋人になれればいいなと思った。
因みに値段はぼったくりと言っても過言ではない。
◇◇◇
「結局魔石とかは売れたのか?」
「いや、私一人では決められないからな。ミストが起きてからにする事にした」
待っていてくれたのか……嬉しいな
「そうか、ありがとう」
「それくらい常識だ。それと、宝箱が一つと、ドロップ品が一つある。宝箱から出たのは剣でドロップ品はがキングゴブリンの王冠」
「売って山分け? それともどっちかの物にする?」
「そうだな……私には夜風の剣があるからミストに任せる。特殊な形状で使いずらい剣だが、ミストが使ってる剣は量産品だよね、一品物も一本くらい持っていてもいいんじゃ無いのか?」
そう言って宝箱のドロップ品をバックから出して見せてくれる。
レフィーヤがバックから出した剣は刀身が限りなく黒に近い紫色で怪しく輝いており、その特殊な形状も相まってとても怪しい雰囲気をまとっている。
そう、この剣の刀身は波打っている。俗にゆうフランベルジュって奴だ。
「えーと……使ってて呪われない?」
こんな事を聞いたのは仕方ないと思うこの剣は全体的に暗く、剣の構造上鞘がなく刃がむき出しで、しかも自分が殺した魔物の遺品。こんな武器を使っていたら呪われそうだ。
「大丈夫だ。私が責任持って鑑定してもらった。証明書も出ている。その剣の名前は『紡がれる思い』って呼ぶらしい。ただ、なんか特殊な読み方らしく、紡がれる思いと書いてアサシンベルクと呼ぶらしい』
アサシンベルクか……暗殺者が使うからアサシン、フランベルジュはもともとフランベルクって呼ぶから合わせてアサシンベルクか……『しかも紡がれる思い』ね。元々暗殺者が使っていたんだろうな。
俺には重いよ。
「紡がれる思い、ね。俺には重そうだなぁ。でも、俺が使ってもいいなら貰うけど……」
「いいぞ、それはミストの物で」
「もう一つの王冠はどうする?先に言っとくが俺には譲らなくていいよ。もう十分貰ったし」
「そうだなぁ。能力は良いんだけど、王冠とか私が被ってもイタいだけなんだよね」
いや、絶対似合うでしょ。まぁここで俺が全力で褒めて進めるのもおかしいだろうし、無難に進めるか。
「いや、レフィーヤは美人だし、何着てても似合うと思うけどなぁ。ただ、王冠なんて被ってるとエルフの王女様みたいで色々と告白されたりするかもね」
「そ、そうか。親から貰った容姿を褒めて貰えるのは、嬉しいな……ありがとう。ただ、この王冠は魔法が使えて勇気がある人に使って貰おうかな」
うん、やっぱりレフィーヤあんまり免疫無いようだな。まぁ、俺も無いんだけどね。だからそんな反応してると勘違いしちゃうよ……
「そうか、少し残念だけどまあいいか」
その後レフィーヤと受付に行き、魔石の買取をお願いした。王冠は結構なアイテムだそうで、競売にかけられるらしい。
それと一緒に先日のオーク討伐代も合わさり、質素に生きれば一年……宿の事とか考えて最低でも半年は冒険者を休止できるだろう。
まぁ、続けるけどね。
「ごめん、私はこれから用事があるんだ。だからここで解散でいいか?」
「俺は全然関係ないよ」
「それじゃあ。と、言っても同じ部屋だけど」
「たしかにね。こっちこそ、じゃあ」
その後レフィーヤは夕焼けの中に消えていった。
うしっ! 明日! レフィーヤに告白しよう!
そう、この時の俺は何をトチ狂ったのかこんな事を決意してしまった。俺の様な奴は関われるだけで満足していればいいのに。
星は眺めているだけならそこまで問題はない。ただ、夜空に輝く星に手を出そうとするから、俺みたいな凡人が高みに手を伸ばすから、落とされるんだ。
リュウゴやエクスの様な選ばれた者だけが、星を手中に収めるんだ。
少なくともここまで自分に卑屈な人間にならなければ良かったのかもな。
閑話休題
やっぱり、告白するなら色々と準備が必要だよな。花とかも事前に買ってしまって置ける収納バックってスゲー。
そして俺は花を買ったり、肉や、野菜のバーベキュー串を10本近く買って二本食べて残りをバックにしまったり、色々と食材や調味料を買ったりと多分この世界ので初めてのしっかりした買い物をして、気づいたらあたりは暗くなり始め、閉店準備をしている店も増え始めていた。
よし、出かけることに誘えたら明日の最後には防壁の上で告白しよう。
そんな事を考えながら宿への道を歩いているとレフィーヤを見つけた。
そういえば、レフィーヤの用事ってなんなんだろう。
そしてふと顔を上げるとレフィーヤと美形のエルフが親しそうに街を歩いていた。
「ぇ……」
つい、声が漏れてしまう。
自惚れていた……自意識過剰だった……絶対行けると思い込んでいた……
レフィーヤと上手くいってると思っていた。そうか……レフィーヤも言っていたじゃ無いか俺は弟だと……わかりきっていた……圧倒的な実力不足だと……俺なんかが何かしたところで……意味が無いと……
そこから走り出したい気持ちを抑え静かにたち去り、別の道を走って部屋に戻る。
生活魔法を使う事もせずに部屋に布団にくるまる。
気づけば涙が出てきていた。タオルを出して拭く。
ああ、そういえば女の子に振られた時は泣いていいんだっけ? 良かった、気兼ねなく泣ける。
そして俺のトラウマが顔を出す……
一応一言、レフィーヤさんもメインヒロインの一人です。
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