26、『初級迷宮』 鍵のかかった扉
すみません。
少し、遅れました。
迷宮は街からほど近い場所にあるため馬車で一時間程度で着く。
その間に迷宮の難易度についての情報のすり合わせを行う事になった。
まぁ、俺はほとんど聞いてるだけですり合わせとは言えないけどね。
「これから行く迷宮の情報はどれくらい知っている?」
「えーと、迷宮の名前は雑鬼の迷宮。全六階層構成で、既に攻略済の超初心者用迷宮。迷宮のランクは初級って事ぐらいかな」
レフィーヤの問いに俺はパンフレットに乗っていた情報を答える。
「そうか。じゃあ、迷宮のランクについては知っているか?」
「ごめん、よくわかっていない。ただ何となく攻略の難しさの基準だと思っている」
「たしかに、一種の基準でもある。でも、それ以上に重要な分け方がされている」
「なるほど」
レフィーヤに聞いた迷宮のランク設定はこうなっているらしい。
初級ランクは異常事態が起こらない。そのうえ階層が少なく浅い迷宮に設定される。即死するような罠も無い。
中級ランクは異常事態が発生するが、階層は多くても20層で、ランクD以上の冒険者なら基本的に攻略できるが、即死罠も少ないながらあるので罠を判別できるスキル持ちがいた方がいい。
上級ランクは発生する異常事態が大きく、階層が深い物につけられる。上級迷宮はただランクが高いだけでなく、迷宮内での活動に慣れていないと攻略は難しい。
固有迷宮は迷宮に特殊な能力が加わった物で、『1日1回目迷宮内の構造が変わる』や、『完全ランダムで迷宮内に出現する魔物の種類が変わる』などの特殊な物が発見されているらしい。
難易度は上級ランクが多いが、たまに初級ランクの物もあるらしい。
稀に発見される。
例外迷宮は、迷宮の定石に当てはまらない。言うなれば捻くれ者の迷宮だ。浅いのに敵の強さや罠の凶悪さが上級の物だったり、ものすごく深いのに罠は即死する物はなく、敵の強さもそこまでだったり、魔物が一体も出てこなかったり様々な種類の迷宮があるらしい。
迷宮の異常事態とは、壁が動いて迷宮内の構造が少し変化したり、階層移動する為の階段の位置が変わったり、隠し部屋が現れたりするらしい。
罠の位置が変わったり増えたりもあるとかないとか。
「こんなところだが、わかったか?」
レフィーヤの説明を聞いていたらあっという間に一時間がすぎ、目的地に着いた。
「ああ、しっかり覚えたぞ。ありがとうレフィーヤ、助かった」
「ん、そうか......」
少し照れくさいのかそっぽを向きながらレフィーヤが返事を言う。
やばい、凄く可愛い。俺は不甲斐なくも萌えてしまった。
背中にかけてある新しいショートソードのグリップをしっかり握り、手が滑らない事を確かめる。
因みにこのショートソードは収納バックに入っていた物だ。王女様が気を利かせて入れてくれたんだろう。
マジで王女に感謝だな。
「じゃあ、迷宮攻略始めますか!」
◇◇◇
「はぁッッ!」
俺のショートソードが子鬼を頭からかち割る。
骨を砕く感触が伝わり、剣を持ったゴブリンが絶命する。
ーーボフン
俺の殺したゴブリンが灰となり、周囲に舞う。
振り下ろした剣を下から振り上げ右横にいたゴブリンを切り裂く。
「ミスト、後ろだ!」
俺の後ろに迫っていたらしいゴブリンが爆散し俺に背後から灰が降りかかる。
まるで戦隊ものの登場シーンのようだ。
「ふぅ」
一泊、呼吸を置き、正面からダガーを逆手にもち、迫ってくるゴブリンを見据える。
「ぜぇあああッ!」
走ってくるゴブリンの刃が俺の体に触れるーー
ーーギリギリのところで上段に構えていた剣を振り落とし、右袈裟斬りを放つ!
『カン』っと蒼色をしたゴブリンの魔石が迷宮の床に落ち、音を立てる。
「ありがとうなレフィーヤ」
「まぁ、助け合うのがパーティーだからね。気にしないで」
ゴブリンが落とした魔石を袋に入れながら考える。
冒険者が迷宮を探索して食べていけている理由はこの蒼色の魔石にある。
迷宮の外では魔石の色は紫だし、そもそも低ランクモンスターのゴブリンは魔石を落とさない。
だが、迷宮のモンスターは違う。死体は残らずに、灰色の灰となって消える。
そして、魔石とランダムでドロップアイテムを落とす。
ステータスにドロップアイテム、本当にゲームのような世界だな。
ここは迷宮の四層め。迷宮に入ってすでに三回の戦闘を行ったがレベルはどうかな。
ステータス解放!
◆◆◆
名前 ミスト
種族 人族 (17)
所属 冒険者 一般人(異世界人)
レベル 9
職業 剣士 (剣術で戦えるものが持つ職業。斬撃、刺突攻撃時のみステータスの力に補正)
能力値
体力 72/76
魔力 35/35
力 50
守備 33
知的 41
魔力 28
魔抗 32
俊敏 44
器用 44
技術 50
合計0アップ
犯罪歴 無し
固有スキル
「自己進化」(スキル持ち主が何かを成し遂げた時に2〜5個の固有スキルの中から一つ選び自分に付与する)
(他人に表示できるスキルは一つだけであり、表示されてないスキルは『 』で覆われる。)
(能力値がスキルの持ち主の願いを多少は反映する。討伐時に使った能力値が優先して上がる)
「基本斬撃」 『無我夢中』 『迷宮突破』
スキル 「生活魔法」(生活に便利な魔法が使える)
「死に損ない」 (致死に至るダメージを負った時、体力が一桁になった時に発動。自分が死ぬまでの時間を数分間延長できる。その間に、回復が出来ればそのまま生きながらえることも可能。
経験スキル 無し
称号
異世界人(異世界から来た者。本の内容などを覚えやすくなり、記憶力が上がる)
読書家 (多くの本を読んだ者が獲得する称号。つい描写をしてしまう。読書スピードが上がる)
女神様の玩具(たまに女神様が自分の行動を見てくれるかも?)
足掻きし者(変えられない運命を足掻いて変えた者が獲得する称号。スキル「死に損ない」を獲得する。)
◆◆◆
はぁ、やっぱりレベルは上がってないか......俺には何が足りないんだろう?
それがわかればどうにかなる気がするんだけどな。
鍵のかかった扉があるんだよな。
「ん? どうした、ミスト。ため息なんかついて」
「いや、なんでもない。大丈夫だ」
そういえばレフィーヤの話し方が少し砕けてきた気がするな。もしこれが戦闘を数回行って気が緩んできたからとかだったらレフィーヤさんマジちょろすぎるぞ。
さて、この迷宮は三層までは小さな森があり、そこでゴブリンが暮らしている。
ここまでは外とそうかわらないので、戦いやすい。
しかし、問題は四層からだ。四層からは洞窟の様な構造となり、高さはあるが、横は大人が二人並べば剣を振り回すことはほぼ無理なぐらいの狭さだ。
硬く、ゴツゴツした石の感覚を感じながら歩く。
「えーと、あと二層でボスだよね」
「そうだぞ」
ダンジョンに入ってまだ3時間ぐらいしか経ってないが、既に半分以上進めているのはひとえにレフィーヤあってのことだろう。
初級迷宮にランクB冒険者を連れてくるのは過剰戦力すぎたのだろう。
それにしてももうすぐレフィーヤともお別れか......もともと迷宮を突破するまでの約束だったしなぁ。
まぁ、ボス戦が残っているけど、レフィーヤがいればそこまでキツくないだろう。
そう、俺はたかをくくっていた。ここは初級迷宮、どうせ異常事態なんてものは起きない、起きるはずもない、と。
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