24、『迷宮突破』 エルフの価値観
遅れて大変申し訳ございません。
3階建ての大きな建物を前にして俺はレフィーヤに問う。
「今日泊まるのはここでいいか?」
「私はどこでもいいよ」
「じゃあここで」
あのあと結局一緒の宿に泊まることになった。
冒険者ギルドに置いてあったガイドブックによると、この『夢の在処』が料理が美味く、値段もリーズナブルで、複数人で泊まれる大部屋が多いと正に冒険者の事を一番に考えて作られた宿らしい。
だが、リーズナブルといっても、高ランク冒険者じゃなければ泊まるだけでその日の稼ぎは吹っ飛ぶくらいらしいけどな。
まぁ、大部屋が多い代わりに一人用の小部屋が少ないんだが、この時の俺は俺はそんな事は知らなかった。
◇◇◇
ドアを開けて宿に入ると中はとても広かった。どうやら一階は受付と食堂になっていて、二、三階に部屋が作られているようだ。
俺たちは受付に歩いていく。今の時間帯は夕食を食べている人が多く、俺たちは......いや、レフィーヤはこの店で注目を集めていた。
レフィーヤは金髪ロングの美人エルフだ。目はつり目よりだが、怖い印象はなく、どちらかというと彼女の心の力強さが感じられる。鼻や、口などの他のパーツも整っており、まるで芸術作品のようだ。
腰にも届きそうなくらい長い金髪もトリートメントがないこの世界でどうやって手入れをしているのか不思議なくらいに輝いている。
体型も全体的に細いのに出るところは出ていて、まさに物語から飛び出してきたようだ。
モデルのように細い腕や脚でオークを簡単に殺し、高ランク冒険者として食べていけているところを見ると、この世界のステータスという概念の凄さがよくわかる。
しかし、彼女がただの美人なら美形が多いこの世界で、この店の男ほぼ全員の視線を集めるのはいくらエルフと言えども難しいだろう。
だが、彼女には凶悪な二つの武器があった。
大抵の男なら反応せずにはいられないようなとても大きなものを持っていた。
その柔らかさは 間違って抱きついた俺ならわかる。あれはとても良い物だと。
レフィーヤに視線が集まったあと、その視線は横に並んでいる俺に流れてくる。
彼らが俺に何を言いたいのかは聞かなくてもその怨みがましい瞳を見ればわかる。
つまり彼らはこう言いたいのだ『なんで俺たちとそう変わらない。いや、俺たち以下のやつが女神の隣にいるんだ? さっさとそこを俺たちに譲れ』と、はぁ、きっとこれがエクスだったらこんな視線を向けられる事は無かったのかもしれない。
つーか、俺だって聞きたいよなんで俺を選んだのかを! でも彼女は興味を持ったとしか言わなかったしさ。それでも、結果的に彼女はエクスではなく俺とパーティーを組んでくれた。
そこにどんな意図があったのかを俺は知らない。
だけど、そんなことはどうでもいい! 周りの目なんか気にせずに、俺は堂々としているそう決めた!
まぁ、恋人でもなければ友人でもないんだけどね......
長くなったが、結局は男の嫉妬ちょー怖いって事だ。俺はよく知っている。なぜなら地球では俺はあっち側だったから。
閑話休題
受付に座っていたのはふくよかなおばちゃんだった。勝手な想像だが関西にいそうな明るそうなおばちゃんだった。
「2人部屋が一泊一万ジルドで、朝食と夕食の日替わり定食付き。お湯は桶一杯五百ジルド光石は二個目以降は千ジルドになるよ」
うん、たしかにリーズナブルだ。ってなんで2人部屋? まさか恋人みたいに見えるとか? ないないない!
あっ因みに光石ってのはライトみたいなので、千ジルドだったら一時間半くらい光り続けられるだろう。
「すみません。1人部屋を二つ頼みたいんだけど......」
「うちはもともと一人部屋が少なくてねぇ、もう埋まっちゃってるんだよ。だから今とれるのは二人部屋か三人部屋だけってわけ」
二人部屋はまずいよなぁ......しゃーないし誘った者の責任として俺持ちで2人部屋を二部屋借りるか?
「レフィーヤ、やっぱり二人部屋はまずいから2部屋借りよう。金は俺が出すから」
「いや、二人部屋を一つ借りればいいだろう。それとも、私と同じ部屋では何か問題が?あ、ちゃんと半分出すからな」
くっ、レフィーヤのやつ挑発的な笑みを浮かべている。さながら、『どうせお前には何もできないだろうこのチキンめ』と語っている。いや、レフィーヤはそんな嘲笑を含んだ顔しないけど。でも、もし手を出そうものなら余裕で打ちのめされて捕まるわ!
あーもういいや!
「そうだな。俺が意識しなければいいんだもんな。おばちゃんそれで三泊頼むわ」
俺はそう言って一万五千ジルドを置く。その上にレフィーヤが一万五千ジルド乗せる。
「お湯はどうする? 俺は部屋の外に出てるけど」
「自分で作れるから問題ない」
「石は」
「そっちも持ってる」
「了解」
生活魔法で洗浄があるけどやっぱり体を拭いた方がさっぱりするもんな。
自分で作れるってのは便利だなぁ。俺もどっかで使えるようにならないかなぁ?
「部屋は二階の左通路突き当たりで、今から夕食食べれるけど、どうする?」
鍵を一つ差し出しながら質問してくる。
ちょうどお腹も空いてるしこのまま食ってくかな。
「どうする? 」
「ミストの好きなようにしてくれ」
「じゃあ食っていこう」
「ん、わかった」
夕食は野菜炒め、米、スープだった。
そう、米が出たのだ! 今日初めて知ったんだが、この世界は歴代勇者の影響で米も一般的に食べられているらしい。
とても美味かった。久々の地球を感じさせる物に涙ぐんでしまい、レフィーヤに心配されてしまったが、仕方ないだろう。
因みにレフィーヤの食事風景は品があり、美しかった。
「じゃあ、鍵はレフィーヤに渡しておくぞ」
「わかった」
「じゃあ部屋に行くか」
レフィーヤと共に食堂を後にしようとすると俺の前に足が突き出された。イメージは不良が自分の席に向かう転校生に足掛けをしているような感じだ。
足を突き出した主は悪人顔をしたくすんだ金髪の冒険者らしき男だった。周りには2人の仲間がいる。
まぁ、こうなる事は予想していた。無視してもいいけどそれはそれでうるさそうだからなぁ。
「何か?」
「おい、エルフのねーちゃん。こんなガキほっといて俺たちと遊ばねぇか? 俺たちの方がいい思いさせてやるぜ?」
三人は下品にニヤニヤ笑っている。
はぁ〜、俺は無視ですか。まあいいや。レフィーヤさん、絶対についていかなくていいですから、なるべく穏便にお願いします!
「断る。それに......」
「ああん! 俺たちよりそっちのガキの方がいいってか!?」
レフィーヤの言葉を遮ってガラの悪い冒険者が叫ぶ。
てかこいつらこんな誘い文句でナンパできると思ってるのか? 俺と対して変わらないルックスのくせに。
「それに......君達は私の好みじゃないんだ。ごめんね」
レフィーヤがほんの少し嘲笑を含んだ笑みを冒険者達に向ける。だが、そんな顔も様になっている。
でもさ、レフィーヤさん、その言葉は俺にも会心の一撃を与えています。
何故かって? 俺と彼らのルックスの差はほとんんどないと思う? 50歩100歩くらいだからだ。
つまり、彼女がイケメン大好きっ子だったら俺の片思いは実らないって事だ。暗に振られたかもしれないな……
「じゃあそっちのガキはどうなんだよ? 俺たちとそう変わらねぇ顔じゃねぇか」
「勘違いしてもらっては困る。俺ごときが師匠の恋人になれるわけ無いだろう! ただの一番弟子だ! 弟子が師匠に手を出すわけ無い。それに俺が何かしよう物なら触れる前に締め上げられるわ! ですよね、師匠」
さて、ここで颯爽と......では無いが俺参上。無邪気な弟子役を演じきるぜ!
俺は師匠の手を取り、目で合図を送る。
「そう、私たちの関係は師匠と弟子、それ以上でも以下でもない」
「クッソ! 恥かかせやがって!テメェら人気のない道を歩くときは気をつけるんだな」
「そうか。ご忠告ありがとう。これからも気をつけて歩くよ」
そう言いながらレフィーヤは冒険者カードをひらひら降る。
「げっ、高ランク冒険者かよ。やめだ、やめだ。チッ さっさと行けよ」
おお、高ランク冒険者って肩書きだけでチンピラは黙るのか。すごいな。
あ、今の俺は熱血な弟子だった。
「お前から絡んでおきながらなんだその態度は!」
俺は熱血な弟子役。俺は熱血な弟子役。俺は熱血なry
「もうやめろ、行くぞ」
「はい、師匠!」
レフィーヤが俺を宥め、二階に上がっていく。そして俺はそれに追従する。
二人とも二階に上がったところで演技を解く。
「どうだったレフィーヤ? 俺の演技は?」
「50点かな。機転が効いていたが、ちょっと演技臭かったな。今時あそこまで師匠のことを思う弟子はいるのか?」
いや、レフィーヤの弟子なら同じ部屋に泊まれるとか、俺だったら忠誠を誓うね。
「さぁ? いるんじゃね?世の中は広いらしいし」
「そうそう、君は特別容姿が良いわけではない。でも、凄い酷いという訳でもない。あまり自分を卑屈するな。
なぜその事を?
「まさか......顔に出てたり?」
「私が『好みじゃないんだ』って言った時に顔が歪んだからな。因みに私はあの冒険者より君の方が良く見えるぞ」
「さいですか。エルフは美男美女が多いんだよな。やっぱりイケメンは見慣れてるとか?」
「エルフは嬉しいことに容姿が端麗な者が多い。私も人並み以上には容姿が整っていると自負している。だからこそ、エルフの好みは色々ある。太い腕が好きな人、細い足が好きな人、兄弟しか愛せない人。もちろん整った容姿が好きな人もいる。
エルフだって自分の好みの人を見つけるのは大変なんだよ」
なるほど。エルフって最高の種族じゃね? もしかたらフツメン好きの超絶美人がいるんじゃね?
にしても、贅沢な悩みだな。好みの人を見つけられないって。こっちにはどうやっても片思いの人と付き合えない人がたくさんいるのに……俺は違うよ!?
「そうか......」
部屋の内装はまず入ってすぐ二人がけの机と椅子。
右にはシングルベットが二つ少し間を空け並んでいる。窓からは月明かりが入ってきている。
空気が汚染されていないこの世界では大量に輝く星や、二つの月もよく見える。
荷物をベットの下に入れる。
「体を拭くから悪いが......」
「ああ、わかってる」
俺は部屋の外に出て『洗浄』を唱える。
因みに生活魔法は誰でも無詠唱で詠唱できる。
鈍感主人公ならここで早く入りすぎて裸のヒロインと対面、からの『きゃーーーー!!』でビンタオチだろうけど。俺がそれをやるとしゃれにならない。すぐに気を失い、気づけば捕まっているだろう。
「おっ『自己進化』が使える」
幸いここは突き当たりなので人の目はない。
俺はスキルを発動した。
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初、異常事態からの生還おめでとうございます。
今回はこちらから自分の進化する道を極めることができます。
『迷宮突破』
迷宮内での行動に補正大アップ。
迷宮の最下層に到達すると一つの迷宮に対して一回だけスキルがレベルアップする。
スキルレベル×10の階層のマップが一部わかる。
迷宮内での獲得経験値アップ。
補正にはステータスにはない他人からの印象値や魅力も入る。
『迷宮のお供に専用の道を』
『敵前逃亡』
敵を目の前にした時ランダムテレポートで地上のどこかに逃げられる。
敵かどうかの判断基準は自分に明確な敵意、殺意を示すか、敵から攻撃を仕掛けてくるの二つ。
転移はスキル所持者のみ移動。
逃げた先の安全性は不明。
体力や魔力など万全の状態で避難できる。
自分に親しい者が近くに多い程安全な町の近くに転移できる確率が高くなる。
『強くなるには時には逃げも必要です』
『新生狂気』
『無我夢中』の進化スキル。発動条件などは変わらない。
全能力値が3倍になる代わりに、残り体力が1割を切るまで止まらない。
獲物が近くにいないと自分から探しに行く。 目は金色にひかるため、狂化系スキルを使ってるとは判断されにくい。
『さらなる狂気は使用者を新たなる人種に進化させるだろう』
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まぁ、これは迷う事なく『迷宮突破』を選択するが、なんで狂気が進化したんだ?
あのギルドでの一件かな?
さてと、ステータスは......うぉっ新スキル『死に損ない』なんてのを覚えてるじゃん!
なんて不名誉な......
さぁ! 俺の夜はこれからだ!
読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字等ありましたら報告していただけると幸いです。
ステータスはまた次回! ありがとうございました!




