21、『王道降臨』 御都合主義万歳!! ってあれ?
エルフの少女が長い金髪を風になびかせ、崖の上から飛び降りる。
彼女は護衛依頼で使っていたロングソードとは別の、翡翠色の刀身の長剣を構えていた。
両手でロングソードを振り下ろし真下にいたオークを一刀両断する。
彼女が着地したのは俺の目の前だった。
なんで、貴女がここに? まぁどうでもいいや。
御都合主義万歳! 女神様ありがとう! レフィーヤさん、大好きです!
今すぐ感謝の言葉を伝えたかった。しかし、俺の口から出たのはーー
「グァァァァァァァ!!!」
ーー獣のような叫び声だった!
体が自動で操作され、彼女の背中を水晶龍の短剣で切りつけるーー
ガキン!!
ーーしかし、刃がレフィーヤに届きことはなかった。
彼女は不可視の何かで刃を防ぎ、こちらを向き呟いた。
「これは? ......ああ、そういう事か」
一瞬不思議そうな顔をして、俺の目を見て納得していた。
俺の目は一体どうなっているんだろうか?
「はあっ!!」
彼女は走り出し、オーク二体を斬り伏せながら俺の視界から消えてしまった。
ああ、行ってしまった。まぁ、こんな状況を見れば誰だって逃げ出したくなるか......なんせ、助けた相手に切りつけられたんだからな。
こんな事を考えていても体はオートで動いている。
「グフ!!」
オークの槍が脇腹に刺さった。でも、痛みがない。俺は本当に生きているのだろうか?
オークが槍を抜いたところで水晶龍の短剣を投げヘッドショットを決める。
死んだオークから水晶龍の短剣を引き抜き次の標的を決める。
その時ふと、体の力が抜けた。体を支えられなくなり川の浅瀬に倒れる。
うつ伏せに倒れ込んだ瞬間、激しい痛みが俺を襲った。
「はぁ、はぁ、はぁ、うっ、ガアァァァァ!!」
全身の痛みと、腹部の強烈な痛みに叫びながら、どうにか顔を持ち上げ前を見ると銀色に輝く、ショートソードを持ったオークが二体、にやけた面をしながらゆっくりと、こちらへ向かってきていた。
「グゥぅぅぅぅぅ、クソッ、どうにかテメーらを殺して生き延びてやる! 」
もう氷柱は出せない。いや、これ以上出したら俺の体か短剣どっちかが壊れると感覚でわかった。
でも、どうでもいい。この場を生き残ったところでどうせ死ぬだろう。だが、こいつらに殺されるくらいなら! 全力で争ってやる!
俺が意を決して氷柱を創り出そうとするとーー
ブチブチブチ!!
ーー二体のオークの首が同時に落ちた。
「正気に戻ったか? 」
ロングソードを振り、血を払いながら彼女は歩いてきた。
ここでなぜ十体近くいたオークが二体まで減っていたのか理解した。
彼女がオーク達を後ろから減らしていたんだ。
タイミングよく彼女が現れなければ俺も彼らと同じように戦いの中で死んでいただろう。
俺の今の状況は全身から大量出血をした状態で川に浸かっている。
体は冷え、血も水の中にどんどん流れていく。また痛覚が消えた。
俺は彼女の目を見て掠れた声を出す。
「レフィーヤさん、ありがとうございました」
お礼を発したところで俺の意識がまどろむ。また、走馬灯が見える。
どうやら召喚されたところからのようだ。
リュウゴやミサキ、ラン達との自己紹介。
夜中にミサキに会ったこと。
リュウゴが勇者で、俺はスキルが一個とわかった時の事。
自己嫌悪に浸った時のこと。
女神様との会話の記憶も蘇る。
ギルド登録時のこと。
護衛以来のこと。
リンス達の依頼を受けた時。
みんな死んだ時。
全ての記憶を見た俺は『薄っぺらい』という感想しか浮かばなかった。
ああ、もっと濃い人生を送りたかったな。
俺の視界は暗転した。
◆レフィーヤ視点◆
私はランクB依頼のオークリーダーの討伐依頼を受けていた。
「ふっ!!」
「ブヒィっ!! 」
前方から迫ってくる二体のオークを夜風の剣で胴体を横一文字に切り裂く。
こちらに倒れてくるオーク達の間をするりと抜け、走る。
呪文を唱えている二匹のオークマジシャンめがけ、精霊の力を借りて風の刃を飛ばす。
不可視の刃に喉を切り裂かれ、真っ赤な鮮血が舞い、血の匂いが濃くなる。
槍持ちのオークと弓持ちのオークがペアで攻撃を繰り出してくる。
こちらに突き出された槍を一歩、横にずれ回避、前方に加速。
すれ違いざまに一閃 ! 首を刈り取る。
飛んできた矢は精霊術で擬似、風の盾を展開して防ぐ。
後はオークリーダーだけだ。
少し先に銀色の剣と盾を持ったオークリーダーを発見する。
「ッッ! 」
無言で飛びかかり、切りつける! が、盾で防がれてしまう。
「ブヒィィィ!」
「シッッ!」
オークリーダーが剣を振り下ろす。ナイトウィンドで弾き、突きを繰り出すもやはり盾で弾かれてしまう。
オークリーダーの突きを回避し、体の重心を低くして足を切りつける。
「ブヒッ!」
オークリーダーがよろけたところで顔に思いっきりナイトウィンドを突き刺す!
「ハァッ!!」
精霊術で返り血がかからないようにして剣を抜く。
「これで依頼達成かな」
オーク達の死体を収集バックにしまいながらふと、考える。
この、硬い口調めんどくさいなぁ。兄さんも流石に私のこと心配しすぎじゃないかな。
『男が近づくと心配だ』なんて言ってるけど私ももう40歳なのに、女の子以外とパーティー組むのはダメだ。なんて子供扱いしすぎでしょ。
今度男の人とパーティー組んで兄さんを驚かせようかな?
ミストなら大丈夫そうだったし。あそこまで魂が無色の人っていたんだ。
私達エルフを見る人は大抵気持ちに色欲が入るのにな。
エクスはずっとピンク色の意思をこっちに向けていたから自意識過剰ってわけでもなさそうだし。
エクスはしつこくパーティーに誘ってきて迷惑だったなぁ。思考はピンク色だったし、今まで見てきた男の中でミストが一番人畜無害そうだったなぁ。
全部に諦めてるなんて事は無さそうだし。
「帰るかな」
オークをしまいきった私は剣を洗う為川沿いに帰ることにした。
◇◇◇
魔物が集団で戦っている気配を感じたと、精霊が教えてくれた。興味本意でそこを見てみると。
そこにいたのはオークに囲まれたあの少年だった。
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