20、『新人奮闘』 狂人化......発動!
連続投稿したかったけど無理でした。
ーー時間は数時間前に遡る。
俺は大滝の森をとあるパーティーと歩いていた。
「へ〜リンスとリルは付き合ってるのか」
「そうなんだよ。幼馴染なんだけどさ、名前が似てるって理由で昔っから一緒にいて。いっつもイチャイチャしてるんだよ。見てるこっちが恥ずかしいくらいにさ」
俺はシャンと会話をしながら前を見た。護衛という立ち位置でこの場にいる俺がこんな後方にいる理由は、彼らの方が敵感知能力が高いからだ。
こういう時には下手にプライドなんて張らずにできるやつに任せるのが一番だ。適材適所、自分ができる事を誠意いっぱいやるのが一番だったりするからな。
「そんなこと言ってるシャンはどうなんだよ。いないのか? 彼女」
同い年のシャンとはとても話しやすい。この世界の成人が15歳だからなのか知らないが、この世界の子供は基本早熟だ。
だから同い年とは思えないくらい人ができている。地球で見こんな会話していたなぁなんて思いながら森を歩く。
リンスによれば地図などの準備はしてあるそうで今は川に向かっているようだ。
「実は、町に親しい子がいるんだよね。ランクDになって安定したら告白しようと思うんだ」
「まじか! 応援するよ......一応聞くが......この依頼が終わったら告るわけじゃないよな? 」
「うん、そうだけど。どうかした? 」
よかった。こんなところで王道の死亡フラグ立てられたらシャレになんないーからな。
「いや、なんでもないよ」
それから少しすると進行上に一突き羊が二体いるのがわかった。
「じゃあ倒すから、しゃがんで息を潜めていてくれ」
人を後ろに守りながら戦うのは難しい。だから俺は彼らから離れると草の中を移動し、羊の後ろ側からナイフを二本投げた。
羊の足を狙ったが不思議と投げるホームがわかった。一本は羊の後ろ足に見事命中したが、もう一本は土で薄汚れた毛を少し刈っただけだった。
ナイフが外れた方は異変に気付き周囲を見渡すが、ナイフが刺さった方は動かなくなる。
よし、即効性の毒が効いてきたようだな。
この毒は安物なのでランクD以下の魔物にしか聞かない上に、少しの間しか麻痺しないが、ちょっとした隙ができた。
俺は低い姿勢から走り出し、ショートソードを抜き、羊(麻痺)の背後から突き刺す!
羊が灰になり剣の勢いに体が持ってかれそうになるのですぐにショートソードから手を離し、水晶龍の短剣を引き抜く。
引き抜いた頃には数メートル先で羊も、左右のこめかみに付いている異様に尖った真っ黒いツノをこちらに向け、攻撃の体制に入っている。俺が一瞬で距離を詰める事が出来なければ、後数秒で突進、肉弾し、俺は死ぬだろう。
だが、こっちにも手はある。
逆手持ちした短剣を下から振り上げる。すると、まるで魔法のように三十センチくらいの大きさの氷柱が三本現れ、俺の意思に従い羊に突っ込む。
羊が走り出したのと氷柱が突っ込んだのは同時だった。
羊は俺の1メートル程前で灰となり、俺の周囲に紫色の灰が舞う。
左側のツノが残っているどうやらドロップしたようだ。ランクD以下の魔物は残る部位があるかは運次第なので儲けが少ないものが多い。まぁ魔石は絶対残るから討伐した証明が出来るってのがせめてもの救いかな。
「周囲に敵入るか? いなかったら出てきてくれ」
「やっぱり俺たちより強いな。速さ、攻撃力、武器、どれをとっても追いつけないぜ」
軽口を叩きながらリンスたちが出てくる。
「俺にはみんなの様な技術がないからな。ただのスキルが良かっただけだよ」
その後、川に行くまでにまた、一突き羊が二匹いたがおんなじような方法で討伐することができた。
ちなみにドロップはなかった。
さて、この水晶龍の短剣の能力だが、元々はどんなランクの氷魔法を使えるようになったりステータスが爆発的に上がったりと、物凄い武器らしいがこの短剣の刀身に使われているのは試練を与える龍だったらしく短剣に認められないと全ての能力を使うことができない。
今使えるのはせいぜい初級の氷魔法くらいだ。
それでも氷魔法は使える者が少なく、強力な魔法の為初級でも十分だと言えるがな。
ちょっとした崖の下で冷水草を採取している時奴が現れた。
俺は少し高い位置にある石の上に立って周囲を見張っていた。
「やばい! オークが三体現れた! みんな、対岸に隠れろ! 早く行けぇぇー! 」
「まじか!? 」
「へ? 嘘でしょ!? 」
「ほら! 早く行くよ! 」
シャンがうまく対岸に誘導してくれたようだ。良かった。ただの一般人である俺に格上の相手を三体、それも人を守りながらなんて無理だ。
「依頼は受けちまったし、できるとこまでやってやるぜ! 」
まぁ、やばくなったら逃げてもいいよね?
水晶龍の短剣を使い氷柱を五本構成し、オークに奇襲を仕掛ける。仮にオークA、B、Cとする。
オークAは頭に氷柱が二本刺さり死亡。
オークBは右肩に氷柱が一本刺さり手に持っていた石斧はもてそうにない。
オークCは氷柱が一本でっぷり太った脂肪に突き刺さったが目に見えたダメージは与えられなそうだ。
一本は外れた。
オーク達はこちらに気づいたようで走ってくる。もう一度氷柱を構成し、放つ!
クッソ、後のことを考えるとこれ以上は作れないぞ!?
刺さったのは三本だけだった。
オークBは一本避けたが、腹と右足に一本ずつ、オークCは一本石斧で打ち砕いたが一本は左手に刺さった。
石の上から飛び出し、水晶龍の短剣を両手で構える。
「おっらぁぁぁぁ! ! 」
刀身を下に向けオークCに振り下ろす!
身長が2.5メートル近くあるオークを正面から掻っ捌く!
ーーブチブチブチ!!!!
肉と筋を切り裂くおぞましい音がなる。
吐き気がする! 気持ち悪い! でも、やらなければ、死ぬ!
「うおぉぉぉぉ!!」
オークCから離れ、倒れているオークBの頭にもナイフを突き刺す!
「はぁ、はぁ、はぁ......」
ランクC以上の魔物だから死体がそのまま残る。辺りに血の匂いが充満し、酷い吐き気を催す。
吐き気がするって事はまだこちらの世界に完全に混じっては無いんだよな。
そんな事を思うと、この気持ち悪い空間さえも嬉しく感じた。
「う、うぇぇぇぇぇ」
俺は吐いた。
数分後小川で口を漱ぎ向こう岸に移動する。
「おーい、リンス! 終わったぞー」
「ひ! く、くるなぁぁ! み、ミストさん! 」
「今行く! !」
声の方向に行くとリンス達がオーク五体に囲まれていた。
「なっ! こんな所に五体も! ?」
「俺が殿をやる! 逃げるぞ! 」
どうにかさっきの川まで戻ってくる。しかし......「こっちにもオークが六体!?」
ショートソードを抜き応戦する。
リンス達も武器を抜いたようだ。
木を背にして戦う。
氷柱を七本構成し、正面の五体に向け、放つ!
く、氷柱は後二本が限界だな!
致命傷を与えられたのは二匹だけだった。残りの三匹は与えられたダメージは少量だろう。
「てい! 」
シャン、リルの二人が矢を放つ。しかし、これも効果は今ひとつのようだ。
「おりゃぁぁぁ! 」
「ッッッ! 」
リンスは雄叫びを上げ、俺は無言で致命傷のオーク二匹に斬りかかる。
リンスの突きが喉に刺さり、一匹は絶命、もう一匹も俺が剣を振り下ろし討伐、そのままの流れで切り返し! 右から斧を振りかぶっていたオークを切り裂く!
「クッソ!」
どうやらリンスのダガーでは間合いが狭く、致命傷に届かないらしい。むしろ格上相手によく避けていると言える。
俺も必死にショートソードを振るが、現状はちっとも良くならない。それどころかずっと悪くなっている。
向こう岸からオークが六体到着した。
この川を下に下ればちょっとした滝がある。そこに飛び込めば運が良ければ生きて帰れるだろう。少なくともここに留まるよりは......
「俺が少し時間を稼ぐ! お前らは川を下って、え? 」
シャンが死んだ。真横から石の弾丸が飛んできた。瞬殺だった。俺の前にいるオークの後ろに魔法を使える奴がいるらしい。
これが、この種族のバリエーションの多さがオークがランクCと言われる理由だ。
川にシャンの血が流れ出し、血の匂いが濃くなる。
ここでシャンが死ぬ事は俺たちの精神に大きな綻びをよんだ。
皆の動きが止まった。その隙をオークは見逃さなかった。
「ぐっ! ぐあぁぁぁぁぁ! 」
「リンスッ!!」
リンスが槍を持ったオークに突き刺された。槍を持ったオークを横から斬りはらい、すぐに駆け寄るが胸を突かれており、既に事切れていた。
「キャァァァァァァァァァ!!!」
森にリルの悲鳴がこだまする。
「もう......いやぁぁ......」
リルがダガーを手に取り喉に突き刺す!
クソッ! なんなんだよ!? なんで今日に限ってこんな異常事態が起きるんだよ!
身体中に打撲と切り傷を作りながらオーク達の間をすり抜け、ボロいローブを着たオークマジシャン(仮)に氷柱を二本放つ!
ヘッドショットが決まり、どうにか魔法使いは潰せた。しかし、絶望はまだ終わらない。
ああもう! オーク何体いるんだよ! 皮肉だな、あの時『敵前逃亡』を選んでいればなぁ。
もう.....いいか......
「狂人化......発動」
瞬間! 思考がある感情に埋め尽くされる!
もっと暴れたい!もっと倒したい! もっと殺したい!
それはまるで自分の体を他の誰かが操る様子を側から見ているようだった。
全身傷だらけ、血まみれ、骨も何本か折れているだろう。だが、痛覚はとうに無くなっていた。
「ガァァァァァァ!!」
口から出るのは獣みたいな唸り声だけだった。
俺は大きく水しぶきをあげながら走り出す!
ショートソードが折れた! が、そんな事は気にも止めず、俺たち剣を投擲し、水晶龍の短剣を抜く!
オークはまだ10匹以上はいるだろう。
いつ終わるかわからない、そんな地獄のような光景の中俺は不意に金色の光を見た。
読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字等ありましたら教えていただけると幸いです。
これからも読んでいただけると大変嬉しいです!




