第94話 試合に負けて勝負に勝つ方法
「我が主人は完璧なれど、不壊の巨兵といえども時間の研磨には耐えられなかったのだろう! このような結果は試練の数として数えられぬ!」
塔の管理人は石像が壊れたのはどうも自壊であると判断したらしい。
「いや、俺たちが壊したんだ」
所詮は推測。それならば俺たちが壊したと言い張ろう。
どうせ証拠もないのだ。
「有り得ぬ! この部屋に入ってから一挙手一投足見ていたが、そのようなそぶりは一切なかったぞ!」
「ムショク、どうするんですか?」
まぁ、実際一歩も動いていなかったのだから、その通りだろう。
引っ込みもつかなくなったこの状況にナヴィはじとっとした目でこちらを見た。
まぁ、ハッタリなのだ。どうせなら最後まで威勢を張ってみよう。
「……ふむ、任せろ」
塔の管理人のこの言葉。
ナヴィは分からなかったようだが、明らかにおかしかった。
部屋に入ってからなら、俺たちが逆から入ってきたことを知っているはずだ。
が、それを追究しないということは、管理人は俺たちが部屋に入った時ではなく、この部屋の入口、俺たちからしたら出口だが、それを開いてからが監視対象になっているはずだ。
「俺たちの動きが早すぎて見えなかったんだろ?」
「否! お前たちの能力をスキャンしたが、到底私の監視下から逃れられるものではないわ」
なんか明らかに格上感を出して話している。
というか、スキャンなんかできるなら俺らが勝てないことくらいわかっているだろうが。
わざわざ巨兵となんて戦わせるな。
「能力を隠匿している可能性もあるだろ?」
「隠匿看破は私の最も得意としたところだ」
「後出しでそういう能力を明かしていくのは卑怯だと思うぞ」
嘘をつく身にもなってほしい。
「どう言われようともギガントネクロは顕現前に壊れた、という結論をつけざるをえないな」
まぁ、実際その通りなんですけどね。
「ナヴィ、質問。
ギガントネクロは不壊の巨兵といったな」
「はい、魔力が残り続ける限り修復し、復元します」
「勝手に?」
「はい、ギガントネクロの中心に埋められている制御コアが魔力を利用し瞬く間に治します」
「あー……なるほど……」
制御コアさえ破壊されなければ不死身っていうよく言うあれだ。
「管理人、ということらしい。
ギガントネクロを起き上がらせてみろよ」
「ちょ、ちょっと!」
俺の挑発を聞いてナヴィが俺の袖を引っ張った。
「いいんですか? そんな挑発をして」
「ダメか?」
「倒したってことで押し通しましょうよ。
どうせ、戦ったって負けるんですから」
「いや、分からんぞ?」
「分かります! 大体戦闘技術はからっきしでしょ?」
「ふふふ、自慢じゃないがな」
「武器もないし」
「そういえば、あの杖はそこに差しっぱなしか?」
俺が唯一装備していた杖。まぁ、最終決戦前に手放したんだが。
「今、根が生えて小さな木になってますよ」
「マジか」
それには驚いた。
ぜひ、見にいきたいものだ。
「まぁ、俺の予想が当たってたら、扉が開いた理由も分かっているつもりだ」
「だから、それは事前に壊したからじゃ?」
俺はナヴィから管理人に視線を戻した。
「戻せないだろ?」
「くっ……」
塔の管理人が悔しそうに唇をかむ。
「これ、何かわかるか?」
俺はポケットから赤く丸い宝石を取り出した。
「それは、ギガントネクロの制御コア!」
塔の管理人が俺のそれを見て驚愕の表情を浮かべた。
「今、俺が盗ったのを見えたか?」
「そ、そんな……」
塔の管理人は未だ信じられないという表情だ。
塔の管理人の目にも映らぬ神速で宝石をとり、そしてこの場に戻ってくる。
そんな神にも等しい技を見せたわけだ。
「いつの間に拾ったんですか?」
ナヴィは俺の耳元まで飛び上がると小さな声で尋ねた。
「空気読めよ。
俺が目にもとまらぬ速さでとったことにしたいのに」
「なわけないでしょ」
「まぁ、入ってくる時に足元にあった。
まさかと思ったが、やっぱりこれが制御コアか」
「ですです。まったく、悪運が強いですねぇ」
ナヴィが俺の肩に呆れた顔で俺の肩に腰を下ろした。
「さぁて、隠匿看破が得意なんだろ?
ほら、今のは見れたか?」
「た……確かに、私の目では確認できませんでしたが……」
「だろ? これで俺らの実力は分かっただろ?」
「くっ……」
「お前の負けだよ。
敵の実力も測れないような未熟なやつには負けを認めるのさえ辛いか?」
「煽りすぎじゃないんですか?」
ナヴィが小声でそういった。
「こういうプライドが高そうなやつは早々に折っておけば反撃がなくていいんだよ」
「本当ですか? それ?」
「ほら、さっさと諦めてくれ」
「……分かりました」
今まで俺たちを見下ろしていたような塔の管理人がゆっくりと降りてきた。
その観念したような様子を見て俺はナヴィに「なっ」と行った表情を見せた。
その表情に彼女はやれやれとため息をついた。
「そうか、なら」
「通常では有り得ないが、その実力私自身を持って試練とする!」
「えっ?」
「私にこうまで言ったんだ。もちろんお前は強いんだろ?」
管理者の白い輝きがなくなり、そこには白銀の鎧をまとった金髪の女性が姿を現した。
「全く、煽りすぎって言ったじゃないですか。
ムショク、当然何か手があるんですよね?」
「えっ、まぁ、あれだ……えーっと……」
「ちょっと、こんだけ挑発したのに、何も考えてないんですか!!!」
「まさか、あいつがやる気とは思ってなかったんだよ!」
「バカー! ムショクのバカー!」
「夜天の塔の守護者デルエルミナ。
――参ります!」
「ちょ、待っ――」
俺の言葉も聞かず、デルエルミナが床を蹴り一直線に跳ねるとムショクの懐に飛び込んだ。
盾も武器もない。飛び退きながら腕で防ごうとするが、デルエルミナはそんなことお構いなしに俺を蹴り飛ばした。
「ぐはぁっ!!」
大した戦闘力もない俺はその蹴りを受けると受け身も取れず床に転がり、壁にぶつかる。
「ムショクー!!!」
容赦なく蹴飛ばされた俺を心配してナヴィが倒れている俺のそばまで飛んできた。
「やはり、弱いですね。
先ほどの威勢はどうしました?」
「いうな。今痛みで頭がガンガンして考えられん」
痛みに耐えて何とか立ち上がる。
一撃でこのダメージとは、やはり俺は戦闘に向かない。
大体人を吹き飛ばす一撃って車に撥ねられたようなもんだろ。
頑張って起き上がった俺を褒めてほしいくらいだ。
「お前、殺す気かよ……」
「試練ですから当然です」
俺はカバンの中からポーションを取り出すと何とかそれを口に運んだ。
その瞬間、身体からの痛みが消え、たぶん折れていたであろう骨が治っていくのが分かった。
我ながらすさまじい出来だと思う。
現代医学の常識をはるかに超えてくれるポーション。
ゲームじゃなくなったのだから本当にファンタジーな世界だ。
「ここらへんでやめてもらえると俺も助かるんだが」
「――否!」
否定の言葉と同時にデルエルミナは俺の近くまで飛び込むと勢いを殺すことなくその拳で俺を殴り飛ばした。
まるで、風に舞う木の葉のように俺の身体が宙を舞う。
「ムショク!」
ナヴィが心配そうに叫ぶが、デルエルミナの方は不可解な表情で宙を舞った俺を見た。
飛ばされた俺はまるで風に乗るようにふわりとそのまま着地した。
「何をしたのです?」
「さぁ?」
さっきと違い無傷な俺を見てデルエルミナが不快そうに睨みつける。
「何をしたかわかりませんが、いつまでよけ続けられますか!?」
デルエルミナは一足飛びに飛び込むと、拳を振り上げた。
俺は思わず受けようと構えたが、その瞬間、素早く俺の後ろに回り込むと後ろから俺を蹴り上げた。
蹴り上げられた俺をジャンプで追いかけると空中で俺を殴り飛ばした。
投げられたボールのように弾かれ飛ばされた俺だが、壁に当たる前に勢いが弱まりそのまま地面に着地した。
デルエルミナは地面に着地すると、平然としている俺を指さした。
「反応速度、身体能力どれをとっても一般人並み」
「そりゃどうも」
「が、軽いですね」
「軽い?」
デルエルミナの言葉にナヴィは不思議そうに尋ねた。
「どうやら、何らかの方法で体重を操作していますね?
まるで舞い散る葉を叩くようです」
「分かったか。
その通り、俺が飲んだのは≪浮遊ポーション(軽)≫だ。
今の俺の体重は今や綿毛並みだぞ!
綿毛にどんだけ攻撃しても残念ながらダメージは与えられないぞ」
「なるほど。
その程度の手品で私に勝ったつもりでしょうか?」
「なんとでも言え、お前のお得意の攻撃は見ての通りノーダメだぜ」
「1つ……」
デルエルミナが人差し指を上げた。
「どうせ、そのポーションの効果は永続ではないのでしょう?
効果が切れるまで殴り続けてあげましょうか?」
デルエルミナの言葉にナヴィが心配そうに俺を見る。
そんな目で見るな。
すまん。相手が正解だ。
「1つ、いかに宙に舞う木の葉であっても鋭い刃を前にして耐えられますか?」
そういうと、デルエルミナは手を前に出した。
手のひらに光が集まり、それが剣をかたどった。
すまん。それも正解だ。
「が、それでは面白くないでしょう」
剣を見せるとデルエルミナはすぐにそれを消した。
「所詮、軽くなっただけ――」
デルエルミナは俺のそばまでゆっくり歩くと、ゆっくりと手を伸ばした。
吹き飛びそうな埃を拾うように丁寧に、だがその力は、俺が振り払おうとするが一向に動かないほど力強いものだった。
彼女の手が俺の首をつかんだ。
「これに耐えられますか?」
俺が引きはがそうと首にかかった指を持つが、デルエルミナの冷たい指はしっかりと俺の首に食い込み俺の力では到底剥がせるものではなかった。
「弱きものですね。
所詮、お前はメクア・ザラの宝物を受け取る資格がなかったのですよ」
「メクア・ザラの宝物がどれだけ素晴らしいか知らんが、お前は絶対負けを認めさせてやる。
『ムショク様は強かったです』って言わせてやる」
「ふっ、戯言を」
デルエルミナが首を持ったまま俺の身体を浮かせた。
さっきよりも指が首に食い込み息苦しくなる。
「お前……ポーションを知ってるか?」
「何をおかしなことを」
「ここずっとこの森を歩いているときに俺は作ってしまったんだよ」
「何をです?」
「≪支配のポーション≫。
それを飲むと、少しの間だけ俺の言うことを必ず聞くことになる」
俺はポケットからムタンの実を出すと、その身の中に入れたポーションをデルエルミナにかけた。
「そんな夢物語のポーションが都合よくあるはずありませんね」
「まぁな、さすがの俺も4つしか作れず飲ませるのに苦労したんだ」
「飲ませる?」
「ナヴィ、絶対領域でデルエルミナの足元に来い!」
「えっ、私? って、勝手に身体が!?」
「毎朝、手を変え品を変え飲ませ続けた甲斐があったな」
「って、私かー!!! さっき勝手に絶対領域を使ってたのはそれが原因かー!!!」
ナヴィが文句を言いながらデルエルミナの足元まで来た。
「デルエルミナ、お前に掛けたのは≪支配のポーション≫じゃない。
≪浮遊ポーション(軽)≫をムタンの実に入れたものだ」
「私を軽くしてどうするつもりですか?」
「軽く? 勘違いしていないか?」
その瞬間、デルエルミナが膝をついた。
「身体が……重く?」
初めてその効果に気づいたのは≪沈黙のポーション≫を作った時だった。
ムタンの実に入れているとポーションの効果が≪ノイジーポーション≫に変わった。
沈黙から暴露に、ムタンの実にいれると性質が反転する。
「そう名付けて≪ヘヴィーポーション≫」
デルエルミナは両膝をつき、自分の身体の重さに耐えている。
もう、俺の首まで腕を上げているのでさえ辛そうだ。
「くっ、だが、お前には私を倒す手段はないぞ」
確かにデルエルミナのいう通り俺がこいつを倒せる攻撃なんて何もない。
だからといって方法がないわけではない。
「じゃあ、おかわりということで」
俺はさらにムタンの実に入った≪ヘヴィーポーション≫をデルエルミナにかけた。
デルエルミナの身体がさらに重くなったようで必死に座り込むことに耐えていた。
今や俺の首を絞めることよりも自分の体重を支える方に力を使っているようだ。
「ちょっと、ムショク、私が足元にいるんですけどー!!」
「そうそう、デルエルミナ、早く負けを認めろよ。
『ムショク様は強かったです』と言ったら≪ヘヴィーポーション≫の効果を相殺させてやる」
「誰が、お前ごときに」
「いいのか? このまま重さに耐えかねて座り込んだら、ナヴィが刺さるぞ」
「なっ!!!!!!」
ハッとしてナヴィは上を見上げた。
「お尻がー! お尻がせまってくるーーーーー!!!!」
「貴様ー! 神聖なる試練に!」
「逃げたいのに、動けないいいぃぃぃ!
ムショクのポーションのせいだー!」
俺はムタンの実を取り出してデルエルミナに見せた。
「俺は知ってるぞ。
強気なやつはお尻が弱い!」
「ムショクーーッ! やめて! やめてさしあげて!」
「じゃあ、おかわりだ」
「ムショクー!」
デルエルミナより誰よりも必死なのがナヴィだ。
「お前の首を引きちぎってやる」
「そう言いながら、手の力はどんどん弱まっているぞ」
すでにデルエルミナの右手は俺の首から外れ、自分の膝をもち、なんとか体重を支えている。
「いいのか? ここで素直に負けを認めなければお前の可愛いお尻にナヴィが刺さるぞ?」
「貴様ぁぁぁ! お前なんぞ左手だけで十分だ!」
今まで力なかった左手に俺を殺そうと力が戻ってきた。
「はっ、ここで俺を殺してもポーションの効果は切れないぞ?
そうしたら、お前もめでたくお尻に開通だ!
まぁ、俺を殺せたら試合には勝てたんじゃないかなぁ?
だが、勝負は俺の勝ちだ!
お前は一生ナヴィを尻に刺した記憶と共に生きるんだ!」
「貴様ぁぁぁぁぁぁ!!」
「さて……次のおかわりいるかな?」
俺はムタンの実を取り出してデルエルミナに見せた。
「ム、ムショク様……」
「ん?」
デルエルミナが小さな声でそうつぶやいた。
「ムショクー! 早く!! 早く許してあげてー!!!
頭のすぐ上にいいぃぃぃ!」
「……強かったです」
まさに消えそうなほどの小さな声。
「ん? 聞こえなかったな?」
俺はわざとらしく耳に手を当ててもう一度尋ねる。
「ムショクゥゥ!! じらすなぁぁぁ、もうすぐ上! 上だから!」
「ムショク様は強かったです!
だから、許してください! もうお尻が!」
デルエルミナが涙目になって訴えかけた。
「仕方ないな」
俺は≪浮遊ポーション(軽)≫を取り出して彼女にかけた。
とたんに彼女は動けるようになりすぐさま立ち上がった。
ナヴィも≪支配のポーション≫の効果が消えたようで絶対領域を解除すると俺の肩まで必死で飛び上がった。
「で、円満解決したところでだな」
デルエルミナがキッと俺をにらみつけた。
と、同時にナヴィがものすごい勢いで俺の顔を蹴り飛ばした。




