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第93話 魔塔発見

 俺とナヴィは塔の天頂に降り立った。


「ムショクってこういうセオリー無視しますよね?」

「何のことだ?」

「こういう塔って下から登っていくのがセオリーじゃないですか」

「なるほど。確かに言われてみればそうだな」


 ゲームでも必ず下から順序良く攻略していく。


「これってそういうたぐいの塔なのか?」

「さぁ?」

「まぁ、下りれるところまで下りて無理なら上り直すって感じでとりあえず行ってみようか」


 遠くから見た塔は細長い塔だったが、いざ下りて見ると一番細い頂上でもかなりの広さがあった。


 このあたりで一番高い建造物はこの塔だった。

 木ははるか眼下にあり、遮るものがない。


 風の吹く方向に沿うように今まで通ってきた方向に目をやった。そこは本当に森が深いところだったようでこの塔から見ても森の果ては見えなかった。

 そして、逆方向。

 森が終わり遠目に街らしきものが見えた。

 

「意外と街が近かったな」

「先に街に行きます?」

「いや、まずは塔の探索だろ」


 俺は塔へ視線を戻した。


 塔の頂上は円状で石畳が敷き詰められていた。

 石の柱が周囲をぐるりと囲み、薄く白い天井が日を陰らせていた。


 中央には下に降りる階段があり、ここにはそれ以外何もなかった。


 ナヴィに目くばせすると彼女もこくりとうなずいた。

 俺とナヴィは階段を下り下の部屋へと向かう。


 しばらく階段を降りると鍵のかかっていない小さな木のドアがあった。

 俺はそれをゆっくりと開け、部屋の中へ入っていった。


「埃臭いですね」

「しばらく使ってなかったみたいだな」


 窓にはボロボロになったカーテンがかかっていたので埃が舞わないようゆっくりと開いた。

 窓から差し込む日差しが部屋の中を照らした。


「おぉ、これはすごいですね」


 古びた机とは打って変わって、乱雑に積まれた本はまだ真新しく、無造作に並んでいる鎧はまさに動き出しそうな光沢を保っている。

 それらは何かしら不思議な雰囲気を漂わせている。


「色々あるな」

「パッと見ですが、本は魔導書ですね。それも古いものが多いです。

 この鎧は……いいですね。マジックアイテムですよ」

「鎧か……重そうだな」

「まぁ、戦士でもないムショクがつけるのには重すぎますかね。

 じゃあ、このマントとかどうですか?」

「この黒いやつか?」

「はい。幻夜の(とばり)を材料に使っていますね。

 漆黒蝶の繭糸を縫い糸に使ってますからかなり貴重なものですよ」

「そんな貴重なものがどうしてこんなところに?」

「うーん……私が知らないってことは最近できた塔だとは思うんですが……」

「いやいや、数年放置したところじゃない古さだぞ?」


 窓をふさいでいたカーテンもそうだ。

 もうすでにボロボロだったし、優しく引いたにも関わらずカーテンの一部は破れてしまった。


「確かに塔自体は≪夜天の塔≫に似てますが、あれは先史時代に私が壊しましたしね」

「壊すって、おい、物騒だな」

「いやいや、≪夜天の塔≫は死の暴君と言われた危ないやつが作ったものですよ?

 ネクロ系のアイテムや魔術を好み死と呪いを愛したやつでした」

「強かったのか?」

「そりゃ、もう。

 精霊セルシウスや古龍ゲイヘルンと同列と言ったら分かりますか?」

「ブレンデリア級かよ」

「ですよ。そいつは完全に消滅させたんですけどね……」

「お前の殺したはあてになんねぇよ。

 ブレンデリアも生きていたしな」

「あれは、あいつが特殊なだけなんです!」


 実際、ブレンデリアは俺たちの世界にやってくるという快挙を成し遂げたやつだ。

 ナヴィにして規格外と言わしめる実力はある。


「はぁ……お前このセリフがフラグだったらデコピンな」

「ふふん、今と違って全盛期の私ですよ」

「でも、その死の暴君ってやつも相当なんだろ?」

「……んむぅ……まぁ、ブレンデリアじゃないにせよ大概規格外の奴でした」

「いや、もうその言葉からして嫌な予感しかしないからな」


 ネクロ系のアイテムや魔術を好み死と呪いを愛した死の暴君。

 ん?

 死と呪いを愛した?


「ナヴィ……」

「どうしました?」

「この黒いマントだが、呪われてるとかじゃないだろうな?」

「そんなこと……」


 ナヴィはジーッとマントを凝視した。


「あっ、確かに」


 確かに。じゃねぇよ。

 このぽんこつが危うく呪われるところだったじゃねぇか。


「って、お前はその呪われたマントを触っても大丈夫なのかよ」

「まぁ、ナヴィですし」

「はいはい。さすがだな。

 魔導書は……触っても大丈夫みたいだな」

「なんか、面白そうなものありました?」

「んー、死霊系の術式の話ばかりだな」

「ムショク的にははずれですか?」

「まぁ、価値がわからんものばかりだな」

「普通の冒険者なら涙して喜ぶ一品ばかりですよ」

「まぁ、俺には荷が重すぎるさ。

 じゃあ、別の部屋でも見てみようか」

「はい」


 部屋から出る長い廊下を歩くと見上げるほどの大きな扉があった。


「これはデカいな」

「奥にはもっといいお宝があるかもしれないですよ!」


 この無能妖精はすでに忘れているが、俺たちは奥からきている。

 扉を開けようとするが、何かが引っかかっているのかびくともしない。


「ぐぬぬぬぬぬぬぬ……ぬおおぉぉぉぉ!」

「もっとです、もっと力を込めてください!」

「込めてるっての!」


 どれだけ力を込めようと扉はびくともしない。


「くそ、マジか」

「むむ、どうやら強い結界が張られてますね」

「そういうなのはやる前に言えよ!」

「私だって今気づいたんです!」

「解除の仕方は?」

「いくつかあります。

 単純なのは、結界を張った術者に解除を願う方法ですね。

 これは、まぁ、本人がいるかどうかわからないので、置いておいて。

 結界の術式に介入して強制的に解除する方法。

 魔術的衝撃で結界を論理的に破壊する方法。

 魔術的な供給源を断って物理的に破壊する方法。

 同系統の魔術位相で結界自体を中和する方法。

 上げたらきりがないですが、代表的なのはこれくらいですね」

「どれも俺には手に負えない方法ばかりだな」

「まぁ、ムショクは錬金術師ですからね」

「待てよ……魔術的衝撃って用は魔法でできた何かってことだよな」

「まぁ、ありていに言ったらそうですね。

 ただ相当強い結界ですよ。

 これを壊すのはそれ相応の上位魔法が必要です」


 スライやカゲロウがいたら簡単なのだろうが……


「じゃあ、あれができるかな?」

「あれってなんですか?

 ムショクが今手元にあるマジックアイテムでもさすがにこれを壊せるものはないですよ」

「いや、俺じゃなくてお前がやるんだよ」

「残念でした! ムショクが制限解除する≪世界起動(アドガム)の宝石≫を捨てたから極大魔法なんて打てませんよ!」

「いや、今のお前でも使える魔法があるじゃないか?」

「なんですかそれは?」

「≪絶対領域≫だ」


 ムショクの言葉と同時に、ナヴィの周りを透明な結界が覆う。


「あれ、なんで勝手――って、何をするんですかあぁぁぁ!!!!!」


 ≪絶対領域≫を張ったナヴィを鷲掴みにすると、それを扉に叩きつけた。

 ナヴィが扉にぶつかるとキーンッという扉に当たったのとはまた違う音が響いた。


「一回でダメなら、もう一回!」

「あっ、ちょっと、やめ、目が回るぅぅ!」


 ナヴィを握りしめ何度もその扉に叩きつける。

 はたから見たら妖精をいじめているようだが、安心してほしい。

 彼女は≪絶対領域≫でノーダメージだ。


 幾度か叩きつけるとガラスが割れたような音が響いた。


「見たところ扉に変化はないが」


 目を回してぐったりしているナヴィを見下ろしてそう尋ねた。


「け、結界は……壊れました……うぅ……揺らされたから吐きそう」

「お前はいつも吐きそうだな」

「誰のせいですか!」


 激マズポーションを飲ませたり、握って激しく振っただけで……。

 まぁ、俺のせいか


「それはともかく」

「ともかくじゃないです!」

「押してみるか」


 俺はその扉を開けようとした。

 が、どうやら、扉の先に何かが置いてあるようで扉は少し開いただけでそれ以上は開かなかった。


「何かが引っかかっているな。

 ナヴィ、通れるか?」

「うーん、私も通れないほどの隙間ですね」

「小枝みたいな体型だからするっと通れると思ったんだがな」

「ほう。喧嘩をうってますね?」

「そんなことより、何か棒みたいなのあるか?」


 残念ながら小枝は棒ではないので、使えない。


「うーん、そうですね……」


 ナヴィと先ほどの部屋に戻りめぼしいものを探す。


「これとかどうですか?」

「これは?」

「持つ者の力を増幅させる剣です」

「ほう、これは使えそうだな」


 そんな素晴らしい効果なら冒険にも役に立ちそうだ。


「ただし、持っている間魔力を吸われ続けます」

「ダメじゃねぇかよ!」

「とはいえ、ムショクの魔力量を考えると大丈夫だと思いますよ」

「なるほど。

 ちなみに、呪われて手から離れないとかないよな?」

「んー……大丈夫みたいですね。

 ただ、魔力の吸収量が大きいので一般人なら吸われて死にます」

「おいおい」

「ムショクなら大丈夫ですよ」

「お前、簡単に……まぁ、いいか」


 ナヴィが大丈夫というなら、たぶん、大丈夫なのだろう。

 たぶん。


 俺はナヴィが選んだ剣を持って先ほどの扉の前に戻った。

 扉の隙間に切っ先を差し込むと力いっぱい剣を倒し扉を開こうとする。


「うおおぉぉ、意外に吸われるぞ」

「頑張ってください!」


 横でフレー!フレー!と小さい妖精が左右に飛ぶ。

 全体重を剣に預け、渾身の力で扉を開く。


 少しまた少しと、扉の隙間が広がっていく。


「もう少しです!」

「うおおおおおおぉぉぉぉ!」


 次の瞬間、扉が一気に軽くなった。

 それに呼応するかのように扉の向こう側で大きな何かが壊れたような激しい音が響いた。


「あちゃー、剣がダメになりましたね」

「結構もろいな。

 もったいないが俺が剣なんて使えるわけがないしな」


 扉を開けてくれた剣は見事にくの字に曲がっていた。これでは剣としては使えない。

 剣をその場に捨てると、恐る恐る扉を開けた。

 扉を開けたそこには砕けた石の破片がそこら中に散らばっていた。


「扉の前に何かがあったみたいですね」

「倒れて砕けたか。

 悪いことをしたな」


 大小様々な石の欠片が散らばっており、石像か柱か何かだったのだろう。

 だが砕けたそれは元が何だったかすでに定かではなくなっていた。

 扉を開いたその先は、塔の中だと分かる円状の場所で壁には窓一つなく石畳が広がるただただ広い空間だった。


「なんだここ?」

「なんですかね? なんかパーティーでもやれそうな広さですね」

「うーん、ここには何もなしか」


 足元に何かきらりと光るものがあった。目をやると赤く丸い宝石のようなものがあったので拾いあげてポケットに入れた。

 もしかしたら、何かのアイテムかもしれない。

 落ち着いたらナヴィに聞いてみよう。


 部屋のまっすぐ先にはまた扉があった。


「おいおい、また扉かよ」

「結構拍子抜けの塔ですね」


 まったくだと同意して俺はその先の扉に手をかけた。

 今度は何の仕掛けもなかったようだ。

 俺の動きに従うように、扉はゆっくりと開いていった。


「今回は仕掛けはなし――」


 カチャッ――


「カチャ?」


 不吉な音が床の下から聞こえた。


「ここまで上りつめたか真理を追究するものよ――」


 扉が開くと同時に、扉の外からしわがれた老人の声が聞こえてきた。


「ナヴィ、なんか喋ってるぞ?」

「塔の主の想定だと下から上がってきた想定みたいですね」

「ここからだと聞き取りにくいな」

「そりゃ、まさか、話し相手が中にいるとは思ってないでしょうから」


 塔の主の演出としては、扉が開くと同時に塔の主がその前に立っている挑戦者に対して喋っているつもりなのだろう。

 残念だが俺たちは上から来た。


「んじゃ、聞きに行くか」

「いや、その必要はなさそうですよ」

「良く来たな真理を追究するものよ」


 振り返るとそこには白い光にまとわれた女性が宙に浮いていた。

 服を着ずヒトの形を模しているが、その髪や皮膚は大理石のように白かった。


「私は塔の管理人にして最後の監視者。

 そして、メクア・ザラの宝物庫を預かる守護者。

 お前らに最後の試練を与える」


「最後の試練って……」

「ほら、やっぱり下から登る奴じゃないですか」

「宝物庫ってさっきのあれか?」

「たぶん、あれですね」


 目の前の塔の管理人に聞こえないようにひそひそとナヴィと話す。


「最後の試練。

 メクア・ザラの最高傑作。死せるゴーレムを打ち果たすのだ!」


 その瞬間、開かれていた扉が勢いよく閉じた。

 俺は急にしまった扉に驚いてそれを見た。

 いや、だって急に扉が音を立ててしまったら驚くだろ。


「はははは、逃げられると思ったか。

 この扉は死せるゴーレムであるギガントネクロを倒さない限り開くことはない!

 さぁ、その姿を現せ! ギガントネクロ!」

「まさか、ギガントネクロってあの!」

「ナヴィ、知っているのか?」

「はい、神代の時代、オーランドが私と戦うために生み出した鉄壁の巨大ゴーレムです!」

「オーランドってのは?」

「死の暴君メクア・ザラ・オーランドです」

「って、さっき言ってた奴じゃねぇか!」


 デコピン決定だ。


「死の暴君の遺産? じゃあ、これは≪夜天の塔≫!?」

「お前、≪夜天の塔≫じゃないって言ったじゃないか!」

「そんな、全知である私の認知下から秘匿した? そんなバカな!

 全盛期の私ですよ!」

「そんなのばっかりじゃねぇか! お前昔っから役立たずな全知だな!」

「うるさいですね! 知らないものは知らなかったんです!

 それよりもギガントネクロです! 今のムショクでは到底勝てないですよ!」

「そのギガントネクロってのは何者なんだ?」

「もとは巨大な単純な石像です。

 オーランドがネクロによる反転の技法、呪いによる自動意思を付随した不壊の巨兵です!」


 ――バンッ!!!!


 ナヴィの言葉が宙に放たれたその瞬間、激しい音をたてて閉まっていた扉が勢いよく開いた。


「へっ? 開いた?」

「えっ?」



 ギガントネクロを倒さないと開かないと言われた扉。

 それが急に開いたのを見て思わず俺とナヴィは不意を突かれた。

 が、それよりも驚いていたのは塔の管理人だった。

 表情は読み取れなかったが、明らかに開いた扉を見て混乱していた。


「こほん、さぁ、聞け! 最後の試練。

 メクア・ザラの最高傑作。死せるゴーレムを打ち果たすのだ!」


 管理人が再度大きな声を上げる。

 が、その声だけがむなしく響き、何も起こらなかった。


「……」

「なぁ、ナヴィ」

「な、何ですか?」

「ギガントネクロってもとは石像だって言ったよな」

「はい。死の暴君により無為から有為となった巨岩の兵士です」

「もしかして……あれか……?」


 俺は恐る恐る床に散らばっている石の塊を指さした。


「……」

「……」

「あっ……あぁ……た、たぶん……」


 状況はこうだ。

 宝物庫につながる唯一の扉。

 そこを守るように立っていたギガントネクロになる予定だった巨像。

 残念ながら俺たちは反対方向から来て扉を開けた。

 開けようとしたとき扉の前に何かが突っかかっていたというのが恐らくそれで、開けた勢いで前に倒れてその巨像は粉々に砕けた。


「でも不壊の石像……」

「でも石のまんまだぞ?」


 俺たちの言葉が聞こえているのか、管理人は呆然と浮いている。


「いや、古の神話にさえ残る世界を炎に包んだ伝説の巨兵で……」

「でも石のまんまだぞ?」

「一体でも国が滅ぶと……」

「だからだなーー」

「認められぬわ!!!!」


 しばらく呆然としていた管理人が突如俺の言葉を遮り、大声を張り上げた。



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