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第90話 また旅

「懐かしい格好だな」

「はい、あなたと別れた時のものはちゃんと取っておきました。

 でも、道具はほとんどないですよ。最終戦で使ってしまったので」

「そうだったな」


 最後の激しい戦いを思い出した。

 あの時、すべてのアイテムを使ってようやく勝てたのだ。



 ナヴィはこれからのことを話し始めた。

 完全な神に戻ったナヴィは全知でありながら全能に近いものを持っていた。


「せっかくの旅に全能はいらんぞ」

「いうと思っていました。

 なので、私の力は妖精並みに制限をかけます」

「いいな」

「全知はどうします?」

「えっ? あれ、役に立ったことあったか?」

「なっ! これ結構すごいんですよ!」

「前回の感じだとあってもなかっても変わらんしな」

「本当に、ありがたみを分かってないですね。

 いいです。じゃあ、能力だけ封じますよ。

 一応、これが制限解除のキーアイテムです」


 ナヴィは小さな緑色の宝石をムショクに渡した。


「これを持って世界起動(アドガム)といえば、私の能力が戻ります。もしもの時は使ってください」

「了解」


 ムショクはそれを受け取ると、手のひらに乗った小さな宝石を見て怪しく笑った。


「また、何か変なこと考えているでしょ」

「よくわかったな」

「もう慣れましたよ。

 どうせ、加工しようとか変なこと考えてるんでしょうが、

 残念ながら、それは絶対に加工できませんよ。絶対にですよ!」

「ほうほう」


 偉そうに腕を組んで説明しているナヴィ。

 どうせならこの顔を慌てさせてやりたい。


「まったく、すぐ良からぬことを考えるんですから。

 さすがにこの宝石に関しては神がかりな制限をかけています。ブレンデリアと言えども加工は無理でしょう」

「で、俺が何を考えているか、分かったか?」

「だから、さっきも言ったとおり、加工とかするつもりなんでしょ?」


 ムショクはニヤリと笑った。


「ハ・ズ・レだ!」


 そう言うと、ムショクは後ろを振り向くやいなや、持っている宝石を遠くに放り投げた。


「なっ、なんてことするんですか!!!」

「おぉ、よく飛んだな」


 遠くの方で、がさりと茂みに落ちた音が聞こえた。


「あれがないと、私の能力が開放できないんですよ!

 もしもの時、どうするんですか!」

「そんな安全地帯の旅はしたくない!」

「あぁ、もう! この男はー!

 やるんじゃなかった! 自分でも解除できるようにするべきだったぁ!」


 ナヴィが空中で地団駄を踏んでいる。

 

「それはさておき」

「さて置かないでくださいよ。

 あぁ、でも小さすぎて探すなんて絶対に無理ですよ」


 全知が聞いてあきれる。

 まったく、相も変わらず使えない妖精なのだ。


「これからどうしようか」

「聞いて驚かないでくださいよ!

 この場所は、アデルナの森なんです」

「いや、分かんねぇよ」


 そもそも、ゲームだった時もあまり多くは回れなかった。

 結局、すぐに閉じ込められたので、攻略サイトなんて見れもしなかった。


「神の森と言われる神聖な場所です。

 私がこの世界に最初に降りてきた場所なんですよ!」

「降臨の地ってわけか」


 周りを見回したが、ザ・森という感じで、神聖さのかけらもない。

 まぁ、ナヴィの神聖さというと無に等しいんだから、ここもそんな感じなんだろう。


「また、何か失礼なこと考えてますね」

「さぁな。で、そろそろ夜になるんだが、泊まれるところとかあるのか?」

「あるわけないでしょ! 本当なら、土の魔法でちょっとした家作ったりとかいろいろできたはずなのに」

「できないのか?」

「ムショクが制限解除のキーアイテムを捨てたから何もできないんですぅ!」

「役立たずめ」

「何おう!」

「おっ、やるか。

 俺は神限定なら強気で行くぞ?」


 神喰らい(ゴットイーター)所持者として当然弱い者には全力だ。


「いいでしょう。

 前回のようにうまくはいかないですよ!

 強化された絶対領域の力を見せてあげます!」


 ナヴィの周りに透明なガラスのような結界が浮かび上がった。


「そいつの弱点は知っているぞ。

 それを発動したら動けないんだろ!」


 すでに破られた技に俺が躊躇するはずがない。

 ナヴィの絶対領域を壊すためにこぶしを握る。


「ぶっぶー。残念でした!

 改良版は動けるんです!」


 そういうと、ナヴィは絶対領域をはったまま顔に突っ込んできた。

 もちろん、防御も間に合わず石よりも硬いナヴィが顔面にぶつかってきた。


「ってぇ! てめぇ、全能の力は封じたんじゃなかったのかよ!」

「ふふん、護身用にこれだけはあるんですよ!」


 自分だけ助かる気満々の制限である。

 ムショクは顔面に突っ込んできたナヴィをつかむと口の中に放り込んだ。


「ふぁっふぁっふぁ、所詮防御だけのか弱い技よ」

「こらぁぁ、またこんなことを! 私は神様ですよ!」

「俺は神喰らい(ゴットイーター)だ!」


 口の中で動き続けるナヴィを舌で綺麗にからめとる。

 二度目となれば、その技術も上がる。

 どうやら、移動といってもスライドのような動きが限度で、細かい動きは無理なようだ。

 口の中を飴玉のように動くナヴィを逃がさない。

 さすがに、絶対領域中は硬くてナヴィの柔らかい肌を堪能はできなかった。


「分かりました! 私の負けですから、口を開けてください!」

「仕方ないな」


 口を緩めるとナヴィがそこから這い出してきた。


「まったく、油断も隙もあったもんじゃないですよ」

「こっちのセリフだ。自分だけ助かる気満々の制限かけやがって。

 これ以外に変なことできるんじゃないだろうな」

「これだけです。

 奥の手だったのに、こんな早く使うことになるとは」


 いつの間にかあたりが夜に変わっていた。


「もう、夜じゃねぇか」

「本当ですよ。ムショクのせいで、無駄に時間を食いました」

「ほう、お前が悪いんじゃないか」

「なんです。やりますか?」

「……」

「……」


 お互いこれではループしそうだと思った。


「いや、まずは夜をどうするか考えるか」

「ですね」

「近くに人里とかあるのか?」

「残念ながらアデルナの森は禁忌域なので、村はおろかヒトさえもいないです」

「ということは野宿確定か」

「悲しいですけど、そうですね」


 ムショクは諦めて、野宿をすることにした。


「この服に、フィリンさんが作ったリュックか。

 装備は当時のままか」

「どうです。感動しましたか?」

「あぁ」


 短かったが、思い出の深い持ち物ばかりだ。

 ムショクの言葉にナヴィも小さくへへっと笑った。


「残念ながら、寝具もないので地べたで寝ることになるがな」

「懐かしいですね」

「はは、まったくだ」


 ムショクとナヴィは乾いた枝を集め、わずかに残った火焔油をつけ、小さなたき火を作った。


 フィリンさんほど旅慣れしていない俺たちは、たき火を作った時点でもうすっかり夜になっていた。


「たき火をみるとカゲロウを思い出すな。

 あいつはどうしているんだ?」

「分からないです」

「珍しいな。全知のくせに」

「そうですね」


 ナヴィはちょっと恥ずかしそうに下を見た。


「笑わないでくださいね」

「なんだよ」

「笑わないでくださいねって言ったんです」


 あまりにもナヴィが恥ずかしそうにするので、これ以上茶化すのはやめることにした。


「なんだよ。笑わないから言ってみろ」

「ムショクと別れた後から全知は封印したんです。

 だから、ムショクと別れた以後のこの世界のことは何もわかっていないんです」

「以後ってそんなに時間経ってないだろ?」

「あはは、ムショクの視点からならそうかもですね。

 あちらとこちらでは時間の流れが違います。

 もうあれから8年も経ちましたよ」

「8年!?」

「振り返ると短かったですが、なぜか長く感じましたよ」


 俺は流れた時間の長さに驚いた。


「そんなに経っていたのか。

 俺の世界じゃ中高生が社会人になるくらいの時間か」

「そう、人が成長するくらいの時間です」

「新社会人が中堅になるくらいの時間か」

「そう、人が洗練されるくらいの時間です」

「おっさんがおっさんになるくらいの時間か」

「変わってませんよ」

「俺もおっさんに足突っ込んでるから自覚できるわ」

「あいも変わらずムショクなんですか?」

「うるせぇ」


 にしても。

 そのくらいの時間ナヴィは世界のことを知らないのか。


「何もしらないのか?」

「はい」

「いいんじゃないか」


 ムショクの笑った顔に、ナヴィは小さく「うん」とうなずいた。


「あなたのおかげです。

 そして、またこうして旅ができるとは思ってもみなかったです」


 ナヴィはスーッと飛び上がるとムショクの膝の上に座った。


「ねぇ、ムショクの世界の話をしてください」

「面白いもんなんかねぇぞ?」

「いいんです。

 私はあなたの話を聞きたいんです」

「そうか……なら――」


 ムショクはナヴィと別れた後の話を話し始めた。

 揺れるたき火を眺めながら。

 夜はゆっくりと更けていった。



完結から再開まで8年も空けてしまいました。

これからも2人の旅をお楽しみください。

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