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第9話 リベンジ戦


 ここに来て痛感したことがある。

 それは、自身の攻撃力のなさだ。

 もっとも、始めたばかりということを考えれば当然なのかもしれない。

 結局、ナヴィとムショクは基本に従って、弱小モンスターと戦い経験値やお金、アイテムを集めることにした。

 モンスターは昼よりも夜の方が凶悪らしい。

 特に、新月や満月、流星が降る夜など特定のタイミングでは更に強化されるのだそうだ。

 昼は採取や戦闘でレベル上げ、夜は合成や基本知識を入れる生活を計画した。


「採集の方法は2つです。採取ポイントから取るのと、特定の場所から取るのとです」


 この2つの採取方法の最も大きな差は品質だ。

 前者は品質が平均しており、特別いいのは滅多に存在しない。

 逆に後者は品質の差が激しい。簡単に見つけられるものは品質が悪いが群生地や特別な場所にあるものは、特に品質がいい。

 採取ポイントにも利点がある。そのアイテムを探しに行くまでもなく、レアなアイテムを採集できる可能性がある。それに比べて、後者は自分でその目的のアイテムを探さなければならない。

 これがレアなアイテムになればなるほどその場所がなかなか見つからない。そのかわり、採集ポイントにはない品質が高いものがある。

 だが、この方法は効率が悪い。

 一定の品質を担保したければ前者、高品質を作りたければ後者となる。


「採取ポイントも固定の場所、ランダムな場所、そして、特定の条件でしか見つからない場所の3つがあります」

「特定の条件ってのは?」

「この前、ムショクが解析のスキルで採取ポイントを見つけましたよね?」

「あぁ」

「典型的なものがそれですね。

 特定のスキルやアイテムを使うことで一定時間採取が可能になる場所です」

「ちなみにランダムは?」

「そのままです。固定以外にランダムで採集ポイントが出現します。

 採取できるものは固定よりも少し良い物が取れるかもしれません」

「ちなみにその場所は知っているのか?」


 ナヴィはほぼ全知だと言っていた。

 なら、そう言う設定に関しても知っていてもおかしくはない。


「知っていると言ったらどうします?」

「……」


 少しだけ考えた。

 迷ったというのは少し違うかもしれない。

 楽ができるのに越したことはないが、この楽はムショクが求めている楽とは違った。


「いや、止めとくわ。

 境遇がどうあれ、俺はゲームをしにきたんだ。

 そんなチートじみた攻略本使ったらただの作業になっちまう」


 ムショクの言葉を聞いて、ナヴィはクスッと小さく笑った。


「賢明です。

 どの道、尋ねられても答えられないんですけどね?」

「なんだよ、知らないのかよ」

「いえ、知ってますよ。

 知っていても、プレイヤーには伝えられないんですよ。

 私はほぼ全知ですが、全能でも万能でもないんです。

 ただ、知っているだけなんです」


 それがナビゲーターとしての制約なのだろうか、と考えた。


 夜には恐ろしく思えたベイヘル森林だったが、日が昇れば意外と木々には隙間があり、光がこぼれている。


「なんか、昨日よりも陰鬱な感じがないな」

「昨日は星すずらんが光る日でしたからねぇ」

「どういうことだ?」

「あれ? 説明しませんでした?

 モンスターは昼間よりも夜が、夜よりも特定のタイミングの方が凶悪なんですよ」

「それは知っているが?」

「星すずらんが光る日とか、レア中のレアですよ」

「お前……そんな所に俺を引っ張っていったのかよ……」


 話を聞く感じ初心者が行くところじゃない。

 あの凶悪なモンスターたちは限定的な凶悪さだったようだ。


「ムショクが飽きたとかワガママ言うからですよ。

 それに、多少の戦闘を覚悟してって言ったじゃないですか」

「あれは、多少じゃねぇよ!」


 まさに文字通り死にかけた。


 巨木の根本に火焔茸と氷結草があった。採取ポイントではないが、採取できた。

 氷結草は薄く伸びた細い葉が特徴の草で、青く小さな花を咲かせるらしい。氷結草の花は珍しく、その花を見たものはほとんどいないらしい。

 そして、白い石。


「これはなんなんだ?」


 採取した白い石をナヴィに見せた。


「おっ、いいじゃないですか。

 グラット鉱石ですね。火焔粉の原料になりますよ」

「使えるのか?」

「錬金術師だと攻撃アイテムの材料になりますね!

 後は、炉の調節とかにも使えて、需要は結構多いですね」


 需要が多いアイテムはそこそこ値段も安定しているはずである。

 それを安定して供給できれば、台所事情も多少は潤うだろう。

 採取ポイントのものはあらかた取れた。

 一度取ると一定時間経つまで採取できないようだ。


「よし、次行くか!」

「はい!」


 俺が立ち上がると、ナヴィはふわりと肩に乗った。

 採取ポイントを探し、あるき回っていると目の前に腰くらいまでの手足が着いた巨大なキノコがのっそと佇んでいた。

 赤く毒々しい傘と、何個も盛り上る青いつぶつぶ。

 見間違うはずがない。『はぐれキノコ』だ。

 こちらの気配を察知したのか、ゆっくりと動き始める。

 昨日のあの苦しみがフラッシュバックして、どっと汗が吹き出した。

 夜ではなく、ましてや、特殊なタイミングではない。今は昼だ。昨日とは違う。そう自分に言い聞かせる。

 手汗で滑らない様に杖を何度かにぎり直す。


「行くぞ!」

「はい!」


 ナヴィは、しっかりと肩にしがみついた。

 杖を大きく振りかぶり、『はぐれキノコ』に向けて振り下ろす。

 振り下ろした杖が『はぐれキノコ』に当たり杖が僅かにしなる。

 重さを感じながらも、勢いを殺されることなく振り抜く。昨日と同様に力任せの一撃。反動で手が僅かにしびれた。

 飛ばされた『はぐれキノコ』は、木に当たって地面に倒れた。

 昨日よりも手応えはあった。

 ムショクは、振り終わるとまるで何かに逃げるかのようにすぐに後ろに飛び退いた。

 ムショクが飛び退いたそこには、白い靄のような塊が浮いていた。


「毒の胞子だよな?」

「はい」


 『はぐれキノコ』は、攻撃を受けると、その場に毒の胞子を射出することを昨日の戦いで学んだ。

 ムショクがそれに手を伸ばしてみる。

 一瞬、伸ばした指先に痛みが走ったが、それはすぐに和らいだ。

 少しではあるが、浮いている胞子の一部を手に取れた。

 これが、自身を苦しめた原因不明だと思うと、小憎らしいものである。

 何に使うかわからないが、一応貰っておく。

 木に当たって倒れていた『はぐれキノコ』が、のっそりと起き上がった。

 一撃で倒せない事は承知済みだ。

 起き上がった『はぐれキノコ』はこちらにのっそのっそと歩いてくる。

 この遅さなら余程のことがない限り対応できるだろう。と、油断した瞬間、急に速度を上げて体当たりをしてきた。


「あぶねっ!」


 すんでのところで身をかわす。

 相手が小さいだけに、下手に受け止められない。


「油断しないで下さい!」

「分かってる!」


 ムショクの目の前に、白い靄が浮かぶ。

 心臓がギュッと掴まれたような痛みと寒気が身体を走る。

 体当たりしながら、毒の胞子を撒いていたようだ。

 口と鼻を塞ぎ、飛び退いた。

 間髪いれずに『はぐれキノコ』が、体当たりしてくる。


「そんなワンパターンが何度も通じるかよ!」


 ムショクはしゃがみ込むと右足を出し、『はぐれキノコ』の足を掛けた。

 見えてなかったのか、止まれなかったのか。『はぐれキノコ』がムショクの足に引っかかり、その身が宙に舞った。


「もういっちょ!」


 セレナ樹の杖を構え、もう一度振り抜く。

 軽快な音と共に『はぐれキノコ』が、草むらに飛ばされた。

 少し経ったが、草むらは揺れなかった。


「どうだ!」

「いいじゃないですか! 初勝利ですか!?」


 フィールドにいる普通の敵だが、初の勝利だ。

 これなら、継続して採取ができそうだ。


「どうです? 戦闘系スキルを覚えてみるのも悪くなくないですか?」

「まぁ、確かに少し気持ちよかったな」


 実際、ライトプレイヤーの中には、ストレス解消の為に、戦闘系の職業を選ぶ人もいる。


「気が向いたら覚えてみるか」

「なるべく早く気が向いて下さいね」


 強く勧めても無駄なことを知っているナヴィは、これ以上言わなかった。


 何度かの戦闘と採取を行いレベルは順調に上がっていく。

 採取ポイントを見つけるたびに腰を下ろし、それぞれ背中合わせで地面に生えている植物を採取する。


「なぁ、ナヴィ?」

「どうしたんですか?」

「昨日のあれはなんだったんだ?」

「……」


 ナヴィの採集の手が止まった。

 グラファルト神獣族とあってからナヴィは露骨にその会話を避けていた。

 

「すまん。気にするな」


 じっと地面を見つめて作業を止めたナヴィの頭を軽くなでると、ムショクはまた採取作業に戻った。

 

「今度は薬草が多いな。さっきは火焔茸だったし。

 ポイントで偏っているのか? なぁ?」

「……分からないんです」

「ん?」

「本当に分からないんです」


 全知と自称していた彼女に知らないことがあった。そのことがショックだったのだろうか。

 普段のナヴィなら知らなかったのは仕方ないとか文句を言うところだ。

 それも言わず、彼女は素直に知らなかったと白状した。

 ナヴィはムショクをちらりとも見ず、ずっと地面を見ていた。


「あの……」

「どうした?」


 何かを決めたようにナヴィはムショクの方を見た。


「ムショクはゲームプレイヤーなんですよね?」

「……どういう質問だそれ?」

「そのままですよ」

「当たり前だろ? 何言っているんだ?

 会社をクビになって、貯金と退職金が山ほどあるのでな。

 まぁ、軽い現実逃避だ」

「えっ? セクハラでもしたんですか?」


 クビという言葉に、ナヴィはあからさまに嫌そうな顔をして聞き返した。


「してねぇよ!

 理由はわからん。まぁ、強制的にな」

「そうですか……」


 ナヴィは少しの間だけ空を見上げ、次にムショクの目をしっかりと見た。

 

「ムショクはこのゲームが好きですか?」

「質問の意図を図れんが……

 まぁ、せっかく始めたゲームだしな。

 いろいろトラぶっているけど楽しくやっているぜ」

「そうですか!」


 ナヴィはニコリと笑って、ムショクの肩に飛び乗った。

 

「さぁ、採集を続けましょう。

 基礎的な合成は私がしっかりと教えてあげますからね!」



>>第10話 ナヴィとムショク

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