第83話 神へと続く道
「ムショクさん、リリを倒してくれてありがとうございます!」
「相打ちになった時はどうなるかと思ったぞ」
フィリンとハウルがそうムショクに笑いかけた。
「おいおい、倒したのはナヴィだろ?」
「はは、何だそれ。
また、新しいアイテムか?」
ハウルは、ムショクの言葉に不思議そうな顔をして笑った。
「いや、アイテムじゃなくて、妖精。
フィリンさんも何か言ってくださいよ」
「えーっと……」
フィリンが少し困った顔をした。
「すみません。私も初めて聞きました。
ナヴィさんですか?」
「えっ? いやいや、ナヴィですよ?
あの大食いの無能妖精の?」
フィリンからの予想外の言葉にムショクは思わず狼狽える。
「リラなら分かるだろ?
ナヴィは冒険者のチュートリアルに必ず出るって……」
「申し訳ありませんが、チュートリアルでそう言った妖精はいませんでしたね」
「シハナは――」
ムショクが、そう言いシハナの方に振り向いたが、彼女は静かに首を振った。
「どういう事だ……?」
ハウルやリラーレンはまだしも、一緒に旅をしていたフィリンやシハナまで、ナヴィを知らないと言い切るのはおかしかった。
「なんか、深刻そうな話に割って入るのも悪いけど、これ、欲しかったんでしょ?」
ファーレンハイトがムショクに『絶零の花嫁飾り』を見せた。
忘れていた。ナヴィの事は気になるがそれを早くメルトに渡さなければならない。
「そうそう、聞きたかった資格者の話も教えてあげるわ」
「資格者……? あぁ、あの話か」
「何なの? 忘れてたの?
まぁ、いいわ。教えてあげる」
ファーレンハイトは呆れたようにため息をついた。
「資格者。それは、神に挑戦する権利を持ったものよ。ヒトで言うなら、過去ブレンデリアがそうであったわ。
戦いに負けて死んだけどね?」
「死んだ?」
ムショクは、ブレンデリアを思い出した。不健康で死にそうであったが、彼女は確かに生きていた。
「私たちは神から解放されるために戦っているのよ
もう殆どのものがそれを忘れてしまったけどね」
「神からの解放?」
「そうよ。
困ったことにね。私達の神は私達を弱いと思ってるのよ。
守ってやるべきか弱い存在。
そんな事を思ってるのよ。
ともすれば、私達の自由を縛ることさえ厭わない。私達を守るからと言ってね。
許されると思う?」
「そんな話、初めて聞きました」
フィリンがファーレンハイトの話を驚いて言葉を返した。
「あら、古いエルフなら知っていると思うわ。
エルフにもあるでしょ? 神を殺すために編み出した神殺し級の技が」
龍神族が神を倒すために編み出した煉獄の炎息。
そして、精霊族が神を倒すために編み出した絶氷の咆哮。
ナヴィが言っていた神殺し級の技だ。
「神殺し級って、本当に神を殺すための技かよ!」
「当たり前でしょ?」
「その神ってのは何者なんだ?」
「その名にゼロを持つ唯一の存在よ」
ザーフォンからも同じ言葉を聞いた。
だが、それだけではどんなやつかは分からない。
「どんなやつなんだ?」
「さぁ? 神だからね。
姿形は自由なんでしょ?
ただ、相対したものは分かるって話よ」
「そうか……」
ムショクは口を閉じ、思案げに『絶零の花嫁飾り』を見た。
「決めた。
すまん。メルトにこれを使うのはやめるぞ」
「ちょっと、どういうことですの!」
真っ先に叫んだのはシハナだった。
「あなたがフェグリアのために戦うからこそわたくしはキヌカゼと共にいましたのよ」
「待て、早まるなって。
ファーレンハイト、フェグリアまで行ってくれるか? メルトを冷やしてほしいんだ」
「あら、なら、その首飾りは返してもらえるの?」
「いや、これは神と戦うためにいるんだよな」
「あなた、神と戦うつもり!?」
ムショクは頭を掻いて笑った。
「もう、こんなの行けって言っているようなもんだろ?」
「首飾りもほしいし、力も貸してほしいと……欲張り過ぎじゃない?」
ファーレンハイトが少し怒った顔でムショクを睨みつけた。
が、彼女はしばらく睨みつけると、諦めたののか大きく息を吐いた。
「まぁ、いいわ。
あの乱入した魔法使いのことと厄災の花のことと。
多少、借りがあるからね。
今回は特別に聞いてあげましょう。
いいわよね? あなた?」
最後はセルシウスに向けた言葉だった。
ファーレンハイトの問いかけにセルシウスは無言で頷いた。
「で、これってどうやって使うんだ?」
「あなた、知っていて揃えたんじゃないの?」
「いや、まったく」
「資格者も知らなかったものね。
いいわ。『ネツァク』、『ケブラー』、『ケセド』を出して」
森林石が『ネツァク』だったのは、ブレンデリアからきいた。
ファーレンハイトがいうにはこの首飾りが『ケセド』らしい。
では、『ケブラー』はどれになるのだろうか。
それらしいものを持っている覚えはなかった。
「『ケブラー』ってのは?」
「『紅龍玉の結晶』と呼ばれているわ」
「あぁ、ゲイヘルンの心臓から取った宝石か。あれはブレンデリアに渡したから持ってないぞ?」
「おかしいわね。気配を感じるんだけど」
ファーレンハイトが辺りを見回すと、見つけたわという顔でムショクを見た。
「俺?」
「じゃなくて、その表面にいる子よ」
「スライか?」
その言葉に、スライはヒョコリと顔を出した。
「『紅龍玉の結晶』を出しなさい」
「いやいや、スライに渡したものなんてゲイヘルンの心臓くらいで……」
その時、スライがぷるりと震えてもぞもぞと動いた。
スライはゲイヘルンの心臓を持っている。ナヴィいわく、それはスライの中で正常に動いていると言っていた。
と言うことは……
「って、その中にあったりするのか?」
ムショクの言葉にスライは砂粒ほどの小さな石ををペッと吐き出した。
「あったじゃない。
予想以上に小さかったわね」
風にでも飛ばされるのではないかというほどの小ささ。それをムショクはなくさないように強くない握りしめた。
「じゃあ、地面にセフィロトの種を挿して、そこに3つの宝珠を捧げなさい」
「ん?」
聞いたことのない名前が飛び出した。
種って、そんな物は持っていない。
「種?」
「ええ、種よ。
あなた持ってるじゃない?」
「いや、持ってないぞ?」
「何言ってんの? ちゃんと手に持ってるじゃない」
ファーレンハイトに言われて手を見ても何もない。あるのはゲイルから貰った杖だけだ。
「杖しか持ってないって」
「だから、それが種だって言ってるでしょ!」
「えっ?」
ファーレンハイトの言葉に思わず驚きの声を上げた。
「もう、ほら、貸しなさい!」
ファーレンハイトは、そう言うとムショクから杖をひったくるとそれを見た。
「まったく。神聖なる聖樹の種よ。
それを加工して杖になんて……」
ファーレンハイトは、それをブンッと振った。
「割れることのない聖樹の種をここまで加工できるなんてどんな職人よ……」
「なんか、装備すると知力が少し上がるって聞いたぞ」
「あんたね……少しどころじゃないわよ?
聖樹の種なのよ?」
「セレナ樹って聞いたが……」
「聖樹よ。もしくは、セフィロト!
こういう伝承は長命種がしっかり語る約束でしょう!
ちょっと、聞いている! エルフ!」
他人事のように聞いていたフィリンが、ファーレンハイトに急に呼ばれてビクリと身体を震わせた。
「えーっと、それはですね……」
急に話を振られてフィリンも困ったようで耳を垂らしながら、何とか必死に言い訳を考えているようだ。
「グラファルト獣神族がやたらと気にしていたみたいだったが?」
ムショクが助け舟を出す。
「あの子達は昔から聖樹の信奉者だったからね。
信仰対象ならしっかり伝承しておきなさいよ」
ファーレンハイトは杖を、聖樹の種を地面に突き刺した。
「今から言うことを復唱して」
ファーレンハイトは、そういとゆっくりと息を吸い、言葉を紡ぎ始めた。
「世界の原初は無から生まれた光と闇であった――」
「世界の原初は無から生まれた光と闇であった――」
ファーレンハイトの言葉の後を追う。
最初の一文で何を言うのか分かった。
ブレンデリアの館で見た創生の詩の序文だ。
「闇の中で特に混沌としたものが凍える海に潜り、魚となった――」
「闇の中で特に混沌としたものが凍える海に潜り、魚となった――」
その言葉に杖が深い青に輝いた。
その光は光は杖の下に動くと、低い地鳴りのような音ともに地面へ伝わり広がった。
「光の中で特に正常なるものが天空へと移り、天使となった――」
「光の中で特に正常なるものが天空へと移り、天使となった――」
杖が白く光ると羽音ともに、溢れ出すように天を貫いた。
「残った光は風となり森に散って、精霊となった――」
「残った光は風となり森に散って、精霊となった――」
杖から軽やかな緑色の光が溢れ出すと軽やかな笑い声と共にあたりに霧散した。
「残った闇は地中深くに埋もれ、悪魔となった――」
「残った闇は地中深くに埋もれ、悪魔となった――」
金色に光る輝きが地面に入り込むと身の毛がよだつような唸り声と共に低く沈んでいった。
最後の一文は覚えている。
ファーレンハイトに視線を送ると、ムショクの意図を汲んでコクリと頷いた。
「そして、方々から余った力が地上へと集まり、ヒトとなった」
この場にいる全員の身体が光りだした。
「さぁ、聖樹の種に宝珠を渡して」
ファーレンハイトの言うとおりに、ムショクが、その杖に宝珠を触れさした瞬間、音にならない轟音と共に、杖を中心に光の柱が天を貫いた。
それは青や赤、緑や白と色を変えながら輝き続ける。
「古代から唯一許された神への道よ。
本当に行くの?」
「ああ」
ムショクは困ったように笑った。
「ムショク、ボクも連れて行ってくれ!」
「ムショクさん、私も行きます!」
ハウルとフィリンが同時にそう言った。
「ごめんな。たぶん、俺が行かないとダメだろうからな」
ムショクは、2人をギュッと抱きしめた。
「必ず生きて帰ってくるよ」
「絶対だからな」
「ずっと待ってます」
ムショクは、2人を名残惜しそうに話すと光の柱を見つめた。
この先に神がいる。
宝珠をポケットに入れると、荷物を持った。
このリュックも随分とお世話になった。
「じゃあ、行ってくるよ」
そう言うとムショクは、光の中に足を進めていった。
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