第80話 1人じゃないさ
周り全員が動けなくなって援助は期待できない。
なら、やるしかない。
リリの攻撃を躱し、杖を振る。
カゲロウはリラーレンたちが持ってきたアイテムで調子がいい。
が、スライはまだ、調子が悪そうだ。
ナヴィが言うには大量の魔力を一気に体内に宿したせいらしい。
食べすぎて胃もたれみたいなものだろうと、ムショクは解釈した。
遊ばれてるのか、攻撃は当たってはいる。
が、魔力のこもっていない杖の攻撃は、リリにはほとんどダメージにはならなかった。
こちらの攻撃はダメージにならないが、リリの攻撃を受けたら被害は甚大だ。
リリを中心に花びらが舞い上がる。
ハウルの四肢を切り裂いた鋭い花びら。
それがムショクに狙いを定めた瞬間、全てが燃え落ちた。
「ナイス、カゲロウ」
ムショクの言葉に、カゲロウは満足そうに笑った。
「うっとしいわね!」
リリがカゲロウを睨みつけたその隙きを逃す訳もなくムショクは杖で殴りつけた。
が、リリは少しもそれに動じなかった。
「ムショク、杖に魔力を込めてください!」
「どうやるんだよ!」
「こう、ガァーっとです」
「分かるかぁ!」
この無能さ加減である。
このヘタレ妖精は、後で説教だ。
「なんで分からないんですか!
杖にクワッと流す感じで!」
「何も変わってねぇ!」
再度杖を振り上げた瞬間、足に根が絡まった。
まずいと思った時にはもう遅く、根は足から腰にかけて何重にも巻き付いた。
「潰れちゃえ!」
リリがそう叫んだ瞬間、身体についていたスライが突然膨れ上がった。
一瞬にして、ムショクの身体はスライの体内に取り込まれ、次の瞬間、身体を縛り付けていた根が消えた。
「ガボッ――」
スライが助けてくれた。
のは間違いないが、スライの体内は息ができなかった。吸おうと思った空気はなく、鼻からスライの体液が入る。
咽るように、肺から空気が絞り出されるが、吸える空気がなく、喉が引きつる。
慌ててスライが縮み、いつものように身体の表面に薄くへばりつく。
新鮮な空気が口から入り肺を満たす。
「はぁ、はぁ、はぁ……ナイスだ。スライ……」
スライが膨れ上がり、根を食べ無ければ、まず間違いなく、リリの根に下半身が潰されていた。
贅沢を言えば、やる前に言ってほしかったが、喋ることができないスライには無理な話である。
ほんの一瞬、スライに殺されるかと思った。
と、同時にスライに包まれた時、スライの身体中に魔力が満ちているのが分かった。
どうやら身に宿した許容量オーバーの魔力は許容しきったらしい。
魔力の少なさが課題だったスライだが、その課題はもう完全にクリアできているようだ。
スライの体内から出ると同時、息つく暇もなく、リリがムショクの近くに飛び込むとムショクの髪を掴み、下に引っ張った。
髪を引っ張られた痛みに耐えられず、下げた頭をリリは膝で蹴り上げた。
目の前が一瞬真っ白になり、天地がひっくり返った。
激しい痛みと共に身体を支えきれず地面に倒れ込む。
そうなのだ。
結局、こちらから有効な攻撃の手がなかった。
ムショクの杖での攻撃は、魔力がこもっておらず、ダメージになってない。
いや、それならば……。
痛みに耐えてムショクは立ち上がった。
「スライ、杖についてくれるか?」
スライはぷるりと震えた。
その効果はザーフォン戦で実証済みだ。
そして、肩からニュっと一部が盛り上がると急に強張り、薄青く光った。
それと同時に痛みが和らぎ気が引き締まるような感覚が走る。
「『龍の威厳』……ではないよな?」
「『龍神の守護』です。
もう、スライは完全にドラゴンですね」
喋ることができないスライに変わって、ナヴィが説明する。
それを見たカゲロウがふわりと空中を一回転して火の粉をムショクにかけた。
その火の粉は熱くなく、むしろ心地よささえ感じた。
「これは……?」
「『精霊の天恵』ですね……えっ? 祝福の効果もついてますよ!?」
「ははは、カゲロウに最初に上げたのは祝福の効果がついた火炎粉だったしな」
「『龍神の加護』と『精霊の天恵』、それに祝福の効果。全ステータス上昇、各種耐性に加えて攻撃に追加効果ですか。
何です?世界でも滅ぼしに行くんですか?」
ナヴィがいつものように呆れ気味に笑った。
「でも、相手は規格外なんだろ?」
「ええ、残念ながらこれでやっと五分です」
すぐ側で褒めてほしそうにムショクを見るカゲロウ。
どうやら、スライに対抗したようだ。
「2人とも助かった。
これなら、まだ戦える」
カゲロウの頭を撫でると、彼女は気持ち良さそうに微笑んだ。
今度はこちらから、リリに殴り掛かる。
杖を振るって風を切る音が今までと比にならない。
が、それを間一髪で躱され、今度はリリがムショクに手を伸ばす。
今までのムショクなら、その手に掴まれていただろう。だが、今はそれが見える。
身体を僅かに反らし、リリの手を避ける。目と鼻の先。かするような僅かな距離をリリの手が空振る。
完全に見えている。
スライとカゲロウのお陰だ。
リリの空振った隙きを逃すはずもなく、スライ付きの杖を振るう。
杖の先端がリリに当たり、リリの顔が歪む。
今まで感じられなかった手応え。
ムショクは「よしっ」と言葉を漏らした。
リリは警戒して後ろへ飛んだ。
距離を詰めようとムショクは一歩踏み出したが、リリの着地とともに、ムショクを狙う根が地面から何本も現れた。
槍のような根がムショクを狙い真っ直ぐに伸びる。
それを、ムショクは、右に左に避ける。
普段のムショクなら、絶対に避けきれないスピードだ。
軽やかに地面を蹴ると、飛び上がった。
根がそれを追うが、空中で身を躱すと、そのまま杖を振りかぶった。
リリの身体から白い花びらが舞う。
あれに触れると切り刻まれる。
「カゲロウ!」
ムショクの声と同時に花びらが火に包まれる。
これでとかって言うほど、得意げ満なカゲロウの笑み。
「事象のくせに、何で私の花を燃やせるのよ!」
「悪いな。うちのカゲロウは特別なんだよ!」
着地の勢いそのままに振り抜いた杖がリリを捉えた。
鈍い音ともにリリの身体が地面に叩きつけられ、同時にスライに大量の魔力が流れ込んだのが分かった。
「あああああぁぉ、ヒトの分際でええぇ!!」
地面から太い根が倒れているリリを持ち上げた。
さっきまで笑っていた顔はなく、血走った目と裂けそうなほど開かれた口はリリの狂気を映し出していた。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺――あああああああぁぉぉ!!!」
今までとは比べ物にならないほどの太い根が地面から盛り上がるとリリの四肢に巻き付いた。
まるで、巨木のように根はリリを覆い、先ほどとは比べ物にはならない数の根がムショクに向いた。
「ファーレンハイト、みんなを頼む!」
リリの目にはフィリンは映っていなかった。
ただ、その感情のまま、ムショクを睨みつける。
弱っているとはいえ、腐っても氷結を司る高位の精霊。倒れた全員を集めると氷の壁を張った。
「1人でやるつもりなの!?」
ファーレンハイトがムショクに向かってそう叫ぶ。
「1人じゃないさ」
ムショクは、ファーレンハイトの方を向いてニコリと笑う。
横にはカゲロウが浮かび、杖の先にはスライがいる。
「死ね死ね死ね死ね――」
根の1つが矢の様に真っ直ぐにムショクに向かう。
それを避けたのを合図に根のすべてがムショクに降り注ぐ。
その刹那、ムショクの周りに火の粉が舞い、近づく根を燃やしていく。が、それよりも早く伸びた根は、ムショクを殺すためにその鋭く尖った先を向ける。それをムショクは横に飛び退いて避ける。
ムショクは、指先の感覚を確かめるように杖を握り直す。手がじんわりと汗ばんていたのが分かる。
いけると確信した瞬間、ムショクは飛び出した。
ムショクが前に出ることで、根が襲う速度が上がる。
カゲロウの燃やす速さよりも、根が再生する速度が上回った。
焼け焦げた跡がついた根が、ムショクを襲う。
リリに向かいながら根を避け、横に飛び退いた。
リリとの距離を測るために、根から目を逸した刹那、死角から根がムショクを刺した。
太い根がムショクの胴体にずっぷりと、それは容赦なくムショクの中に入り込む。
が、その根はいつまで経ってもムショクを貫くことはなかった。
「食い千切れ、スライ!」
その言葉に根がぶつりと途切れ、無傷のムショクの身体があった。
ムショクは、歩を進めた瞬間、途切れた根がまた、ムショクの身体を襲った。
それはムショクの身体に触れると溶けるように消えていく。
「何度やっても――」
異変はすぐにやってきた。
スライの中で食べられた根が、それよりも早く伸び、スライの身体に根を広げていく。
「核が壊れたらスライは――」
ナヴィの言葉にムショクの身体に寒気が走った。
「逃げろ! スライ!」
ムショクは、スライを無理やり剥がすと、リリに向かって走り出した。
「リリ! 俺はこっちだ!」
根がスライを放しムショクを追う。
スライが無事なのは確認でき、安堵した。
が、スライもカゲロウも根が邪魔してムショクに近づけず、ムショクとの距離が離れていく。
根が殺意を持ってムショクを襲う。
『龍神の守護』と『精霊の天恵』を受けたムショクは、雨のように降り注ぐそれらを避けていく。
リリまでもう少しだ。
1つも当たらない根に業を煮やしたのか、根が柵の様に立ちはだかり、その先をムショクに向けた。
通り抜けられないと判断し、足を止めた瞬間、後ろから横から先を向けた根がムショクを囲んだ。
「あっ、これは、出られんな」
「相変わらず、ピンチになるのが上手いですね」
こんな時にでも憎まれ口を叩くナヴィ。
どんな状況でも、いつでも、ムショクの側には必ずナヴィがいる。
根は檻のように、ムショクを囲み、鋭い先を向ける。
「さっさと切り抜けちゃってくださいよ。
あるんでしょ? 奥の手が」
ぐるりと見回すが、出られそうな隙きがない。
「そこは、頑張って下さいとか言ってくれよ」
「ぶっぶー、クエストを期待しているならあげませんよ。安売りはしない主義なので」
今までさんざん泣いてきたのによく言うものだ。
「じゃあ、何かしてくれ」
「何かですか?」
「スライからは『龍神の守護』、カゲロウからは『精霊の天恵』。
一番付き合いの長いナヴィは応援してくれないのか」
「……むっ……」
ムショクの言葉にナヴィは言葉に詰まった。
「ナヴィの応援あればやる気が出るんだけどなぁ?」
「えぇ……あぁ……そ、それは……」
考え込むように言葉を濁すナヴィ。
「ないの? 俺死んじゃうよ?」
「あぁ! もう、分かりましたよ!
分かりました! やればいいんでしょ!」
ナヴィは、怒ったようにムショクの肩に飛び乗ると、その頬に優しく口づけをした。
「ナヴィ特製『妖精の約束』……です。
何が何でも、生きて私の近くにいてください」
ナヴィは、恥ずかしそうに小さな声で呟いた。
「もう! これでいいですか!」
照れ隠しのように怒鳴るナヴィが可愛くて思わず笑ってしまった。
完全に周りを囲んだ根が、捕まえた獲物を殺すためにムショクに降り注いだ。
「ムショク、来ますよ!
本当にあるんですよね!? 奥の手が!」
カゲロウは遠く、襲ってくる根は燃やせない。スライも同じだ。
ハウルみたいな力はない。
リラーレンやティネリアのような魔法も使えない。
キヌカゼやゲイナッツのような剣もない。シハナのような力もないし、フィリンのように矢を撃つ技術もない。
本当に錬金術師は非力だ。
ムショクは、杖を地面に突き立てた。
「ちょっと、なんで、武器を捨てるんですか!」
ナヴィはムショクの行動に驚いて声を上げた。
もう目の前まで根が襲ってきている。
ムショクは、それに手を伸ばし、根を握った。
次の瞬間、ムショクを襲った根が忽然と消えた。
後ろから襲ってきた根も同じだ。
ムショクが、触るとそれが消える。
『錬金術師の指先』。
アイテムだと認識すればそれを採集できる。
まさに、原点回帰だ。
なんたって相手は根だ。
植物だ。
「ここにきて、植物採取とか一気に錬金術師らしくなったな」
「この状況でよくそんなこと言えますね」
襲ってくる根を消しているムショクに、ナヴィは呆れた顔を見せた。
あたりを囲っていた根はあらかた片付いた。いや、採取できた。
遮るものがなく、カゲロウとスライは近くによってきた。
けれど、未だに杖に魔力は込められないので、攻撃の決め手はない。
「リリってアイテムなのかな? 毟れそうだよな」
「はぁ……まったく。何言ってんですか?
流石にそんな事できないですよ」
ナヴィの言葉にムショクは無言で笑った。
「……えっ? できないですよね?」
ついにナヴィも自分の知識に疑問を持ってしまった。
結論から言うと、無理だ。
強く思えばできるかもしれない。
が、メルトの時もそうだったが、相手に強く人格を意識してしまった。
それを忘れるほど強く思い込むなんて、そんなことしている間に根に貫かれてしまう。
だが、手がないわけではない。
こぶし大の石を2つ拾い上げると、スライとカゲロウにそれぞれ持っておくようにと手渡した。
次に採取した大量のリリの根を握りつぶすと、スライに渡した。
普段のムショクでは、そんな力業な芸当はできない。カゲロウとスライのバフ効果のお陰だ。
それを次にカゲロウに渡すように指示をする。
「グツグツ煮込めー」
カゲロウはスライからそれを受け取ると一気に沸騰させる。
「何やっているんですか?」
「即席ポーション」
出来上がったものをスライに再度渡して冷やさせる。
ナヴィが最初の頃、生産職はどこでもアイテムを作れると自慢していた。
確かに便利だ。
「どこの世界に、ボスから剥ぎ取ったものを目の前で合成する人がいるんですか!」
「いるだろ、ここに。
新鮮採れたてだぞ?」
ボスから奪った根でポーション作り。
さしずめ名前は『厄災のポーション』だろうか。
恐ろしく飲みたくない名前だ。
「まったく、こんな時に……」
「こんな時だから。さ。
さて! 精霊退治と行こうか!」
「ちょっと! ムショクは魔力攻撃できないんですよね!
手はあるんですか!?」
スライが食べようとすると体内に根を伸ばされる。
カゲロウの攻撃よりも根の再生力の方が早い。
その瞬間、風が吹き、空に大量の花びらが舞った。
空の青さが霞むほどの大量の花びら。
リリも出し惜しみはしなくなったようだ。
「行くぞ!」
ムショクは走り出した。
リリまであと少し、花びらが頬を切り裂き痛みが走るが、それでも止まらない。
花びらや根はカゲロウが燃やすが、それでも間に合わない場合はスライが食べる。
そして、それでも間に合わない場合は、ムショクがアイテム化する。
とは言え、全てが無効化できるわけではない。幾つかは、漏れてしまいそれは身を切り裂く。
「ムショク、危ない!」
無効化が間に合わなかった根が、ムショクの脇腹すぐ近くにあった。
カゲロウは、周りの花びらや根を燃やすのに手一杯だ。スライも同様、ムショクを狙っている他の根を食べている。
リリまでもう少しだというのに。
マズイな。と思った瞬間、それが、ムショクの脇腹を貫く。
「――ッ」
激痛が身体中を走る。
異変に真っ先に気づいたスライが、ムショクに突き刺さった根を引き抜き食べる。
が、それで傷が治るわけもなく、溢れ出す血液が地面を赤く染め上げる
痛みが頭の中を真っ白にさせる。
立っていることさえ苦痛の疲労感。
「スライ……ポーションを……」
その瞬間、スライから大量のポーションが噴水のように吹き出されムショクと周りすべてを濡らした。
ポーションが全身を濡らしていくと同時に痛みと疲労が身体の中から消えていく。
「助かった!」
ポーションで濡れた髪をかきあげると、カゲロウとスライから先程渡した石を受け取った。
「何するんですか!?」
ナヴィの言葉にムショクはこれでもかと言うほど妖しく笑う。
「合成」
「はぁ!?」
「いつでも作れるって言ったよな!
カゲロウ、炎をくれ!」
カゲロウがムショクに向けて炎を投げる。それをムショクが受け、カゲロウから貰った石に合わせる。
身体中の魔力が抜け、その石に向かう。
これがナヴィの言っていた魔力を込めるということかと理解できた。
ならばと、ありったけの魔力を込める。
「『たき火の精霊が持った石』と『精霊のたき火』を合わせて、『なんとかフラゴ』って感じで」
「何でそんな適当なので成功を――って、あぁッッ!!」
何を見たのかなナヴィが叫び声を上げる。
名前:なんとかフラゴ
カテゴリ:攻撃アイテム
ランク:神知不級
品質:測定不能
効果:不明
「その名前で登録されてる!!」
「スライ、今度はそっちだ」
スライから石をそして、その体液の一部を貰う。
込められるだけの魔力と共に石に合わせるとスライの石が急激に冷えた。
「『スライムの石』と『スライムの冷水』を合わせて――」
「勝手に変な名前を――」
「――『ステュクスのなんとか』!」
「だから!」
名前:ステュクスのなんとか
カテゴリ:攻撃アイテム
ランク:神知不級
品質:測定不能
効果:不明
「もっと、格好いい名前にしてくださいよ!」
その瞬間、バラバラだった根が絡み合いながら、2つの見上げるほど巨大な根を作り上げた。
それらが、まるでうねる大蛇のように、左右から襲いかかる。
地割れのような鈍い音ともに、カゲロウの炎の壁と巨大化したスライが、それを受け止める。
2つの石をリリに向かって投げようとしたその瞬間、3つ目の巨大な根がムショクを襲った。
「やばっ――」
『錬金術師の指先』は石を持っていて使えない。
上に逃げようにも、空には大量の花びらが舞っている。
「輝け雷光! ウカチの名の下に!
轟く紫電の拳! ティフォン・ギルア!」
閃光ともに、ハウルがその根を叩き落とした。
根はハウルの一撃に耐えきれず、しなり、解けた。
「ハウル!
何で!?」
「そのスライムのお陰だ!」
ムショクを助けるためにスライが吹き出したポーションがハウルたちにも届いたようだ。
その言葉と同時に空が獄炎と凍気に覆われ、舞っていた花びらがすべて消え失せた。
「魔法で援護するわ!」
「花びらはこちらがすべて対処しますわ!」
ティネリアとリラーレンの声が届く。
ムショクを襲った巨大な根はバラバラになり再度ムショクの方に向かう。
その瞬間、後方から矢が放たれ、向かってくる根を貼り付けていく。
「ムショクさんは傷つけさせませんよ!」
突如、地面から根が飛び出した。
ハウルの拳もフィリンの矢も間に合わない、完全に不意をついた一撃。
それが、ムショクにたどり着く前に、黄金の文字が空中に浮かび上がり、壁のように根を阻んだ。
こんな芸当ができるのはシハナしかいない。
「防御はお任せなさい」
「ははは、助かったよ、みんな!」
ムショクは、大きく息を吸った。
「これで、最後だ!」
ムショクはそう言うと、持っていた石を続けてリリに向かって投げた。
一瞬の無音の後、眩い光とともに、辺りを轟音が支配した。
思わず耳をふさいで、目を伏せた。
激しく地面が揺れ、爆風と共に、火柱と氷が天を貫いた。
立ち上った土煙が風に飛ばされるとそこには根が剥がされ大穴が空いたリリの姿があった。
「あああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
リリの叫び声とともに残っていた根がムショクを向く。
「まだ動けるのかよ――」
ムショクの攻撃の手はなくなった。
が、傍の2人はそうではなかった。
カゲロウの周りには、いつか見た6本の炎の槍が構えられ、スライの僅か前には冷気の塊が光となって形作っていた。
龍神族が神を倒すために編み出した煉獄の炎息。
そして、精霊族が神を倒すために編み出した絶氷の咆哮。
それらが、形を変えて新たな技となった。
「――行け!」
ムショクの声に合わせカゲロウの煉獄の戦槍とスライの絶氷の閃光がリリに放たれた。
>>第81話 暗転




