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第72話 やっぱり戦うんですか?

 精霊をどう見つけるかと悩んでいたのが、馬鹿らしくなることが起きた。


 翌朝、一番に目覚めたムショクの目の前にいたのは、蒼い髪と薄水色の肌をした女性だった。

 一目で人と違うことが分かる彼女だったが、その美しさに思わず目を奪われた。

 少しウェーブがかかった髪と深く澄んだ青い瞳、肌の端々にある氷は朝日を映していた。

 おそらく彼女は精霊なんだろう。そんな推測は容易にできた。

 その服は山の中には不似合いな薄い布が幾重にも重なりあった不思議な服で、風がないにもかかわらず、ひらひらと動いていた。


「こんにちは」

「あっ、こんにちは」


 起きてきたムショクを見ると、その女性は笑顔で話しかけてきた。


「私たちのテリトリー内を侵食してきたのは、あなた達よね?」


 笑顔の中で威嚇するような気配。

 たき火の近くに立つと探るように周りの空気を確かめている。


「侵食……? いや、そんなことはしていないが?」


 その言葉に彼女は、急に険しい顔をした。


「なら、これは何なのよ!」


 睨みつけるようにたき火を見ると、躊躇なくそれを蹴り上げた。

 薪と灰が舞い、炎が四散した。

 宙空の炎がカゲロウの形を作り、慌てるように地面に飛び降りた。

 その瞬間、周りの気温が急激に冷えた。


「ほら、やっぱり」


 たき火を蹴り上げた音と急に下がった温度に、フィリンたちが飛び起きた。


「あら、戦うの?」


 真っ先に武器を構えたフィリンとゲイナッツに彼女は嬉しそうに笑った。


「ファー、遊びが過ぎるぞ」

「あら、あなたも来たの?」


 銀色の髪に、同じく銀色のゆったりとしたローブに身を包んだの男性がどこからともなく現れた。見た目の年齢は40くらいだが明らかに人とは異なる彼もまた実際の年齢は外見からだけでは測れなかった。

 蒼髪の女性と銀髪の男性。2人を見たティネリアは驚きの声を上げた。


「セルシウス様にファーレンハイト様!」


 まさかとは思ったが、やはりこの2人のようだ。


「リルイットの民と……

 旅人か? 何しに来た?」

「フェグリアで炉の妖精が暴走を起こしそうなんだ。彼女を冷やすために、あなたが妻に送ったと言われる『絶零の花嫁飾り』を貸してくれ」

「知っての通り、それは妻であるファーに贈ったものだ。

 私に聞くのは筋違いだ」


 ならばと、ムショクはファーレンハイトに向いた。


「頼む。貸してくれ」

「えーどうしようかしら?」


 頭を下げたムショクにファーレンハイトが楽しそうに笑う。


「フェグリア辺りにいる炉の妖精ってメルトちゃんよね。

 結構しっかりしてるとは思ったけどなぁ」

「まだまだ、自然(ネイチャー)。未熟なのだろう」

「あの子とは話したこともあるしね。

 いいわ。貸してあげる。いいわよね?」


 ファーレンハイトがセルシウスに尋ねた。


「私に聞かんでくれ。あれはそなたに上げたものだ。

 ファーの思うとおりに使ってくれ」

「というわけよ。ありがたく受け取りなさい。

 その代わり、ちゃんと返しに来るのよ?」

「もちろんだ」


 ファーレンハイトは首飾りを取り、それをムショクに渡した。

 透明な氷でできたそれは、光の加減で七色に色を変えた。大きさは手のひら程度で、中央のかざりは目を凝らすほど細かな細工が施されており、そこに垂れ下がっている細い氷の棒は揺れるたびに綺麗な音を立てる。

 不思議とそれを持っても氷は溶けなかった。


「なんだ、作りにでも興味があるのか?」


 ムショクがマジマジと『絶零の花嫁飾り』を見ていたので、セルシウスは不思議そうに尋ねた。


「まぁ、少し。

 どういった素材で作られているのかなと」

「ほう、細工ではなくて素材に興味を持ったか。

 珍しい」


 ずっと無表情だったセルシウスがそれを聞いてニヤリと笑った。


「その氷はただの氷ではない。

 ケルビンの山頂にある万年雪とテンケイト鉱石が合成された氷だ」

「雪と金属の合成?

 そんな事が可能なのか?」

「もちろんだ。魔力を介しての魔力的融合は錬成術師が得意とするところだからな」


 『錬成術』という言葉にムショクは反応した。

 メルトも錬金術を錬成術といっていた。


「錬成術師って何なんだ? 錬金術師じゃないのか?」

「最後の錬成術師と呼ばれていたブレンデリアが言うには、錬成術師は事象と対話するものらしいぞ」

「ブレンデリアは錬成術師なのか?」


 彼女は自身を錬金術師とも呼んでいた。


「そうだ。他でもない『絶零の花嫁飾り』の宝石はブレンデリアに作ってもらったものばかりだしな」

「これは、あんたが作ったものじゃないのか?」

「正確な表現をするとだ。

 原材料はブレンデリアだが、細工は私だ。

 私は造形家なのでな」


 シリウスはムショクをじっと見つめた。


「ところで、ファー」


 シリウスの言葉にファーレンハイトはコクリと頷いた。


「分かってるわ……」


 そう言うと、ファーレンハイトはムショクを強い目で見た。


「残念だけど、さっきの話はなしよ。

 その首飾りを返してもらうわ」

「ちょっと、急になんだよ!?」

「あなたはセフィロトの頂きを目指すものなのね。

 ならば、あなたはその覚悟と資格を示す必要があるわ」

「さっきから、何なんだよ! どういうことだよ!?」


 ファーレンハイトは明らかに戦闘の態勢に入っている。

 周りの気温が一気に下がり、ファーレンハイトの足元には氷の小さな波が出来ていた。


>>第73話 ピンチの時のこの一本

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