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第71話 落胆、フィリンさん

 フィリンがジッとムショクを見つめた。


「えーっと……あれだよな。

 フィリンさんようのアイテム……えーっと。そうだ。ナヴィ、最初に言っていたアレの作り方を教えてくれ」

「アレ?……あぁ、分かりました。どうせ教えるつもりでしたからいいですよ」


 ナヴィは、細い骨を集めるように指示をした。


「何作るんですか?」


 フィリンが笑顔でムショクを見た。


「出来上がるまでの秘密な。

 でも、フィリンさんもきっと喜ぶはずだぞ?」


 その言葉にフィリンは可愛くはいっと笑った。

 少しハードルを上げすぎたかもしれない。

 とはいえ、役に立つはずである。


 ムショクはナヴィの指示に従って、 細い骨を磨き、そこに矢羽とやじりをつける。


「これって……」

「そう! 『冥帝の矢』だ! かなり貴重で、効果が高いらしいぞ!」


 ムショクの言葉に、フィリンはあからさまに落胆の色を浮かべた。

 ムショクは慌てて、効果を説明するが、フィリンからしたら重要なのは効果ではなかった。


「これって使い捨てなんですよね……」


 フィリンが残念そうにそう呟いた。


「そんなことないぞ。

 戦闘が終わったら拾って、また使おう。

 矢羽や鏃は俺がずっと調整するからさ」


 フィリンはその言葉に、若干機嫌が良くなった。


「あぁ、ムショク。申し訳ないんですけど、それはできないかもですよ」


 と、ナヴィが割って入ってきた。


「その矢をあの岩に向かって撃ってください」


 ナヴィが目線の先にある岩を指差した。

 フィリンは頷くと弓を引くとその岩に『冥帝の矢』を撃ち込んだ。

 風切り音と共に矢は岩に突き刺さった。その瞬間、矢は黒く光り、砕け、黒い光の粒が渦を巻いて霧散した。

 岩には、渦巻いた跡が爪痕のように岩に深く刻み込まれていた。


「滅魔の波動と呼ばれる対不死者アンデッドの追加効果ですね」


 追加効果はさておていて、矢が完全になくなってしまうのは予想外だった。

 フィリンもムショクと同じことを感じ取ったらしく、落胆の色を隠さなかった。


 やはり、身につけるものが正解だったみたいだ。

 フィリンの残念そうな顔にムショクは、アクセサリ系も覚えてみるかと心の中で思った。


 ポーションを含め、幾つかのアイテムを作り、夜を迎えた。


 春とは言え、山の上はかなり寒かった。

 カゲロウに頼み、火の勢いを強めてもらう。


「この先、どうしますの?」


 シハナの質問は最もだった。

 探すあてはないが、とてもと言ってはいいが虱潰しする広さじゃない。


「探知スキル的なものがあればいいんだが……」

「ありますよ?」


 横でナヴィがあっさりとそんなことを言う。


「あんのかよ!」

「むしろ、必須級のスキルですよ!」

「言えよ!」

「まぁ、チュートリアルで教えてくれるんですけどね」

「それ、やってないって忘れてるだろ!」


 ナヴィが今更思い出したように「確かにそうでしたね」と笑った。


「笑い事じゃねぇ!

 ちょっと、そのスキル教えろ」

「イヤです」

「何でだよ!?」

「なんか、偉そうですし?」

「むしろ、何でお前が偉そうなんだよ!」

「ナヴィですから、偉くて当然です。

 ムショクみたいな、無知無能とは違いますよ」

「どうやら、また、食われたいらしいな」

「また噛みつきますよ」

「じゃあ、どうやって探せばいいんだよ!」


 バッカスの目の前でお互いを噛み合ったことを思いだした。

 あの時は、ヨダレだらけのナヴィが頰に擦り寄ってきて大変だった。


「あ、あの……」


フィリンがおずおずと会話に割り込んできた。


「どうしたんだ?」

「索敵なら私もできるので、明日、広範囲を調べてみます」

「助かるよ」

「索敵なら某もできるぞ。

 ただ、シハナ様の護衛もあるから共でいいなら助力しよう」

「助かる。

 これで少しは、希望が見えたか?」

「ムショクは何もできないですねぇ」


 ニヤニヤとナヴィが目の前をフラフラ飛んだ。


「くっ……こいつは……」


 ムショクが悔しがっているのが楽しいらしく、どうしたんですか?と尋ねながら目の前を飛ぶ。


「分かったよ。教えてくれ」

「もっと、丁寧に」

「ナヴィさん、教えて下さい」

「仕方ないですね。

 このナヴィが教えてあげましょう!」


 気分を良くしたナヴィが、嬉しそうに胸を張った。

 こいつにはいつか痛い目を見せてやる。とムショクは心に決めた。


「まずは、探知スキルを得るには幾つかの方法があります。

 1つは、ギルドに入って教えてもらうこと。

 冒険者は必ずギルドに入るので、ここで覚えます」

「だから、ギルドに入れてないんだって」

「分かってますって。

 フィリンやゲイナッツの様に冒険者じゃない人間がどうやって探知スキル。

 彼らの言う所の『索敵』を覚えられるかと言うと。

 とある儀式をするんです」

「儀式?」

「はい、名付けて『見つけろ! ハイド&シーク!』」

「お前、今考えただろ!」


 そのセンスのない名前に笑いも起きない。


「なっ、失礼な! 本当ですよ!」

「嘘つけ!」


 と、ナヴィに言ったが、横にいるゲイナッツとフィリンは懐かしそうに頷いた。

 他でもない冗談の言わなさそうな二人がナヴィの言葉に賛同をしているのだから、彼女の言葉に真実味が増してしまう。



「えっ、マジで?」

「本当だって言ったでしょ?」


 ナヴィの偉そうな顔。

 ムショクは、取りあえず、気に食わなかったのでナヴィの胴体を指でつついた。


「で、それはどうやってやればいいんだ?」

「簡単ですよ。

 まずは、2人以上の人が隠れます。

 そして、『索敵』を覚えたい人が、隠れた人を探します。

 ただし、細かいルールが幾つかあって、隠れている人は本気で隠れる事、また、探す人が隙を見せたら襲っていいということです」

「まてまて、何か聞き捨てならない言葉が入ったぞ」


 襲う。何て言う単語は想定していない。

 いや、ただ、探すスキルを得るだけなのに、なぜそこで襲われなければならないのだろう。


「まぁ、『索敵』ですから。

 敵を探すので、襲ってきて当然でしょう」

「どう考えても、襲う必要ないだろう!」

「ちなみに、襲われて攻撃されたら最初からやり直しです」

「過酷すぎるだろ!」

「実際、それだけ有能なスキルなんですって」


 確かにナヴィの言うとおり、あらかじめ敵の場所が分かる能力と言うのは有能ではある。

 だが、今、ムショクが求めているのは、ただ単に人探しだ。

 探すこと自体は間違っていないが、それは敵ではない。


「ムショクさん、今からそれをやるつもりなんですか?」


 ナヴィとムショクの会話にフィリンが割り込んできた。


「えっ? ダメなんですか?」

「いえ、ダメだというわけではないんですが……時間かかりませんか?」

「時間ですか?」

「はい、私はそれをクリアするのに、一か月はかかりましたよ」

「それがしは半月だな」


 フィリンとゲイナッツが口にした期間はとてもじゃないが、一朝一夕で出来る時間ではなかった。


「そんなにかかるんですか?」

「たぶん、私とゲイナッツさんが隠れて、ムショクさんが探すんだと思います。

 正直言うと……見つけられるかどうか……」


 口ごもりながら話すフィリン。

 彼女なりに気を使っているのだろうが、その気遣いはないに等しいものだった。


「見つけられるかはさておき、今日明日で出来るものじゃなさそうだな」

「すみません。お力になれず」

「いや、フィリンさんはいいんですよ。

 それもこれもこんな毒にも薬にもならない案を提案するハエが悪いんですから」 

「それって、誰のことなんですかねぇ!」

「お前しかいねぇだろ。この役立たずの妖精が!」

「あぁ! 言いましたね!」

「全知全知って全然役に立つ情報出してねぇじゃねぇか!」

「もう、怒りましたよ!」


 羽を強くはためかせながら、ナヴィが怒った顔でムショクを見た。


「皆さん、夕飯はどうしますの?」


 呆れたシハナが声をかけた。

 その瞬間、ナヴィの怒り顔は一瞬で氷解し、今日の夕飯が何になるのか気になったようだった。

 シハナも自分で作るわけではないから、今晩のメニューが何なのか、ゲイナッツに視線を送った。


「これだけ寒いと、鍋がよかろう。

 ただ、水が貴重であるから、蒸し鍋にはなるがな」


 ゲイナッツがそう答えた。


「いや、水ならあるぞ?」

「そうなのか? だが、貴重な水であろう?」

「そんなことないぞ。大量にあるから折角だから使ってくれ」


 「なぁ、スライ」と言葉を続けた。

 それに応える様にスライが身体の表面でブルリと震えた。


「しかし、どこに……?」


 ゲイナッツが不思議そうに辺りを見回した。


「まぁ、食事を作る時に教えてくれ」

「……あれを使うんですか?」


 ナヴィが少し不穏そうな顔でムショクに尋ねた。


「あれ以外ここで豊富な水なんてないだろう?」

「そうですが……」

「あれは泉の水だろ? 味もいいじゃないか」

「確かに、いい水でしたが……如何せんスライの身体から出る感じがどうも……」


 こう贅沢を言いながら、いざ食べると笑顔で食べるのがナヴィだ。


 ゲイナッツが鍋の用意を始めると、ムショクに水を出すようお願いした。

 ムショクは快諾し、スライから大量の水を鍋に注いだ。

 まさか、スライムから水が出るなど、想像もしなかったゲイナッツはそれを見た瞬間、何とも言えない顔をしたが、大量の水と引き換えなのだから贅沢は言えなかった。


 案の定、料理が出来てしまうとナヴィの怒りはどこへやら。そんなものはすっかり忘れて、その体格に見合わない量を食べていた。


 夕食が終わり、たき火を前にナヴィは満足そうにムショクの膝に座っていた。


「はぁ、お腹いっぱいです。満足、満足。

 イタチってもっと臭いかと思っていましたが、案外食べられるものですね」


 気を良くしたゲイナッツはナヴィに肉の下処理について熱く語っていた。


「お腹いっぱい食べられて、幸せです。

 こんな日が続けばいいですねぇ」

「ったく。逆にバグが治らなければずっとこのまんまだぞ?」

「あははは、確かにそうですねぇ。

 ムショクとも旅も悪いもんじゃないですね」


 お腹いっぱいになって寛容になったのか、ナヴィが満足そうにムショクの膝に座る。

 実際は笑いごとではないのだが、ムショクもナヴィとの旅はまんざらでもなかった。

 そう言う意味では、このちょっと普通とは違う旅が終わって欲しくはないと願っている。


「そういえば、ムショクは植物を採取する時いつも根から取りますよね」

「あぁ、そうだな」

「なんでですか?」

「合成もそうなんだが、採取植物の畑とか作ってみたくてな。

 種があるものは種も保管してるぞ」

「相変わらず、変なこと考えますねー」

「あの泉で各地域の色々な植物が採取できるって楽じゃないか?」

「まぁ、確かにそうですね」


 ムショクの構想にナヴィも共感したようだ。

 あれも欲しいこれも欲しいと要望を出し始めた。



 春とはいえ、リルイット。それも、山の中なので、とても寒い。

 服一枚でいたらおそらく春でも凍死すするのでは、と思うほどだった。

 だが、カゲロウの近くだけはそうではなかった。


 この山の中で、まるで、特別な空間かの様に、カゲロウの周りだけは暖かかった。

 ナヴィが言うには氷結の精霊の力が及ばない範囲を形成しているからだという。

 お陰様で、夜を過ごすにも寒さで凍えることはなかった。

 これは魔物よけの結界の意味も含まれているらしい。


「明日は日が昇ったら、精霊探しだ。

 今日はもう寝るか」


 ムショクの言葉に各自寝る準備に入った。

 ムショクもナヴィを胸に移してごろりと転がった。

 空を眺めると一面に広がる星。


「空が広いな」

「山の上ですからね」


 ナヴィも、ムショクの胸の上で同じように空を眺める。


「こうして見るとアレを思い出しますね」

「星スズランか?」

「はい。あれは綺麗でした」

「これからもっと、いろんなものを見るぞ。

 次は南に行こうか?」

「あははは、いいですね」


 山の中、唯一の明かりがカゲロウのたき火だけ。僅かな瞬きもその夜空では主役になれる。

 ムショクは圧倒されるような夜空の下でこれからのことと、ほんの少しだけ現実のことを考えていた。


>>第72話 やっぱり、戦うんですか?

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