第70話 ユニークアイテム
抽出液を水で薄めることなく、さらに火にかけて濃度を上げていく。
焦げ付かないように低温で、水分だけをうまく蒸発させる。
しばらくすると鍋の底に小指の爪程度の水滴が残った。それを小さな小瓶に移す。
名付けるなら『薬草の原液』。
それを指輪の窪みに垂らし、『森林クラゲの体液』と共に石をはめる。
「……」
じっと見るが色の変化はない。
名前:冥帝の指輪
カテゴリ:装飾品
ランク:龍神級
品質:高品質
効果:属性耐性、霊撃付与、不死者強化
エンチャント:追加激減、攻撃力倍加、霊撃強化
効果に不死者強化がついた。
これは恐らく、アンデットに対する攻撃強化なんだろうが……
「一応、質問」
ナヴィの方を向いて尋ねる。
「何ですか?」
「死者強化ってのは?」
「その名の通り、不死者に対しての攻撃が強化されます」
「その原理は?」
大事なのはここからだ。
「原理ですか……。
正確な表現をするなら、不死者は生者に対して一定の抵抗を持っています。
それを緩和させ、より相手にダメージを与えやすくする感じです」
不死者の抵抗を緩和させる。
それはどういう原理なのだろう。
ならばと一つ仮定が浮かんだ。
「シハナ、これをつけてみるか?」
「よろしいのですか?」
「ん? 何でた?」
シハナがちらりとフィリンの方を見た。
その視線を追い、ムショクもフィリンを見る。
彼女は何か気になることがあるのか、ずっとこちらを見ている。
いや、決してやましいことはない。
が、その視線になぜか躊躇してしまう。
「えーっと……あれだ。
別にプレゼントってわけじゃなくてだな」
無言の視線が痛い。
「この指輪の効果に不死者強化があってだな。
シハナが、強化されるかなって……
物は試しにって奴だ。
フィリンさんにも後から何か作るから待っていて下さい」
フィリンはニコリと笑うと作業をやめてこちらに来た。
「何かあるんですか?」
何故か笑顔に迫力を感じるのは気のせいだろうか。
「うーん、仮定だが。
不死者強化って、本当に自身が不死者に偏るんじゃないのかなって思ってな」
不死者は生者に対して一定の抵抗を持っており、それを緩和させ、より相手にダメージを与えやすくなる。
その説明はるで、相手にデバフをかけているみたいに聞こえる。
が、アクセサリをつけただけで対象にデバフをかけられるだろうか。
それもあり得るかもしれないが、対象ではなく自身に効果がある方が現実的だろう。
なら、装備者に変化があるはずだ。
では、装備者への変化とは何か。
そう考えた時、思い浮かんだのは装備者が、死者化、もしくはそれに近くなることだ。
最初は、不死者が苦手な何かに変わるかともと思ったのだが、ナヴィの緩和するという説明を聞き、そうは思えなかった。
「てなわけだ、付けてもいいか?」
「分かりましたわ」
シハナの手を持つとそっと指輪を指に向ける。
「ムショクさん、指輪は私が入れましょうか?」
入れようとした瞬間、フィリンがムショクに声をかける。
「えっ? いや、もし何かあったらすぐに外したいから俺がやるよ」
「何かあるんですの!?」
「万が一だって。
じゃあ、入れるぞ」
改めて、指輪を持つとシハナの左手を持つ。
「あの……」
フィリンが何か言いたそうにこちらの顔をのぞき込む。
「えっと……どうした?」
「その指につけるんですか?」
何気なく左手の薬指にはめようとしていた。
特に他意はなかったが、指輪といえばその指が自然かなと選んでしまった。
「シハナ、どの指がいい?」
「人差し指でお願いしますわ」
ムショクは分かったと頷くとシハナの指に『冥帝の指輪』をはめる。
その直後、シハナの身体が淡く光った。
「きゃっ!」
シハナの小さな叫びに驚いて、ムショクは指輪を外そうとしたが、それをシハナは制する。
「大丈夫ですわ。
少し驚いただけで問題ないですわ」
光はゆっくりとその強さを落とし、元のシハナに戻った。
「感じは?」
「ムショクの言うとおりですわ。
ここにいる実感がより強くなりましたわ。
それに、何か底から力が溢れるようですわ」
思ってもみない効果に、ムショクがもう一度指輪を見てみる。
名前:冥府王女の指輪
カテゴリ:装飾品
ランク:龍神級
品質:高品質
効果:属性耐性、霊撃付与、不死者強化、体力一定時間回復
エンチャント:追加激減、攻撃力倍加、霊撃強化
備考:死を迎えた王家の者がつけた指輪
「ナヴィ、名前が変わったぞ」
「ユニークアイテムに変わりましたね」
「何だそれ?」
「アイテムが特定個人の為に変化する現象です。
長く使ったアイテムや、個性にあったアイテムがそうなります。
俗に言う、手に馴染む武器ってやつです。
ただ、名前が変わるだけで、効果は変わらないはずなんですが……」
「体力一定時間回復ついてるな」
「……何かしました?」
そうやってすぐ疑う。
が、まぁ、今回も心当たりはある。
薬草の原液の効果が遅ればせながら来たのだろう。
「じゃあ、これはシハナのものだな」
「何だか、頂いてばかりですわね」
「今から何があるか分からないんだ。
強くなってもらうには越したことがないさ」
そう言うとムショクは笑顔を見せた。
>>第71私には 落胆、フィリンさん




