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第67話 知識の片鱗

「用意がいるってことは、精霊にあってもすんなり譲ってくれないってことなのか?」

「それは、何とも言えませんね。

 まぁ、大概の精霊は力比べが好きなので、戦ったり競ったりして譲ることが多いです」

「戦いだけはしたくないなあ」


 正直、戦いだけはしたくない。

 ムショク自身が戦闘系というのではないからなおさらだ。


「そこは全知の力でサクッと答えを知りたいところだったよ」


 ナヴィが言えないというのは知っていたが、思わずムショクはそう愚痴ってしまう。


「いえいえ、それは違います。

 全知ですが、それは分からないです。

 正確な表現をするなら、それは全知の範疇に入らないです」

「どういうことだ?」


 いつものナヴィならあきれ顔で返すところを、まじめな言葉に返されて少し拍子抜けるムショク。

 だが、ナヴィの面白そうな言い回しに気になってその言葉の真意を訪ねた。


「うーん、抽象的な表現は分かりにくそうなので。

 見せてみますか」


 ナヴィは地面に降りると地面に落ちている石を2つ拾った。

 片方は灰色のどこにでもありそうな石で、もう1つは赤みがかった石である。

 それを2つ見せて、ムショクに言葉をつづけた。


「この2つのどちらかの1つ好きなほうを選んでください。

 ただし――」


 ナヴィが言葉をつづける。


「私がムショクがこれから取る石を予言します。

 ムショクは赤色の石を取りますね?」


 ナヴィがしたいことがよくわからなかった。

 ムショクが2つの石から好きなほうを選ぶ。どちらを選ぶかナヴィが先に予言する。

 それならば、当然予言と違う石を取るのが普通だ。

 ムショクは灰色の石を取って、不思議そうな顔を見せた。


「これで、ナヴィの予言は外れたな」

「いえ、私がこういうことで、ムショクが灰色の石を取ることを知っていたので、

 問題ありません」

「おっ、それは卑怯じゃないか?」

「ふふふ。じゃあ、もう一度しましょう」


 ナヴィはムショクから石を受け取ると再度その2つを見せた。


「今度もムショクは赤色の石を取ります」


 そういうものだから、今度はムショクは灰色の石を取らず赤色の石を取った。


「ほら、言った通りでしょ?」


 ナヴィがクスリと笑った。


「いやいや、これってどっちとっても同じじゃないか」

「そうです。どっちをとっても同じなんです。

 では、質問です。

 この結果を私は知っていたのでしょうか?」


 ナヴィがいたずらっぽく笑った。


「ちょっと待て、どういうことだ?」

「私が未来を言ったせいでその未来が不確定になるのです」

「ん? じゃあ、言わなかったらどうなるんだ?」

「あほですか?」


 ナヴィはムショクから石を受け取ると再度その2つを見せた。


「どうぞ」


 ナヴィが何も言わなかったが、それは先ほどと同じように、どちらかを取れということだろう。

 ムショクはそう思い、今度は灰色の石を取った。

 それを見て、ナヴィは笑った。


「灰色の石を取るのは知っていましたよ?」

「うがぁ、それは卑怯だ!」


 それは何とでも言えてしまう。


「だから言ったじゃないですか。

 わざわざやらせるんだからあほですか? と。

 『事象干渉による不確定影響』。

 魔術師はこれをそう呼んでいます。

 魔法の中に未来を予知する力がありますが、それもこれもそういった問題がかかわってくるのです」

「なんだかややこしい話だな」

「それともう1つ。

 『全知の迷路』という理論があります」

「何だそれは?」

「『全知の檻』とも呼ばれますが、要は証明できないことです。

 私が、さっきどっちの石をとったか知っていたと言いましたが、それって本当だと思います?」


 ナヴィはナゾナゾを掛けるように笑う。


「嘘をついていたってことか?」

「いえいえ、証明する手段がないのですよ。

 最後に1つこれらの理論の総まとめを見せましょう」


 ナヴィはそう言うと、ティネリアを呼びつけて、何か耳打ちした。

 そして、赤と灰色の石を見せた。これで4度目。


「これで最後です。

 ムショクは赤色の石を取りますよね?」

「ふふふふ」


 ナヴィの質問にムショクは静かに笑った。

 小難しい理論を並べているが、ようは2択のどちらかに絞らせているのだ。

 ティネリアに何か吹き込んだようだが、ナヴィの持つ答えのその上を行けばいいのだ。


「俺の選択はこれだ!」


 ムショクはそう言うと、ナヴィの手にある石を両方共取り上げた。

 それを見ていたティネリアは驚いて小さく声を上げた。


「ふははは、これで、仮にナヴィが赤だといったら俺は灰色も取っているし、その逆も然りだ。どっちを答えてもナヴィは間違うって寸法だ。

 確かに最初はどちらか一方と言ったが、今は言ってなかったしな!」


 ムショクは勝ち誇った顔を見せた。


「やりますねぇ」

「どうだ、ナヴィ!」


 その顔を見てナヴィはニヤリと笑った。


「ティネリアさんどうぞ」


 ナヴィはそう言うと、ティネリアの方を見た。


「えーっと……ナヴィは私にムショクが両方取るって言ったわ」

「なぁにぃ!」


 ティネリアが驚きの声を上げたのは、ムショクが予想外の動きをしたのではなく、逆に予想通りの動きをしたからだった。


「ムショク。

 私は、未来をすべて知っています。

 でも、未来を知るたびに『事象干渉による不確定影響』で、その未来は永遠と変化していきます。

 そして、『全知の迷路』の影響で、私はその事実を正しく伝えられないのです」


 すぐそばでティネリアが感心した顔で何度もうなずき手を叩いた。


「全知の範囲は主に過去の知識に偏るってことですよ。

 未来に関しては勘のいい程度しかわからないと思ってくださって結構です」

「要するに、使えない奴だってことか」

「むっ、せっかく、丁寧に教えてあげたのに!」

「すまんすまん」


 未来の事象はナヴィの全知をもってしても不確かなものらしい。

 やはり、そうなると精霊に対するある程度の準備は必要になる。

 避けたいが、戦闘が発生する可能性も考慮に入れる必要がありそうだ。


「凄いですよ! 今の話!

 今の話は『次元魔法影響下による近過去未来における影響』の話をわかりやすく話しています!

 これ、魔法学院特級研究者の最新理論ですよ!」

「えっ、こんなこと研究しているのか?」


 どうも煙に巻かれたような話だ。


「そうよ! すごいのよ!

 最近、魔力は時間と空間に作用することが分かったの! 未来の魔法が過去に影響を与えるのよ。もちろん、その逆も!

 それって凄くない? 因果律が魔力によって歪むのよ!」


 はしゃいでいるティネリアをナヴィは複雑な表情で見つめた。

 時間と空間に作用するという言葉で、ムショクはふとブレンデリアを思い出し、『フェアリーテイルクライシス』という言葉がふと頭をよぎった。


「さて、講義もこれくらいにして、次は合成です! 少し強力なものを作りましょう」

「いいのか? 俺のレベル的な問題もあるんじゃないのか?」

「ムショクの合成スキルのレベルは中級くらいですからね。

 ある程度のものは教えられます。

 それに、このレベルくらいになると結構色んなレシピが見られるのです。

 実際に作られるかは別としてですね」


 確かに、レシピは知っているが実力が伴わなくて作れないってのはよくある話かもしれない。それがやる気にもつながるわけで。


「じゃあ、頼む」

「まずは『冥帝の指輪』です。

 アクセサリ系はそれこそ金属や宝石加工の設備がいるので、

 今は簡易にできるものを教えます」


 ナヴィは並べられているヘルムガートの翼の骨を拾い上げた。


「まずはヘルムガートの骨です。これを輪切りにしてください」

「どこの骨でもいいのか?」

「一応どこの骨でもいいですが、一般的には翼がいいとされています。

 あっ、指輪にするんで、指の太さに近い程度の骨がいいですよ」


 指が通るほどの太さの骨を取り上げると、龍の牙を使い、それを輪切りにする。

 『怒涛の装甲鳥(アングリーバード)』の猛追を受け止めた骨のであったが、

 さすがに龍の牙には歯が立たず、少しの抵抗で骨がまるで野菜のように輪切りにされていく。

 

 名前:切り落とされた冥鳥の骨

 カテゴリ:素材アイテム

 ランク:龍神級(ドラゴムクラス)

 品質:高品質

 効果:属性耐性

 エンチャント:追加軽減+


 いつも通り魔力を注ぎ込むことで素材にエンチャントを付けられる。

 触媒は『冥鳥の砂嚢さのう石』だ。


「あぁ、なるほど。

 この段階でエンチャントを掛けるわけですね」

「そういや、アレンジしてるの見るのって初めてか」

「だいたい、人が起きてない時間に作ってますからね」


 確かに没頭したい時は夜中や朝方にすることが多かったかもしれない。


「冥鳥の砂嚢さのう石はどうも複数効果の触媒効果があるみたいですね」

「そうそう。それな。

 いろんなアイテムで試してて俺も気づいたわ。

 触媒はあくまでもエンチャントの方向性を安定させるだけでその触媒にも複数のエンチャント効果が隠れてるのがあるよな。

 たまぁにレアリティ高そうなエンチャント引けたりしたことがあったし」

「おっ、錬金術師っぽい発言じゃないですか。

 じゃあ、次の工程です。

 透かして見るとよくわかりますが、ヘルムガートの骨は中に所々に空洞があるでしょ?」


 ナヴィのいう通り、その骨は中身がびっしり詰まっているわけではなく、幾本もの支柱が複雑に絡み合うような特殊な構造をしていた。


「そこを削って完全な空洞にしてください。それで指輪の外骨格が完成です」


 構造的にはもろそうだが、何より骨の硬さが段違いに硬い。


「さて、そこのもろくなった部分を削ってください。

 なるべく丁寧に空洞になるようにです」


 ナヴィの指示に従って龍の牙の先端で、骨をくりぬくように削っていく。

 表面に比べ支柱が張り巡らされているだけの空洞だらけの骨はパリパリと音を立てて削れ、最後にはぽっかり穴が開き、リング状の形になった。


「本当はこの骨を削るだけでも大仕事なんですが、

 さすが、ゲイヘルンの牙ですね」


 蟹の身をほじる様にゲイヘルンの牙でコリコリと中身を削っていく。

 強固なゲイヘルンの牙のお陰か、傍から見たら簡単そうに見えるが、これにもエンチャントをつけるのだからその行動ごとに尋常じゃない魔力が削られていく。


 程なくして不格好ではあるが穴が貫通した。


 名前:くり抜かれた冥鳥の骨

 カテゴリ:素材アイテム

 ランク:龍神級(ドラゴムクラス)

 品質:高品質

 効果:属性耐性

 エンチャント:追加軽減++


「ちょっと、雑ですが少しは指輪っぽくなりましたね」

「まぁな、もう一工程混ぜていいか?」

「良いですけど、何するんですか?」

「磨く」


 ムショクは細い骨を拾い上げると、削り落とした骨の欠片を拾い集めた。


 名前:砕かれた冥鳥の骨

 カテゴリ:素材アイテム

 ランク:天馬級(ペガススクラス)

 品質:高品質

 効果:猛毒、呪い

 エンチャント:効果持続++


 小山程度に欠片を集めると、骨の先に『森林クラゲの体液』を塗り、欠片をまぶした。


「それは?」

「やすり……みたいなものかな?」


 骨の先端には、骨の欠片が塗り固められ、確かにムショクの言う通り、ヤスリのように見えなくもない。


 名前:冥府の骨やすり

 カテゴリ:その他

 ランク:天馬級(ペガススクラス)

 品質:高品質

 効果:効果4倍、浄化

 エンチャント:硬質化、効果継続


 毒と呪いの効果が裏返って効果に浄化がついた。

 これは僥倖と、ムショクはそれを使って骨を磨いた。

 特に凸凹だった内側を丁寧に磨くことで、凹凸なくきれいに局面を描き始めた。

 しばらくそれを続けると満足した様子で骨を空に透かして見た。




「うーん……」


 ムショクの掲げたそれを見てナヴィが何やら首捻っていた。


「どうしたんですか?」


 黙って考え込んでいるティネリアが、不思議そうに尋ねた。


「うーん……いや、まぁ、良いような気もするんですが……エンチャントがね……」


 そんなナヴィを気にも止めず、ムショクは磨き上げたそれに満足そうだった。


>>第68話 指輪とポーション

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