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第62話 称号とは?

「して……お前たちはどうしてこんなところに連れてこられた?」


 今度は、ザーフォンがムショクたちに質問をした。


「ん? いや、不法入国でな。

 ちょっと急ぎの用があって、関所を突破した」

「ちょっと、私は違いますよ!

 勝手に、巻き込まないでよ!」

「ひょっひょっ、関所を突破とは。

 どの時代にもバカはいるもんじゃな」


 ムショクの言葉に、ザーフォンは笑った。

 境遇としては、ザーフォンもムショクもあまり変わらない。


「ちょっと、馬鹿にされてるじゃない!」

「まぁ、やっちゃったものはしょうがないだろう」

「ここに入れられたって事は、大罪人扱いよ!

 下手したら死刑よ!?」

「そうなのか?」

「なんじゃ知らんのか? ここは死刑囚が収容される場所じゃぞ?」


 ムショクの能天気な発言とザーフォンの言葉に、ティネリアはがっくり膝を落とした。

 ティネリアからしたら甘い言葉に乗ったせいで、不法入国の片棒を担いでしまったのだから後悔は凄いのだろう。


「まぁ、何とかなるだろう」

「なんで、そんなのんびりしてるのよ!

 死ぬかもしれないのよ!」


 ムショクは腰を下ろすと、スライに『鑑定』を使った。

 スライムドラゴン。種族が無機とドラゴンになっている。

 ナヴィが言うには、ジュエルドラゴンのような無機系ドラゴンと同じ系統になったらしい。

 スライムという名前が弱さを強調しているが、間違いなくムショクよりも強い。

 ステータスが見られないのは残念だが、特技や称号は見ることができた。


「称号付きってそんなに強いのかねぇ?」

「まぁ、称号ですからね。それなりの効果はありますよ」


 ムショクの言葉にナヴィが返す。

 そのやり取りを見て、ティネリアが不思議そうに首をかしげる。


「称号って何なの?」

「なんじゃ、最近の魔術師はそんなことも知らんのか」


 ティネリアの言葉にザーフォンが呆れる様に言葉を返した。


「称号というのは通称じゃ。

 それは、魂に刻み込まれる名前じゃ。

 称号は真名となり魂と肉体に還元される。

 言葉を換えればそれは呪いのようなもんじゃ」


 ムショクはちらりとナヴィを見ると、彼女もその説明にうなずいた。

 どうやら、間違っていないようだ。

 だから、称号がつくと、肉体に影響が出る。


「魔術師だけじゃないぞ。あらゆる職業が自らの道を貫き魂に名を刻む。

 魂の名。称号とはそういうものじゃ」

「あんたも何か称号がついているのか?」

「ひょっひょっひょ。自分の称号は分からんもんじゃ。

 そして、ある時ふと気づくんじゃよ」


 そんなものなのかとムショクはつぶやいた。


 しばらくすると、長い通路にカンカンと靴が石畳をたたく音が響いた。

 衛兵が来たのだろうが、今度はムショクがやってきた時ほど騒がしくない。

 やってきた衛兵は、ムショクのいる牢の前に立つと、そのカギを開けて出るように、伝えた。


「なんだ、本当に何とかなったのか」


 ここから出る算段はいくつか考えていた。

 武器やアイテムは取られていたが、スライが自分の身体にへばりついたままだったので、牢や壁をスライに食べてもらえば抜け出すことは可能だろうと考えていた。

 最悪の場合はそれを考えていたが、シハナが言っていた考えというのが、上手くいったみたいだった。


「ちょっと、なんで出られるんですか!」


 ティネリアは牢から出たムショクを見て驚きの声を上げた。


「いや、俺も分からんが……彼女も出られないのか?」

「男1人と聞いているが?」

「そんな……」


 衛兵の言葉にティネリアは絶望の表情を浮かべた。貴族の娘だから何とかなると思っていたが、そうではないようだ。

 ムショクが思っていたほど、その立場に影響力はないようだ。


「頼むよ。ティネリアは俺の仲間だよな?」


 話を合わせろよとティネリアの目を見る。

 ムショクの意図を察したのか、ティネリアはぐぬぬと悔しそうな顔を浮かべた。


「なっ?」

「大変不本意だけど……わ、私は、そこの……腐った男の……仲間よ……」


 よっぽど嫌だったのか絞り出すような声でムショクの仲間であることを宣言した。


「というわけだ。

 あんただって、またここに来るのは嫌だろう?」


 ムショクの言葉に衛兵はちらりと更に奥を見た。

 狂乱の魔術師ザーフォン。魔力を喰う魔術師。彼だってわざわざのんな所には来たくないはずだ。


「しかし、男を1人と命じられてだな……」

「多分その後に、女を1人って言われるぞ?」

「しかしだな……」

「なぁ、ティネリア?」


 ティネリアは必死で頷いた。


「ティネリアって、あのビッシア家の才女。ティネリア様ですか!?」


 ティネリアの名前を聞いて衛兵が驚いた声を上げた。

 一応、その家の名前は影響力があったみたいだった。

 それなりに影響力があるならここに入れられる前に、発揮して欲しいものだ。


「なんだ、お前、有名なのか?」

「貴様、ティネリア様を知らんのか?

 齢10にして、リルイットの誉れがたき氷結の呪文を全て収め、その後も最年少で王宮魔術師になられた方なんだぞ!

 その美しい容姿と明晰な頭脳からリルイット最高の氷の魔術師と言われているんだぞ!」

「まぁ、そんなティネリアも不法入国で牢屋の中だがな」

「あれは、あなたが――」


 叫ぼうとした瞬間、衛兵の視線に気づき、ティネリアは言葉を止めた。


「こほんっ、とにかく、誤解だと気づいてくれて助かるわ。

 ここから出してくれない?」

「他でもないティネリア様なら喜んで!」


 自分の時とだいぶ違う態度に、ムショクは乾いた笑いが漏れた。

 ティネリアが牢から出ると、ムショクはその奥を見た。

 捕らえられている狂乱の魔術師ザーフォン。


「ちょっと! 何見ているのよ!

 早く行くわよ!」


 ティネリアはムショクの視線の先に気づいて諌めるように声を掛けた。

 ムショクはその声を無視して、その牢の先に一歩近づいた。


「お前はブレンデリアの何を知っている?」


 彼がブレンデリアに会ったという言葉が気になった。

 ムショク自身、彼女が何者なのか分からない。

 だが、何かを知っているようだった。


 牢屋に近付くと近づくとザーフォンの異常さが分かった。

 広さはムショクが捉えられたそれと大差はなかったが、その壁や床天井、檻のそれに至るまで、術符、魔法陣、呪言。あらゆるものが書かれ彼を封じていた。

 ナヴィがそれを見て小さく全て魔法封じの類いですと呟いた。


「ワシも知らんし、知りとうないわ。

 錬金術師と魔術師とは進む道が違う。

 だが、あの美しい魔力だけは一目見て心を奪われたわい」


 スライが何気になったらしくムショクから降りるとザーフォンのいる檻に触った。

 その直後、何かに驚いたように震えた。


「そいつは、お前の仲間か?」


 ザーフォンはスライを見てそう尋ねた。


「そうだぞ」

「無機生命体は特異じゃ。魔力で生きておる。

 魔力を糧にし、その命は魔力がある限り永遠に生きる」


 ムショクは、『龍の威厳』を放ち、元気がなくなったスライを思い出した。

 スライは地面に近いところにある術符に興味を持ったのか一枚剥がすとそれを食べた。

 びっくりするように身体を震したその身体には術符に書かれた模様が浮かび上がり消えた。


「永遠の命……羨ましいのぉ……羨ましいのぉ……」


 ザーフォンは立ち上がると、叩きつけるように両手を牢につけるとスライを睨みつけるような目で見た。


「スライ、行くぞ」


 ムショクの言葉にスライは、そこから離れムショクの身体に戻った。


「大丈夫だったの?」


 その牢から離れると、遠くで見守っていたティネリアが心配そうに声をかけた。


「ああ。

 待たせたな。じゃあ、行こうか」


 そう言うと衛兵の後につき、ムショクとティネリアはそこから出ていった。


「羨ましいのぉ……羨ましいのぉ……」


 暗く狭いその場所に何度も繰り返すザーフォンの声だけが響いた。


>>第63話 巷で噂らしい炎の魔術師

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