第59話 爆発物と試作ポーション
朝、朝日とともにムショクは目覚めた。
昨日の惨状は筆舌に尽くしがたいものだった。
キヌカゼが出てからは、何とか落ち着いたが、溶岩と蛇とアルコールが散逸する宴だった。
いつもなら一人で合成作業をするのだが、今回は『トールフラゴ』を作るため、ナヴィを起こす。
お腹の上にへばりついているナヴィをつつくと、眠そうな目をこすってナヴィが起き上がった。
「あぁ、おはようございます」
「おはよう。よく寝られたか?」
ナヴィが飛び上がると朝日を身体に浴びながらグッと伸びをする。
「昨日の『シェリの葉ドリンク』はおいしかったですね」
「あれは、しばらく作製禁止だ」
「おいしかったのに、残念です」
酔っ払いたちにはポーションを飲ましたので、酔いは覚めているはずだ。
急ぎの旅で、二日酔いで進めないということは、起こらないはずだ。
「さて、『トールフラゴ』を作りたいんだが」
キヌカゼが出てからも数匹の渦巻き蛇が出たので、材料には困らない。
「じゃあ、材料をおさらいしましょう。トールフラゴの材料は『鬼灯岩』、『渦巻き蛇の抜け殻』、後は『渦巻き蛇の牙』か『旅する溶岩化石』ですね。
『渦巻き蛇の牙』も『旅する溶岩化石』もどちらもありますね」
「『渦巻き蛇の牙』も『旅する溶岩化石』はどっちを使う方がいいんだ?」
「その質によりますが、一般的には『旅する溶岩化石』の方がいいですね」
「なら、それを使うか」
カゲロウが起きてきたので、溶岩の中から『旅する溶岩化石』を持ってきてもらった。
溢れ出ていた溶岩は昨日の内に止まっていたので、今は表面の殻だけだ。
卵のような丸い石をマジマジと見る。
ここから溢れるほどの溶岩が流れ出た。
どういう原理なのか、その中を見ても一向に想像できなかった。
ナヴィの説明に従って、『鬼灯岩』と『渦巻き蛇の抜け殻』を砕いて混ぜ合わせる。
『メルフラゴ』の時と同様、乳鉢に入れ、手に革袋をかぶせゆっくり砕いていく。
ナヴィが言うには『グラット鉱石』よりも衝撃には強いらしい。
しばらくすると、それらを完全に砕き切って混ぜ合わせることができた。
その名の通り、鬼灯の色をした赤い岩と蛇の白い抜け殻が混ざり合いピンク色に近い粉が出来上がる。
ちょっとおいしそうだ。
昨日戦った渦巻きベビは巨大だったが、採取した『渦巻き蛇の抜け殻』は、腕ほどの長さの小さいものだった。
それも1つしか取れなかったため、この粉末は少ししか作ることができなかった。
ナヴィが言うにはこれだけで十分らしい。
「いい感じですね。
ここに『クラゲ液』を混ぜて固めて下さい」
元が少なかっただけに『クラゲ液』を混ぜて練り込んだが、小石程度の大きさにしかならなかった。
「次に『旅する溶岩化石』です。
これの内側を削って下さい」
『旅する溶岩化石』の内側は白く硬かったので、ゲイヘルンの牙を使うことにした。
ゲイヘルンの牙を突き立て、卵の内側を削っていく。
しばらく削っていると、石の中から赤い光が見えた。
「これは?」
「珍しいですね。マグマジュエルです。
触ってみて下さい」
ムショクは傷つけないように綺麗に周りを削り取りその赤い宝石を触った。
マグマジュエルという名前からは想像できないほど、ひんやりと冷たかった。
「冷たいと感じたでしょ?
実はこの宝石周りの温度を奪って、中に溜めこむんです」
「ここって、溶岩が溢れ出た石の中だよな?」
「そうです。なので、この中にはマグマに匹敵する熱を溜めこんでいるんですよ」
物騒な石だが、上手く加工できれば、強力なアイテムになりそうだ。
街に戻ったらゲイルさんにでも加工してもらおう。
「さて、だいぶ削りましたね。
その削りかすを集めて粉末状にして下さい」
ナヴィの指示に従って、『旅する溶岩化石』の内側を乳鉢ですりつぶし粉末にする。
「これに、『火焔油』を混ぜて練り込んで下さい。
十分に練り込んだら、『クラゲ液』を混ぜて、先ほど作った『鬼灯岩』と抜け殻で出来た塊を包みこんで下さい」
乳鉢ですりつぶした白い粉に、火焔油を混ぜて手で練る。
『メルフラゴ』の時と同様、手にべとべとひっつく物だったが、練るに従ってその粘りも消え、粘土のような固さになった。
そこに『クラゲ液』を混ぜ、先ほど作った『鬼灯岩』と『渦巻き蛇の抜け殻』で作った小さな粒を包んだ。
「後は乾くのを待つだけです」
「ふぅ……爆発物を扱うのはこれで二度目だが、やはり緊張するな」
「これくらい緊張感を持ってもらったほうがいいです。
そう言えば、前回の『メルフラゴ』を作った時もあまり変な手を加えなかったですね」
「さすがの俺も命は惜しいからな。
危険なアイテムに初っ端から冒険しようなんて思わないぞ」
「いい心がけです」
『トールフラゴ』ができるまでの間、他の合成でもして待っていることに決めた。
「そう言えば、『渦巻き蛇』の部位って色々使えるのか?」
「いい武具の素材になりますよ!
例えば、皮ですね。なめして防具にすれば炎に対する耐性を持つ防具になりますし、牙も武器の素材としては優秀です」
「まぁ、あの溶岩の中を平然と歩ける皮膚だからな。
装備品にしたらかなりいいんだろうな」
「うーん、そう言う意味では、そこまでの炎耐性はないんですよね。
やはり、生きている皮膚の方がより炎の耐性は高いです」
せっかくなので、この待っている時間に自分の得意分野を作ることにしよう。
ムショクは、渦巻き蛇の近くによるとその血を抜き、瓶に移した。
「ムショク、気をつけて下さいね。
渦巻き蛇の血は触れると燃えるので」
なるほど。ナヴィの言うとおり、瓶の中で赤い血が揺れるたびに炎のような揺らめきが見えた。
「燃える血か……」
それを鍋に入れてしばらく煮てみる。
十分ほど煮込むと、表面の小さな泡が出始めた。
そろそろ沸騰かと思った瞬間、鍋の表面から火が立ち昇り、鍋に入っていた蛇の血が一瞬で消炭になってしまった。
「こえぇぇぇ!」
鍋の様子を気にして覗き込んでいたら確実にアウトだった。
もう一度、渦巻き蛇の血を鍋に入れて今度は低温で煮込む。
炎を当て過ぎたら、火から鍋を外し、温度が上がらないように調節する。
今度は、燃え上がらない。
そこに、『メンティス』を入れて煎じる。
渦巻き蛇の血で作ったポーション。
炎に燃えながら回復する見た目にもインパクトのあるポーションが出来上がれば成功だ。
「おはようございます」
丁度、ポーションが出来あがって来たところにフィリン達が目を覚ました。
ポーションのお陰で二日酔いはないみたいだ。
出来あがったばかりのこのポーション。できる事なら試してみたいが、さすがにまだ試作品。
今回は、小瓶に移してポケットにしまうことにした。
「おはよう。よく寝られたか?」
「えーっと、はい……でも、お風呂に入ってからの記憶がなくて……」
「あぁ、私も」
フィリンとシハナが不思議そうな顔を見てそう口にした。
>>第60話 逃走劇




