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第54話 脅迫? 交渉?


 関所から離れると、ムショクは弁解の為にハイネとフランの速度を落とした。

 が、速度が落ちたと見るやいなや、ティネリアはムショクの襟元を掴むと、自分諸共ハイネから飛び降りた。

 一瞬、ムショクの身体が宙に浮き、そのまま地面に叩きつけられた。


「なんのつもりよ!」


 地面にたたきつけられたムショクに跨ると、ティネリアがどこからか出した短剣をムショクの首に近づけた。

 その切っ先は、僅かにムショクの首に刺さり、赤い血を流している。

 ハイネから落ちた衝撃は思ったよりも少なかった。

 痛くないわけではなかったが、のたうち回るほどではなかった。装備品が良かったからだろう。

 だが、肌に突き刺さる短剣は別物だ。突きつけられた短剣の痛みにムショクの顔が歪む。


「フィリンさん、ダメだ!」


 炉の精霊のこともあり、ムショクは咄嗟にフィリンの方を見た。案の定、フィリンは真っ先に弓を引き絞り、まさにティネリアに放とうとした瞬間だった。


「何もする気がないから剣を突き立てるのはやめてくれないか?」

「信じるわけ無いでしょ!」


 更に襟元を強く絞り、ムショクの首を絞める。

 それを見たフィリンはムショクの言葉を聞かず、絞った弓を緩めなかった。


「先に言っておきますが、貴方がその剣をムショクさんに刺すまでに私は三度貴方を撃ち殺せますよ」


 フィリンのその言葉に対抗するように、突き立てた剣の先を更に深く沈みこませる。細かった赤い一筋が、僅かに太くなった。


「1度目……」


 その瞬間、ムショクとティネリアの頭の後ろの方にムズムズとした違和感が走った。

 ほんの僅か、その違和感を追うように視線を外した瞬間、ティネリアの目の前を矢が走った。

 風を切り、トスっと音を立てて矢が地面に刺さる。

 フィリンはまだ弓を引き絞ったままティネリアを睨みつけていた。


「これは、ムショクさんが止めた分です。

 良かったですね。ムショクさんが優しい人で」


 その目はティネリアの一挙手一投足を逃さなかった。


「何なのよ、あなたたちは!

 何が目的なのよ!」


 ティネリアの怒りは最もである。


「フィリンさん、威嚇はなしだ。ティネリアも剣をしまってくれ」

「それでしまうと思うの?」

「好転するとも思わないぞ?」


 ムショクの言葉に、しばらく考えていたティネリアは何かを諦めるように剣をしまった。


「で、私をどうするつもりなのよ?」

「だから、どうもしないって、なんならリルイットの王都までおくるぞ?」

「冗談よね?」

「マジだって」


 ティネリアは諦めたように立ち上がると、服についた土埃を払った。

 ティネリアが剣を収めるのを見ると、フィリンはフランから飛び降り、倒れているムショクに駆け寄った。


「大丈夫ですか?」


 フィリンは腰のカバンから軟膏を取り出すと倒れているムショクの首にそれを塗った。

 塗られたと同時に痛みが引いてくのを感じる。エルフの軟膏の効果に思わず感心してしまう。

 完全に痛みが引き、触ってみても血は止まっていた。

 フィリンに感謝して立ち上がろうとしたが、彼女はもう少し待ってくださいとムショクを止めると、矢筒をムショクの足の方に置いた。

 何をしているのかというムショクの疑問に答えるかのように、上空から音もなく矢が矢筒の中に落ちてきた。


「さっき放った奴の残りです」

「なっ……」


 それを見たティネリアは声を上げて自分の首の後ろをさすった。

 その場所はティネリアが乗っていた場所だった。

 あのまま揉めていたら、その矢は音もなくティネリアに落ちていた。


「なぜ、私をさらったの?」

「さらった?」


 ようやく起き上がったムショクはティネリアの言葉を返した。


「人聞きの悪い。さらってないぞ?」

「この状況を見て、どの口がそう言うのよ」

「だって、最初にいったじゃないか。

 『関所を抜けるんですが、一緒にどうですか?』って」

「いや、いったけどさ! まさか強行突破なんて。

 そうだ! 私を聞いたよね?

 入国証明書は?って」

「だから、不幸があってだな」

「余ったと?」

「いや、不幸があって急いでいるので、関所は強行突破しようかなと」

「そんなの聞いてないわよ!」

「まぁ、言ってないからなぁ」


 ムショクの言うことは足りないだけで嘘ではなかった。

 不親切ではなく、明らかに騙そうとしていたのだから質が悪い。


「関所を力づくで突破なんて正気じゃないわよ」

「何でだ?」

「貴方、他国の人間が入国証明書を提示できないなんて大問題よ!」

「ってことは、君は大丈夫だってこか?」

「私はリルイットの人間なの!」

「なら、友人ってことで一つよろしく」

「やっぱり誘拐じゃないの!」

「仕方ない。悪かったよ

 関所まで戻ろうか?」


 その言葉にティネリアは睨みつけた。


「そしたら、私はめでたく密入国者の仲間入りよ」

「まったく、あれはダメこれはダメ」

「選択肢をなくした上での交渉は脅迫と同じよ」

「分かった。じゃあ、何がしたい?」

「選択肢がないって言ってるじゃない……貴方が野盗じゃなかったことが幸いだわ。

 しっかり、王都まで送ってよね」


 案外、図太い精神を持っていることに驚いた。

 とは言え、ずっと拒否されるよりはるかにマシだ。


「急いでいるんだっけ?」

「次は弱みに漬け込むつもりなの?」

「冗談だ。ちゃんと、送るって」


 ムショクは振り向いてシハナとフィリンに同意を求めた。


「ムショクさんが、そう言うなら……」

「もとよりそのつもりですわ」


 二人の同意を得られてムショクは笑顔でティネリアを見た。


「と言うわけだ」

「非常に不快だけど、この際我慢するわ」

「助かるよ」


 ムショクの出した手にティネリアは渋々その手を握った。



>> 第55話 あの時燃やしたものは

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