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第43話 再び旅立ちの時


 メルトの体温上昇は、カゲロウが一部受け持つこととなった。

 とは言え、気休め程度だ。

 基本的には本人に暴走を抑えてもらわなければならない。


「持って2週間ですかね。

 彼女の気力次第ですから、それよりも早くなるかもしれません」

「この期に及んでアタシを助けるつもり?」

「無駄な体力を使うくらいなら、さっさと休眠モードに入ってください」

「フェグリア中の炉の火が消えるわよ」

「それくらい、我慢してもらいますよ」

「……いいのね」

「後はカゲロウに任せます」


 カゲロウはこくりと頷くとメルトに近寄った。


「こんなおチビちゃんに任せるなんて」

「安心して下さい。

 彼女は古龍王の焦炎を引き継いでいます」


 ナヴィの言葉にメルトは驚き次いで安心した顔を浮かべた。


「どうりで強いわけだわ。

 あんた、ゲイヘルン様は炎を司る全ての憧れなのよ」


 メルトはそう言うとカゲロウの胸を触り目をつぶった。


「後は頼んだわよ」


 その瞬間、崩れ落ちるように地面に倒れた。


「これで、今は全権がカゲロウになりました。

 彼女なら多少の炎熱なら受け止められるでしょう。

 とはいえ、カゲロウもまだまだ未熟です。

 いつ限界が来るか未知数ですよ」

「分かった。

 急ぐようにするよ」


 メルトが眠りについたことで、周りの温度が急激に下がった。


「フィリンさん、街のみんなを呼んで下さい」

「分かりました」


 フィリンが離れて見守っているゲイルたちに声をかけに走っていった。


「また旅だな」

「今度は急ぎですけどね」


 ナヴィは少し残念そうに返した。


「セルシウスとファーレンハイトはどこにいるんだ」

「ここから遙か北。風と氷の国リルイットです」

「行こうとしたところか」

「偶然ですけどね」

「会えるかな」

「会わなきゃ。ですよ」

「だな」


 程なくしてフィリンが、あたりの住人を引き連れて戻ってきた。


「ムショク、私が今から説明することを皆に伝えてください」

「お前じゃなくていいのか?」

「私よりきっと、ムショクの方が適任です」

「ナヴィがそう判断したなら、それに従うさ」

「任せましたよ」

「おう、任された」


 差し出したナヴィの拳にムショクがこつりとそれに合わせた。


----


 ゲイルたちが集まったのを見てからムショクは話し始めた。


 メルトが暴走したこと、彼女の力を制御するためにリルイットに行かなければならないこと。

 そして、それには時間がないこと


「早いのは、『走駆する蜥蜴(グローランナー)』だが、リルイットは寒いからの。

 手前までしか行けんぞ」


 『走駆する蜥蜴(グローランナー)』は、人を乗せて運べるほど巨大なトカゲだが、草食でドラゴンモドキのような強暴さはない。

 超距離を移動する場合、わりと一般的な乗り物だが、その性質上、寒さに弱く主に暖かい地方に向かう乗り物となる。


「『怒涛の装甲鳥(アングリーバード)』なら、リルイットまで4日じゃが……」

「何か問題あるのか?」

「一人乗りで人数が集められん」

「ちょうどいいですよ。

 メルトを冷やすために残った人は水をかけて欲しいですから」

「だそうだ。『怒涛の装甲鳥(アングリーバード)』はどれくらい用意できるんだ?」


 ゲイルが振り返って周りに声をかける。

 どうも芳しくなさそうである。

 『怒涛の装甲鳥(アングリーバード)』は、一人乗りではあるが、超距離の移動が可能で何より寒さに強い。

 利点も多いが欠点も多い。

 荷物が大量に持てないので、長旅をするなら拠点拠点を渡り歩きそこで必要なものを調達するしなければならない。

 『怒涛の装甲鳥(アングリーバード)』自身は体力もあり、少しの食事と水だけで数日は走り続けられる。

 が、走ることを好むので、飼育が難しく、一カ所に長い間留めておくことが難しい。人気の乗り物であるが、空いているのはあまりない。


「1つは俺が行くとして、あと1羽は誰が乗るんだ?」


 その言葉に雲と羊の鍛冶職人筆頭であるタンクが真っ先に名乗り上げた。


「なら、俺だ。

 今回のも俺のシマで起きたことだ。

 俺がきっちり責任を取りたい」


 その言葉に、誰も異論を挙げなかった。

 ただ一人を除いてだ。


「いえ、私が行きます」


 反対の声を上げたのはフィリンだった。


「待て、流石に他の通りに迷惑は掛けられん。

 ここは俺に行かせてくれ」

「ムショクさんが言いました。

 これから氷結の精霊王セルシウスと会うそうです。

 それなら、精霊喰い殺し(オーガキラー)を持つ私が適任です」

「うむ……しかし……」

「今ここを指揮できるのはタンクさんをおいて他にいますか?」

「……うむぅ」


 ここはメンツよりも成功率を取りたいところである。

 それは誰よりタンクが理解していた。


「……すまん。頼めるか? 尾っぽの」


 タンクもフィリンが適任だと思ったのだろう。そのハゲた丸い頭を下げた。


「俺らの後始末をすまない」


 フィリンは笑顔で振り向くとムショクを見た。


「ムショクさん、必ず守りますからね」

「ありがとう。

 でも、店はいいのか?」

「元々、お客さんは来ませんから」

「待ちなさい。わたくしも連れていきなさい」


 話がまとまりかけた時、シハナが声を上げた。


「『怒涛の装甲鳥(アングリーバード)』が2羽しか用意できないって言ってなかったか?」

「それでも、連れていきなさい!

 リルイットなら、わたくしが役に立つはずですわ!」

「無茶言うなって。

 そもそも、なんで、ついてきたいんだ?」


 足手まといだと言いかけたがその言葉を飲み込んだ。正直、ムショク自身戦力になるとは思っていない。


「まぁ、その子の体重なら2人乗っても大丈夫だろう

「ですってよ」

「マジかよ」

「そうと決まれば、出発の用意だ。

 俺ら蜘蛛と羊が旅路の用意はフォローするから頼んだぞ」


 フェグリアの旧城下町にある通りには真紅の広場を中心にして八方に長い道が伸びている。

 北東に延びる蜘蛛と羊通りは繊維の技術に抜きん出ている。特殊な糸の販売から作成、それによる効果の高い防具。それを発端として、この通りは守備に寄ったアイテムが揃えられている。

 ムショクが持っているリュックに編み込まれているフリグラ草のツタもここで買われたものだ。


 ゾフィーに、連れられてこの場所を離れる。さっそく、現場はタンクによって仕切られた。


「改めてすまないね。

 あたしらのいざござに巻んじちまって」

「個人だギルドだの規模の話じゃないんだし、問題ないかな?」


 街一つ吹き飛ぶという話に個人やギルドなんてのは関係ない。

 そんな状況でもメンツに固執したり、無責任に逃げ出ししたら目も当てられない。


「それでも、あたしらがケジメをつけないといけない話だ」

「私的にはあまりそういうのは好きじゃない。

 やれる奴がやるってのが基本だ。

 仕事でも趣味でも」

「有耶無耶の方がいいってのかい!?」


 ムショクの言葉にゾフィーは少し大きな声で返した。彼女なりの誇りを汚したと思ったのだろう。


「そうじゃない。

 けじめも責任もことが全部終わってからだろ」

「そりゃ、そうだが」

「まぁ、無責任で無能なやつがずっと上にいるのも困るか」

「手痛いね」

「いや、真っ先に保身を考えないんだから、優秀だよ」

「あはは、それで認めてもらえるなら安いもんだよ」


 ゾフィーは豪快に笑った。


「さて、旅の装備だ。

 そこのお嬢さんもフィリンちゃんもその服じゃ辛いだろう。

 我が工房の取っておきを、渡してやるよ」


 ゾフィーの工房はメルトがうずくまっている所から離れた場所だった。


「俺は?」

「ほしいのかい?」


 先程の仕返しとばかりゾフィーはにやりと笑った。

 が、それが本気で嫌がらせをしているような笑いじゃない。悪戯を企んでいる楽しそうな笑いだ。

 この緊急事態でも、そんなことができるんだから彼女は肝が座っている。


「下さい」

「ははは、もちろんだ。

 あんたには私の最高傑作を渡してやるよ。

 その代わりだ……」


 ゾフィーは真剣な目でこちらを見た。


「頼んだよ。

 今時、精霊と会話できるやつなんてそうはいない。

 悔しいがあんたが最適人だ」


 ゾフィーはがっしりとムショクの手を握った。


「出来る限り努力する」

「すまない。頼んだよ」

「そこは、謝罪じゃなくて、感謝の言葉がいいな」

「ははは、そうだな。

 ありがとう。たのんだよ」

「任された」


>>第44話 新装備

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