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第34話 勝利。そして、龍の解体


 全員が固唾をのんで見守った。先程のように倒したはずのゲイヘルンが立ち上がるのではないかと思ってしまうからだ。

 倒れたゲイヘルンがピクリとも動かない。全員が無言の中、誰がその緊張を破るかお互い見合う。


「勝ったぞー!」


 その緊張を破ったのはムショクだった。


「やったぞ!」

「やりましたわ! まさか勝てるなんて!」


 緊張が解かれた瞬間、堰を切ったように様々な感情が湧き上がり流れ込む。

 リラーレンとハウルが抱き合って座り込んだ。何度も死を覚悟した。身体を覆う疲労感が少し気持ち良い。


「まさか、本当に倒すとはな。

 恐れ入ったよ」


 言葉と共に、ブレンデリアが現れた。


「誰だ!」

「誰ですの!?」


 ハウルとリラーレンが立ち上がり、警戒した目つきで彼女を見た。

 ブレンデリアは戯けるように困った顔をして、ムショクに何か言うように促した。


「大丈夫だ。味方……でいいよな?」

「当たり前だろう。全く、助けてやったのに、なんて言い草じゃ」


 偉そうに言い、ムショクの近くまで来ると、肩に乗って警戒しているナヴィの頭を人差し指でちょんと触った。


「一旦休戦じゃ」

「……分かりました」


 渋々そうつぶやいたが、憂いがなくなったのか、ナヴィは安堵の表情を浮かべた。


「あなた……もしかして、あのブレンデリアですの?」

「ほう? そちとあった記憶はないが?」

「実在したのですか!」


 ハウルとリラーレンが驚愕の表情を浮かべた。


「ムショクさん、知り合いなんですか!?」

「知り合いってか……そんなに有名なのか?」

「大会殺しのブレンデリアだぞ!

 レアなアイテムが出るときに限って出てきて、

 2位と圧倒的な差を出すもので、

 私たちランカーでもゲーム関係者かチートだって噂してたんだ」

「お前……何やってんだ」

「人聞きの悪い奴らだな。

 勝てば貰えると聞いたから勝っただけだぞ?」


 ブレンデリアは楽しそうに笑った。

 この笑顔は分かっていてやっている顔だ。


「さて……」


 ブレンデリアは崩れ落ちたゲイヘルンを少し悲しそうな顔で見た。


「古龍王ゲイヘルンよ。

 いつかはこうなると思っていたが、無念であるな」

「知り合いなのか?」

「昔、何度か殺し合った。

 最後が『虚無』に食われて終わるなど無念であっただろう。

 少し弔ってもらえぬか?」


 ムショクたちはその言葉に少し困惑した。


「そちたちの国の流儀でよいさ」


 ブレンデリアの言葉にムショクとハウルは恐る恐る手を合わせ、リラーレンは胸の前で祈るように手を握りしめた。

 ブレンデリアは、胸の前で握りこぶしを作り、ゲイヘルンに語りかけていた。


「さて!」


 ブレンデリアが大きな声を上げると、待ちきれないといった表情でゲイヘルンを見た。


「お待ちかねの解体だ!」


 ブレンデリアはどこからか刃が手の平ほどある大きなナイフを取り出すとゲイヘルンの喉元に深く突き刺した。


「ドロップ化しないんですか!?」

「ドロップ化……? あぁ、逃げ損ねた魔力の結晶化か。そんなもの待っていては貴重なものを取るのに、気が遠くなるほどの確率がいるだろうに」


 ナイフを抜くとそこから噴水のように血が吹き上がった。


「欲しいものは、直に取ったほうが効率が良いぞ?」

「そんなシステムがあったなんて」

「気をつけるんじゃ。

 龍の血は耐性がないものが触れると侵されるぞ」

「耐性ですか?」

「なければ毒消しか万能薬の類いでも飲んでおけ」


 リラーレンとハウルはアイテムボックスから、それぞれを取り出した。


「そんな、粗悪品で賄えるはずなかろう。

 仮にも龍王の血だぞ。

 ムショク、持ってないか?」

「あるには、あるが……」

「どうした? 何か問題があるのか?」

「不味くないぞ?」

「それでいいんです!」

「それでいいんだ!」


 困った顔のムショクにリラーレンとハウルが叫んだ。


「お主、やはりわざとやっておったか」


 その言葉を聞いたブレンデリアが苦々しい顔をした。リラーレン達同様、彼女にも思い出したくない味がある。

 早速、リラーレンとハウルはムショクから万能薬を受け取るとそれを口にした。


「これは美味しいですわ!」

「これこれ!」


 美味しそうに飲む二人を見て、ムショクはショックを受けていた。次からはポーション以外もスペシャルな味にしておくべきだったと心の中で決心した。


「このレベルの万能薬なら、大丈夫だろう」


 ナイフを抜いた場所に再度刺すと、そこから胸までをゆっくりと開いていった。


「内側とは言え、さすが古龍王。

 精霊の神鉄でできたナイフが欠けそうじゃわ」


 ブレンデリアがナイフを動かすたび、血が吹き出し、白い腕を赤く染める。

 喉元から肋骨の中央まで開くと、そこに手をいれ何かを動かした。

 ブレンデリアは確信に似た笑みを浮かべると、ゲイヘルンの左前方、肋骨の少し下辺りに手の平が入るほどの切り口を作った。


「うむ。完璧じゃな」


 新たに作った切り口に手を入れた。

 今度は深く奥の方まで腕を入れると何かを引き抜いた。

 血に濡れながらもそれより赤く光るそれ。周りについていた血は石に飲み干されたように乾いていく。


「紅龍玉の結晶だ。

 これほど大きいのは見たことがないな」

「これか、お前が欲しがっていたやつは?」

「あぁ……貰ってよいかの?」

「取り出したのはお前だしな」

「倒したのはムショクじゃないですか!」


 ここぞとばかりにナヴィが食って掛かった。


「私とて喉から手が出るほど欲しいが、冒険者の流儀を守らないほど愚かではないさ。

 倒したのは、お前だ。お前が決めろ」


 冒険者の流儀というのをムショクは知らなかったが、決定権があるのは悪くはなかった。


「いいぞ。欲しいんだろ?」

「ありがたい!」

「ムショク! いいんですか?」

「まぁ、今の俺達には扱えないだろ?」

「それはそうですが……」


 ナヴィはまだ不満があるようだったが、借りを作ったと言い聞かせると多少の諦めはつけられた。


「尻尾はくれよ! 美味いらしいからな!」

「ははは、今日は気分が良い!

 特別サービスじゃ。

 私自らがすべて解体してやろう。

 そこの2人もな。欲しいものがあるなら言うが良い」

「言うが良い……って、なんでもいいんですの?」

「こいつから取れるものならな」


 ブレンデリアはリラーレンが何に驚いているのか理解できなかった。


「ボスドロップが複数確定ドロップだなんて……ありですの?」

「こんな方法あるなんて知ったら、みんなひっくり返るぞ」


 ブレンデリアはなるほどと笑った。


「結晶化を待っておったのだったな。

 あれはなかなか取れんし、まぁ、確かに驚くことか。

 ほれ、早く言え。中には時間制限があるものもあるぞ?」

「――で、でしたら!」


リラーレンとハウルが身を乗り出して、ブレンデリアに詰め寄った。



>>第35話 神殺しの精霊と龍喰らいの魔物

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