第3話 錬金術師の可能性
「さて、錬金術師って何ができるんだ?」
城下町の大通りには多くの人が行き交っている。通行の邪魔にならないように、端に寄るとキャラクタメイキングできいたことをもう一度問う。
「基本的にアイテムが合成できます。
生活の補助的なものから戦闘に使えるやつまで」
「ふむ」
「売買してお金持ちになるのもありですし、大会で優勝して有名になるのもありです」
「大会? そんなのもあるのか……」
まるでゲームの世界のようだなと続けそうになった言葉を飲み込んだ。
忘れそうになったが、これはゲームなのだ。
「えーっと……」
ナヴィはあたりをキョロキョロと見回した。
「運がいいですね。
ちょうど、大会期間中ですよ」
ナヴィの見た方に目をやると、大勢の人が1つの場所に向かっている。
「フェグリアは世界でも有数の大国です。その城下町ですので、それはもう賑やかです。大きな大会がここらへんで行われることも多いんですよ」
「マジか。
今やってるのはなんの大会なんだ?」
「アルカイム品評会ですね。
錬金術師が新作アイテムを発表する場所です」
「新作? レシピからじゃなくてか?」
「まぁ、説明するよりも見たほうが早いですね。
ついてきてください」
人混みに向かってナヴィが飛んでいく。
人の流れは品評会のみだけではないらしく横道がある度にその流れはうねる。
ナヴィは人の頭の上くらいの高さをゆっくり飛んでいるからその混雑とは無縁だ。
たまに大きい人が通り危なげに避けるが、それも本当に稀で、殆どはまだ来ないムショクを暇そうに見るだけだった。
「確かに活気があるように感じるな」
「マイナー職種って言っても、アクティブユーザの0.02%。
人口にしたら六千人は下らないですからね」
その数を出されてもムショクには多いのか少ないのかピンとこない。
品評会の会場についても人混みは収まらずそれらすべてがこのアルカイム品評会を目的に来た人だった。
「品評会は30日間続けられます」
「30日もか!」
「あっ、もちろんゲーム時間ですよ。
ゲーム時間で一日は6時間です。
30日なんで、約一週間ほどですかね」
それでも大規模には変わりがない。
ムショクたちもようやく会場の中に入った。
会場はすり鉢状になっており、中心に大きな舞台があった。
その中心舞台に人が現れては商品の説明をし、消えていく。
ナヴィが言うには、この周囲360度見渡せる会場だからこそ、不正も見逃さないらしい。
ムショクはこんな大勢の視線が集まる場所に誰が好き好んでいくのだろうと辟易しながらそれを見た。
「さぁ、続々行きましょう!
エントリーナンバー7293!
『天馬の守護騎士』所属のエリたんさん!」
歓声とともに、うさぎの耳が生えたフードを被った少女が出てきた。
「エリたんだよぉ!」
先程より更に大きい歓声。
「エリたん! ペチペチさせて!」
観客から声援が飛んだ。
遠目からではほとんど見えなかったが、有名な人物らしく、中には立ち上がって応援する者もいた。
「前回は惜しいとこで優勝を逃したエリたんさん! 今回は何を見せてくれるのか!」
うさ耳フードの少女はアイテムを取り出してみせた。
その手に持っているのは目を凝らしてやっと見えるほどの透明なコートだった。
「今回のうさ耳印の新商品は『硝子のうさ毛コート』だよぉ!」
少女の言葉に合わせて歓声が上がる。
「なぁ、ナヴィ?」
「何ですか?」
「何で、ここの観客は、アイテムを見るたび興奮しているんだ?」
一部、彼女自身のファンもいるだろうが、それにしても客の熱狂具合はそれを超えていた。
「それはですね。
ここで発表されるアイテムは今までなかった新しいアイテムなんですよ!
合成で作られた未知のアイテム。
運営さえ、どんなアイテムが作られるか知らないんです!」
「レシピから作るとかじゃなくてか?」
ムショクの言葉にナヴィは自慢げに笑った。
「ふふん、なめないで下さい!
レシピから、既存のアイテムを作るなんて、二流ですよ! 二流!
一流は自分でレシピを作ります!」
まるで、ナヴィの言葉に合わせるように周りから歓声が起きた。
「こ、これはすごい!」
歓声に誘われるように目をステージにやった。
そこに立っている司会がマイクを持ち驚きの声で叫ぶ。
「硝子のうさ毛で編んだコートなの!
モンスターから見難い偏光コートでブレス系に若干の耐性があるの!」
「透過系アイテムで移動可能はこれが初めてではないか! それも耐性付きだ! 今度は優勝か!?」
司会の煽りに、観客が沸く。
ムショクは周りの歓声に掻き消えないように声を大きくはり、ナヴィに話しかける。
「透過迷彩までありかよ」
「何でもアリですよ」
さっきからなんでか自慢げのナヴィに、なんでお前がと思ったが、やはり、この何でも自分で作れるというのはいまさらながらに胸が躍る。
「武器の鍛冶職人の品評会ですが、
過去、レシピの公開と共に市場が大きく変化したくらいですから」
「どういうことだ?」
「その武器を作成するのに必要だった素材の値段が高騰したんですよ。
ほとんど価値もなかったその素材が、一時期船が買えるほどの値段になったらしいですよ」
たった1人の鍛冶職人が使った素材が市場を揺るがすほどのアイテムになる。
それを聞いてわくわくしないはずはない。
「これって、俺でもできるのか?」
「もちろんです。
まぁ、ムショクはまだ始めたばかりなので、
レシピから作ることをお勧めしますけどね」
また、観客の歓声が上がった。
さっきまでステージにいたうさ耳の少女はおらず、別の誰かのアイテムが素晴らしかったのだろう。
「次はお待ちかね! ブレンデリア選手だ!」
この歓声が自分に注がれたらと思うと、先程まで嫌がっていた彼だが、そんな妄想で、心の奥から何かが湧き上がるようなむずがゆさがあった。
「ようし、こうなったらすぐに調合しに行くぞ!」
>>第4話 その草の名は