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第28話 死のトラップ

「ここは?」

「シオナ火山のナル横穴洞です。

 幾つかあるシオナ火山の洞穴の一つです」


 ムショクの問いにナヴィが答える。

 入り口から広かったが、その中もかなり広く、しばらく歩いていたが、まだ10人ほどのプレイヤーが横に並べるほど広い。

 曲がり道もなく、ただ、少し曲がったほぼ真っ直ぐの一本道だ。

 正直、迷子になれと言っても難しい。


「足元気をつけてくださいね」


 先頭のハウルがランタンを持って進む。

 明かりを照らす範囲は広く、辺りが明るく照らされる。

 この横穴の石は岩肌が青く暗いところだと僅かであるが青く光る。

 その明かりもランタンの明かりにかき消されるほど、ランタンは明るかった。

 スライが自分の出番かと震えたが、そのランタンが明る過ぎたので出番はなかった。

 道中、岩肌に生えている『溶岩ゴケ』と『グロウワームの罠』があったのでスライにあげてみた。

 結構気に入ったらしく、『溶岩ゴケ』は見るたびに取って頭の上にいるスライに上げていた。


「何しているのですか?」


 リラーレンが気になって尋ねてきた。

 スライは身体の表面に同化しているので、よく見ないとその存在が分からない。

 ランタンが明るいといえ、洞窟の中なら尚更わからない。


「いや、気にするな。

 アイテム採取だ」


 『毒蜘蛛の渡り糸』や『キノコ花』など適当に採取をするとスライに上げたり、リュックのポケットに突っ込んだ。


「何かほしいのあるか?」


 欲しいのがある時は身体が震える。

 それが右にあるのか左にあるのか、わずかな震えでそれが分かる。


 スライに、アイテムをやり続けて分かったことがある。

 どうも、苔や他の生き物がいる場所が固まっている。ある時、ピタリとその群生がなくなる。そうなると辺りをいくら探しても見つからない。

 満遍なく生えているイメージだったが、どうも何らかの原因で生えない場所があるらしい。

 そうなるとスライは不機嫌になる。

 で、また、見つかると、スライの機嫌が戻る。

 その繰り返しだ。


「ずっと真っ直ぐですね」

「だな」


 前の二人が不思議そうに話している。


「しかし、長いですね」


確かに相当な時間歩いている。


「不用意に飛び込みすぎましたね。

 ランタンの明かりがもう持ちませんね」


 ハウルのランタンの燃料がなくなったらしく、今はリラーレンが先頭に立っている。


「ムショクさんは、ランタンを持ってませんか?」

「すまんが。持ってないな」

「そうですか」

「あとどのくらい持ちそうだ?」

「持って2時間ですね」


 そこまで長くなさそうだ。

 まぁ、元々行く予定のなかった場所だから。諦めて戻るのも一つの手だ。

 と言うか、諦めてほしい。

 はぐれる予定がこの一本道で全くできない。


「一旦戻るか?」


 ランタンの残りが後2時間なら帰りに足りていない。後半は暗闇になるかもしれない。

 ムショクたちはスライがいるからはぐれても平気だが、この2人はそうではない。


「そうですね。少しランタンの明かりを弱めます。これで結構持つはずなので、一旦帰りましょう」


 そう言うと、リラーレンがランタンの明かりを弱めた。

 先程と半分くらいの範囲になって、全員の距離が縮まった。

 心なしか壁も近づいたように思う。

 ランタンの明かりが届かないその先は本当の闇だ。


 帰ると決めたら全員が言葉少なく足早になった。

 さて、このまま洞窟を出てどうするかだな。用意を言い訳に一旦別れるか。

 実際、ナヴィに聞くまでもなくモドキでも大変だったのに、ドラゴン退治となると本当に命がいくつあっても足りない。


 それともあの唸り声は風の音として済ますか。


「……無理だな」


 その言葉にハウルの耳がピクリと動き、「どうした?」と不思議そうに振り返った。

 さすが、獣人なのか、目ざとい。

 この場合は耳ざといか。


「気にするな。こっちの話だ」


 ランタンの明かりが揺らめき始め、その範囲がまた小さくなった。

 その明かりの範囲が小さくなるに連れて、それに合わせて全員の距離が縮み、暗闇の壁が近くなる。


「ん……?」


 少しその闇の先が気になった。


「リラーレン。ちょっと待ってくれ」

「どうしたんですか?」

「気になることがある」

「分かりましたが、早くして下さい。ランタンの明かりがもう残り僅かです」


 分かってるよと返すと、リラーレンを立ち止まらせて、壁の方に歩く。

 ランタンの明かりが届かなくなったすぐそこに冷たい岩肌があった。

 この岩肌はなんの変哲もない。

 が、おかしい。

 壁はこんなに近かったか?

 大勢の人間が歩けるほど広かったそこが、今や3人横に並んで歩けるほどの広さしかなかった。

 一本道を帰っているので、さっきと違う道とは考えにくい。

 気づかないうちに違う道に入ったか?

 それとも、地形が変わった?


「リラーレン。少しアドバイスを貰えるか?」

「もちろんです」

「行く時に分かれ道はあったか?」

「いえ。そこは探索しながら歩いてきましたので、覚えています」

「じゃあ、ダンジョンの地形が変わったりするか?」

「基本的にないです」

「例えば気づかないうちに、知らない場所に移動してしまったり?」

「それはないぞ!」


 今度はハウルが口を開いた。


「トラップはなかった」

「ハウルの探索スキルは随一です。

 ハウルが見つけられないならそれはないでしょう」


 スライが不機嫌に引っ張る。

 確かにここら辺は溶岩ゴケなどがいない。


「まてまて、もう少しで美味しいのを取ってやるからな」

「何かいただけるのですか?」


 スライに話しかけた言葉にリラーレンが返す。

 まぁ、スライの存在を知らないなら仕方ない。

 が、その言葉にもかかわらず、スライは必死で引っ張る。

 駄々をこねているのだろうか。

 可愛くはあるが、今はやめてほしい。


「今はそれどころじゃないから、後でな」


 その言葉を聞いた瞬間、スライが思いっきり俺の髪を引っ張った。


「いてっ! おい、何するんだよ!」

「どうしました!」


 スライの攻撃に叫び声を上げた瞬間、敵の攻撃と勘違いしたリラーレンがそばによってきた。


「い、いや、何でもない。気にするな」


 スライのやつ、ワガママ言い過ぎだ。

 未だ頭がヒリヒリする。

 それでも気が収まらないのか、スライはずっと震えている。


「それにしても広い洞窟ですね」


リラーレンが改めてランタンを掲げて洞窟内を見回した。


「これだけ広いと戦闘も楽ですね」

「広いって言ってもそこまでじゃないだろ?」


 三人並べる程度の洞窟を広いというかは悩みどころだ。


「そうですか? これだけ広いのは見たことないですよ?」

「おいおい、すぐそばはもう壁だぞ?」


 そう言って、岩肌を触ろうと伸ばしたその手は空を切った。


「えっ?」


空振った手。

さっきまでそこにはたしかに壁があった。


「いや、さっきまでここは壁だったぞ?」

「うふふ、何言っているんですか?」


 俺の困惑を見てリラーレンは可笑しそうに笑った。

 いや、そんなはずはなかった。確かにそれを確認した。間違うはずがない。幻覚だろうか。


「リラーレン。ゆっくり下がってもらっていいか?」

「どうかリラと呼んでください」

「分かった。とりあえず、ゆっくり下がってくれ」


 その言葉に、リラーレンは何か言いたげな笑みを浮かべた。


「分かった。リラ頼む」

「はい」


 リラーレンがゆっくりゆっくり後ずさる。


「これくらいでいいですか?」

「ああ」


 リラーレンが下がるに従って、ランタンの灯りは揺らめきながらその支配を暗闇に戻していく。


「もう少しだ」

「はい」


 リラーレンの方を見てゆっくりと指示を出す。そして、突然、背中に冷たい何かが当たる。


「ストップだ! 動くな!」

「はい!」


 俺の叫ぶような声に、リラーレンは驚いた声を上げた。

 背中に当たった冷たいもの。振り向いてそれを見る。間違いない岩肌だ。

 先程まで自分が触っていたものだ。

 ハウルを近くに呼んで、同じように触らせてみるが、反応は同じだ。


「皆さんばかり、ズルいですわ!

 私もいいですか?」


 1人離れた所にいるリラーレンは寂しくなったようで、声を上げた。


「いいぞ。明かりを置いてこっちに来てくれ」


 リラーレンがこちらまで歩いて来たので、その岩肌を見せた。


「これは何ですか?」

「壁だな」

「いつの間に? 私が見た時には何もなかったのに」

「それなんだよ。この壁はどうやら光が当たると逃げるようなんだ」

「なんだそれ? 照らせば、道が開くのか?

 便利な奴だな」


 ハウルは俺の言葉に笑った。

 が、意味を理解したムショクはそれに戦慄を覚えた。

 スライが俺を引っ張っていた訳が分かった。この壁は動く。

 その瞬間、遠くに置いてあったランタンが、不自然に揺れ、動き出した。


「なんだ!」

「なんですか?」


 2人が驚きの声を上げた。

 何かが、ランタンを持って、動き出した。


「追いかけるぞ!」


 慌てて動くランタンを追う。


「モンスターの『道具強奪(アイテムスナッチ)』です!」

「奪い返せるか?」

「走れば何とか」

「急げ! 死ぬぞ!」


 走っている俺の後ろで、リラーレンが何故かと尋ねる。


「後ろを見ろ!」


 その言葉の少しあと、リラーレンとハウルの驚きの声が聞こえた。


「きゃー! なんですか! なんで壁が!」

「リラ、逃げろ!」


 光を避ける壁。

 そこまではいい。

 その光がもしなくなったら。

 答えは明白だ。避けなくなった壁が戻ってくる。

 逃げるランタンの明かりと暗闇の境界線が壁に埋まっていく。リラーレンたちから見れば、壁が襲ってくるように見えただろう。


 ランタンの灯りのギリギリ圏内に入っているが、一向に追いつけない。

 額から流れ落ちる汗が目のそばを通る。


「ムショク、退け」


 その声が聞こえた瞬間、後頭部に激しい痛みが走り、一瞬目の前が真っ暗になった。

 足がふらつき倒れそうになる身体を、リラーレンが無理やり引っ張って支えてくれた。


「大丈夫でした? 走れます?」

「あ、あぁ」


 目の前が暗くなる瞬間、ハウルの足と太腿が見えた。踏み台にして行きやがった。

 文句の一つも言いたかったが、既に彼女の姿はなかった。

 あの速さなら追いつけたのかもしれない。


「ハウルに任せて上げてください。

 彼女ならやってくれます!」


 リラーレンの言うとおり、遠くでハウルが戦う声が聞こえる。


「行くよ! 舞い上がれ! 天翔覇王――あっ!」


 ハウルが技を叫び終わる前、アッという驚いた声と、何かが割れる音がこだました。

 途端、明かりの範囲が急に狭くなった。

 リラーレンと並んで走っていたが、今は肩が壁に擦れるくらいだ。


「なんか、ひたすら不味そうな音が聞こえたぞ!」

「どうしましょう! ハウルにチャットしたいのに繋がりませんわ。

 というより、ギルドの誰とも連絡取れません!」


 明かりがどんどんと小さくなる。

 もう2人が並んで走れない。

 後ろからリラーレンの激しい息遣いが聞こえる。

 ハウルの姿が見えた。

 地面に、火の塊が落ち、そこに茫然としている彼女の姿があった。


「敵にランタンを使われたのですわ。

ランタンはアイテムとして使うと火属性の攻撃アイテムになるのです」


 奪い返そうとしたそのアイテムを使われたのか。

 頭を踏んづけてまで行ったのに失敗だった。

 その時、スライが目敏く遠くの方で溶岩ゴケを、見つけて震えた。

 スライが指す場所を見て、確かにそれはあったが、今はそれどころではない。

 まずは、ハウルのところに走り寄る。

 地面に残った火のお陰で、まだその辺りは少しの空間ができているが、その明かりはどんどんと小さくなる。

 このまま、ここにいてもその明かりは消えるばかりだ。


「どうしよう、ムショク。

 失敗しちゃった」


 ハウルが、泣きそうな顔でこっちを見るが、それをどうすることもできない。

 四方が、完全に囲まれた。

 明かりが小さくなり、今その壁が目に見える。

 ハウルとリラーレンが左右からギュッとムショクの腕にしがみつく。

 ジリジリとにじり寄る壁。

 まともなダンジョンじゃなかったのだ。

 初見の素材アイテムを採取できたから楽しかったが、それに気を許したらこんな壁の中だ。

 ドラゴンモドキの毒に死ぬかと思ったが、次は壁に挟まれて死ぬのか。

 スライにはもっと色んなものを食べさせてやりたかったな。

 星スズランに氷結草、溶岩ゴケに毒蜘蛛の渡り糸。って、こんな壁の中に溶岩ゴケなんて生えないか……


「いや、違うぞ!」


 ハッと閃いたムショクは突然、ハウルとリラーレンの腕を持って走り出した。


「どこに行くんですか! そっちは、壁です」

「ぶつかる! ぶつかる!」


 どの道、どっちに行っても壁なのだ。

 それに、地面に落ちたランタンが、消えたらそこで終わりだ。

 ならば、だ。


「スライ! 照らせるか?」


その言葉に、スライは、強く震えた。


「溶岩ゴケの方に行くぞ!」


 スライから発せられた強い光に目の前の壁が開いた。

 そこの壁には溶岩ゴケがある。

 間違いない。

 ぽっかり空いた空間に飛び込むとスライの明かりは消え、辺りは暗闇へと戻っていった。



>>第29話 長い洞窟と巨大な敵

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