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第21話 館の主からの提案


 カタカタと軋む音を上げながら廊下を歩くメイドの後ろを静かについていく。

 イベントか?とナヴィに尋ねたが、彼女はすごい勢いで首を振った。


「こ、この中で、おじょ、お嬢様がお待ちです」


 ひとつの部屋の前に経つとそれはゆっくりとこちらを見た。

 ムショクはごくりとつばを飲み込むと、目の前の扉をゆっくりと開けた。

 

「やぁ、奇妙な団体さんだね」


 扉を開けたと同時に声が耳に入ってきた。

 子供のような大人のような不思議な声。

 六畳ほどのその部屋には机も本棚もなく、広さは先ほど入った部屋よりも少し広く感じた。

 そのちょうど真ん中。

 木でできた古い椅子にその声の主は気怠そうに深く腰を掛け、足を組んで座っていた。

 足元に置かれたランプの揺れる明かり。

 その中で光る紫色の目。

 闇に溶けてしまいそうな真っ黒な髪が炎の明かりに揺れ、現れては消えた。

 

「なっ! お前は!」


 その姿を見て真っ先に叫んだのはナヴィだった。

 黒を基調としたまるで人形のようなドレスに身を固め、その主はゆっくりと口を開いた。

 

「静かにして欲しいものだ」


 彼女は深く腰を掛けたまま、入ってくるように手でまねいた。

 それと同時にランプの光がひときわ明るくなった。

 

「人にモンスターに精霊。そして……妖精と。

 ふむふむ。珍妙だねぇ」


 ランプの明かりが強くなりその声の主の姿がより鮮明になる。

 白いを通り越して青白く透明な肌を持つ少女。

 不健康などではない、生気がないような不思議な肌。

 それでも、彼女がうっすらと笑っているのが分かる。

 年齢は十を超えたような外見だが、その声から聞こえるどこか大人のような雰囲気に不思議な感覚を覚える。


「ブレンデリア! なんで、あんたがいるんです!

 あなたはここでは死んだはずでしょ!」

「お前にできることがワシにできんわけないじゃろう?

 そんなことより……」


 ブレンデリアと呼ばれた少女は深く息を吐いた。

 

「君……」


 今にも折れそうな細い腕が俺を指差した。

 

「そう、君だ。

 智恵の象徴。理知の権化。よく錬金術を選んでくれたものじゃ」


 生気のない肌ではあるが、その深い森のような緑色の目だけは恍惚とした色を浮かべていた。


「愚かな者どもは自分にないものを求める。

 力のないものは戦士を選び、学のないものは魔導の道に進む。

 必要とされたい者は、聖なる道に進む。

 片や錬金術はどうだ? そこには何もない。

 ただ、作るだけじゃ。ここにないものをだ」

 

 ムショクはその言葉に顔をしかめた。

 これはゲームなんだ。

 そこに理想を求めて何が悪いのだろうか。

 

「おっと。気を悪くしないでくれたまえ」


 彼女はまた深く息を吐き、真っ赤に燃えるような瞳でこちらを見た。

 

「ワシは喜んでいるのだよ。

 ワシもまた錬金術師じゃからのう。君のすぐ後ろにいるこの古びた自動人形(オートマタ)は、ワシの初の作品でね。

 今でもこうやってそばに置いている」

 

 ブレンデリアの言葉に合わせるように古びたメイドの自動人形は深くお辞儀をした。

 

「お前は何者なんだ?」


 ナヴィの異常な態度に、俺も少なからず警戒している。

 

「そこにいるナヴィと古い付き合いのものだよ。

 まぁ、今の君にはあまり関係がないさ。

 それより、君にひとつ依頼をしていいかな?

 なぁに、簡単なクエスト依頼だ。期限は特にない。

 気が向いたときにでもしてもらったらいい」

 

 ナヴィが勢いよく、俺とブレンデリアの間に入った。

 

「ダメです、ムショク!

 こんなやつの依頼なんて受けちゃダメです!」


 そのナヴィを見てブレンデリアは目を閉じて深いため息をついた。

 

「往生際が悪いようだ。

 ワシは単なる錬金術師という同胞に細やかなプレゼントをしたいと思っているだけだ」

 

 ナヴィの態度にブレンデリアは困ったような顔をした。

 

「なんなら、報酬は前払いでいいさ。

 もちろん、一度受けて報酬を受け取ってから断っても報酬は君に与えよう。

 どうじゃ? 一切損はしない話だろ?」

 

 むしろ、ムショクにとって得しかない話だ。

 こんな奉仕のようなクエストを受けて良いのが逆に怪しい。

 

「なんで、ナヴィはそこまでこいつを警戒するんだ?」

「……ん……それは……」


 ムショクの問いにナヴィは言葉を詰まらせた。

 それが面白いようで、ブレンデリアはくすくすと笑った。

 

「ナヴィにも話せないこともあるんじゃよ。

 さて、どうする? 依頼を受けてくれるかい?」


 ナヴィは警戒を解いていない。

 

「先に依頼の内容と報酬を教えてくれ」


 俺の言葉にブレンデリアは小さく笑った。

 

「中々警戒心が強くて欲深い奴じゃな。気に入った。

 依頼内容は簡単じゃ。

 『紅龍玉の結晶』を持ってきてくれないか?

 報酬はそうだな……ワシの力の1つをやろう」

 

 ナヴィに『紅龍玉の結晶』について尋ねた。

 

「赤龍。それも古代龍クラスの龍の心臓の中にできる宝石です。

 冒険者1人、それもムショクのような戦闘タイプじゃない冒険者が取れるものじゃないです」

「いやいや、それは錬金術師に失礼じゃないか!

 ワシは取れるさ。きっと、ナヴィの横にいる君もできるはずじゃ?」

「お前は元々規格外だからです!

 他と一緒にしないで下さい!」


 ナヴィにして、規格外と言われた彼女は、錬金術師でも龍を倒せると明言した。

 ナヴィはずっと、彼女を睨み続けていた。

 

「すまんが。俺はナヴィを信じる。

 これは俺1人には無理そうだ……が」

 

 俺はここで一呼吸置いた。

 

「依頼を受けて即断るのは問題ないんだろう?」


 ムショクの言葉にブレンデリアはにやりと笑った。

 

「もちろんだ」



>>第22話 君にもポーションを

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