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第19話 古代語の勉強



 フィリンからエルフのカバン。

 ゲイルからはセレナ樹の杖と焦げない鍋。

 バッカスからは干し肉など保存がきく食材をいくつか。

 そして、自作のポーション各種とメルフラゴ。

 残念ながら2回目に作った火焔粉には祝福の効果はつかなかったが、それでも品質が良いものができた。

 あとは、使い勝手の分からない森林石。

 蛍スライムのスライとたき火の精霊であるカゲロウ。そして、妖精のナヴィ。

 

 大荷物だが、エルフのカバンの中に入れれば、その重さも感じられない。

 むしろ、身体まで軽くなった感じだ。

 シオナ火山までは、徒歩で数日かかるようだ。

 ナヴィに従ってこの広いマップを旅をする。


 シオナ火山の麓には『テオドック』と言う名の街があるので、そこを拠点に『ドラゴンモドキ』を狩ることにする。

 

 『テオドック』は『テオテ湾』と言う入り組んだ大きな湾を貿易の入り口として栄えた貿易都市である。

 街の規模としては『フェグリア城下町』の方が大きいのだが、さすが貿易都市なだけあって、品物の種類は『テオドック』のほうが多い。


 『フェグリア城下町』を出て、長い街道に沿う。

 街道と言っても整備された道が通っているわけではない。

 町からしばらくは綺麗な石畳が続いていたが、それもすぐに、ひび割れや欠けたものへと変わっていった。

 日よけになる様な街路樹も同じで、町から離れるにしたがって枯れているものや、手入れされておらず方々に枝を伸ばすものへと変わっていった。

 地面に割れた石畳があることで辛うじて街路樹なのだと思えるものがほとんどだった。


 途中、足早に駆け抜ける他のプレイヤーがいたが、特に話しかけられることもなく旅は続く。


「このまま道をまっすぐ行くのも飽きるな」

「そうですか?」


 街道沿いはモンスターの出現率が極端に低いらしい。

 『ランドック』と言う野犬のようなモンスターと幾度か戦闘になった。

 倒した『ランドック』から『野犬の牙』を手に入れたが、錬金術師にはあまり必要のないアイテムらしい。

 そういうわけで、町を出てから二日ほどはろくに戦っていない。


 日が傾き始めたので、野宿用の焚き火を用意する。

 街道から少し離れた木の下で、休むことにする。

 焚き火は適当に枯れ木を置いて、そこにカゲロウが座るだけである。

 焚き火の精霊としての性なのか、そこに焚き火だと分かる素材がないと力を発揮できないようだ。

 木を組んでからは、カゲロウの力で火が燃え続けるので、燃料としての木を追加する必要はない。


 用意し終えたら、あたりはもうすっかり暗くなった。今日の旅はここで終わりと、全員がそれを囲む。

 バッカスから貰った干し肉を切り、軽く炎で炙る。

 途中道端で採取した『シンナ草』を一切れ添えて口にする。

 これがスッとした辛さを持っているので、味が濃い干し肉でもくどく感じず食べられる。


「焚き火を囲むのなんて初めです」

「俺もだよ」


 枝が爆ぜる音がたき火の中でした。

 カゲロウの力で燃えていると言っていたが、多少は木を燃やすのだろうか。

 辺りからいくつかの枯れ枝を拾ってきて、時折投げ込んでやる。

 カゲロウが喜んでいるところから、やはり、燃料があった方が良いようだ。


「疲れましたね」

「だな。まぁ、殆ど、歩いていただけだけどな」


 旅という慣れないものは、ただそれだけで体力を使う。慣れ親しんだ町を離れたナヴィにとっては尚更だろう。


「今日は合成ではなくて古代の言葉を少し教えましょうか」

「おぉ、いいな」


 ナヴィは、ムショクの膝の上に乗ってたき火を眺める。

 たき火の揺らめきは見ていて飽きない。

 火が揺れるたびに顔にかかった陰影が揺れる。


「所有格と言うのがあります」

「私のとか、そのってやつか?」

「近いですね。

 ムショクの所ではどう使うか分からないですが、ここでは神聖所有格、英雄所有格と単に所有格と言うものがあります」


 いつもの偉そうな合成講義と違い、膝の上のナヴィはムショクの腹にもたれ掛かり、炙った干し肉を噛みながらのんびりしたものだ。


「上から『ヴィ』、『ド』、『テ』です。

 例えば山は『テオ』と言っていました。

 ここに所有格の『テ』を付けると、山のという意味になります」

「あぁ、テオテ湾か」

「そうです。

 今から行く『テオドック』の『テオテ湾』は山の湾という意味です」

「『テオドック』もそうなのか?」

「そうですね。

 ここらへんの説明を始めると難しくなるんですが、シオナ火山の性質上、英雄所有格を、使うときがあります。

 これは山の近くのって意味ですね」


 ナヴィの説明に感動して頷くたびに彼女は嬉しそうだった。

 ナヴィはよく知ってるなと褒めると、彼女は「どうですか」と自慢げに笑った。

 たき火の揺れる陰影に、彼女の顔はいつもと違った表情に見えた。

 止めどない会話を続け、夜が更けていった。


 次の朝、朝日に照らされて目が覚めた。

 焚き火を前にして、眠り込んでしまったようだ。

 ムショクとナヴィ。どちらが先に寝たかは覚えていないが、いつの間にか2人とも地面に横になっていた。

 起き上がろうとした揺れでナヴィも起きたようだ。

 フラフラと飛び上がると、朝日を向いて大きく伸びをした。

 朝日に照らされた羽は虹色に光り、こう見ると妖精っぽい。

 ナヴィをぼーっと眺めていると、彼女が振り返った。


「なんですか? 見とれましたか?」


 ニヤリと笑ってムショクの顔を見る。喋ると残念な奴である。


「そんなわけあるか。

 さぁ、行くか」


 立ち上がると、ナヴィの頭を軽くなでた。

 焚き火を始末して、と言っても、カゲロウが退いただけで火が消える。

 また、街道に沿って歩き続ける。

 時間は昼を過ぎたころだろうか。

 周りの気温が少し高くなる。

 遮るものがないおかげで、風は心地よく上がった気温もそれほど苦には感じられなかった。


「少し風が強いか?」

「そうですか? 私には心地いいくらいです」


 そういうと、ナヴィは風に乗るようにふわりと一回転した。

 飛ぶのは心地よさそうだ。

 だが、吹いている風が僅かに重いように感じる。

 湿気が帯びた、まとわりつくような感覚。

 

「このゲームって天候あるのか?」

「もちろんですよ! 雨から雪まで何でもござれ!

 場所によっては台風なんてのもありますよ!」

「マジか……」


 嬉しそうに報告しているが、あまりいい情報ではない。

 

「ここら辺は、雨とか降るのか?」

「ほとんど降らないですよ。

 初心者が最初に来る町ですからね。気候は安定しています。

 まれにスコール的な通り雨が降ったりしますが、

 まぁ、滅多にないんで、気にしないでください」

「おぉ、さすが、ナヴィだな」


 この調子なら問題なさそうだな。

 

「ここら辺で何か調合に使える素材とかって採集できるところあるか?」


 せっかく遠出したんだ、珍しいアイテムを拾いたい。

 

「近くにありますけど、準備もしたいので、テオドックについてから行ったほうがいいですね」

「ってことは、まだ歩くのか」


 気にしないでくださいと言いながらナヴィは空中で一回転した。

 どうやら、少し強くなった風が気に入ったみたいだ。

 まぶしく頭上を照らしていた太陽も雲に隠れてその強さを和らげた。

 少しずつだが、周りも暗くなっていく。

 と、不意に頬に冷たい感触を感じた。

 気のせいかと頬に触れたが、指先が僅かに濡れていた。


「雨降ってないか?」

「またまた。だいたい、この場所で雨とか、ジュエルドラゴンと会うくらい稀で――」


 呆れ顔でこっちを見ているナヴィの言葉を遮るように、遠くで雷がなった。


「おい、鳴ってんぞ、雷」

「……ま、まぁ、雷っぽいですね」

「上の雲って、雨雲だよな?」

「……こ、こんなもんじゃないですか?」


 また、ぽつりと、頬に雨が落ちた。


「この冷たい水はなんだ?」

「な、涙ですか?」

「雨だろ! この無能妖精が!」

「こんなのランダムイベント何だから、発生なんて分かるわけないじゃないですか!

 それとも何ですか? ムショクに全部予告しとけってことですか? ナヴィはお天気お姉さんですか? 美人妖精ナヴィちゃんのお天気予報が聞きたいんですか?」

「てめぇ、ランダムイベントはだいたい分かるってこの前言ってなかったか?」

「分かる奴と分からない奴があるんです!」


 俺が口を開こうとしたその瞬間、さっきまでぽつりぽつりと降っていた雨が急に激しくなった。


「キャー」

「ナヴィ、近くに雨宿りできるところはあるか!」

「近くにヘゲナの森があります」

「よし、行くぞ」

「はい」


 雨で飛びづらそうなナヴィを優しく持つと指示に従って街道から外れた。



>>第20話 森の中の古びた館

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