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第12話 役に立たないナビゲータ


 気を取り直して早速調合開始だ。

 調合用のレシピ本に書かれている一番簡単なもの。それが、体力が回復するポーション。

 

 薬草を精製水で煎じる。

 精製水は泉の水を使用した。

 それをさらに濾過して、ビンに入れれば完成。

 薄緑色をしたポーションの出来上がりだ。

 シンプル極まりない。

 

「鑑定」

 

 作成したポーションを鑑定してみる。


 名前:ポーション(小)

 カテゴリ:回復アイテム

 ランク:獣人級(ゴブリンクラス)

 品質:普通

 効果:体力少回復

 

 ものとしては、恐らく悪くないだろう。

 が、やはり飲むのは戸惑う。


「ナヴィ」

「なんですか?」

「一応、俺の初作品だ。飲んでくれ」

「いいんですか?」

「まぁ、何だかんだとナヴィのおかげでここまでこれたしな。

 拙いかもしれないが、初めてはお前にあげたいと思っていたんだ」

 

 ナヴィは恥ずかしそうにポーションを受け取った。

 薬草を煎じた水。それがポーション。


「私、ポーションって飲んだことないんですよね」

「そうなのか?」

「はい。だから、楽しみなんです。

 ありがとうございます」

 

 恥ずかしそうで嬉しそうな笑顔。

 その無垢な笑顔に心が痛む。

 

「じゃあ、グッと一気にいってくれ」

「はい!」


 両手で大事そうにポーションを抱えたナヴィだが、 ムショクに勧められ、ポーションを一気にあおった。


「ぐほっ、おえええぇぇえぼおえぇぇ!!!」


 喉に入れた瞬間、ナヴィは嗚咽と共に、飲む時と同じくらいの速さでポーションを吐き出した。

 少なくともヒロインにはなれそうにもない声だ。

 

「ふむ。やっぱりまずいか」


 涙目のナヴィ。口から鼻からポーションが漏れている。

 予想通りの光景に、ムショクは思わず納得の声を上げた。

 味も何も薬草を煎じただけだ。

 飲んだことはないが、どう考えても苦そうで青臭そうである。煎じている時もその様な臭いもしていた。

 世間の冒険者はこんなの飲んでるのだろうか。

 ナヴィはひとしきり口の中のポーションを吐いた後、キッとこちらを睨みつけた。

 

「何飲ませたんですか!」

「いや、ポーションだけど?」

「こんなまずいなら先に言ってくださいよ!」

「いや、俺も飲んだことなかったし。

 というか、横でずっと見ていたんだから味くらい想像できるだろ」

「それはそうですが……」

「何も言わないから。俺はてっきり妖精はこういう草系が好きなのかと思ったぞ。

 ほら、ナヴィも一応妖精だろ?」

「一応じゃないです」


 あっという間に話を逸らせた。

 妖精はみんなこんな単純なものなのだろうか。


「当面の改良は味の方がいいのかな?」

「その方がいいですよ。ダンジョンの中とか戦闘中にとてもじゃないですが飲める気がしません」

「だよな」


 戦闘はしたくないが、万が一を考えるとこれじゃダメだろう。

 せめて、自分の分だけは美味しく作っておく必要はある。

 

「鑑定をしてみたんだが、品質ってなんだ?」

「そのままですよ。成功度が高かったり、保存状態がいいもので作られると高くなります。

 薬草も抜いてすぐだと効果が高いですよ」

「そうなのか?」

「あとは、調合中に稀に品質があがる現象があるようですよ」

「ゲーム的な説明だな」

「ナビゲーターですし」


 ナヴィがにやりと笑った。

 悪い笑いだ。


「しかし、この世界も大雑把だな」

「何がですか?」


 ムショクの言葉に不思議そうに返す。


「薬草ってなんか、名前が安直すぎないか?」

「あぁ、なるほど」


 ナヴィは少し考えると、まぁ、いいかという顔をして言葉を続けた。


「薬草ってのは治癒効果がある植物の総称です。

 フェグリアの近くの平原ではマジョネムと言う種の草が多かったですね。

 毒草ってのも同じですね。ハシリグサって種がここでは多く見られますね」


 要は雑草がそうなのと同じように、ただの総称だったようだ。

 そうなると薬草と言っても様々な植物が対象になる。

 対象が変われば効果も変わるだろう。


「なるほど。単純に薬草ってだけでも、選択肢は広がるわけか」

「ですね」

「あと、錬金術はエンチャントが得意だって言っていたが、どういうやつなんだ?」

「文字通りですよ。

 アイテムにある一定の効果をつけることができます。

 例えば、武器に睡眠効果をつけるとかが分かりやすいですかね?」


 ナヴィが説明するには、武器に他のアイテム効果を付属させ、睡眠効果を誘発するらしい。


「錬金術師の面白いところは、このエンチャントを回復アイテムや攻撃アイテムなど、何でもつけられるところです。

 エンチャントは触媒アイテムが必要で、また、大量の魔力を消費します」

「魔力を使うのか」


 戦闘をするつもりがないから必要がないと思っていたが、予想外のことに必要となった。

 これは、関係ないと言っていられない。


「どうやって魔力を上げられるんだ?」

「これは、魔力に関係なくステータス全般がそうなのですが、使えば使うほど上がります。

 魔力を上げたければ、魔力が減る行動。体力を上げたければ、体力が減る行動などです」

「攻撃力や防御力なんかの減らないステータスは?」

「これは、それを伴うスキルや行動で同じように上がります」


 やればやるほど強くなるシステムである。

 一定の職をやり続けると自然とステータスの差別化が計られる。

 職を渡り、万遍なく上げるのも良いし、1つの職に拘り、偏ったステータスを上げるのも良い。

 よく考えれば筋トレみたいなものと思えば、納得がいく。


「実際に、エンチャントを付けてみたいな」

「了解です。

 なら、ポーションを触媒にしてポーションを作りますか」


 ナヴィの指示に従い先ほどと同じようにポーションを作る。


「そろそろ、出来上がりそうですね。

 ここで、ポーションを持って『エンチャント』と言ってください」

「言うだけでいいのか?」

「はい」


 マジョネムを煎じながら、ムショクは緊張した面持ちでエンチャントと呟いた。

その言葉を発した瞬間、身体に僅かな疲れが現れ、煎じていた鍋が淡く光った。


「成功ですね」

「効果は?」


 どうやら、鑑定しなければ分からないらしい。

出来上がったものを鑑定してみた。


 名前:ポーション(小)

 カテゴリ:回復アイテム

 ランク:獣人級(ゴブリンクラス

 品質:普通

 効果:体力少回復

 エンチャント:回復力2倍


「回復力2倍がつきましたね。

 こんな感じで基本的には触媒を利用して効果を高めます」

「触媒ってのは?」

「それを持って『エンチャント』すると、特定の効果がつくアイテムです」

「それは便利だな」

「触媒は価値がありますからね。効果が高いなら尚更です。

 単純なものだと、昨日の『毒の胞子』とかもそうですね。あれを持ってエンチャントすると毒ダメージのエンチャントがつきます」


 触媒は、所持するだけで良いようだ。

 『毒の胞子』を取り出し、先程の鍋の前に立ちもう一度『エンチャント』と呟く。

 が、今度は光らなかった。


「『エンチャント』はものによりますが、だいたい1回か2回くらいしか、そのアイテムにつけられないんですよ」


 今作っているポーションはエンチャントを1つつけるのが限界だったようだ。

 再度、ポーションを作ってみる。

 今度は『毒の胞子』を持って『エンチャント』する。


 名前:ポーション(小)

 カテゴリ:回復アイテム

 ランク:獣人級(ゴブリンクラス

 品質:普通

 効果:体力少回復+

 エンチャント:毒ダメージ


 ナヴィの言った通り、エンチャントに『毒ダメージ』がついた。


「全く。何やってんですか。

 普通は攻撃アイテムとかに付けるんですよ」

「この+ってのは?」

「そのままです。通常の少回復よりも効果が少し高いです」


 幸運なことに、マジョネムはこの泉の広場でも取れたので、わざわざ遠くに採取する必要もなかった。

 何度か作っているとあっという間に日が暮れ始めた。


「色々やりたかったですが、今日はこのくらいにしますか」


 この時間からはモンスターが強くなる。

 今のムショクのレベルは上がったとは言うもののまだ、歩き回らない方が賢明だろう。

 だが、初めて合成ができたムショクは興奮していた。


「私はそろそろ寝ますから。ほどほどにしておいてくださいね」

「おう」


 ナヴィは、そう言うと、葉っぱを幾つか重ねると眠りについた。


「さてと」


 何も無駄に何回も作っていたわけではない。過程と結果の差で、品質を上げる見当がついた。

 恐らく、煎じる時の温度だ煎じている時に僅かに色が変わる瞬間があった。

 次はそれを試してみる。

 

 ポーションの作成過程は試行錯誤を極めた。

 煎じる際にすりつぶす。切り刻む。

 温度を低く、高く。

 

 いくつか分かったことがある。

 温度を低くして煮詰め続けると、効果が少ないが持続が長くなる。

 逆に温度が高いと効果が高いが持続が短くなる。

 

 ストックしていた薬草がなくなった。

 泉に生えているマジョネムを抜こうと思った時、ふと気になった。

 ナヴィはあらゆるアイテムに『エンチャント』がつけられると言った。

 ムショクは、ナヴィを起こさないように移動すると、マジョネムを引く抜く時にマジョネムを持ち『エンチャント』と呟いた。

 想像通り、マジョネムが淡く光り身体に疲労が溜まる。

 早速、抜いたマジョネムを鑑定で確かめる。


 名前:マジョネム

 カテゴリ:回復アイテム、素材アイテム

 ランク:無機級(スラリムクラス

 品質:普通

 効果:体力微回復

 エンチャント:回復力2倍


 気になったのはここからである。

 ナヴィの説明では、そのアイテムに『エンチャント』でつけられる効果に回数制限がある。

 これは、まだポーションではない。

 と言うことは、だ。

 それを使ってポーションを作り、同じ手順で、『エンチャント』をかける。


 名前:ポーション(小)

 カテゴリ:回復アイテム

 ランク:獣人級(ゴブリンクラス

 品質:普通

 効果:体力少回復

 エンチャント:回復力2倍、効果持続+


 エンチャント効果が2つになった。

 予想通りだった。

 元からあったアイテムのエンチャントは合成時には、引き継がれるらしい。

 そして、回数制限はアイテム個々にあり、合成すると別のアイテムと認識される。

 この別のアイテムと認識される範囲はどこまでなのだろうか。

 今度は『エンチャント』するタイミングを変えてみる。

 マジョネムを刻む時に、『エンチャント』をつける。


 名前:刻まれたマジョネム

 カテゴリ:回復アイテム、素材アイテム

 ランク:無機級(スラリムクラス

 品質:普通

 効果:体力微回復

 エンチャント:回復力2倍、氷結耐性


 どうやら、それを加工したら別アイテムと見るらしい。

 そうなると別の考えが浮かぶ。

 これを使い同じ手順でポーションを作る。


 名前:ポーション(小)

 カテゴリ:回復アイテム

 ランク:獣人級(ゴブリンクラス

 品質:普通

 効果:体力中回復

 エンチャント:回復力2倍、氷結耐性、暗闇耐性


 ナヴィの言っていた『エンチャント』の限界数を突破できた。


「全く。役に立たないナビゲータだよ」


 寝ているナヴィの頰を指でつつく。

 彼女はそれを鬱陶しそうに手で払って寝返りを打った。


 分かったことは、アイテムが多いほど、工程が多いほど『エンチャント』が多くつけられるが、同時に、たかがポーションを作るのに大量の魔力が掛かってしまう。

 魔力は時間回復の為、待つしかない。


 その後も何度も試行錯誤して、様々なポーションをつくった。

 いつの間にか夜が明けていた。

 

「鑑定ッ――」


 名前:ポーション(謎)

 ランク:天馬級(ペガススクラス

 品質:高品質

 効果:体力回復特大++、魔力回復大+、筋力一時上昇、状態異常無効

 エンチャント:効果持続、回復力64倍、属性耐性、属性特効、視野拡大


「ふふふ、完成したぞ!」


 最高傑作『ポーション(謎)』。

 マジョネムの根を磨り潰すことで出るエキスに魔力回復効果があることが分かり、一気に施行回数が跳ね上がった。

 マジョネム自体を磨り潰したり刻んだりすることで効果が変わることも分かった。

 触媒は、どうやらなんでもよく、触媒にエンチャントがついていればそれが優先的につくこともわかった。

 それらの成果を全てごちゃ混ぜにしたポーション。

 

「おはようございます……って、結局徹夜ですか?」

「ふふふ。ついにできたぞ」


 徹夜明けのテンションに、タイミングよくナヴィが起きてきたことで、更にテンションが上がった。

 分かるだろうか。最高傑作ができた瞬間、その実験体が起きてきた。

 

「さぁ! ナヴィ! できたぞ!

 最高のポーションが!」

「なんで、そんなにテンションが高いのですか?」

「いいから飲め! 早く!」


 ナヴィは『ポーション(謎)』を受け取ると怪訝な顔でそれを見た。

 瓶に入った灰色の水。


「確かに見た目は相当悪い。

 が、ものは保証できる!」

「何ですかこれ?」

「最高ポーション! だ!」

「そんなのないですよ。

 ちゃんとまともなの作ったんでしょうね?」

「効果は保証する。

 だから、ほら。ほら!」

「まったく。

 そんなに気になるなら自分で飲んでくださいよ」


 ナヴィは渡されたポーションを渋々口にした。

 

「ひっ!」


 口をつけた瞬間、ナヴィの短い悲鳴のような声が上がり次いで、聞くに耐えないナヴィの嗚咽が響き渡った。

 

「せっかく作ったのに、吐きだすなよ!」

「これ、吐かずに飲める方がおかしいですよ!

 味の改良するって言ったじゃないですか!」

「あっ? あれ? そうだっけ?」


 そういう言葉を言ったような気もするが、薄っすらとしている。

 しかし、何よりもまず、効力をあげないと意味がないだろう。要はそういう事である。


「そんなことよりも効力はどうだ? 」

「はいはい。ちょっと待ってくださいよ」


 ナヴィが自分のステータスを確認すると驚きの声を上げた。

 

「何ですかこれ!」

「どうだ? 凄くね?」

「凄いも何も……えっ? 

 これって本当に薬草だけで作ったんですか?」

「おう!」

「体力だけじゃなくて、ステータスの一時上昇つき。

 薬草だけで作れるポーションじゃないですよ!」

「たぶん、魔力も回復しているはず」

「本当ですか!

 魔力回復系のポーションってものすごい値段で取引されるんですよ!」


 確かに、魔力回復が分かってからは一気に作業が楽になった。

 魔力があまりにも重要だと気づいたので、自分用に飴を作った。

 ハシリグサの花の蜜で固めた甘い飴で、作業の気分転換にもなった。


 ナヴィは飲み残したポーションを鑑定する。


「なんですか、この見たことないほどの豪華なエンチャントは?」

「色々やったらできた」

「そんな、適当なことで……」


 ナヴィは呆れたようなため息をついた。



>>第13話 ゲイルの楽しみ

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