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ジョイ・ガーデン  作者: 空渡 海駆
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そして、伝説へ

 そして、伝説へ

 あれから数日、事態は少しずつ収束を見せている。

 駆け付けたユーナ教諭の元、遺体の回収と損害算出に加え、事の経緯の調査。俺に関しては、今回の根源とも呼べる原因の事情聴取を行われた。

 しかし俺は陰に暮らした両親とその愛娘の事は秘匿にした。真実を語るには責任が重すぎたのだ。よって、全ては一つの奇病と人間の悪しき心から始まった悲劇だと説明した。

 当然今回のような国の存亡を左右する程の甚大な被害は、〈オルテア〉の歴史上でも初。

 歴史に刻まれたこの大事件は、後に『迫害の裁き』と呼ばれるようになった。

『奇病ある所に、迫害あり。されど決して許されず』という人間の悪しき風習を戒める為である。

 エレオノーラが守る〈アルテムフォレスト〉は、今も平和が保たれている。俺は幼少の記憶を辿り、キキョウの眠っていた【想石】のあった祭壇を探しに、暇を見つけては森へ足を運んだ。何回目かの時にようやく発見し、祭壇にあった石を、性懲りも無くまた一つ拝借してきてしまった。

 それを持っていれば、いつかまたキキョウに会えるのではないか。などと、淡い期待を持っているのを否定出来ない。

【ディオゼ・クルス】をフローラが掃討したおかげで、〈ルーテ山脈〉には少しずつ生命の息吹が戻りつつある。聞いた話だが――エレオノーラは酷く自責の念に苛まれていたが――ビットは、母の元に還ったらしい。倒れたエレオノーラを助ける為、ビットが叱咤してくれた際に、母君が力を与えてくれたのだそうだ。

 この話を父であるガッツが聞いた時、初めこそ難しい顏をしていたが、次第に肩を震わせて「よくやった、偉いぞ」と我が子の雄姿を優しく褒め称えていたのを覚えている。

 それから程なくして、小人族は種族間協定に参族した。代表はガッツ。【秘境】で暮らし、多くの脅威から生き伸びたその知恵を、今度は注意監督者として若い者へと伝えてほしい、という人間側からの依頼により成立。晴れてここに小人族は重要な役回りを担ったのだった。



 それから【ガッコウ】では、少し変わった光景を見る様になった。

「カル~、おっはー」

「おう、フレア! 今日も中々良いじゃねえか!」

 あれほど犬猿にも似た二人が、今や毛繕いをし合う猫や犬の如く、仲良くしているのだ。

「どうしたんだ、二人共。なんか変な物でも食べたのか?」

 俺の質問に眉を吊り上らせ、チッチッチと舌打ちをするカルディオは、得意気になって俺に語り出した。

「分かってないねえ、サイカ君。君は、『乙女は大切に』って言葉を知るべきだ」

「そうだよ~、いくらこの国を救ったからと言って、そんなんじゃ女の子に嫌われちゃうよ~。モテないよ~」

 心の奥底でこんがらがった思考のまま、やはり俺は二人に「やっぱりなんか変な物」と言い掛けてしまい、今度は腹部への拳が返答をしてきたのだった。

 そんな変わらぬ日常、それでも俺には変わらぬ夢があった。



 

 程なくして、サイカ・エクリプスという人間は〈オルテア〉から姿を消した。

 国の危機を救った彼。

 しかし、彼を知る者達は皆、口をそろえてこう言った。

『どこかを気ままに旅しているのだろう』、と。

 そして、新たな伝説は綴られる事となった。

〈オルテア〉で産まれた彼の歴史には、出会いと別れの数々が、今も多く存在する。

 天国の門と地獄の門を作りしその者は、死を司る人間として、今もこの世界の神秘を求めて旅をしているのだという。

 死した命を彼に還してもらえれば、幸せな死を遂げられる。その噂は風に乗って自由に飛ぶ。人の世に生まれし彼の名を、皆は口を揃えてこう言った。

【喜びの楽園(ジョイ・ガーデン)】。

                                     .fin

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