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第9話

いつもの様に学校に行くと、何やら机の上にラッピングされた小包が置かれていた。なんだこれ?と思っていると松田君が「チョコでし」と教えてくれた。

「今日はバレンタインデーってやつでしから、クラスの女子が義理チョコを男子に配っていただし。僕ももらえて嬉しかったでし」

松田君は嬉しそうに満面の笑みを浮かべている。そういえば今日はバレンタインデーだったか。どうりで女子達がそわそわしていると思った。

チョコをかばんにしまって机につくと、何やら机の中に押し入れられた物体があった。何かと思って取り出すと、それもラッピングされたチョコのようだ。

「おお、それは本命チョコじゃないでしか?桐矢氏、やりますな」

「いや、義理だろ?名前も書いてないし」

「いやいや、そのチョコのブランドはなかなか有名なんでしよ。一粒で1000円はくだらない代物でし」

さすがカリスマグルメブロガー。チョコのブランドまで詳しいとは、幅広い知識に驚かされる。

「な、なに、本当か!このブランドのチョコは松田くん的にはどう思う?」

「いやー中の上というところでしね。手放しで上手いとはいえないでしが、1回食べる価値はあるでしね。しかし高いでしからコスパは良いとはいえないでし。チョコの値段が相手の気持ちの重さに繋がると思っている女子の、足元を見ているようで僕はちょっとどうかと思うでし」

「そうか・・・それにしても名前を書かれていないのは困ったな。お返しが出来ない」

「いやー良心的な女子でしね。クラスの女子なんて、連盟でチョコを買っておいてお返しは一人一個ずつと考えているハイエナでし。海老で鯛を釣るつもりでし。ちなみにクラスの女子のチョコは超安物でし」

そんなことをあれやこれやと言っていると、教室がざわついた。あの栗生椿が教室にやってきたのだ。その背中には、いつものように黒い羽が生えている。

なぜあの栗生が?と教室が注目する中、彼女はつかつかと教室に入ってくると俺の目の前にやってきた。驚く俺と松田くんの前で、栗生椿は腕を組んで俺に話しかけた。

「ちょっと、話があるんだけど。来てくれない?」

「え?今から?」

「そう。良い?」

教室のあちらこちらでヒソヒソと邪推が始まる中、俺は栗生の後について教室を後にした。

栗生についていくと、体育館の裏にやってきた。俺は一体何なんだと彼女を見やっていると、彼女は深刻そうな顔で重い口を開いた。

「あの、相談があるんだけど・・・」

「何?俺たち今まで全く喋ったことないけど、何で急に俺に相談なんだ?」

「だって、あなた見えてるんでしょ」

え?と俺は虚をつかれた。

「私の背中に生えてるこの黒い翼、あなた見えてるんでしょ」

確かに、俺には見えていた。今でも彼女の背中には黒い翼がはためいている。

「栗生にも見えてるのか?」

「やっぱり見えてるんだ」

栗生は俯いて泣きそうな顔になった。そしてポケットから小さなチョコを差し出すと、俺に手渡してきた。

「お願い、私と付き合って」

俺は驚きで呆然としていた。彼女は、学校のアイドル的な存在だ。目立つ集団の中でもモテモテで男に困っているようには見えないのに、なぜ俺なんかにそんなことを言ってくるんだ・・・!?

「詳しいことは放課後に話す。私待ってるから、一緒に帰ろ」

そういうと栗生はさっさと行ってしまった。

教室にも戻ると、俺の話題で持ちきりになっていた。栗生に呼び出された俺がチョコを持って帰って来たのだ。話題にしてくれと言っているようなもんだ。

溜息をつきながら席に戻ると、後ろの松田くんが興味心身に話しかけてきた。

「桐矢氏、栗生椿と付き合うことになったと言うのは本当でしか?」

「ああ、もう聞いたのか」

「じゃあ、本当なんでしね!?」

「いやいや、まだ付き合っているというか、俺もよく分からん状況なんだ」

「でも栗生椿は交際宣言したらしいでしよ」

「な、何?」

「告白してOKをもらったって言っていたそうでし」

あいつ・・・何を考えてるんだ。

「でも桐矢氏は山吹氏と付き合ってるのかとばかり思っていたでしが」

「え、咲桜と俺が?いや、付き合ってないぜ」

「だっていつも2人で一緒に登校していたでし?」

「家が隣だからな」

「いくら家が隣でもなかなか一緒には登校しないと思うでし」

「まあ、親も仲が良いし、幼馴染だからな」

「そうでしか~じゃあ初彼女でしか?栗生氏が」

「いやいやだから、まだ付き合ってるというわけでは」

「でも告白されたんでし?」

あれが告白というのか?でもチョコをもらって付き合ってくれと言われたからな・・・。しかしあの栗生の泣きそうな顔が俺は気になって仕方なかった。いつもグループの中心にいるような彼女が、あんな顔もするのだな。

放課後になると、栗生が教室の前で待っていた。周りに冷やかされたりヒソヒソ話をされながら、2人で帰るという羽目になった。

「で、話してくれるか?なんでこんなことになってるのか」

俺はややウンザリしながら栗生に尋ねた。俺たちは帰りがけの公園に立ち寄って、飲み物を買ってベンチに座りながら話すことに決めた。

「突然ゴメン、わけの分からないことを言って・・・でも私だって切羽詰ってたんだもん」

そういうと栗生の顔が曇った。相変わらず彼女の背中には黒い羽がふさふさとついている。

「あたしのこの背中の羽が見える人って今まで始めてだったから・・・私この羽に呪われているのよ」

彼女は形の良い細い足の上で、缶コーヒーをギュッと握って搾り出すようにそういった。

「呪われてる?」

「聞いたことあるでしょ、私が彼氏と付き合っても1ヶ月ともたないって」

「ああ、あのツバキ切りとかいうやつか」

栗生はすごい目つきでキッと俺をにらんできた。

「私も好きで別れてるんじゃないわよ!なぜだか知らないけど、私と付き合い始めると皆変な黒い影に付きまとわれるって言い出すの。それに、私の背中に変なものがついてるって言い出すの・・・。私の顔つきも変に見えることがあるって言って・・・」

美人が怒鳴ると凄い迫力だ。毛穴の1つもないような肌を紅潮させて、目に涙を溜めながら怒った様に栗生は言った。

「みんなすぐに怖がって別れようとか距離を置こうとか言い出して・・・そんな振られ方ばっかり。あなたに分かる?好きな人に恐ろしいものを見るような怯えた目で見られることが、どんなに辛いか」

「わ、わかった、落ち着けよ・・・。その背中の羽っていつから現われたんだ?」

「中学生になったばかりくらいに、雑誌の読者モデルを始めたんだけど、ある雑誌の企画でとある山に撮影を兼ねた合宿をしにいったの。その時以来、いつの間にかこの黒い翼が背中に現われるようになったわ」

「そうか・・・でもなんで俺がその羽を見えるって分かったんだ?」

「私、羽だけじゃなくて他の、霊っぽいものもそれ以来見えるようになったの。それで、私が嫌だな、怖いなと思っているものに、同じような反応をしている人がいたら、すぐに気がつくわ」

「それが俺だったってわけか」

「そう。例えば体育倉庫に変な霊みたいなのがいるの、見えてるでしょ?クラス合同で体育の授業があったときに、用具準備の係りが一緒になったことがあった。あなた、私が怖いと思っている場所をじっと見詰めた後、絶対にそこを見ようともしないし近寄らなかったでしょ」

うう、そういえば心当たりがある。

「裏庭の焼却炉近くにひっそりとある井戸の跡も、変な感じがするでしょ。私、あなたが絶対にゴミ捨て係にならないって聞いたわよ」

「く、栗生にも見えるのか」

「やっぱり、見えてたんだ・・・」

栗生はすがる様に俺の手を握った。

「お願い、私と付き合ってるフリをして欲しいの。もう、一ヶ月も彼氏ともたない女なんて陰口叩かれたくないのよ。あまりに彼氏が頻繁に変わるから、私自身に何か問題がある、付き合ったら嫌な女だったなんて、そんな噂ばっかりながれてるの」

「そんな、一部の噂だろ」

「噂だけど、一ヶ月持たないのは事実なの!私のせいじゃないのに、私の人格が否定されてるみたいで、本当に嫌・・・!好きな人が出来て、付き合えても、すぐに振られてしまう。もう耐えられないわ」

「だからって、好きでもないのに俺と付き合うって言うのかよ。無茶苦茶だろ」

「私が誰かと一ヶ月以上付き合っていられるっていう事実が欲しいのよ!」

「いや、だって、なんで俺なんだ」

「桐矢くんは最初から私の背中の変な羽が見えてる。だからがっかりされたり怖がられたりすることもないじゃない」

そりゃそうだけど・・・。

「うーん、でもなぁ」

「お願い、半年でいいから、私と付き合ってるフリをして。お願い!」

あまりにも必死にお願いされるので、俺は仕方なく頷いた。

「別に俺のこと好きでもないんだな?」

「そうよ」

「分かった、俺に彼女がいるわけでもないし、付き合うふりぐらいならしてやるよ」

「ホント?良かった!ありがとう!」

「ただし、栗生にちゃんと好きな人が出来た時は、すぐに別れること」

「それは良いけど、というかありがたいんだけど・・・桐矢くんに好きな人が出来るってこともあるじゃない?むしろ今好きな人がいたりしないの?」

「俺は良いんだよ、気にするな。それより、その背中の羽の件だけど、相談できそうな心当たりがある。会ってみるか?解決できるかは分からないけど」

「え、ホントに?嘘みたい、すっごい助かる。それって霊能者みたいな人?」

「ああ、最近知り合った人だけど、霊能者ってよりお祓いの専門家の人らしい」

「それって最高じゃない?私のこの変な現象もなんとかしてくれるかも!」

「そうだな。今度その人と会うときには連絡するよ」

わかった、じゃあ連絡先交換しよ。そういって栗生は携帯を差し出してきた。

「あと、これから私のことは椿って呼んでね。今までの彼氏もみんなそう呼んできたから」

「わかったわかった」

「あ~なんだか、スッキリした。こういう話、出来る人今までいなかったからさ。なんか嬉しいかも。何でも話せる友達が出来たって感じ」

「世間的には恋人になるけどな」

「良いじゃない、そんなに変わらないでしょ」

あっけらかんと笑って栗生、いや椿は笑った。

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