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第6話

「そうして、俺は今年で16歳になり、あと1年で死ぬ、山に取られることになっているんです。村は離れましたが、あれ以来頻繁に霊に悩まされるようになって、しかもだんだん性質が悪くなってきています」

なるほどね、と野ばらさんはナプキンで口を拭きながら呟いた。

野ばらさんの目の前には山盛りの皿が空になって積みあがっていた。その細い体の一体どこに入ったのだろうと本当に不思議だ。

「君、樹くんだっけ?霊障に悩まされるようになったのは、取り憑いている神に守護霊を消されたからだろう。本来大体の人には守護霊が憑いているものだけど、樹くんにはその姿が無い。守護霊のガードに守られておらず、神が取り憑いていることで霊に対する感度が高くなったのだろうね。そして霊に対する対処方法を知らないために、霊たちの格好の遊び相手になっている」

遊び相手だと!?あの恐ろしい霊現象の数々が遊び相手の一言で片付くのか・・・!?

「そ、それで、俺は一体どうしたら良いんでしょうか。取り憑いているその神とやらを、祓うことはできるのでしょうか」

うーんと野ばらさんは手を組んで難しい顔をした。俺も咲桜も固唾を呑んで言葉を待った。

「はっきり言うと、とても難しい」

俺はその言葉に落胆しながらもどことなくそうだろうなと納得していた。これまでどんな高名な霊能者に頼んでも断られ続けたものだったから、簡単に祓えますと言われるほうが怪しいものだ。

「神憑きは、本当に他の霊を祓うのとは違うのよ。祓う、ということ表現自体おかしい、神の力に対抗する術など人間は持っていないから、完全に祓うということは誰にも不可能だわ」

「そんな!さっきできないこともないってさっき言ったじゃないですか!」

咲桜がそう非難すると、野ばらさんは頷いた。

「ええ、祓うことは出来なくても、落とすことは出来るかもしれない」

どうゆうことですか?と俺は尋ねた。

「神様の中には話の分かる方もいるのよ。お願いして、何か代償を払って帰ってもらう、鎮まってもらう。それが神を落とすということ」

「そ、そんなことが可能なのですか!?」

「場合によるわ。でも、話を聞く限り、あなたに憑いているのは自然霊の神のようね。いうなれば山神。神社などで信者の信仰により成り立つ神ではない、古来から脈々と存在する大いなる神。この系統は話が通じないことが多いわ」

ってことは落とすのも無理ってことじゃないですか!!

「あの、野ばらさんは神様を落とした経験はあるのですか?」咲桜が尋ねた。

「残念ながら一度も無いわ。私の師匠が祓い屋であり神落としを何件かやり遂げたことのある人だったのだけれど、数年前に亡くなってしまったの」

俺も咲桜もその言葉にがっくりと肩を落とした。ああ、この感覚は何度も経験したことがある。有名な霊能者にやっと会えたかと思ったら、うちでは無理だと門前払いを食らわされたあの感じ。

「そう気を落とさないでよ。私ね、実は自然霊と相性がとても良いの。ほら見てみて」

そういうと野ばらさんが音が鳴らない口笛を鳴らした。すると野ばらさんが座る席の両側に2匹の犬、そうまるで狛犬のような風貌の2匹がハッハッと舌を出しながら尻尾を振って鎮座した。呆気に取られる俺の横で、どうやら咲桜には見えていないらしい。

「いっちゃん、何か見える?」

「あ、ああ、犬が2匹野ばらさんの隣に・・・」

「可愛いでしょ」

そういって野ばらさんが犬の背中を撫でると凛々しい風貌の彼らは気持ちよさそうにその手に甘えていた。

「は、はじめて見ました、こんな動物の霊・・・しかもこんなにはっきり見えて、人間の言うことを聞くなんて」

「この子達はただの霊じゃない、もう妖怪の一種なのかしらね。霊よりもずっと気配が濃くてしっかりしているでしょ。徳も高いから力も強いのよ。とある有名な神社でうろうろしているのを私にくっついてきちゃったの」

それって・・・大丈夫なのか?その神社!?

「でも自然霊って相性があるからね、私が特別好かれやすいタイプだからこの子達が懐いちゃって、進んで私の精霊に成って力を貸してくれるようになったのよ」

よしよし、と野ばらさんが撫でると、2匹はふっと消えてしまった。

俺はこんな霊能者は始めてみた。本当に、特別な人なんだろうと思った。

「いっちゃんの、樹くんの神落としを、どうか引き受けてくれませんか?」

咲桜が野ばらさんの手を握って懇願した。

「今まで誰にも出来なかったんです。もう、あと一年しかないんです。どうか、いっちゃんを助けてあげてください!お願いします!」

泣き出しそうな声で叫ぶ咲桜はかなり人目を引いていた。ただでさえ変な話をしている集団だと思われていたのに、今度は何が始まったのかと注目されていた。

「お、おい、やめろよ咲桜」

「私に出来ることはなんでもします!お金ならいくらでも払いますから!どうかいっちゃんを助けてください!」

野ばらさんはじっと咲桜を見ながら考え込んでいた。

「神落としは命に関わる荒業。己の命を賭して行われると言われ、命を奪われずとも神の障りがどんな形で出るのか分からないと言われている。現に私の師匠も神落としで命を失っているわ。ある程度の霊能者なら誰もが避けて通る案件だけれど・・・」

野ばらさんが俺の方に顔を向けてじっと見つめてきた。黒い瞳が何かきらりと輝いた気がした。

「私ね、今日朝起きた瞬間に、何かが始まるって予感がしたの。上手くいえないけど、私にとってとても大切なことが起きるって。多分、これのことだったのね」

見つめられていると、何か腹の奥底で鳥肌が立つような、ゾッとするのに暖かいような不思議な感覚に襲われた。まるで猛禽類に見つめられた小鼠のようだ。

「2つ、条件があるわ。私は今回の案件で、自分の身を危険に晒すし、かなり時間もかかると思う。でも私はお祓いで謝礼は受け取っていないの。宮束家の仕来りでね、金銭は受け取ることが出来ない。だから私と会うときは夕食を奢ってください」

俺は彼女が食べた大量の皿を見やってううっと苦悶の表情を浮かべたが、咲桜は分かりましたと了承してしまった。

「もう1つの条件は、もし神落としに成功したら、私のお願いを1つだけ、それがどんなことでも聞くこと」

「お願いをどんなことでも聞くって、内容が分からないとどうともいえないですよ」

「それは成功してからのお楽しみね。成功しなければお願いを聞く必要は無いわ」

「その時って、俺は死んでるってことでしょう」

「どうする?了承するなら引き受けるわ」

「あの、そのお願いって、私じゃ駄目なんですか?」

申し出た咲桜を俺はおい、やめろと止めた。

「神落としをされる彼でなくては駄目ね」

「いっちゃん、どうしよう・・・」

俺はしばらく迷って考えに考えたが、答えはどうしても1つにしか行き当たらなかった。神落としが失敗したら死ぬ。でも失敗無くてもどうせ死ぬのだ。駄目もとでもやらないよりはましだ。

「わかりました。ぜひよろしくお願いします。ただし、俺にも1つ条件があります」

なに?と野ばらさんが面白そうに、尋ねる。

「もし、万が一俺のせいであなたの身が危険に晒されたら、すぐに手を引いてください。まず自分の身の安全を第一に優先してください。それだけです」

俺は、俺のせいで爺ちゃんを無駄死にさせてしまった。もう二度と、俺のせいで誰かが傷つくようなことを起こしたくない。

分かったわ、と野ばらさんは了承してくれた。

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