表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/22

第3話

短い冬休みが終わって新学期が始まった。


毎日のようにやってくる悪霊の妨害で不眠症気味だった俺だが、隣に住む咲桜が迎えに来てくれるおかげで、今の所は無事に遅刻もせずに登校することが出来た。

咲桜は隣人であり幼馴染であり高校まで同じだ。いつも高校までの登校は一緒に行くことにしていた。


「いっちゃん顔色悪いよ、大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。遅くまでゲームしてて寝不足なんだよ」

なるべく咲桜に心配かけまいとして嘘をついたが、咲桜は納得していないようだ。

「それよりお前すごい荷物だな、ちょっと持ってやるからこっちによこせ」

小さな身体に大きな荷物を二つも三つも持っているのは見ていてどうも心配だ。俺はやや強引に咲桜の荷物を持ってやった。

「ありがと、いっちゃん。今月ね、家庭科部でケーキ作る予定なの。だから材料とか機械とか必要なもの揃えてたら荷物いっぱいになっちゃった。重くない?」

大丈夫だと俺は答えた。咲桜は高校に入って家庭科部に所属している。料理を作ることが主な活動らしく、料理好きな咲桜にはとても楽しいようだ。

「できたら俺にも食わせろよ。お前の料理の味付け、俺好きだから」

「ホント?嬉しい!はりきって作っちゃうんだから」

咲桜はガッツポーズを取りながら満面の笑みを浮かべた。

「咲桜は料理好きだし裁縫も好きだし、将来いい嫁になるだろな」

俺が何気なくそういうと、咲桜の笑みが少し強張った。どうした?と聞いてもなんでもないといって、丁度学校に着いたのでじゃあと挨拶をしてそれぞれのクラスへ向かった。


教室に行くと、早速冬休みの宿題やら小テストやらが待ち受けていたが、俺達の高校は名前が書ければ受かるという馬鹿高という悪名が高く、俺も例に漏れず散々なテスト結果だった。

「桐矢くん、君はもう少し授業を真面目に聞かないと駄目ですよ」

おじいちゃん先生の担任教師との2者面談で、早速小言を漏らされた。

「はあ、すいません」

「宿題もまともにやってこなかったでしょ。答え丸写ししてるのばればれですからね」

「先生の数学はまじめにやりましたよ」

「数学だけは、ホントに成績が良いし授業態度も良いのに、なんでかねぇ」

「先生の教え方が良いんじゃないですか?それに俺数学好きだし」

「確かに君は数学の成績はぴか一ですよ。この学校でさえテストで毎回一番を取るなんてなかなか出来ることじゃない。たまに引っ掛け問題を出しても君だけは絶対に間違わないんだから問題を作ってる僕も楽しいですよ。でもそれ以外の成績は散々じゃないですか。今後の進路希望も白紙で提出するし、いったい今後どうして行きたいのですか」

「まあ、それは来年考えます」

まだ1年の3月期。まあゆっくり考えなさいと嘆息しながら担任教師は許してくれたが、俺は複雑な胸中でいた。将来どころか、来年もあるか分からない俺に、将来のことを考えろなんて無理に決まってる。


教室に戻ると、何やら噂話で持ちきりだった。後ろの席の松田くんに尋ねてみた。

「ああ、何でも神社で窃盗事件があったらしいでしね」

「窃盗!?あそこの神社でか?」

それは、俺たちが初詣で参った神社だった。

「大事な仏具が盗まれたらしくて、大騒ぎだそうでし。ほら、あそこにいる森脇くん。あそこの神社の遠い親戚だったそうでして、学校に来てからずっと塞ぎこんでいたでしよ」

「物騒だな・・・何が盗まれたっていうんだ」

「詳しくは知らないでしが、どうやら金目のものをあらかたやられたらしいでし。しかも盗まれた仏具の中の1つが、いわく付きの代物だったそうでしね」

「マジかよ・・・」

「どうやらヤバイやつだったらしいでしよ。先祖代々大事に供養してきたものだったらしいでし。それを、正月の初詣客に紛れて入り込んだやつに盗まれたそうでし」

森脇くんは人の群れに囲まれて、あれこれと聞かれながらがっくりと肩を落としていた。


「そんなことよりも桐矢氏、駅前に美味い定食屋を見つけたでしね」

何っ!?俺は思わずよだれを出しながら色めきたった。この男、松田くんは巨漢なボディの見た目どおり、美味い飯屋の情報通なのだ。自分で食べ歩きした飯屋の感想ブログを長年続けており、俺も熱心な愛読者だ。その男がオススメするとは、一体どんな定食屋だというのだ?

「アジフライがそこの看板メニューなんでしが、千葉でとれたての味を買い付けてきてるそうでして、鮮度がたまらないでし。さらにサイドメニューも豪華に充実!味噌汁・白飯お変わり自由に小鉢と納豆までついて500円でし。もうオープン直後からグルメブロガー界で話題沸騰でして、我輩も行ってみたのでしが、さすがの美味さでございましたでし」

うっとりと目を瞑って美味なアジフライ定食を反芻しているかのように語る松田君。知らない間によだれが出まくっていた俺は、もう放課後ということもあってぐっと空腹が身に染みて感じられた。

「ああ、腹が減った・・・そこの定食屋ってもう開いてるかな」

「確か開いてるでしよ。5時半にはオープンでしから、今から行けば並ばずに入れると思うでし」

「よっし決めた!俺は今からそこの店に行くが、松田くんはどうする?」

「僕も行くに決まってるでし!」

「でも二回目になるぜ?グルメハンターとしては新しい店を開拓したいのでは?」

「美味いものは何回でも食す、まずい店は二度と行かないが僕のポリシーでし。しかもあそこのお店のメニューに気になるのがあったでし。丁度また行きたいと思っていたでし」

「そっか、じゃあ行こうぜ!」


松田くんと連れ立って教室を出て、あの店のこの料理は美味かっただのと喋っていたら、ふいにパシンと乾いた音が響いた。

通りがかりの階段上から聞こえたのでふと見上げてみると、そこには栗生椿くりゅう つばきと男が立っていた。男はこちらに背を向けているが、どうやら引っ叩かれたらしい。男がもう付き合いきれないとかなんとか言い捨てて、どこかへ走り去っていった。階段の踊り場に立ち尽くす栗生は唇を引き締めて何かに耐えるように手を握り締めていた。


すらりと伸びた手足はモデルのように長く、ミニスカにした制服が良く似合っている。もう放課後だというのに少しの乱れも見せないゆるいウェーブの茶髪の髪が、白いブラウスにふわりと落ちている。爪の先まで手入れが整っていて、足先の上履きまで完璧にお洒落だ。校内1の美女とか雑誌の読者モデルをしているなどの噂があり、常に数人の取り巻きと一緒にいる、いわゆる「リア充」組であり、スクールカースト最上位クラスにいる彼女がそこにいた。当然俺は喋ったことなどない。

「うわー栗生椿でし。これは修羅場でしなー噂のツバキ切りでしか」

松田くんのヒソヒソ声が聴こえたのか、不躾な視線を不快に思ったのか、栗生はじろりと俺たちを見やると、足早に立ち去っていった。

「・・・聞こえたでしかね・・・栗生椿は彼氏を作っても1ヶ月持たずに分かれる、通称ツバキ切りと言われているでしが・・・」

「こんなとこで別れ話なんてしているのが悪いんだろ、いこいこ」

俺は松田くんを引き連れてその場を後にした。


俺は入学式から栗生椿の名を知っていた。

それは彼女が美しく人目を引いたからというだけではない。

恐らく俺にしか見えていないだろうが、俺には栗生椿の背中に黒い羽が生えて見えるのだ。中二病的な比喩表現では決してなく、背中から羽がニョキッと生え出ていて、初めて見たとき俺は驚きで二度見した。目の錯覚でもなく、常に彼女は羽を背負っているようだ。

先ほどの踊り場に立ち尽くしていたその姿にも、背中に黒々とした羽が広がっているのが見えていた。


ああいう輩には近づかないに限るというのが俺の経験に基づいた人生訓から、俺は気にしないことにしている。こういうことを気にし始めると、俺はまともに生活を送れないのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ