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第18話

それからは、俺の今までの毎日が戻ってきた。

学校に行ったり体調を悪くして行けなかったり、美味い店を見つけて松田くんに話したり、時折怖いものを見て逃げ回ったり。

咲桜は何かを言いたそうにしていたが、俺はいつも無言で首を振った。

俺はあと数ヶ月で命を落とす。それを待つだけの毎日に戻るだけだ。あとは、いかに後の数ヶ月を楽しく過ごすかしか考えない。美味いものを食べ、お笑い番組を好きなだけ見て笑いながら過ごす。それは俺に染み付いている生き方だ。


「桐矢くんって、おじいちゃんみたい」

椿からそう言われた。

「酷い言われ様だな」

「私がどんなにわがまま言っても嫌なこと言っても、はいはいって受け入れてくれるのって、おじいちゃんみたいじゃん」

今日は椿が行きたいというカフェに連れ出されていた。これも椿の念願の“理想のデート”というやつらしい。まあ偽者のカップルなんだけどな。

「はいはい、って言わなきゃどうせ怒るんだろ?」

まあそうかもしれないけど、っと椿が笑った。カフェ一押しのショートケーキを口に放り込む。うむ、なかなか良い味をしている。

「もう、ホントに諦めちゃうの?」

椿の顔が曇った。俺は、その話はもうしないと遮った。

「だって、そんなのってあんまりじゃん!もう死ぬことが決まってるのを受け入れるのって・・・」

「椿は知らないだろうけど、俺にとってはこれが当たり前なんだよ。野ばらさんに会って、依頼を頼むまではずっと17歳で死ぬということを自覚しながら生きてきたんだ。それが当たり前になるまでずっと、ずーっとな」

考えてみれば何歳で死ぬことが決まっているというのも、あながち悪いことではない。将来のことを考えなくてもいいし、それまでにやりたいことをやっておける。後悔せずに死ぬことが出来るのだ。世の中に、不慮の事故で死んでしまう人も毎日沢山存在している。それに比べれば、俺が特別不幸だということもないだろう。

「だからずっと、大切な人を作らないの?」

椿がカフェラテを口元で遊ばせながら尋ねた。

「・・・俺がいなくなって悲しむ人は、一人でも少ない方が良いだろ」

まあ、作らないというか出来ないって言うほうが正しいけどな、と俺は笑い飛ばした。

「桐矢くんって、ホントずるい・・・」

椿はぐいっとカフェラテを飲み干すと、席を立った。

「今日はとことん、私の行きたいところについてきてもらいますからね!」

そういって俺はその日、若者がうじゃうじゃいる町を連れ回された。顔もスタイルも服装もモデル並の椿と並ぶ、冴えない俺。待ち行く人が、なぜ?という顔で見るのに飽きるほど遭遇してうんざりした。


その夜、俺は夢を見た。

例の狐面の女の夢だ。女の横で俺は当時の幼い姿で鞠をついている。

狐面の女は不思議そうに俺のことを眺めていた。俺は連続で鞠をつけて鼻高々に女を見上げた。

狐面の女は俺をみて、“お前は、誰じゃ?”と問いかけた。え?と驚く俺は、狐面の女の向こう側に見知った人を見かけた気がした。

そういう不思議な夢を毎晩見るようになった。なぜ、狐面の女は急に俺のことを誰だと問いかけるようになったのだろう。これも俺を取り殺す前触れか?相談しようにも、野ばらさんとの依頼を取りやめたので相談できる人が居ない。


とある日、俺はまた夢の中で狐面の女と遊んでいた。しかし、狐面の女は鞠を俺から取り上げてしまった。泣き出す俺の前で、女は“お前じゃない”と告げた。

そして側にいたある女の子の手を引いてどこかへ行ってしまった。その女の子は、俺の良く知っている子だった。俺は必死で止めようとした。やめろ、その子を連れて行くな!

「行くな、咲桜!」

俺は飛び起きた。たかが夢だと思えなかった。俺は酷く嫌な予感がした。

翌日、学校が休みだったが、起きてきた香澄に、俺の背後にいつもの狐面の女がいるか尋ねた。

「あれ?いないよー?良かったね、おにいちゃん、いなくなってる!」

香澄が小躍りして俺に抱きついてきた。俺の嫌な予感は膨らんで言った。香澄を連れて隣の家に向かった。両親は出払っていて、咲桜が応対してくれた。

「いっちゃん、どうしたの?」

「あれ、なんで?咲桜お姉ちゃん、狐のお嫁さん背負ってる」

俺は全身から冷や汗が出てくるのが分かった。

「なぜだ!なんで狐面の女が咲桜に取り憑いているんだ!」

俺は怯える香澄に本当に俺に取り憑いていたやつか確かめた。香澄は、確かに俺の背後にいつもいたあの狐面の女だと答えた。

「いっちゃん、落ち着いて」

「落ち着いてられるか!」

俺は思わず叫んだ。

「なんで、なんで咲桜が、咲桜が神憑きになってしまうんだ・・・!!」

咲桜は落ち着いていた。これが起こりうる事態だと知っていたかのように、冷静だった。

「野ばらさんを呼びましょう。私ね、隠していたことがあるの」

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