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第17話

数日後、夏休みが終わり新学期が始まった。

俺は心配をかけていた先生にも平謝りをし、事情をごまかすのが大変だった。結局、思春期にありがちな家出だろうと思われてこっぴどくしかられただけだった。

その後のテストはまともに授業に出られなかったため、散々な結果だったが、やはり数学だけは学年1位の出来栄えで数学のおじいちゃん先生にほめられたり呆れられたりした。


松田くんも俺のことを心配していたらしく、ごまかすのに一苦労だった。

とりあえず京都までグルメ旅行の旅をしていたと言ってごまかしたが、結局食べられたのは神社で出されたご飯くらいだったので、あまり説明にならなかった。松田くんは何か事情があるのだろうとそれ以上突っ込んで聞いては来ず、彼の発見した新しいグルメスポットの話に花を咲かせた。


咲桜と香澄が戻ってきたので、野ばらさん、椿を集めて報告を聞いた。場所はいつものファミレスだ。

最近は祓いの力を使っていないからか野ばらさんが食べる量はいつもに比べて控えめだ。テーブルにのる皿の数が減った分、分厚い資料のコピーを咲桜がテーブルいっぱいに載せた。

「村の資料館とか、昔から住んでいる人に聞きまわってみたらね、面白いことが分かったの」

咲桜の話によると、オシラ様という神様は、何百年も昔から村を守護する山の神様として信仰されていたらしい。その村の一体は山の幸に恵まれ、どんな飢饉の時にも飢えることはなかったそうだ。人々はオシラ様に感謝して信仰を深めながら暮らしていた。

「それでね、文献によると、そのオシラ様という女性の神様は、狐の顔をしていないらしいの」

咲桜の報告に俺たちは驚いた。それなら俺に取り憑いた狐の顔の神は一体何者なのだ!?

「オシラ様と呼ばれる神様は、自由奔放で元気な女子の童として語り継がれていたそうよ。野山を裸足で駆け回り、清流の側でアケビの実を食べる姿が目撃されているような、どこか可愛らしい神様として文献には載っていた」

「じゃあ、そのオシラ様は本来、生贄を求めるような神様ではなかったのね」

椿の問いに咲桜が頷いた。

「オシラ様は故意に何かを与えたり奪ったりする神様としては描かれていなかった。それなのにいつからか、着物を着て狐の面をかぶって、生贄を求める神様に摩り替わってしまったのよ」

「それはいったいいつのこと?」野ばらさんが尋ねる。

「あまり生贄の話を知っている人が多くなくて・・・でもどうやら100年ほど前からみたいです」

「あの稲荷神社が廃社になった頃ね」

野ばらさんがにやりと笑う。

「京都の山にあった稲荷神社の神様が、廃社になった恨みを持って妖怪である妖狐に成り代わってしまった。そして関東に流れ着き、オシラ様を取り込んで生贄を求める神になった、という仮説はどうかしら」

「筋は通りますね・・・可能性が高い気がします」

「あの廃社になった神社に残っていた神の気配・・・、樹くんに取り憑いた神の気配が似ているようでどこか違っていた。その説明にもなるわ」

ということは、どういうことかわかる?と野ばらさんが満面の笑みで聞いてきた。

俺が分からないと答えると、溜息をつきながら教えてくれた。

「山神を祓うことは非常に困難だわ。でも妖怪を祓うとなればぐっと容易になってくる。つまり、山神を取り込んだ妖狐を祓えば良いと言う訳。これは神を祓うより成功する可能性が高いの」

俺達は呆気に取られてしばらく口を利けなかった。妖狐を祓えば、俺の呪いは解かれる。それは、何年も苦しんできて、初めて得られた希望の光だった。

「で、でも妖狐も元は稲荷神という神様だったのですよね?」

「人に祭られた神は一度信仰を失えば神の位から外れてしまう。そのまま妖怪になってしまう神もいると聞くわ」

「じゃ、じゃあ本当に?」

「いっちゃんの呪いを解けるのですか!?」

咲桜が野ばらさんに詰め寄った。

「解けるかもしれない。早速その準備を始めましょう」

野ばらさんは頼もしくそう言ってくれた。俺は何だか放心状態になってしまった。咲桜が薄っすら涙を浮かべながら良かったね、いっちゃん!と喜んでくれた。

今は9月の初旬。もう俺には時間がないのだ。こんなタイミングで活路を見出せるとは、俺の呪われた6年間では思いも寄らないことだった。


俺たちは日取りの良い日を見つけて、早速妖狐のお祓いの儀式をすることになった。いつもの神社に集まり神主が立ち会ってくれた。

野ばらさんは念のためにリリーさんも祓いの場に呼んでいた。妖怪とはいえてこずるだろう。万が一のことが起きた時にリリーさんに場を収めてもらうためだ。

リリーさんはあまり乗り気ではなかった。こういう“God”や“Damon”の領域には首を突っ込みたくないのよね、とまた酒を飲みながらぼやいていた。

野ばらさんは神職のような巫女のような不思議な服を着ていて、それがお祓いの正装のようだ。

傍らにはいつもの長い木の杖が置かれている。俺はいつかの椿のように、部屋の中央に座らされた。今回は野ばらさんが直々に祝詞を上げ、用意された火の中に薪をくべていく。

炎はだんだんと盛んに燃え上がっていき、煌々と赤く野ばらさんの顔を照らす。半眼であの独特な呼吸法をしながら野ばらさんが炎に向かって榊の葉を揺らす。たまに鈴の音を鳴らして、部屋の中が荘厳な気配に満ちた。


しばらくそうしていると、ふっと何か雰囲気に違和感が出た。野ばらさんも気づいたのかチラリと後ろを振り返った。俺の前に着物を着た誰かが立っている。震えながらゆっくり見上げると、狐の面をかぶった女がそこにいた。目の中が吸い込まれそうなほど禍々しい黒さだ。

出た!俺は仰け反りながら綾女さんにもらった結界の札を握った。

「とうとう現われたわね」

野ばらさんは狐面の女に対峙し、榊の葉を大きく振った。

「狐の妖怪よ、悪さをせずに神から離れなさい」

野ばらさんがさらに榊の葉をふって呪文を唱える。するとくっくっくと狐面の女の方が揺れた。まるで笑いを堪えているかのようだ。次第に肩が大きく揺れ始め、甲高くケタケタケタと笑い始めた。

「何がおかしい・・・何が目的なんだ!」

野ばらさんは傍らにおいていた杖を手に取った。すると狐面の女がくるりと野ばらさんの方を振り返り何かをなぎ払うように手を振った。するとぼうっと炎が天井まで燃え盛り、野ばらさんが咄嗟に杖でガードしたが、堪えきれずその場に蹲った。

「野ばらさん!」

「大丈夫よ」

野ばらさんの体には無数の切り傷が出来ているようで、血がぽたぽたと床に垂れていた。

狐面の女はまだ愉快そうにケタケタと笑い続けている。俺や椿たちはその迫力に呆気に取られていた。ふっと笑うのを止めると、女は俺の首元をがしっと掴むと物凄い怪力で俺を引きずりはじめた。俺はもがいて逃れようとするが女の力とは思えない力で引き摺られる。椿が悲鳴をあげて俺の脚を掴んだ。

「桐矢くん!」

椿が烏天狗を出しながら引き止めてくれたが、狐面の女が今度は椿に襲いかかろうとした。俺は必死に椿をかばおうとした時、野ばらさんが何かの呪文を上げ始め、狐面の女は煩わしそうに野ばらさんの方を向いた。

野ばらさんは杖のリボンを解きながら必死に呪文を唱えている。こんなに必死な野ばらさんは始めてみた。狐面の女はニヤリと笑いながら、野ばらさんの方へ歩み寄っていく。

野ばらさんが青い呪文の浮かび上がった杖を振りかざし、いつものように叩き込もうとしたが、信じられないことに狐面の女は杖を手で受け止めてしまった。そして勢い良く野ばらさんを燃え盛る炎目掛けて投げつけた。

「野ばらさん!」

「ノバ!」

叩きつけられた野ばらさんは運良く炎の直撃は避けられたが、熱い炭をかぶってしまった。

「中止だ!」

リリーさんが叫んで野ばらさんに駆け寄った。狐面の女はケタケタと笑いながらすうっと消えていった。


俺たちはぐったりと意識を失った野ばらさんを病院に担ぎ込んだ。ケガの理由はリリーさんが上手く医者に取り繕ってくれたらしい。治療の結果、野ばらさんは背中と腕に軽い火傷を負った程度で済んだが、なかなか意識が戻らなかった。3日ほど眠り続け、やっと目を覚ました時は本当に安堵した。

「失敗したのか・・・」

野ばらさんは目が覚めて俺を見つめると、ポツリとそう呟いた。

「無事で何よりです。野ばらさんは全力を尽くしてくれました」

俺は病室に横たわり痛々しい包帯を巻いた野ばらさんにそう告げた。

「眠っていた間・・・あの神隠しに会った時の、白いマントの人の夢を見た。彼らはまだ私を諦められていないのかもしれない・・・いつかお前を迎えに来ると言いたげだった・・・」

俺はもう限界だった。これ以上、俺のせいで危険な目に合わせるわけにはいかない。

「野ばらさん、勝手をいって申し訳ないですが、もう依頼を取りやめさせてください」

野ばらさんはふっと溜息をついて、言うと思ったと言った。

「野ばらさんの実力を疑っているわけではないですよ・・・!俺は十分野ばらさんの凄さを目の当たりにしましたし、沢山助けてもらいました。でも今回とうとう危険な目にあわせてしまい、ケガまで負わせてしまった・・・依頼を始めるときに約束したはずです。万が一俺のせいであなたの身が危険に晒されたら、すぐに手を引いてください。そしてまず自分のみを第一に優先してくださいって・・・」

「私は多少の危険は承知の上だわ」

「俺が嫌なんです!」

俺は思わず叫んでしまった。

「今まで何人が俺のせいで犠牲になったか・・・俺のせいで爺ちゃんが無駄死にしてしまったような、あんなことはもう絶対に嫌なんです」

「無駄死にとは、酷い言い方ね」

「だって、そうじゃないですか、俺の身代わりになって、俺のせいで爺ちゃんは死んだ!でも何も解決しなかった・・・!俺なんかのせいで、無駄死にしてしまったんだ!」

俺は爺ちゃんを死なせてまで、生きている価値のある人間なのだろうか。依頼した霊能者が事故に合ったり、失踪してしまう、その度にそこまでして俺が生きている価値があるのかと自問自答に襲われた。沢山の人の人生を壊してまで、俺は助けられるべきなのか?

「あなたは素晴らしい祓い屋だ。あなたの力を求めている人はまだまだ世の中にいるはず。俺のせいで危険な目に合わせたくないんです」

依頼は、解消させてください。

俺はそれだけを告げて、逃げるように病室を後にした。

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