第13話
4月になり、俺は高校2年生になんとか進学できた。クラス替えで新しいクラスには前と変わらず松田くんがいたが、なんと椿と咲桜も一緒のクラスになった。クラスメイトたちは早速俺と椿の話で盛り上がっているらしい。
新しい変化といえば、香澄が今年からこっちの中学に通うことになった。どうやら、俺があと1年ほどの命だと言うことを知ってしまったらしく、非常に駄々をこねまくってこちらの家に同居することになったらしい。引っ越してきた時の香澄はふてくされていた。なんでお兄ちゃん教えてくれなかったの?といって泣かれてしまって非常に困った。
お前が怖い思いや危ない目に合わないようにしていたんだといくら説明しても納得はしてくれなかった。まあ、最近は野ばらさんによって着実にお祓いが進んでいるので、俺に取り憑いている悪霊は前より少なくなってきているらしい。香澄に悪影響が及ばないかだけがまだ心配だが、香澄はもうてこでも動かない気でいるので俺も母さんも諦め気味だ。
俺はと言うと、新学期早々から体調を崩していた。どうやら執着心の強い悪霊が悪い気を流してきて俺の体力をごっそり奪ってしまったらしい。こういう原因不明の体調不良のせいで、その度に学校を休まなければいけないことも俺のぼっち化に拍車をかけていると俺は思う。4日間も40度近い熱にうなされた俺は、食欲もなくスープくらいしか口に入れられなかった。花や香澄が入れ替わり立ち代り看病してくれた記憶はあるがほぼずっと朦朧としていた。たまに椿がお見舞いに来てくれていたようだ。心配そうに俺を覗き込む姿が記憶にある。
やっと調子が戻ってきた頃にはゴールデンウィークに指しかかろうとしていた。そんな時に、野ばらさんがとんでもないことを言い出した。
「悪霊退治に同行してみない?私が頼まれたやつなんだけど、荒療治になると思うの」
「あ、悪霊退治とか、逆に俺に悪影響なんじゃないですか?」
俺はいつものファミレスで野ばらさんに訴えた。横には咲桜がいて、うんうんと頷いている。
野ばらさんはいつもよりは小食だが大皿がテーブルに5枚は乗っていた。食べ放題のあるファミレスで本当に良かった。野ばらさんが小食な理由は、最近俺の悪霊祓いで力を使っていないから、そんなにエネルギーを補給する必要がないらしい。
「私が今回引き受けた案件は、OOXXという廃病院なんだけど、聞いたことある?」
「有名ですよ、肝試しに行く人が後をたたないって言われる心霊スポットです」
咲桜が答えると、野ばらさんは人差し指をふりながらちっちっちと舌を打った。
「甘いわね、誰もが肝試しに行くような場所ってだいたいそこまで危険じゃないのよ。本当に危険な場所は、人が失踪したり気が狂ったりして、事件性や話題性を呼ぶわ。そして私みたいな祓い屋のところに誰かが駆け込んでくるってわけ」
「じゃあその廃病院自体はそんなに危険な心霊スポットではないということですか?」
「ええ、下見に行ったけど、悪さをしそうな霊はあまりいなかったわ。でも問題はその廃病院の地下室。どうも、その廃病院の院長だった人が、病院を運営しながら宗教的な名目で狂信的な降霊術をその地下室で行っていたらしいわ」
「降霊術・・・ですか」
「宗教の本流ではない、邪教の信者の溜まり場となっていた病院は、表向き健全な病院を装いながら夜な夜な怪しげな術を行っていた。そして自分達の手に負えない魔物を生み出して、関係者はほとんど発狂し病院を閉鎖に追いやった・・・ちなみに院長はまだ失踪中だそうよ」
「そんな危なそうなところ・・・俺、近寄りたくもないですよ」
「魔物ってね、方向性を正してあげれば精霊として自分を守ってくれたりもするものなのよ。樹くんは守護霊を山神に追い払われてしまっているから、なんの装備もなく嵐の中にいるようなもの。その廃病院の魔物を味方に付けられれば、あなたの守護霊として多少の悪霊からあなたを守ってくれるようになるでしょう」
「そ、そんなことが出来るんですか!?」
「上手くいけばね。やってみる価値はあると思うんだけど、どう?私としても何度も倒れられて祓いが中断するのは避けたいのよね」
その魔物とやらが俺の守護霊となれば、ぽんこつな俺の身体も調子が良くなるのか。
「まあ相性もあるから、そう簡単にはいかないかもしれないけど、守護してくれる精霊がいることは頼もしいものよ」
「わ、わかりました・・・俺も同行したら良いんですね?」
「そ。悪霊を連れて歩くわけには行かないから、樹くんが同行してくれれば良い」
「き、危険はないんですか」
「私が一緒よ?まあ恐ろしいものを見たりはするだろうけど」
俺は、はーっと溜息をついた。正直、行きたくない。怖いものには極力近寄りたくない。でも俺にはそう悠長なことを言ってられる時間はないのだ。
「行きます。いつ頃ですか?」
「丁度ゴールデンウィーク辺りね。学校も休みでしょ?」
「あの、それだったら私も一緒に行きたいです」
咲桜が突然そんなことを言い出した。
「なに言ってるんだ!危ないところだぞ?絶対駄目だ」
「いっちゃん、私今まで幽霊なんて見たことないんだよ?霊感ゼロなの知ってるでしょ?見えなければ怖くなんかないよ」
「見えなくても、変なのに憑かれたりするかもしれないんだぞ!」
「野ばらさんがいるじゃない。いっちゃん、怖がりなんだからそんな恐ろしいところ、誰かが一緒にいてくれた方が怖くないかもしれないよ」
う、そう言われればそうだが・・・。
「いっちゃんが何て言っても私着いていくからね。危ないことなんかしないもん」
「まあ私は一人でも2人でもどっちでも良いわよ。むしろお祓い中は集中しているから構ってられないのよね。一誰かいてくれた方が心強いんじゃない?」
野ばらさんはあっけらかんとそんなことを言ったが、俺はやはり心配だった。
「お前な、俺のためにそこまでする必要ないんだぞ。折角のゴールデンウィークなんだから遊んだりしたら良いじゃないか」
「いっちゃんが危ない目にあってるかもしれないってのに、遊んだり出来るわけ無いじゃない!」
咲桜が怒った。そうだ、咲桜は怒らせるとなかなか怖いのだ。
「いっちゃんがなんて言っても、私いっしょに行くからね」
柔らかそうな白い頬を膨らませた咲桜。こうなると頑固だから考えを曲げないのだ。
「わ、わかったよ。好きにしろ。でもくれぐれも危ないマネはするなよ」
咲桜はやっと目尻を下げてうんと素直に頷いた。
「それにしても、どうやってその魔物をてなづけるんですか?野ばらさんのお祓いっていつも、木の棒とかでぶん殴って消滅させてるじゃないですか」
物理でのお祓いなど俺は今まで見たことがなかったが、野ばらさんがこれ以外の方法でお祓いをする姿も見たことがない。そのやりかただと、悪霊を守護霊につけるなんてできそうにないものだが。
「それには適任者を連れて行くつもりよ」
「適任者?」
野ばらさんは少し複雑そうな、やや気持ちが進まないような顔をして頷いた。




