愚者で結構
夢を見た
どこかはわからない場所に私は倒れている。上半身だけを起こす
そこには誰かがいた。その人を見た後、辺りを見渡す
炎。何もかもを焼き尽くす炎が私を囲む
そして私は気がついた
その場に居た誰かは、愚者だと
黒髪に金の目。黒いシルクハットに、ロングコートに身を包んだその人は黒い猫の様だったと記憶している
若い、男だったと思う。見上げる私には身長が高いのか、それとも低いのか。思い出すのはもう無理
「これは申し訳ない事をした。僕の下準備が悪かったのか。君を見るのは始めてだ」
帽子を外して、丁寧におじぎをする。この愚者は炎に包まれているというのに、屈託のない笑みを浮べた
ゆっくりと私を抱えた愚者が歩き出すと、一歩目で愚者は何かを踏み付けた。低いうめき声が聞こえる
それは私の父だ。私を慰めものにし、娘というよりも物として扱われた記憶しかない
そんな父でも貴族。それもかなりの地位にいる
だが父は、丸々と太ったお腹から血を流して倒れていた。短く速い呼吸。肌は白くなってたと思う
父よりも私を助けようとする愚者は、やっぱり愚者だ
うめく父が離れていく。私たちに手をのばしながら、涙を流しながら
でも、その時の私に父が可哀想だと思う気持ちはなかった。今もない
「どうして私を?」
私の声だ。幼い。かなり幼い
愚者は崩れぬ笑みのまま答えた
「お嬢さんの方が軽い。それ以前に、殺しにきた相手を助ける馬鹿はいないでしょう?」
やっぱりこの人は大バカだ。公爵殺し
私を助けたからと言って、免除される様な罪ではない
あ、目が覚める。この夢を鮮明に覚えていたいな
私の初恋の人を、もっと見ていたい
中2サイコオオオオオオ!
私は二十歳過ぎてますけど